【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士⑦


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 相変わらず厳しい寒さが続いております。特に北陸・北日本では,荒れ模様の天候が続いているようです。テレビで大雪の光景を目にすると心が痛みます。そのような中,平昌冬季オリンピックでの選手たちの大活躍に勇気づけられます。ある友人は,司法書士試験をオリンピックに見立てていましたが,日頃のコツコツとした努力を要するという点では,なるほど,両者は共通項があるのかもしれません。もっとも,司法書士試験は,受験者の中で1番(金メダル)をとらなくても,合格点をクリアすれば,合格できますので,オリンピックの選手に比べれば,かなり気持ちに余裕が持てるはずです。
 さて,今回も,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。


(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることができませんでした。
 これまでの回では,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務や裁判事務を題材に検討しました。いずれの業務においても,比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,意思の確認,相談,説明,説得,交渉や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至っています。
 それでは,今回は成年後見業務を題材に検討しましょう。

⑤ 成年後見業務(前編~成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)までの申立関係の業務について)

 成年後見制度の理念は,ノーマライゼーション(障碍の有無に関わらず誰もが地域で安心して暮らすこと),自己決定の尊重(本人の意思や生き方を尊重すること)および残存能力の活用(本人に残された能力を最大限に使うこと)です。成年後見制度は,このような理念のもとに判断能力が不十分な者を法律的に保護する仕組みです。そして,成年後見には,法定後見と任意後見の制度があります。
 法定後見の制度においては,本人の精神上の障害による判断能力の程度によって,後見,保佐,補助という3つの類型があります。後見ではほとんどの法律行為につき,成年後見人が被後見人に代理(取消)することができるのに対し,保佐や補助では,自己決定の尊重の観点からなるべく被保佐人,被補助人本人が自分できることはなるべく自分で行わせることとし,どうしても自分でできないこと,すなわち,高度な判断力を必要とする法律行為等について,保佐人や補助人がこれをカバーすることとされています。したがって,保佐人や補助人に与えられる代理権や同意権(取消権)の範囲は限定的であり,あるいは特定の法律行為についてのみ代理権が付与されます。さらに,家庭裁判所が必要と判断するときは,成年後見人,保佐人または補助人を複数選任する場合,あるいは,成年後見監督人,保佐人監督人または補助人監督人がそれぞれ選任される場合もあります。
 また,任意後見の制度では,本人に十分な判断能力があるうちに,将来,判断能力が不十分な状態になった場合に備えて,あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人),自分の生活,療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくことになります。いわば,カスタマイズされた成年後見制度といえるでしょう。そして,本人・配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者は,本人の判断能力が減退した場合,任意後見監督人選任の申立を家庭裁判所に行い,家庭裁判所は,審判によって,任意後見監督人を選任します。この審判の確定をもって,任意後見契約の効力が生じます。
 成年後見業務は,その類型だけで,これだけのものがあります。また,成年被後見人,被保佐人,被補助人,任意後見契約による被後見人(以下,これらを総称して「成年被後見人」といいます)等の判断能力の程度は,人それぞれ千差万別であり,全く同じものはあり得ません。
 以下,法定後見のうち,特に成年後見の場合であって,司法書士が成年後見開始の審判の申立書の作成と成年後見人(候補者)になってほしい旨の依頼を受け,家庭裁判所の審判により,成年後見人に選任・就任した場合を題材に考えて行くことにします。
 成年後見業務には,大きく分けて,「財産管理」と「身上監護」があります。「財産管理」とは,成年被後見人本人の印鑑,預貯金通帳の管理,収支の管理(預貯金の管理,年金・給料の受取,公共料金・税金の支払いなど),不動産(貸地・貸家)の管理から,遺産相続の手続までの財産管理を成年後見人が成年被後見人に代わって行うものです。また,「財産管理」には,単に財産を維持・管理することだけでなく処分(例えば,居住用不動産の売却など)することも含まれます。このように,「財産管理」は日常生活の金銭管理から重要財産の処分まで多岐にわたります。これに対し,「身上監護」とは,家賃の支払いや,契約の更新,老人ホームなどの介護施設の入所等の各種手続や費用の支払い,医療機関に対する医療費の支払い,入院手続などの各種手続,障害福祉サービスの利用手続等を,成年後見人が成年被後見人に代わって行うものです。また,「身上監護」には,成年後見人が定期的に成年被後見人本人を訪問するなどして,成年被後見人本人の生活状況や健康状態を確認するというように,成年被後見人本人の生活や健康に配慮し,安心した生活が送れるようにすることです。身上監護も法律行為によるものであり,原則として,被後見人に対し,成年後見人が直接介護することや看護,日用品の購入などをすることは含みません。ただし,稀ではありますが,介護施設や病院では容易に手に入らない物品(例えば,電動ひげ剃りなど)を成年後見人が購入し,成年被後見人に届けるというケースはあります。
 また,成年後見人が行う「財産管理」と「身上監護」の具体的な業務は,多種多様である上に,その分野は多岐に亘りますが,時系列的に分けて考えてみると,成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)までの申立関係の業務と,成年後見人に就任した後の業務があります。前者には,(a)後見開始の審判の申立書の作成のための情報収集,(b)家庭裁判所に対する申立書の作成と提出(家庭裁判所による調査等),(c)成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)があり,後者には,(d)財産目録や収支予定表の調整と家庭裁判所への提出,(e)金融機関や行政等への成年後見人が就任した旨の届け出,(f)通帳の管理等の日常の財産管理とその関係業務,(g)本人の身上看護とその関係業務,(h)定期的な家庭裁判所への財産状況等の業務報告などの業務があります。以下,個別に考えて行きましょう。

