【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 真冬の厳しい寒さが続いております。インフルエンザもいよいよ流行の兆しを見せております。医師の話では,人混みに行く機会が多いとインフルエンザに感染する可能性が高くなるそうです。うがいと手洗いを徹底し,くれぐれもインフルエンザには感染しないように気をつけてくださいね。
 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を休んで,前回に続き「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。
 なお,推測の部分は,私見であり,今後のAIの進歩・発展に伴って,不可能なものが可能になる場合があることをあらかじめご承知おきくださいますようお願いいたします。

(前回のおさらい)
 前回は人工知能(以下,「AI」といいます)の定義,その長所と短所について考えました。AIは,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。
 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間を超越していました(長所)。しかし,AIは,ある特定の専門分野に秀でたコンピュータプログラムに過ぎず,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間から相談を受け,自ら解決策を提案したり,助言や説得などの仕事を苦手とします。いわば,AIは,高度な人間性が求められる仕事をすることはできませんでした(短所)。
 AIの長所だけをみるとAIは万能のように感じられ,もはや人間はAIにかなわないと思いがちですが,AIの短所を考えると,まだまだ生身の人間が優位に立つことが可能な分野もありました。以上を踏まえた上で,「司法書士業務とAI~司法書士業務はAIによって代替されるか」について考えていきましょう。

2 司法書士業務とAI~司法書士業務はAIによって代替されるか
(1) 司法書士業務のAIによる代替の可能性
 あるシンクタンクの研究では,AIの登場によって,将来,日本の労働人口のおよそ半分はAIにとって代わられること,とりわけ,司法書士にあってはAIによる代替可能性は78.0%という驚異的な数字が示されています。本当に司法書士の78%の業務はAIに代替されてしまうのでしょうか?
 司法書士の業務には,大きく分けて「登記業務」「裁判業務」「後見業務」があります。これらの全ての業務において,AIによる代替は可能でしょうか。
     もっとも,現在の我が国の法律では,AI(を登載したロボット)が,法務局や裁判所で代理人として仕事をすることは認められておりませんので,当面の間は,物理的に司法書士がAIにとって代わられることは,法制度上あり得ません。そこで,それぞれの業務がAIによって代替できるかということを考えてみましょう。
(2) 登記業務とAI
① 不動産登記(売買による所有権移転登記・共同申請)
 先に述べた3つの業務の内,定型的でもっともAIによる代替の可能性が高い業務は登記業務だと思われます。不動産登記における最も一般的な事例である不動産の売買による所有権移転登記の司法書士の業務を題材にAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替性を考えてみましょう。
 A所有の甲不動産をBが購入した場合に,司法書士が行う売買を原因とする所有権移転登記申請の仕事は,申請情報,添付情報の作成・押印の徴求および申請情報と添付情報の法務局への提供のほか,その前提として,ヒト・モノ・意思の確認が必要になります。これは,実体法によって形成された法律関係を真正に登記簿に公示するために不可欠な作業であることは,今さらいうまでもありません。
 ヒトの確認とは,当事者である不動産の売主や買主が本人に間違いないことを確認することです。現在の実務では,司法書士は,一般的に,売主・買主双方から運転免許証の提示を受け,運転免許証の本証の真偽,その顔写真,住所,氏名や生年月日から売主・買主が本人に間違いないか(年齢相応の外見かどうかなど)を目視によって確認しています。そこで,仮にこれをAIによって行うことを考えてみましょう。AIは,売主・買主双方から提示を受けた運転免許証の写真を画像として取り込み,かつ,運転免許証の番号を読み込み,その真偽をオンラインによって公安委員会に照会をすると共に,売主・買主の顔写真を撮影し,運転免許証の画像と撮影した画像とを比較照合し,本人か否かの判断をすることになるものと思われます。そうなりますと,司法書士本職が目視によって「運転免許証も偽造ではなさそうだ,また,売主・買主双方もどうやら本人に間違いなさそうだ」とヒトの確認をするよりも,正確に行うことができるようになるでしょう。さらに,将来,運転免許証以外に,パスポートや個人番号カードに係る情報,指紋,手の静脈,声紋などが,本人確認の手段としてオンラインによって提供されることが可能な環境が整えば,AIによる本人確認の精度は間違いなく高まり,司法書士本職がこれを行うより,迅速かつ正確に行うことができるでしょう。このように,ヒトの確認では,AIが司法書士を代替する可能性は極めて高いといえるでしょう。
 また,モノの確認とは,売買の対象不動産に間違いがないかを確認することです。現在の実務では,司法書士が,住宅地図(ブルーマップ),法務局に記録された公図を予め取得しておき,取引の場所で売主・買主にこれらを提示して,対象不動産の場所を特定し,確認する方法がとられています。そこで,仮にこれをAIによって行うことを考えてみましょう。AIは,取引の場所で,民事法務協会が運営する登記情報提供システムからオンラインを利用して対象不動産の公図情報(地番検索サービスを含む)やゼンリン社の住宅地図情報を取得し,売主・買主に画面上でこれらを提示して,対象不動産の場所を特定し,確認する方法をとることができるでしょう。モノの確認の作業においては,その仕事の質において,司法書士とAIでそれほど大きな差はないと思われますが,AIが司法書士を代替する可能性は極めて高いといえるでしょう。
