【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 寒い日が続いております。私の周りでも体調を崩す人が増えています。睡眠を十分にとると共に,うがいと手洗いを励行し,体調管理には十分留意してください。さて,今回は,今年の本試験で出題された判例・先例をお休みして,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。たまのコーヒーブレイクとしてお読みいただければ幸いです。なお,人工知能(AI)の研究,進歩にはめざましいものがあり,現時点では,人工知能(AI)による処理が不可能とされるものも将来的には可能となることも十分にあり得ます。また,テーマ上,どうしても私見(筆者の推測等)によらざるを得ない点もあります。これらの点をお含みおきいただき,司法書士の将来のあり方の一つとして,ご一読願えればと存じます。

1 人工知能とは?
(1) 人工知能の定義と人間に対する優位性
 人工知能(Artificial Intelligence)の定義には,様々なものがありますが,一般的に,人工知能(以下,「AI」といいます)とは,人間が知能を使ってする学習・推論(応用)・判断をコンピュータに行わせるための技術,または,そのコンピュータプログラムのことをいいます。
 単に人間に命じられたことをその命令どおりに機械的に処理するものは,AIとは呼びません(例,電卓やデジタル式の目覚まし時計など)。皆様ご存知のとおり,すでに司法書士の業務用ソフトが開発・販売されていますが,これもAIではありません。司法書士の業務用ソフト,例えば,不動産登記用業務ソフトでは,基本的に,登記権利者や登記義務者の住所・氏名等人間が入力した一定の事項を,登記申請情報や添付情報という形に機械的に処理するに過ぎないものだからです。
 AIは,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するものをいうものとされています。また,最近では,大量のデータの蓄積ができる超高性能コンピュータの出現により,膨大なデータを学習し,人間のように音声や画像をも認識し,より的確な判断ができるAIが誕生しているようです。もっとも,現在のAIは,人間の知的な活動全てをするものとしてではなく,その一部(専門分野)と同じようなことをするものとして研究・開発がなされています。例えば,人間とゲームをすることができる,いわばゲーム専門のAIなどがあります。
 ゲーム専門のAIについては,将棋の世界の出来事が大いに参考になると思います。2012年に人間のプロ棋士である米長邦雄永世棋聖とコンピュータ将棋プログラム・ボンクラーズ(AI)によって,第1回電王戦が行われ,コンピュータ将棋プログラム・ボンクラーズ(AI)が人間のプロ棋士である米長邦雄永世棋聖に勝利し,世間を驚かせました。AIは,将棋の駒の動かし方はもとより,過去のプロ棋士の膨大な数の棋譜(棋士が指した手を順番に記入した記録)を蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い,人間のプロ棋士が指した手に対し,戦局に応じて最善の手を打つ(応用・判断)ことができるといわれています。また,AIは,人間のプロ棋士がともすれば主観や経験のみに頼った誤った判断をしがちであるのに対し(ヒューマンエラー),自らの学習結果から,論理的な推論をし,客観的な判断を行うことができます。さらに,AIは,人間のプロ棋士と異なり,長時間の対戦による疲労もありませんし,記憶違いや戦局の読み違えをしません。これらの点でAIは,人間のプロ棋士より優位に立っているといえます。今後,AIはますます発展するものと考えられているため,いかにプロ棋士といえども,AIに勝つことはどんどん難しくなっていくものと思われます。将棋の他,囲碁やチェスなどでも同様の動きがあります。特に,将棋やチェスよりも複雑な囲碁について,2016年3月にAI(アルファ碁)が人間のプロ棋士イセドル九段に5番勝負で4勝1敗と勝ち越し,世間の注目を集めました。今では,人間のプロ棋士が,人間のプロ棋士との対局に勝つためのツールとして,AIを利用する例が増えているようです。
 その他,AIは,小売業における在庫管理や,自動車の自動運転技術,株式の売買などの金融市場,ホテルにおける受付や荷物の運搬,農業の効率化,薬の開発さらには医療現場でも活躍を始めています。また,我々司法書士の業務に影響を及ぼすと思われるAIとしては,専門家の知見をルールとして蓄積し,推論の手法を用いて問題を解決するエキスパートシステムというAIがあります。
(2) AIの限界
 (1)で見た限りでは,AIは万能のように感じられ,もはや人間はAIにかなわないと思われた方も多いかと思います。確かに,AIは,その専門分野において,膨大なデータを学習し,人間のように音声や画像をも認識し,より的確な判断をすること,つまり,自ら学習した範囲で合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,今や生身の人間を超越する存在に至っていると言っても過言ではないでしょう。
 しかし,AIは,所詮コンピュータプログラムに過ぎません。(1)で述べましたように,現在のAIは,人間の知的な活動全てをするものとしてではなく,その一部(専門分野)と同じようなことをする能力しかを有しません。そのため,AIは,多岐に亘る人間の感情を認識すること,その場の空気を読んだりすること,人間にとっての常識・非常識の判断(線引き),時には客観的にみて不合理な選択をすることさえある人間の非合理性を理解することができません。また,AIは,自ら新しい方法や解決策を提案したり,人間の相談に乗ったり,助言や説得をして人間を行動させたり,他者と協調することを苦手とします。芸術など創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野などの仕事についても同様に苦手です。このように,現在において,AIが対応できない分野,苦手な分野,すなわち,特に人間性を求められる分野では,まだまだ生身の人間が優位に立つことが可能です。
 次回は,「2 司法書士業務とAI」について述べて参ります。