【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士⑥


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 日々,厳しい寒さが続いております。
 東京では,晴れの日が続き,湿度が低くなって,風邪やインフルエンザが流行しているようです。

 内科医に聞きましたところ,その予防法としては,なるべく人混みにはいかないこと,マスクを着用すること(そして,マスクは頻繁に取り替えること),手洗い(特に消毒すると効果的)の他,手で口や鼻をみだりに触らないようにすることがあるそうです(ウイルスが口や鼻から体内へ入るのを防ぐ)。
 また,個人的には,喉を保護するため,加湿器を利用しております(依頼者との会話から依頼の趣旨をくみ取ることが司法書士の重要な仕事ですので,喉は大切です)。

 さて,今回も,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。


(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。

 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることができませんでした。

 これまでの回では,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務を題材に検討しました。
 登記業務においては,比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,意思の確認,相談,説明や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至っています。

 それでは,今回は裁判事務(簡裁代理関係業務を含む)を題材に検討しましょう。

④ 裁判事務(簡裁代理関係業務を含む)

 裁判事務(簡裁代理関係業務を含む,以下,単に「裁判事務」といいます)は,大ざっぱに,(イ)依頼者との面談・打ち合わせ(随時必要),(ロ)訴状(答弁書,準備書面)等の書面の作成・提出,証拠の準備,(ハ)法廷での訴訟活動(事実の主張やその認否,証拠調べ,証人尋問等),(ニ)裁判上の和解(判決),(ホ)上訴をするか否かの判断,(ヘ)確定した裁判に基づく強制執行の申立等という仕事があります。また,訴訟以外では,(ト)過払金の返還など裁判外の和解(示談)などもありますね。

 このうち,(イ)の依頼者との面談・打ち合わせでは,司法書士が依頼者との面談し,依頼者がどのような方法によって紛争の解決を望むかを注意深く聴き取り,依頼者と共に解決の方法を模索し,訴訟進行の方針の決め,また,司法書士が紛争解決の方策を提案し,時には助言や説得をするといった,いわば,高度な人間性が求められる仕事に該当します。
 このような仕事は,AIの最も苦手とする分野です。
 仮に,AIに,想定可能な依頼者との問答例を学習させた上で,Siriのような会話機能を備えて,依頼者と面談させたとしましょう。

 その場合,まず,Siriが依頼者の発言を理解できずに会話が成り立たないおそれがありますし,Siriが依頼者の発言を理解できたとしても,AIの学習した問答例にそれに対応すべき答えがない場合に,的確な回答ができない懸念があります。
 したがって,この分野では,AIが司法書士に代替することは極めて困難だと思われます。

  (ロ) 訴状(答弁書,準備書面)等の書面の作成・提出については,登記業務と同様,裁判事務の中でも,比較的で定型化できるものであり,法令,過去の判例,実体法や訴訟関連の書籍や,訴状等の様式などの情報をAIに予め学習(蓄積)させておけば,AIの方が,司法書士より,豊富な知識で,その訴訟事件について,冷静かつ合理的に分析・判断し,訴状や準備書面等,その事件に最も適切なものを作成することは十分可能だと思われます。
 弁護士の事例ではありますが,ある大手弁護士事務所では,採用した新人の弁護士に,「数年後にはAIが君たちの代わりをすることになるだろうから,君たちは採用される最後の新人弁護士だ。」と告げたとの実話もあり,新人弁護士のようなパラリーガル,つまり,先輩弁護士の監督の下で定型的・限定的な法律業務を遂行することによって先輩弁護士の業務を補助する者は,AIに取って代わられるといわれています(司法書士でいえば補助者の仕事に相当するかもしれません)。
 したがって,(ロ)については,AIが司法書士に代替することが可能と思われます。
 ただし,新しい施行された法律や法改正があった法律に基づく事件など,まだ事例の蓄積の少ない事件では,完全にAIが司法書士に代替することは難しいでしょう。

