【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 今年の冬は,東京でも朝方の気温が氷点下になる日が多いですね。
 近年の暖冬では,考えられないことですが,筆者が子供の頃は,冬は毎日霜柱が立ち,水たまりの水や池の水は凍るのが当たり前でした。
 夏は猛暑,冬は厳冬の方が,日本経済にはプラスになるようですのでよいことなのかもしれません。
 また,インフルエンザが猛威を振るっていますので,人混みではマスクの着用をするなど,皆様も体調にはくれぐれもご注意くださいね。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を休んで,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。


(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。

 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることができませんでした。

 これまでの回では,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務のうち,不動産登記業務(売買と相続)および商業登記を題材に検討しました。
 いずれにおいても,比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,意思の確認,相談,説明や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至っています。

 以上を踏まえた上で,今回は,登記業務のうち,商業登記(後編)について考えていきましょう。

③ 商業登記(後編)

ハ モノの確認

 前回検討したように,商業登記は会社自身の登記(主体についての登記)であるため,A株式会社の代表取締役Bから商業登記の依頼を受けた場合に,登記をする会社はA株式会社に他ならず,これを全く別の会社と間違えるということは考え難いです。
 現在の登記実務上も,A株式会社の代表取締役Bからの役員変更登記申請代理の正式な依頼をもって,登記する会社はA株式会社であると判断しており,モノの確認は,不動産登記ほど慎重に行われておりません。

 AIも,A株式会社の代表取締役Bの本人確認のところで,BがA株式会社の代表取締役であることを確認すれば,登記をするのはA株式会社であるとの判断ができますので,AIによる代替は可能と思われます。
もっとも,A株式会社の代表取締役Bが,自ら代表取締役を務め,かつ,役員構成が同じか,あるいは,極めて酷似する複数の株式会社を持っていて,同時に複数の商業登記の依頼を受けた場合などの場合には,どの会社についてどのような依頼があるか注意しなければなりません。
これは,司法書士でもAIでも同じですね。

ニ 意思の確認

 次に,意思の確認です。  不動産登記においては,登記申請の意思の確認は高度な人間性を要する作業として,AIによる代替は困難という結論に至りました。
 特に,権利に関する不動産登記の申請は,法令上登記の申請義務がなく,当事者(主に登記権利者)の任意であるため,その意思の確認は,厳密に行われなければなりません。
 これに対して,商業登記は,前述のように,会社自身についての登記であり,かつ,その申請が法律上の義務です(必ずやらなくてはならない)。
 また,単独申請です。
 そのため,会社の代表者に登記の申請意思の有無についての確認は,会社代表者が司法書士に登記申請の代理を依頼する旨の委任状その他登記申請に必要な書類を交付すること,すなわち,正式な登記手続の依頼があったことをもって,登記申請の意思ありと判断すれば足りると考えられます。
 現在の登記実務上も意思の確認については,不動産登記ほど厳密に行われておりません。

 では,AIは,意思の確認において,司法書士に代替することが可能でしょうか。
 不動産登記の場合と同様,スマートホンに登載されているSiriのような会話機能をAIにも登載し,会話によって,代表取締役の意思の確認をしようと試みる方法をとったとします。
 そして,AIによる意思の確認は,本人の確認と同時に行うとしたらどうでしょうか。
 商業登記の依頼者(会社の代表者等)は,一応,ある程度商業登記の知識がある場合がほとんどです。
 全くの素人が商業登記の依頼をすることはありません。また,商業登記の場合,本人に対する質問(どのような登記を依頼したいかなど)が比較的定型化しやすいものと思われます。
 そのため,A株式会社の代表取締役BとSiriの会話も不動産登記と比べるとスムーズにいくことが予想され,AIによって,A株式会社の代表取締役Bの登記申請意思(=正式な登記手続の依頼)の確認ができる可能性が高いのではないかと思われます。

ホ 印鑑の提出

 前回述べましたように,商業登記には,独自の登記の真正担保の方法として印鑑の提出の制度があります。
 具体的には,登記所が会社の代表者が提出した印鑑(印影,以下同じ)と当該会社の申請書または委任状に押印された印鑑とを照合して,その同一性を確認し,もって申請権限のある者から適正な登記の申請がなされたものと判断することです。これらの印鑑が異なると,登記所は提出した申請書その他添付書面の一切の審査をしてくれませんので(印鑑相違による補正),司法書士としては,登記所が会社の代表者が提出した印鑑と委任状に押印された印鑑が一致しないと困るわけです。

 まず,最初の印鑑の提出の作業ですが,これは,現在の登記実務において,印鑑届出書という紙媒体ですることとなっています(オンライン申請でも同様です)。
 具体的には,印鑑届出書という用紙に,会社の代表者の印鑑として提出する印鑑と,会社の代表者の個人の実印を押印し,会社の代表者の個人の印鑑証明書を添付して,登記所にこれを提出します。
 現在のところ,すべて,紙媒体でなされるものですので,AIによる処理には馴染みません。したがって,AIが司法書士に代替することはできません。

