【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 暖かな日々が続き,いよいよ春の訪れかと思いきや,いきなり真冬に戻ったような寒い日が来ることがあります。
 冬物をしまって,春物を出したばかりなのに,あわててまた冬物を出すという慌ただしさです。
 このように寒暖差が激しいときには,いくら注意しても体調を崩しがちです。皆様もお気をつけください。

 さて,今回から数回に分けて,司法書士業務に関連する最近の社会情勢について述べて参ります。

1 登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けた方策

(1) 登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン
 「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン」とは,「世界最先端IT国家創造宣言」(平成25年6月14日閣議決定。平成28年5月20日改定)を踏まえて,平成28年10月31日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議で定められたものです。
 「世界最先端IT国家創造宣言」(平成25年6月14日閣議決定。平成28年5月20日改定)では,行政組織や業務の壁を越えたデータの利活用等により,公共サービスの品質向上を通じた利用者の利便性や公共価値(Public Value)の更なる向上を目指すこととされました。

 このため,平成30年度から法務省において予定されている登記情報システムの更改に当たり,行政機関等に対して,オンラインにより新たに設立された法人(以下,「会社」といいます)の登記情報を提供可能とするなど行政機関間の情報連携のため柔軟に対応する仕組みの構築を推進し,これにより,事業開始の際に必要な各種手続において登記事項証明書の添付を省略できるようにし(※1),国民の負担軽減を図るとともに,行政運営の高度化を図ることとされています。

 また,「日本再興戦略 2016」(平成28年6月2日閣議決定)においても,法人番号(※2)導入を契機に,企業が活動しやすいビジネス環境整備に向けた横断的な取組を推進することとし,事業開始の際に必要な各種手続における登記事項証明書の添付省略やオンライン手続の利用促進等手続の簡素化・迅速化に向けた見直しを行うこととされています。

 以上を踏まえ,企業が活動しやすいビジネス環境整備を図る観点から,本アクションプランに基づき,①登記事項証明書の添付省略や②オンライン手続の利用促進等,手続の簡素化・迅速化(※3)に向けた取組を推進することとされています。

※1 登記事項証明書とその添付の省略

 登記所において発行される会社の登記記録に記録された事項の全部または一部を証明した書面を「登記事項証明書」といいます。
 会社の登記事項証明書は,登記所等において所定の手数料を納付して申請すれば,何人たりとも,その交付を受けることができます。
 現状では,法人の設立登記が終わると,税務署,都道府県・市町村税事務所,労働基準監督署,公共職業安定所,年金事務所,健康保険組合,会社の銀行口座開設(以下,「行政機関等といいます」)などの各手続において,登記事項証明書の提出が義務づけられています。
 その理由は,会社からの手続の申請の際に登記事項証明書の提出を求めることで,行政機関等において事業者情報に係る申請内容が正しいかどうかを確認するためです。
 しかし,会社の登記事項証明書は,所定の手数料を納付して申請すれば,何人たりとも,その交付を受けることができますので,手続の申請の際にその提出を求めてもその事業者情報の真正を担保するには至りません。

 また,登記情報は行政機関(法務省・法務局)が管理しているにも関わらず,現行制度ではこれを別の行政機関が参照するために,わざわざ事業者に登記事項証明書提出を求めているのは,縦割行政の弊害とのそしりを免れません。
 そして,何よりも,事業者が行政機関等に対し,複数の登記事項証明書の提出しなければならないことは,起業のための事務負担が重いとの指摘がなされています。

※2 法人番号

 マイナンバー法に基づいて法人や団体に割り当てられる13桁の固有の番号のことをいいます。
 設立登記をした法人,国の機関,地方公共団体,その他,法人税・消費税の申告納税義務または源泉徴収義務を有する法人や団体などに対して,国税庁長官が指定し,通知されています。
 個人番号(マイナンバー)と違って利用範囲の制約がなく,だれでも自由に利用できます。

