【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 冬の日の快晴の空は,空気が澄み,気持ちがよいと感じることはありませんか。
 また,場所によっては,東京タワー,スカイツリー,はては富士山が見えるところもあります。
 勉強に疲れたときは,表へ出て,深呼吸をして,空を見上げてみるのもよい気分転換になろうかと思います。

 もっとも,風は冷たいですから,防寒に注意して,風邪などひかないようにしてくださいね。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を休んで,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。


(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。

 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることはできませんでした。
 前回は,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務のうち,売買による所有権移転登記を題材に検討しました。

 具体的には,司法書士が通常行う作業のうち本人確認(ヒトの確認),売買の対象不動産の確認(モノの確認),登記申請情報,添付情報の作成および登記申請情報の法務局への申請などの比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,売主や買主の登記申請意思(意思の確認)のような非定型的で,高度な人間性が求められる作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至りました。

 以上を踏まえた上で,今回は,登記業務のうち,相続登記について考えていきましょう。

② 不動産登記(相続による所有権移転登記・単独申請)

 ご存知のように相続による所有権移転登記は,単独申請が認められています(不動産登記法62条)。その代わりに,登記の真正を担保するため,相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては,これに代わるべき情報)およびその他の登記原因を証する情報を添付しなければならないこととされています(不動産登記令別表22添付情報欄)。

 具体的には,原則として,被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍謄本,除籍謄本,改製原戸籍謄本,戸籍事項証明書(以下,これらの謄本を「戸籍謄本」という)や遺産分割協議書,相続人の戸籍事項証明書,住民票,印鑑証明書等が必要になります。

 司法書士が,相続による所有権移転登記申請の代理の依頼を受ける場合,登記の申請だけを依頼されることは少ないです。
 相続による所有権移転登記の申請情報と併せて提供すべき戸籍謄本等の添付情報の手配や遺産分割協議書の作成も依頼されることが多いのです。
 それは,戸籍謄本の取得や遺産分割協議書の作成に不慣れな一般国民にとって,これらの作業をすることは多くの困難が伴うからです。

 例えば,地方から東京に上京してきた被相続人(男)がいたとします。

 その被相続人は,出生時は地元の祖父(戸主)の戸籍に在籍し,その後戸主が父に代わった,あるいは,父が分家したことに伴い父の戸籍に在籍することとなり,また,婚姻によって夫(自分)の新たな戸籍ができたことにより,新たにその戸籍の筆頭者となり,それから本籍を地方から東京に移し(これを転籍といいます),転籍後戸籍がコンピュータ化されてから死亡した場合には,①地方にある祖父の戸籍,②地方にある父の戸籍,③地方にある婚姻によってできた戸籍,④転籍後の戸籍,⑤コンピュータ化された戸籍と5通の戸籍を手配しなければならないのです。

 さらに,戸籍謄本のどこをどう読めばいいのかわからない上に,昔の戸籍は戸籍担当者の手書きによるものが多く,その文字は十人十色で戸籍に何が書いてあるかも,容易に把握できません。
 また,一般国民が遺産分割協議書のひな形を入手できたとしても,そこに何をどのように記載したらよいかわからない場合が少なくありません。

 そこで,登記申請と併せて,これらの作業に精通している司法書士に依頼しようということになるわけです。

 また,遺産が居住する土地や建物のみであって,被相続人が父で,相続人が母と子2人という場合には,誰がどのように相続したらよいかという相談を受けることもあります。

 以上のように,司法書士には,相続による所有権移転登記の申請情報の作成の前提として,戸籍謄本を判読して,添付情報として必要な戸籍謄本を漏れなく揃えることのほか,遺産の分割方法についての相談,遺産分割協議書の作成方法の説明あるいはその作成という作業があります。

