【司法書士】
司法書士の将来~AIと司法書士⑨


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 3月に入り,ようやく春めいてきました。
 東京では,昼間は上着がなくても,寒くないほど暖かな日もあります。
 ほどなく,桜の開花の便りも,南の方からもたらされることでしょう。

 厳寒の中,春の開花のため,着々と準備をしてきた桜の木が,いよいよ開花の時期を迎え,大輪の花を咲かせるのは,司法書士受験生とよく似ていると思います。
 もっとも,司法書士受験生の場合,開花後(合格から独立開業まで)が大切ですが。

 さて,今回も,「司法書士の将来~AIと司法書士について」を述べて参ります。

(前回までのおさらい)

 人工知能(以下,「AI」といいます)は,人間が知能を使ってする特定の専門分野において,自らの経験を知識として蓄積(学習)し,これをもとに論理的な推論を行い(推論・応用),新しい結論を得ることができる(判断)という知的で発展的な作業をこなす能力を有するコンピュータプログラムのことでした。

 そして,この特定の専門分野において,AIは,自ら学習した範囲における合理的な仕事(作業)を定型的に処理する能力では,生身の人間の能力を超越しますが,創造的な仕事,非定型的な仕事,事例の集積が少ない新分野,人間の相談を受け,自ら解決策を提案し,助言や説得をするなど,いわば,高度な人間性が求められる仕事(人と人とのコミュニケーション能力が必要とされる仕事)をすることができませんでした。

 これまでの回では,司法書士業務のAI(を登載したロボット。以下同じ)による代替の可能性につき,登記業務,裁判事務および成年後見業務を題材に検討しました。
 いずれの業務においては,比較的定型化された作業においては,AIによる代替可能性が高いものの,意思の確認,相談,説明,説得,交渉や助言のような高度な人間性を要する作業は,AIによる代替は不可能であり,完全にAIが司法書士に代替することはできないとの結論に至っています。

3 結論

 これまでの検討を基に,現時点での結論を申し上げますと,AIが登場しても,司法書士の仕事の全てがAIにとって代わられることありません。
 これは,司法書士の仕事の主要部分(キー・デバイス)が,依頼者あるいはその関係者から,事情を聞き,あるいは相談を受け,司法書士自らがその高度な専門知識や実務経験から,いくつかの解決策(解決案)を提案すると共に,必要に応じて助言や説得をしなければならないといった高度な人間性が求められるもの,つまり,人と人とのコミュニケーション能力が必要とされるものだからです。
 そして,このような仕事は最もAIが苦手とするところだからです。

 しかし,AIの登場とその発展によって司法書士の業務は大きく代わる可能性は否定できません。
 特に,司法書士の仕事の中の定型的な業務は,AIでの代替が十分可能であり,将来的に,AIへの置き代えが進むものと予想されます(その意味では,これらの業務を主として行っていたパラリーガル的な補助者の仕事は激減する可能性はあります)。
 また,AIは学習・応用能力を有しますので,AIで代替がきく業務は将来的には加速度的に増えていくものと思われます。

 さらに,法律の改正により,手続そのものが簡素化されれば,AIの活躍の幅は拡がる可能性があります。
 今現在,俎上に載っているものとしては,
①国による法人設立手続に関するワンストップサービスの提供,
②国による民事裁判の手続のIT化(裁判所がインターネット上に新設する専用サイトにアクセスして訴状や準備書面を提出することができるようになること),
③法定相続情報証明制度の改善,
④資格者代理人による不動産登記のオンライン申請で,申請情報と併せて添付書面を全てPDFで送ることにより,添付書面の原本は司法書士が保管し,法務局に送付・提出しなくてもよいとする制度(資格者代理人方式の創設)の導入,
⑤法務局による自筆証書遺言の保管制度の創設,
⑥空き家問題と相続登記の義務化などがあります。

 これらを踏まえて,司法書士とAIの将来を想像すると,AIと司法書士とは,対立関係にあるものではなく,あくまで司法書士を主とし,AIを従とする司法書士とAIとの共存の時代が来るのではないかと思われます。
 具体的には,司法書士およびその業務をサポートするためのツールとしてAIの導入がなされていくことでしょう。
 例えば,不動産登記業務においては,依頼者との面談,登記の申請に必要な情報や書面の収集,本人確認,本人の意思確認,モノの確認は,司法書士が行い,登記申請情報や添付情報の作成やオンラインによる登記申請はAIが行うといった司法書士とAIの住み分け(業務分担)が可能になるものと思われます。

 このように,司法書士が積極的にAIを利用することによって,司法書士の業務は著しく合理化されるはずです。
 例えば,登記申請情報や添付情報等の作成をAIが担当することによって,ヒューマン・エラーが激減し,その正確性も増すものと思われます。

 また,非常に困難な案件の依頼を受けた場合でも,AIに蓄積・記録された情報から,AIが最も適切な処理の方法を示してくれることもあるでしょう。
 そして,司法書士事務所の経営という観点からも,AIの利用による補助者の削減による人件費の節減と,業務の効率化によって生じた余剰時間で,成年後見業務等AIによって置き換えが不可能な新たな仕事(付加価値のある仕事)を受託することができるようになるでしょう。

 その結果,司法書士が手にする報酬は増加し,ひいては事務所の利益率の向上も期待できるものと考えられます。
 もっとも,当然のことながら,AIを導入・利用するため一定の費用はかかるものと思われますが。
 このように考えますと,AIの登場によって,司法書士業務がAIに取って代わられることをいたずらにおそれることより,司法書士がAIを上手に利用することによって,その業務を合理化させ,司法書士業務をむしろ発展させることができるのではないかと思われます。
 いいかえれば,AIの登場後の司法書士の将来は,司法書士がいかにAIをうまく使いこなすかにかかっているといえるでしょう。