※3 オンライン手続の利用促進等,手続の簡素化・迅速化

 起業の促進の観点から,特に,法人の設立登記について,手続きを簡略化することによってオンライン手続の利用を促進し,あわせて法務局における設立登記の完了までの時間の短縮(迅速化)を目指しています。
 登記事項証明書とその添付の省略とオンライン手続の利用促進等,手続の簡素化・迅速化の2つこそが,「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン」の大きな柱です。
(2) 会社の設立登記のファストトラック化(先例平30.2.8-19)
① 趣旨および経緯
 「世界最先端IT国家創造宣言」においては,国のIT化・業務改革(BPR)の更なる推進の取組として,「ハローワーク,年金,国税,登記・法人設立等関係のシステム改革や業務改革については,各府省情報化統括責任者(CIO)による検証等を通じて,運用コストの大幅な削減を図りつつ,マイナンバーや法人番号の利活用も踏まえ,行政機関間の分野横断的な情報連携等を進めることにより,利用者視点での改革を推進し,あわせて,各府省庁の個別業務についても,システム改革とともに業務プロセスを見直すなどの業務改革を推進」するとされました。
 また,これを受けて,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)の下に置かれた「eガバメント閣僚会議」のワーキンググループである「国・地方IT化・BPR推進チーム」の検討においては,国のIT化・業務改革の推進や起業の促進等の観点から,法人設立に必要な各種手続の簡素化・迅速化が強く求められました。
 「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン」は,これらの経緯を踏まえて定められたものであり,同プランに基づき,平成29年度中に,法務局において,会社の設立登記の優先的処理(以下,「ファストトラック化」という)を開始することとされました。
② ファストトラック化の対象となる登記とその開始時期
 ファストトラック化は,起業の促進等の観点から,株式会社および合同会社の設立登記の他,新設合併,新設分割および株式移転による設立登記をも対象として取り組むものとされました。
 このファストトラック化は,平成29年度中の平成30年3月12日から開始することとされています。
③ 登記の完了時期
 ファストトラック化の対象とされた株式会社および合同会社の設立登記の他,新設合併,新設分割および株式移転による設立登記は,補正が必要な場合を除き,書面による申請の場合には申請の受付日の翌日から,オンライン申請の場合には添付書面の全部が登記所に到達した日の翌日から起算して,原則として3日以内に登記を完了するものとされました。
 なお,登記申請件数の多い時期(4月,6月および7月)であるなど,3日以内に登記を完了することが困難な事情がある場合においても, ファストトラック化の趣旨に鑑み,できる限り速やかに登記を完了するよう努めるものとされています。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?
 ワンストップサービスとは,一度の手続で,必要なことすべてを完了できるように設計されたサービスをいいます。
 例えば,昔は,買い物をするときには,買いたい商品を売っているお店,すなわち,魚屋,肉屋,八百屋,衣料品店,雑貨店あるいは米屋に足を運ぶ必要がありました。
 しかし,今は,ショッピングセンターに行けば,それら生活に必要なものが一度に買えるようになっています。
 このように,ある場所に一度行けば,そこですべての買い物が済むというようなサービスのことをワンストップサービス(ワンストップショッピング)といいます。
 なお,本稿における「ワンストップサービス」とは,さまざまな行政サービスを1か所で一度に受けられる「ワンストップ行政サービス」のことを指します。
(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例
 現在,すでに,自動車保有関係の手続と税・手数料の納付をインターネット上で,一括して行うことを可能とした自動車保有関係手続の政府の運営によるワンストップサービスや,児童手当の手続,保育の手続,母子保健の手続およびひとり親支援の手続などをインターネット上で,一括して行うことができる政府の運営による子育てワンストップサービスがあります。
 いずれも,利用者の負担を軽減するためのサービスであり,法人設立手続においても,同様に,起業や対日投資の促進,事業者の負担軽減の観点から,このようなオンライン・ワンストップ化が必要との声があがっています。
 次号では,内閣官房(日本経済再生総合事務局,番号制度推進室),総務省,法務省,国税庁,厚生労働省等の関係省庁が連携しながら,構築しようとしている国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。