 次に,委任状に押印された印鑑と登記所に提出された印鑑との同一性の確認の作業です。
 現在の実務では,一見して明らかに委任状に押印された印鑑が登記所に提出した印鑑でないとわかる場合を除き,司法書士がその印鑑が登記所に提出したかどうかについて,積極的に確認することは少ないものと思われます(と,申しますか,確認する方法がないと言った方が正確な表現かもしれません)。
 司法書士が会社から交付を受けた委任状を登記所に持参し,その委任状に押印された印鑑が登記所に提出された印鑑かどうか確認させてくださいと申出ても,登記所は絶対に応じてくれません(むしろ,白い目で見られます)。
 これは,当たり前のハナシで,登記所が不親切だからということではありません。
 仮に,このような申出に登記所が安易に応じてしまうと,悪用され,申請権限のない者が当事者の知らない間に不正な登記を申請することが懸念され,せっかく商業登記の真正担保のために構築した印鑑の提出の制度が実質的に骨抜きになってしまうからです。
 結局のところ,司法書士としては,会社の代表者が委任状に押印した印鑑が登記所に提出されている印鑑と同じものと信じるしかないのが現状です。

反復継続的に依頼を受けている会社であれば,司法書士は前回登記申請の代理を委任されたときに交付を受けた会社の代表者からの委任状の写しをとって,これを保管しておいて,次の依頼を受けた場合に,その写しの印影と会社の代表者から新たに交付を受けた委任状の写しの印影とを照合することによって,委任状に押印された印鑑と登記所に提出されている印鑑との同一性の確認をするという方法が考えられます。
 しかし,この方法でも,委任状に押印された印鑑と登記所に提出された印鑑との同一性の確認の作業が100%完璧に行えるとはいえません。
 司法書士のあずかり知らないところで,会社の代表者が登記所に改印届(登記所に提出している印鑑を別の印鑑に変える届け)を提出されてしまう可能性があるからです。
 もし,改印届が提出されてしまうと,先に述べた方法により印鑑の同一性を確認して,登記の申請書を提出したとしても,登記所に提出されている印鑑と委任状に押印されている印鑑が相違することとなり,当該申請は受理されません(補正,すなわち,改印後の印鑑を押し直した書面をあらためて登記所に提出しなければなりません)。
 つまり,司法書士による事前の印鑑の確認作業は無駄だったという結果になります。
 ちなみに,AIは,情報の蓄積を得意としておりますので,AIが司法書士と同様の方法をとることはできると思いますが,AIの関知しない間に改印届がなされてしまうと司法書士と同じ結果になってしまいますので,AIが司法書士に代替する意味がないといえます。
 将来,法改正がなされ,登記所とAIがオンラインで接続され,委任状に押印されている印鑑が登記所に提出されている印鑑と同一であるか照会できるようなシステムが構築されれば,AIが司法書士より優位な立場となり,AIが司法書士に代替することが可能となるでしょう。

ニ 登記申請書や議事録等の添付書面の作成

 この分野は,登記業務の中でも最も定型的であることから,すでに,司法書士専用ソフトが販売されており(以前述べましたように,このソフトは,単に人間に命じられたことをその命令どおりに機械的に処理するものですので,AIではありません),多くの司法書士事務所で導入されています。
 また,現在の法務省のオンライン申請システムでは,基本的に一定の必要事項を入力すれば,申請情報が作成できるようになっています。
 そして,作成した申請情報に司法書士の電子署名をすることにより,登記の申請ができます。

 このような環境にあって,AIに法令,過去の判例・先例(通達・回答),登記関連の書籍や登記研究等の雑誌,申請情報の様式などの情報が予めAIに全て蓄積(学習)させておけば,AIがこれらの資料をもとに論理的な推論を行い,商業登記手続に必要な申請書や議事録等の添付書面を作成の上,当該申請をするための適切な申請情報を瞬時に正確に作成してくれるものと思われます。
 そして,添付情報が調えば,AIは,登記の申請も容易にしてくれることでしょう。
 これらの作業では,AIが行うことにより,ヒューマンエラーはほとんどなくなるはずです。
 このように,登記申請情報,添付書面の作成および登記申請情報の法務局への申請分野では,AIが司法書士を代替する可能性は極めて高いといえます。

 しかしながら,法令上,合理的な説明がつかない実務慣行については,AIがこれに対応することは難しいかもしれません。
 また,現在のオンライン申請のほとんどは特例方式(半ライン)によるものであり,添付書面は紙媒体での登記所へ提供することとなります。
 そのため,AIが添付書面(紙媒体)に会社代表者や議事録署名者等の署名捺印を得るという作業は,AIの苦手な非定型的作業となり,AIが司法書士を代替する可能性は極めて低い(あるいは不可能)といえるでしょう。
 登記所へ提出する紙媒体の添付情報をもれなく収集し,郵便で登記所に送付する作業も物理的にAIによることは不可能です。

 以上の検討から,商業登記においては,不動産登記に比べるとAIが司法書士に代替できる可能性がより高くなるものの,現在の法令,実務慣行およびAIの現在の能力を鑑みると,一定の資料から本人の確認が難しい場合や物理的にAIによる代替に馴染まない作業など一部の特別な作業ではAIによる代替は不可能であることから,完全にAIが司法書士に代替することはできないと結論づけてもよろしいかと思われます。
 将来,法改正により,商業登記の手続が簡略化されれば,司法書士もAIもいずれも登場する余地がなくなるかもしれません。
 現に,国際金融都市であるシンガポールでは,商号を決め,取締役を選任し,定款を作成すれば,約15分程度で,会社代表者本人によるオンラインによる申請で,会社が設立できるシステムがすでに稼働しているとのことです(もっとも,この話は設立に限られると思われますが)。