【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 先日の大雪には参りました。大きなトラブルもなく,家には帰れました。
 が,翌朝の出勤が辛かったです。こういうときは,自宅兼事務所の人がうらやましいと思いますね。

 今年の冬は,記録的な寒さのようですね。インフルエンザもいろいろな型のものが流行っているようです。
 皆様も体調にはくれぐれもご注意くださいね。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を休んで,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。


(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。

 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることができませんでした。

 前回および前々回と,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務のうち,不動産登記業務(売買と相続)を題材に検討しました。
 具体的には,司法書士が通常行う作業のうち本人確認(ヒトの確認),売買の対象不動産の確認(モノの確認),登記申請情報,添付情報の作成および登記申請情報の法務局への申請などの比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,売主や買主の登記申請意思(意思の確認)やコンピュータ化されていない昔の戸籍謄本の取得や,遺産分割協議書の作成や遺産分割に関する相談,説明や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至りました。

以上を踏まえた上で,今回は,登記業務のうち,商業登記について考えていきましょう。

③ 商業登記(前編)

 イ 不動産登記と商業登記の相違点と登記の真正担保の方法

 不動産登記が権利の客体についての登記であることに対し,商業登記は会社等の商人(以下,「会社」という)自身の主体についての登記です。
 また,不動産の権利に関する登記は,物権変動等について第三者対抗要件を備えるか否か当事者(主として登記権利者)の任意であることに対し,商業登記は,原則として,登記すべき事項が生じた場合には,所定の法定期間に登記の申請をする義務が会社に課せられています(これに違反すると過料による制裁が待っています)。

 さらに,商業登記は常に単独申請であり,不動産登記のように共同申請をすることはありません。
 不動産の売買による所有権移転登記の申請は,その登記がなされることによって登記簿上不利益を受ける者(登記義務者)を申請手続に関与させることによって,登記の真正を担保しています。
 また,相続による所有権移転の登記の申請は,被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本等といった市区町村長など公的な機関が発行した証明書を申請情報と併せて提供させることによって,登記の真正を担保しています。

 これに対し,商業登記では,登記の申請をする者(会社の代表者等)に,登記所に印鑑を提出させ,以後,登記の申請をするときは,登記所に提出した印鑑を申請書または委任状に押印させることを義務づけ,登記所においては,提出された印鑑と申請書または委任状に押してある印鑑を照合し,その同一性を確認することによって,当該登記の申請が登記の申請権限を有する者からなされた真正なものであること,つまり,当該登記の真正を担保する仕組みがとられています(印鑑の提出の制度)。

ロ ヒトの確認(本人確認)

 イで述べましたように,商業登記と不動産登記とでは,原則として,手続の真正担保の方法が異なりますが,共通する部分も少なくありませんので,不動産登記と比べながら,商業登記の申請またはその前提作業(ヒト・モノ・意思の確認など)におけるAIによる司法書士の代替性についてより詳しく考えていきましょう。

 A株式会社の代表取締役からの商業登記の依頼を受けた場合には,不動産登記と同様にヒトの確認(A株式会社の代表取締役Bの本人確認)が必要になります。

 現在の実務における確認方法としては,司法書士は,一般的に,A株式会社の代表取締役Bから運転免許証の提示を受け,運転免許証の本証の真偽,その顔写真,住所,氏名や生年月日から,目の前の人物が,B本人に間違いないか(年齢相応の外見かどうかなど)を目視によって確認しています(以下,「第1の本人確認」という)。

 また,商業登記の本人確認の場合,目の前の人物がB本人であることの確認に加え,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人であることの確認も必要になります(以下,「第2の本人確認」という)。

 一般的に,司法書士は,法務省の登記情報提供システムからオンラインで取得したA株式会社の登記情報または登記所発行の登記事項証明書上の代表取締役Bの住所氏名と運転免許証に記載されているBの住所氏名が一致するか否かを確認することによって,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人である(であろう)との認識を得ています。