 さらに,意思の確認は,不動産の売主や買主に所有権移転登記を申請する意思があるのか否かを確認する作業です。現在の実務では,司法書士が,売主と買主に対し,直接「では,この売買契約書に基づいて,甲不動産につき,代金金○円との支払いと引換えに,平成○年○月○日売買を原因とする所有権移転登記を申請することに間違いはありませんか?」のように問いを発し,売主と買主に直接答えてもらうことに加え,売買契約書に両当事者の署名捺印があること,仲介の不動産会社から重要事項の説明をすでに受けていること,売主と買主から登記の委任状に署名捺印をもらったこと,売主が所有権移転登記に必要な書類を司法書士に渡したこと,売買代金の領収書を用意したこと,買主が売買代金を用意あるいは振込み用紙に署名捺印したことなど,売主・買主の取引の場所における一連の行為全体を司法書士がつぶさに観察することによって,司法書士として「売主・買主には,それぞれ登記を申請する意思があることに間違いはなさそうだ」と総合的に判断することになります。そこで,仮にこのような当事者の登記申請意思の確認をAIによって行うことを考えてみましょう。考えられる一つの方法として,例えば,スマートホンに登載されているSiriのような会話機能(以下,便宜「Siri」という)をAIにも登載し,会話によって,当事者の登記意思の確認をしようと試みることにしたとします。AIが,売主と買主に対し,「では,この売買契約書に基づいて,C不動産につき,代金金○円との支払いと引換えに,平成○年○月○日売買を原因とする所有権移転登記を申請することに間違いはありませんか?」のように問いを発し,売主と買主が,その内容を確実に理解し,「間違いありません。」と答えたとします。その場合,AIは,答えた人が売主・買主本人であって,その答えがそれぞれ真意に基づくものであると判断できるでしょうか。おそらく,無理だと思われます。声については,仮に声紋のようなものが予め記録されるか,あるいは,オンラインによって提供されるような環境があれば,売主本人や買主本人を識別することが可能かもしれませんが,それが真意に基づくものかどうかの判断はできないと思います。人間(司法書士)であれば,先に本人確認した当事者が言っているのだから,本人に間違いはないという判断ができますし,先程述べましたように,司法書士は,意思の確認の質問以外にも,取引の場所における売主・買主の行為の全体をみて総合的に意思の確認をすることができますが,AIは,司法書士のような総合的な意思の確認はできないと思われます。AIがいかに画像の認識とその処理を得意だとしていても,取引の場所における売主・買主の行為は,十人十色,すなわち,定型的ではないため(例えば,気の早い買主は,取引に来る前にすでに売買代金を振り込んでくる場合もありましょうし,領収書は仲介の不動産屋さんが作成して持ってくるという場合もあります),AIが売主・買主の行為を全て撮影し,これを解析し,本人の確認をすることは困難でしょう。
 話は戻りますが,売主・買主が,AIの問いかけに対し,「間違いありません。」ではなく,「いいよ。」「よろしく頼む。」「よくわからないのでもう一度わかりやすく説明して。」,無言でうなずくなど,AIの想定外の行為をした場合にAIが適切な対応ができるかといえば,これも無理でしょう。司法書士であれば,これらに対しいずれも適切な対応ができます(わからないという依頼者に対してはその方がわかるように法律用語をやさしい言葉に置き換えて説明するという対応をすることができます)。以上より,意思の確認については,AIが司法書士を代替する可能性は極めて低い(あるいは不可能)といえるでしょう。
 さらに,登記申請情報,添付情報の作成および登記申請情報の法務局への申請について考えます。この分野は,登記業務の中でも最も定型的であることから,すでに,司法書士専用ソフトが販売されており(前回述べましたように,このソフトは,単に人間に命じられたことをその命令どおりに機械的に処理するものですので,AIではありません),多くの司法書士事務所で導入されています。また,現在の法務省のオンライン申請システムでは,基本的に一定の必要事項を入力すれば,申請情報が作成できるようになっています。そして,作成した申請情報に司法書士の電子署名をすることにより,登記の申請ができます。このような環境にあって,さらに,法令,過去の判例・先例(通達・回答),登記関連の書籍や登記研究等の雑誌,申請情報の様式などの情報が予めAIに全て蓄積(学習)させておけば,AIがこれらの資料をもとに論理的な推論を行い,所有権移転登記手続に必要な添付情報を作成の上,当該申請をするための適切な申請情報を瞬時に正確に作成してくれるものと思われます。そして,添付情報が調えば,AIは,登記の申請も容易にしてくれることでしょう。これらの作業では,人間が行った場合に生じ得る,入力ミス,不動産の取り違えといった,いわゆるヒューマンエラーはほとんどなくなるはずです。このように,登記申請情報,添付情報の作成および登記申請情報の法務局への申請分野では,AIが司法書士を代替する可能性は極めて高いといえます。しかしながら,現在のオンライン申請のほとんどは特例方式(半ライン)によるものであり,添付情報は紙媒体での登記所へ提供することとなりますので,AIが添付情報(紙媒体)に当事者の署名捺印を得るということは,必ずしも定型的な作業にならないことから,意思の確認と同様,AIが司法書士を代替する可能性は極めて低い(あるいは不可能)といえるでしょう。また,登記所へ提出する紙媒体の添付情報に当事者(売主と買主)の押印を徴求したり,これらをもれなく収集し,郵便で登記所に送付する作業も物理的にAIによることは不可能です。
 以上の検討から,不動産登記における売買による所有権移転登記手続においては,AIが司法書士に代替し得る可能性がある作業もありますが,現在の法令,実務慣行およびAIの現在の能力を鑑みると,完全にAIが司法書士に代替することはできないという結論に至ります。なお,AIのプログラム等に不具合や故障等があり,AIを利用した登記申請がエラーとなり,その登記の申請が受理されなかった場合,その責任の所在はどうなるのか(AIを作製したメーカまたはAIを利用した司法書士等)ということも,AIが登場した時の課題になるでしょう(自動車の自動運転と同様の課題でしょう)。
次回は,②相続登記や③商業登記その他の業務について述べていく予定です。