【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士⑧


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 寒い日が続きますね。晴れていて,室内にいると外も暖かそうだと思って外出したところ,思いの他,風が冷たくて,ビックリすることがあります。このようなときは,いったん家に引き返してでも,防寒対策をして,再度外出した方がいいと思います。寒いまま出かけると風邪をひいてしまいがちです。また,日中ぽかぽか陽気でも,日没後,急激に冷え込むことがあります。暖かくても,用心のため,コートは持って出かけましょう。
 さて,今回も,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。

(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事をすることができませんでした。
 これまでの回では,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務と裁判事務を題材に検討しました。いずれの業務においては,比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,意思の確認,相談,説明,説得,交渉や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至っています。
 また,前回の成年後見業務(前編まで)についての検討でも,ほとんどの業務がAIによる代替は不可能という結論になっています。成年後見業務は,その作業が多種多様に及び,定型化できないものばかりです。特に,成年後見業務は,一般的に当事者が多く,これらの人から,事情を聞き,あるいは相談を受け,自ら解決策を提案し,必要に応じて助言や説得をしなければならないといった高度な人間性が求められる仕事(人と人とのコミュニケーション能力が最も必要とされる仕事)でもあります。これらは最もAIが苦手とするところだからです。
 それでは,今回は成年後見業務(後編)を題材に検討しましょう。

⑤ 成年後見業務(後編~成年後見人に就任した後の業務)

 前回のおさらいになりますが,成年後見人が行う「財産管理」と「身上監護」の具体的な業務を時系列的に分けて考えたてみると,成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)までの申立関係の業務と,成年後見人に就任した後の業務がありました。前者には,(a)後見開始の審判の申立書の作成のための情報収集,(b)家庭裁判所に対する申立書の作成と提出(家庭裁判所による調査等),(c)成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)があり,後者には,(d)財産目録や収支予定表の調整と家庭裁判所への提出,(e)金融機関や行政等への成年後見人が就任した旨の届け出,(f)通帳の管理等の日常の財産管理とその関係業務,(g)本人の身上看護とその関係業務,(h)定期的な家庭裁判所への財産状況等の業務報告などの業務があることは前回検討しました。そして,前号では,成年後見人の選任・就任(家庭裁判所による審判)までの申立関係の業務を検討しました。
 そこで,本号では後者の成年後見人に就任した後の業務について検討していきましょう。

(d) 財産目録や収支予定表の調整と家庭裁判所への提出

 財産目録の調製とは,これまで事実上成年被後見人本人の財産を管理していた人(以下,「事実上の財産管理人」という)から,成年被後見人の手元現金や預金通帳その他財産の引渡しを受け,成年被後見人の保有する財産についての目録を作成するものです。成年後見開始の審判が確定すれば,成年被後見人の財産の管理権は,法律上,成年後見人に移行しますので,事実上の財産管理人と会うなどして,これらの財産およびその資料の引渡しを受けることになります。しかし,例えば,事実上の財産管理人が自らを成年後見人候補者とする成年後見開始の申立てをしたところ,他の兄弟の反対にあい,第三者後見人(司法書士などの職業後見人)が就職したような場合は,申立人と司法書士との間に未だに信頼関係が築かれていないため,事実上の財産管理人が,引渡しを渋る,遅々として引渡しを行わない,あるいは,最悪,拒否する場合もあります。そのような時は,家庭裁判所の助力を受けながら,粘り強く交渉・説得し,これらの引渡しを受けた上で,財産目録を調製しなければならないことになります。また,収支予定表の調整も,事実上の財産管理人から,申立て前のおよそ1年間の成年被後見人の生活状況,収支(年金等の収入,生活費,医療費等の支出)などを聴き取り,資料の呈示を受け,成年被後見人の年間の収支予定表を作成しなければなりません。このように,財産目録や収支予定表の調整作業も,高度な人間性が求められる仕事(人と人とのコミュニケーション能力が最も必要とされる仕事)であり,当然のことながら定型化することはできません。いずれもAIの苦手とする作業ばかりです。また,財産目録や収支予定表の調整と家庭裁判所への提出の業務は,成年後見人本人に限って認められる業務です。したがって,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。

(e) 金融機関や行政等への成年後見人が就任した旨の届け出

 成年後見人が就任しますと,成年被後見人が口座を有する金融機関や,区役所,年金事務所等の行政に対して,成年後見人が就任した旨の届け出をしなければなりません。後見登記事項証明書を持参し,成年後見人が就任した旨を報告し,以後,財産の管理権が成年後見人のみにあることを知らせ,かつ,以後,成年被後見人宛ての各種通知等の発送先や連絡先を成年後見人宛にしてもらうためです。行政への届け出は,電話と郵送によることが可能ですが,金融機関への届出書は,成年後見人本人が直に窓口に出向いて行うことが要求されます。これらの作業も,非定型的であり,かつ,成年後見人本人に限って認められる業務であるため,AIによる処理に馴染みません。したがって,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。