 これらの本人確認をAIによって行うことを考えてみましょう。

 AIも,第1の本人確認として,A株式会社の代表取締役Bから提示を受けた運転免許証の写真を画像として取り込み,かつ,運転免許証の番号を読み込み,その真偽をオンラインによって公安委員会に照会をすると共に,Bの顔写真を撮影し,運転免許証の画像と撮影した画像とを比較照合し,B本人に間違いないかの判断をすると共に,第2の本人確認として,法務省の登記情報提供システムからオンラインで取得したA株式会社の登記情報上の代表取締役Bの住所氏名と,先に画像として取得した運転免許証上のBの住所氏名が一致するかを確認することによって,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人である(であろう)との認識を得ることとなりましょう。

 第1の本人確認においては,司法書士が目視によって運転免許証等を確認するより,AIによる科学的・機械的な本人確認が正確性・確実性という点では優れています。
 また,第2の本人確認においては,司法書士による本人確認と,AIによる本人確認とは,ほぼ差がありません。
 したがって,本人確認の作業においては,AIは,司法書士に代替することは可能と考えられます。

 ところが,第2の本人確認の作業は,実は結構困難な作業といえるのです。
 上場企業など管理体制がしっかりしている会社では,社員(従業員)に,顔写真付きの社員証を発行していることがあります。

 そこで,仮に代表取締役Bにもこのような本人確認書類があれば,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人であることの確認も比較的容易でしょう。

 しかし,このようなものがない状態で,単にBの運転免許証と登記情報等の交付を受け,A株式会社の登記情報等の資料上の代表取締役Bの住所氏名とBの運転免許証の住所氏名が一致することを確認しただけでは,まだ,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人である(であろう)との認識を得るには至らないというケースも当然出てくるはずです。

 司法書士であれば,その実務経験,職業的な勘や五感をもってしても,交付を受けた資料だけでは,Bと称する人物がA株式会社の代表取締役B本人である(であろう)との認識を得るには至らない,つまり,第2の本人確認に自信が持てないと判断した場合,その補助的な資料としてA株式会社の代表取締役Bとして登記所に提出した印鑑(実物),登記所発行のA株式会社代表取締役Bの印鑑証明書,A株式会社の定款,法人税申告書等原則として本人しか持ち得ない書類の提出を求めて,第2の本人確認をより確かなものにするという判断ができるでしょう。

 これに対して,AIがAI自身で,交付を受けた登記情報等の資料ではBと第2の本人確認が難しいと判断すること,さらに,その判断に基づいて,前述の補助的な資料の提出を求めることは難しいと思います。
 そう考えますと,第2の本人確認においては,むしろ,司法書士のその実務経験,職業的な勘や五感による本人確認が確実性において優れているといえます。そう考えますと,現時点では,第2の本人確認では,AIが司法書士の作業の一部を代替することは可能ですが,完全に司法書士に代替することは難しいといえるでしょう。

 なお,商業登記は,一度依頼を受け,依頼者との間に信頼関係を築くことができれば,それ以後も同一依頼者から反復継続して依頼を受けることができるという性質の仕事です
 また,A株式会社の代表取締役Bから商業登記の依頼を受けることとなった場合,AIの場合には,その都度,本人確認の作業が必要になりますが,司法書士の場合は,反復継続してA株式会社の代表取締役Bの姿,顔を見,声を聞くことで,Bであることが認識できるようになり,依頼のたびに本人確認をする必要がなくなるという点では優れているのかもしれません(いわゆる,「面識ができる」ということです)。

 もっとも,画像処理や情報の蓄積はAIの最も得意とするところですので,例えば,A株式会社の代表取締役Bの本人確認の際に,代表取締役Bについて得た情報(Bの免許証,顔写真,声など)を登録(記録)しておくことにより,次回以降の本人確認は,AIが記録した代表取締役Bについての登録(記録)と,再度依頼に現れたB本人のそれと照合することによって,最初の依頼をしたBと再度依頼に現れたBがそれぞれ同一人物であるということの認識ができるようになり,人間でいうところの「面識がある」場合と同様,簡単なもので済ませることは可能と思われます。

本人確認だけでかなりの量となってしまいましたが,次回は,モノの確認以降を考えていく予定です。