(a) 後見開始の審判の申立書の作成のための情報収集

 後見開始の審判の申立書の作成のための情報は,申立人,本人やその家族(家族の1人が申立人になることもあります),医師などの病院関係者,本人が介護認定を受けている場合にはケア・マネージャなどその他の関係者(特に,キー・マンと呼ばれる中心人物)に直接会い,あるいは電話などで話を聞いて(相談・交渉・説得等をしなければならない場合もあるでしょう),本人の現在の判断能力(後見類型が相当であることの確認等),本人の生活状況,本人の資産・負債などの財産状況,本人の経歴,病歴などの情報を収集する必要があります。これらの情報は,人それぞれ千差万別であり,情報の入手先も各方面,様々であるため,定型化することはできません。このような作業は,AIの最も苦手とするものです。また,これらの業務は,後見人本人にのみ許された業務ですので,後見人に選任された司法書士本人しか行うことはできません(たとえ補助者であっても司法書士本人に代わって行うことはできません。後記(c)参照)。したがって,(a)は,AIによる代替には馴染まず,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。

(b) 家庭裁判所に対する申立書の作成と提出

 家庭裁判所に対する成年後見開始の申立書の書式は定められており,家庭裁判所のホーム・ページから,容易に入手することはできます。しかし,申立書のほかに,申立事情説明書(詳しい実情を記載する必要あり),財産目録,収支状況報告書,後見人等候補者事情説明書などの個別具体的な添付書面が求められており,これらは,(a)の情報に基づいて作成する必要があります。(a)の情報と切り離して単独で行うことのできる業務ではありません。(a)の作業をした者のみが行い得る業務といっても過言ではないでしょう。これも,また,非定型的業務です。したがって,(b)の作業もまた,AIによる代替には馴染まず,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。申立書の提出も,現在のところ,オンラインによることが認められておりませんので(紙ベース),物理的に,AIが司法書士に代替することは不可能です。

(c) 成年後見人の選任・就任

 家庭裁判所は,成年後見開始の審判と同時に成年後見人を選任します。そして,その選任決定に基づき司法書士が成年後見人に就任します。ある成年被後見人についての成年後見業務は,成年後見人に選任され,就任した司法書士本人だけしか行うことできません。家庭裁判所は,審判の過程で,候補者である司法書士の実務経験やその手腕,研修の履修状況などを検討し,成年被後見人のために誠実かつ責任を持ってその職務を果たすことができるかにつき十分吟味した上で,その司法書士を成年後見人として選任しているからです。したがって,成年後見人(司法書士)自身が,AIによって代替されることは考えられません(現行法では,AIが成年後見人に就任できるという規定はありません)。