【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑮


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 12月もこの時期になりますと,いよいよ日も短くなり,また寒さが一段と厳しくなりますね。うがい,手洗いを励行し,風邪をひいたりしないように気をつけてください。また,できれば,インフルエンザの予防接種も早めに受けておくことをおすすめします。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

****************************************
【民法・平29-15イ】(最判昭44.3.4)
 甲の乙に対する手形金債権を担保する目的で,乙が丙に対する請負代金債権の代理受領を甲に委任し,丙が甲に対し右代理受領を承認しながら,請負代金を乙に支払ったため,甲が手形金債権の満足を受けられなくなった場合において,丙が右承認の際担保の事実を知っていたなどの事情があるときは,丙は,甲に対し過失による不法行為責任を負う。

****************************************
 乙の丙に対する請負代金債権が,甲の乙に対する手形金債権の担保となっているところ,乙が請負代金債権の代理受領を甲に委任し,丙は,その担保の事実を知った上で甲に対し代理受領を承認しました。このような事実関係のもとにおいては,甲は,甲が丙から請負代金債権を代理受領すれば,乙に対する手形金債権の満足が得られるという利益を有します。
 しかしながら,丙は請負代金を直接乙に弁済してしまい,その結果,甲は手形金債権の満足を得ることができませんでした。そこで,甲が丙に対しその過失に基づく不法行為による損害賠償責任を求めたという事案です。

 最高裁は,「丙が甲に対してなした代理受領についての承認は,単に代理受領を承認するというにとどまらず,代理受領によって得られる甲の右利益を承認し,正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり,したがって,丙としては,右承認の趣旨に反し,甲の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。
しかるに,丙は,右義務に違背し,その過失により,右請負代金を乙に支払い,甲がその支払いを受けることができないようにしたというのであるから,丙の行為は違法なものというべきである。」判示し,丙に不法行為責任を認めました。

****************************************
【民法・平29-15ウ】(最決平11.5.17)
 銀行甲が,輸入業者乙のする商品の輸入について信用状(注)を発行し,約束手形の振出しを受ける方法により乙に輸入代金決済資金相当額を貸し付けるとともに,乙から右約束手形金債権の担保として輸入商品に譲渡担保権の設定を受けた上,乙に右商品の貸渡しを行ってその処分権限を与えたところ,乙が,右商品を第三者に転売した後,破産手続開始の決定を申立てをしたことにより右約束手形金債務につき期限の利益を失ったという事実関係の下においては,甲は,右商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,転売された右商品の売買代金債権を差し押さえることができる。
 また,動産譲渡担保権に基づく物上代位権の行使は,右譲渡担保権の設定者が破産手続開始決定を受けた後においても妨げられない。
 (注)信用状は,貿易決済を円滑化するための手段として,買主の委託を受けた取引銀行が,売主に対し,荷為替手形が呈示された場合には自ら支払うこと又は支払いに責任を負うことを確約する内容の銀行の作成に係る支払確約書です(覚えなくて構いません)。

****************************************
 本件は,銀行甲が,輸入業者乙のする商品の輸入について信用状を発行し,約束手形の振出しを受ける方法により乙に輸入代金決済資金相当額を貸し付けるとともに,乙から右約束手形金債権の担保として輸入商品に譲渡担保権の設定を受けた上,乙に右商品の貸渡しを行ってその処分権限を与えたところ,乙が,右商品を第三者に転売した後,破産の申立てをしたことにより右約束手形金債務につき期限の利益を失ったことから,輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,輸入業者が転売した輸入商品の売買代金債権を差し押さえたという事実のもと,銀行甲に,①譲渡担保権に基づく物上代位権の行使が認められるか,②仮に物上代位権の行使が認められた場合に,債務者(設定者)が破産宣告を受けた後においても物上代位権を行使することができるかが争いとなった事案です。
 最高裁は,①②ともこれらを認める決定をしました。もっとも,本決定は,譲渡担保権に基づく物上代位権の行使が認められるための実体法上の要件について何ら具体的な判断をしておりませんので(本決定),どのような要件の下において譲渡担保権に基づく物上代位権の行使が認められるかは,今後の判例の蓄積を待たなければならないようです。
 試験対策としては,理由等難しいことを覚える必要はなく,本肢の結論を押さえておけば十分です。