(f) 通帳の管理等の日常の財産管理とその関係業務

  (d)(e)を済ませますと,成年後見人は,成年被後見人の生活のために,通帳の管理等の日常の財産管理を行うこととなります。例えば,成年被後見人が病院に入院,あるいは,その他施設に入所している場合には,これらの機関の請求に応じて,あるいは,あらかじめ毎月定期的に医療費,施設利用料あるいは生活費を送金または持参しなければなりません。成年被後見人が在宅の場合には,日常の生活費等の費用を成年被後見人の居所に持参することになります。これらの業務はお金を送金・持参するだけの単調で定型的な業務のように見えますが,送金する額は月々異なりますし,成年後見人は,成年被後見人の財産管理を行う立場の者として,請求された金額が妥当で適正なものか,計算違いはないかなど細かいところに至るまで注意を払わなければなりません。また,多く病院は,その支払いを現金で求めることが多いので(銀行振込みですることができませんので),成年被後見人の口座から必要な額の現金を引き出した上で,現金書留で送金することが多いです。また,お金を持参する場合には,成年被後見人と面会し,成年後見人として,成年被後見人の健康状態を確かめることはもとより,必要に応じて,病院等の関係者(担当職員)に,成年被後見人の最近の健康状態や生活状況に変わりはないかなど,事情を聞くこともあります(厳密には,本人の身上看護の業務にはなりますが)。送金をだけする場合でも,成年被後見人の最近の健康状態や生活状況に変わりはないかについて,電話で話を聞くことになります。さらに,病院や施設では用意できないもの(例えば,電動髭剃りなど)については,成年後見人が購入して病院や施設に届けることもあります。これらの業務も,非定型業務であり,かつ,病院等の関係者(担当職員)と連絡を取って,時には相談をしながら事を進めますので,AIの処理には馴染みません。したがって,この業務も,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。

(g) 成年被後見人本人の身上看護とその関係業務

 前回述べましたように,成年被後見人本人の身上監護は,成年後見人が定期的に成年被後見人本人を訪問するなどして,その生活状況や健康状態を確認するというように,成年被後見人の生活や健康に配慮し,安心した生活が送れるようにする業務です。また,(f)でも,触れましたが,成年被後見人本人の身上監護業務は,成年後見人が病院や施設を訪れ,成年被後見人と面会する等,成年被後見人の健康状態を確かめ,最近の健康状態や生活状況に変わりはないかなど事情を聞くことがその具体的業務になります。また,成年被後見人が現在入所している施設で生活することが適切ではないと思われる場合には,成年被後見人本人にとってもっと条件の良い施設等を探し,そちらの施設に移ることも検討しなければなりません。そして,施設を移るとなった場合には,行政に対し住民票の異動など様々な手続が必要になってきます。この業務も他の業務同様の理由で,AIの処理には馴染みません。したがって,この業務も,AIが司法書士に代替する可能性はほとんどないと言って良いでしょう。

(h) 定期的な家庭裁判所への財産状況等の業務報告

 成年後見の事務は,原則として1年に1回定期的に家庭裁判所に財産状況等の業務報告をしなければなりません。具体的には,これまでの1年間の後見等事務報告書(本人の生活状況について,本人の財産状況についてなど),財産目録,必要に応じて収支状況報告書,金銭出納帳を作成し,また,10万円以上の支出があった場合の領収書などの写しを家庭裁判所へ提出します。成年後見の業務については,登記業務と同様,すでに,司法書士専用ソフトが販売されています(以前述べましたように,このソフトは,単に人間に命じられたことをその命令どおりに機械的に処理するものですので,AIではありません)。しかし,これまで検討してきましたように,成年後見の業務は,定型化が難しいため,司法書士専用ソフトとであっても,財産目録,金銭出納帳または1年間の収支計算書のように一定の数字を入れ込めば自動的に計算ができるもの以外の提出書類は,ワードやエクセルで作成するのと作業量的にはほとんど変わりありません。このように業務用ソフトでさえ,業務の一部しか代替できないわけですから,AIもほぼ同様と考えてよいでしょう。したがって,この業務も,AIが司法書士に代替するとしても極めて限られた業務の一部のみに限られ,完全に司法書士に代替する可能性は低いでしょう。
 前回,今回と成年後見の業務について検討してきましたが,成年後見の業務は,その作業が多種多様に及び,定型化できないものばかりです。また,一般的に当事者が多く,これらの人から,事情を聞き,あるいは相談を受け,自ら解決策を提案し,必要に応じて助言や説得をしなければならないといった高度な人間性が求められる仕事(人と人とのコミュニケーションが最も必要とされる仕事)でもあります。これらの作業はAIが苦手とするものばかりです。したがって,ほとんどの作業がAIによる代替は不可能であり,成年後見の業務は,司法書士業務の中でも,最もAIによって代替することが困難な業務と結論づけてよろしいかと存じます。