 また,簡易裁判所における裁判において,依頼者からの委任を受け,訴訟代理権を得て自ら代理人として訴訟活動をする場合には,司法書士にある程度裁量の余地がありますが,司法書士が代理権を有しない地方裁判所以上の裁判で司法書士が行う訴状等の書面の作成業務は,本人訴訟の支援としての性質を有することから,この業務は,自ら代理人となる場合に比べて,より丁寧に,より綿密に行わなければなりません。
 必要に応じて,司法書士が訴訟の相手方や裁判官を演じて,法廷に立つ依頼者と事前に想定問答を行うことなどもあります。そうなると,もはや,単なる書面の作成の域を超えることとなり,AIによる代替は不可能といえるでしょう。
 なお,(ロ)のうち,証拠の準備は,訴訟ごとに異なる非定型業務であり,AIによる代替に馴染まないものと思われます。

 (ハ)法廷での訴訟活動(事実の主張やその認否,証拠調べ,証人尋問等)は,そもそも,AIが訴訟委任を受け,出廷して,法廷で訴訟活動することは,現在の法律では認められておりませんので,司法書士の本職が出廷しなければならない状況に変化はなく,この業務もAIが司法書士に代替することは難しいかと思われます。

 (ニ)裁判上の和解は,こちらから和解を求め,あるいは相手方から和解を求められ,さらには,裁判所から和解案が示されることもあるでしょう。
 そして,特に相手方から求められた和解や裁判所からの和解案を受け入れるか否かについては,それが,依頼者の紛争解決の方針・意向に沿うものなのか,あるいは,和解を受け入れることが判決を求めるより,依頼者に利があるかなどについて,慎重に検討した上で,依頼者と綿密に打ち合わせをしてその可否を決定する必要があります。
 また,場合によっては,和解を渋る依頼者に,和解を受ける入れることに利があることを説得する場合もありましょう。
 さらには,依頼者との打ち合わせの結果,和解案を蹴って,判決を求まるとの選択をすることもあると思います。
 このように,裁判上の和解も,訴訟ごとに異なる非定型業務である上,高度な人間性が求められる仕事であることから,AIによる代替に馴染みません。

 (ホ)上訴をするか否かの判断は,(イ)や(ニ)のように,依頼者の意向を聞いた上で,上訴における勝訴の可能性を検討し,実際に上訴することが依頼者の利益になるか否かを依頼者と共に考える必要があります。また,上訴が依頼者の利益にならない場合には,依頼者に上訴を断念することを説得するなど,訴訟ごとに異なる非定型業務である上,高度な人間性が求められる仕事であることから,AIによる代替は不可能だと思われます。

 (ヘ)確定した裁判に基づく強制執行の申立等では,申立書等書面の作成については,(ロ)のように,AIが司法書士に代替することは可能でしょう。しかし,債務者にどのような資産があって,強制執行をすることで債権を回収できるかの検討し,強制執行をかけるかどうかの判断をすること,また,債務者の資産が複数ある場合には,どの資産に強制執行をかけるのが最も効果的であるかを検討し,実際強制執行をかける資産をどれにするかを判断することは,事例ごとに異なることから,非定型業務として,AIによる代替に馴染まないのではないでしょうか。
 (ト)裁判外の和解(示談)は,あらかじめ依頼者との面談し,どの程度の条件なら和解に応じるべきか,あるいは,相手方がこのような条件を示してきた場合であれば,和解に応じるべきか(あるいは,訴訟へ移行すべきか)について,依頼者と綿密な打ち合わせを行い,決定する必要があります。その上で,生身の人間である相手方と面談し,あるいは電話による交渉をし,交渉決裂の場合,訴訟へ移行するという判断をしなければならないわけですから,これもAIの苦手分野です。したがって,この業務もAIが司法書士に代替することは難しいかと思われます。

 このように,裁判事務では,(ロ)訴状等書面の作成(いわゆる,パラリーガル的な業務)のように定型的業務以外の業務は,AIが司法書士に代替することはほぼ困難という結論を出してよいのではないかと思われます。

 ちなみに,弁護士業務のうち,AIで代替可能なものは,1.4%しかないという数字が出ております。
 司法書士の場合(78%)と比べると驚くべき数字ですが,上記のように裁判事務におけるAIの代替性の可否を検討した結果,裁判事務は,高度な人間性が求められることが多い仕事であって,AIで代替することができないものがほとんどであることを考え合わせますと,訴訟業務を主たる業務とする弁護士の業務におけるAIによる代替可能性が,1.4%であることに納得がいくものと思われます。