****************************************
【不登法・平29-21エ】(質疑登研214P71) 
買戻権は期間の満了により当然に消滅するので,「買戻期間の満了」を登記原因として買戻特約の登記の抹消登記の申請をすることができる。また,その登記の申請情報と併せて提供すべき添付情報は,登記義務者の登記識別情報,代理権限を証する情報及び買戻権につき利害関係を有する第三者があるときはその者の承諾を証する情報である。

****************************************
 乙建物の所有権移転の登記と同時に買戻特約の登記がされ,当該特約に係る買戻権を目的として差押えの登記がされている場合において,当該買戻権の買戻期間が満了したときは, 買戻権は期間の満了により当然に消滅しますので,買戻特約の登記の抹消登記を申請することができます。
 この場合,買戻特約の登記の抹消登記の申請情報と併せて,当該差押債権者の承諾を証する情報を提供しなければなりません(質疑登研214P71)
 買戻権を目的としてなされている差押えの登記に係る差押債権者は,買戻権が抹消されると自らの登記を抹消される運命にあり,買戻権の抹消につき登記上利害関係を有する第三者に該当するからです(不動産登記法68条,不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表26添付情報欄ヘ)。
 その他,買戻権の抹消につき登記上利害関係を有する第三者としては,買戻権を目的とする仮差押債権者,仮処分権利者,質権者等が該当します。
 また,買戻期間満了による買戻特約の登記の抹消の登記申請情報には,買戻権者の印鑑証明書の提供を要します(昭34.6.20-1131,質疑登研428P136)
 なお,登記原因証明情報については,買戻期間満了による買戻特約の登記の抹消の場合には,原因日付が登記記録上明らかであることから,その提供を要しないという見解もありますが(大阪法務局「改正不動産登記法Q&A集」65),試験対策としては,原則どおり添付を要すると押えるべきでしょう(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,不動産登記令別表26添付情報欄ホ)。

****************************************
【不登法・平29-21オ】(昭36.5.30-1257)
 買戻特約の登記は,当該不動産の所有権移転の登記が1号仮登記の場合には,当該所有権移転仮登記に付記して仮登記をもってすることができる。
 なお,買戻特約の本登記は,所有権移転の本登記と同時に申請することを要するが,その仮登記は,必ずしも所有権移転又はその請求権の仮登記と同時に申請することを要しない。

****************************************
 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対しても,その効力を生じます(民法581条1項)。
 そして,買戻特約の登記は,売買による所有権移転の登記と同時に別個の申請情報によって申請することを要し,この申請は,売買による所有権移転登記と同一の受付番号をもって受付け,その登記は売買による所有権移転の登記の付記登記としてなされます(昭35.3.31-712)
 したがって,たとえ売買契約と同時に買戻特約がなされた場合でも,売買による所有権移転登記がなされた後に買戻特約の登記を申請することはできません。

 これに対して,民法581条1項でいうところの「売買契約と同時に買戻しの特約を登記したとき」とは,売買による所有権移転登記と同時に買戻特約の登記を要する趣旨と解されていますので,買戻特約の仮登記に基づき本登記をするには,必ず所有権移転の本登記と同時に申請しなければなりませんが,買戻特約の仮登記については,所有権移転の仮登記と同時にすることは要しないと解されています。
 したがって,所有権移転またはその請求権保全の仮登記後,本登記をするまでの間であれば,何時でも買戻特約の仮登記の申請をすることができます。

 なお,買戻特約の仮登記は,買戻権を行使すれば目的不動産の所有権は買戻権者に帰属しますので,売主がすでに買戻権を取得している場合のほか,例えば,売買の予約をなすとき同時にその売買について買戻特約がなされている場合など売主が将来買戻権を取得すべき法律関係が発生している場合においても,このような売主の権利を仮登記によって保全しておく必要性があります。
 そこで,所有権移転の仮登記(1号仮登記)だけでなく,その請求権保全の仮登記(2号仮登記)についても買戻特約の仮登記を認められると解されています。
 また,買戻の特約の仮登記は,所有権移転の仮登記または所有権移転請求権保全の仮登記に付記してなされます(本先例)。