 これらの前提作業を含めて相続による所有権移転登記における司法書士の作業をAIによる代替性を考えてみましょう。
 まず,戸籍謄本の取得という作業は,コンピュータ化されていない手書きの昔の戸籍謄本を判読して,申請情報と併せて提供すべき添付情報として必要な戸籍謄本を揃えなければならないという極めてアナログな作業です。このような現状においては,AIにいくら手書きの文字を学習させても,コンピュータ化されていない昔の戸籍謄本を判読することは不可能だと思われます。

 そのため,AIが相続による所有権移転登記の添付情報としてどのような戸籍謄本が必要か判断することも不可能でしょう。
 この判断ができない以上,AIが添付情報として必要な戸籍謄本を漏れなく揃えることは不可能です。

 したがって,現在,この作業はAIが司法書士に代替することも不可能と言わざるを得ません。

 また,相談,説明や助言のような高度な人間性を要する作業はAIの最も苦手とするところです。
 仮に,前回のように,スマートホンに登載されているSiriのような会話機能をAIにも登載し,会話によって,遺産の分割方法についての相談,遺産分割協議書の作成方法の説明を試みたとしても,相談者は十人十色であり,その理解の程度もバラバラで,定型的な処理に馴染まないため,相談者との十分な意思の疎通は極めて難しいといわざるを得ません。

 その点,生身の人間である司法書士であれば,相談者との会話やその表情から,相談者の知識や理解度に応じた柔軟な,かつ,適切な説明や助言を行えます。したがって,現在,この作業をAIが司法書士に代替することも不可能です。

 もっとも,遺産分割の内容が確定している場合には,遺産分割協議書の作成業務は,AIが司法書士に代替することは可能です。
 遺産分割協議書の作成作業そのものは,登記業務の中でも最も定型的であり,すでに,司法書士専用ソフトが販売されており(前回,前々回も述べましたように,このソフトは,単に人間に命じられたことをその命令どおりに機械的に処理するものですので,AIではありません),多くの司法書士事務所で導入されていることからも明らかだからです。

 相続による所有権移転登記の申請情報の作成およびその提出作業そのものも前回同様,AIが司法書士に代替することが可能です。
 また,相続による所有権移転登記においても,売買の場合と同様,ヒト・モノ・意思の確認が必要ですが,相続は単独申請であり,遺産分割等によって当該物件を相続した相続人からの依頼がほとんどですので,対立当事者(売主と買主)がいる売買ほど,厳密な確認をすることを要しないものとするのが実務の扱いです。

 前回で申し上げましたように,ヒト・モノの確認は,AIが司法書士に代替することが可能ですが,意思の確認については,相続による所有権移転登記においても,AIが司法書士に代替することは不可能だと思われます。

 なお,将来,戸籍のコンピュータ化が進み,現在は本籍地の市役所・区役所・町役場でしか取得できない戸籍謄本(戸籍事項証明書)が,全国どこの市役所・区役所・町役場でも個人番号(マイナンバー)を提示すれば,相続に係る戸籍謄本(戸籍事項証明書)の交付を受けることができ,あるいは,オンラインによって戸籍の情報の確認ができるような時代がくれば,戸籍謄本の文字を判読して,添付情報として必要な戸籍謄本を漏れなく揃えるという極めてアナログな作業がなくなりますので,相続登記におけるAIの活躍の場は拡がることになりましょう。

 以上の検討から,不動産登記における相続による所有権移転登記手続においては,AIが司法書士に代替し得る可能性がある作業もありますが,現在の法令,実務慣行およびAIの現在の能力を鑑みると,売買による所有権移転と同様,完全にAIが司法書士に代替することはできないという結論に至ります。

 前回と今回の検討により,現時点では,AIは司法書士の業務の一部しか代替できない存在(司法書士の補助的な存在)であるいうことになろうかと思われます。
 仮に,AIを主体として,不動産登記の業務を行おうとしても,AIができないところを補うといった意味で,まだまだ司法書士は必要であると思われます。
 次回は,③商業登記以下について考えていきましょう。