【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 いよいよ各地の桜の開花宣言の報が入るようになりました。皆様も通勤や通学の途中で,美しい桜の花を目にする機会が増えたのではないでしょうか。春の訪れを実感するような暖かな日があると思えば,冬に逆戻りしたような花冷えの日も少なくありません。季節の変わり目は,体調管理が大変難しいです。皆様も風邪などお召しになりませんよう,どうかお気をつけください。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(前回)

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(前回)

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価
 世界銀行のビジネス環境ランキング(“Doing Business”)とは,同銀行が事業活動規制に係る10分野(法人設立・建設許可・電力事情・不動産登記・信用供与・少数投資家保護・納税(社労)・輸出入・契約執行・破綻処理)を選定し,世界190か国を対象とし,順位付けし,毎年発表するものです。このうち,法人設立・建設許可・電力事情・不動産登記・納税(社労)・輸出入については,手続数,時間,コストを中心に評価されます。法人設立の分野においては,我が国の順位は年々低下し,2017年は,先進国(OECD加盟35か国)中31位という低評価を受けるに至りました(2016年は,28位)。法人設立登記手続の後,税・社会保障等の届出を別途行う必要があり,OECD加盟諸国と比べて,手続数が多いのがその原因です。

(4) 我が国の法人設立手続の概要
 現在,我が国において,法人(会社)を設立し,事業を開始するためには,次のような各種の手続を踏まなければなりません。
 ① 商号調査(同一本店所在地における同一商号の有無等)
 ② 会社の印鑑の作成
 ③ 法務局での設立登記等申請手続(定款の作成と認証,資本金の払込み,設立登記申請書の添付書面の作成,登録免許税の支払い,登記事項証明書・印鑑証明書の取得等)
 ④ 税務署へ法人設立届書・青色申告の申請書等の提出
 ⑤ 都道府県税事務所へ事業開始申告書提出
 ⑥ 労働基準監督署へ労災保険に関する保険関係成立届等の提出
 ⑦ 社会保険事務所へ健康保険・厚生年金に関する新規適用届出書等の提出
 ⑧ 公共職業安定所へ雇用保険に関する適業事業所設置届出等の提出

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム
 現在,我が国において,(4)の手続をすべてオンラインによって行うには,次の4つのシステムで個別に申請・届出をしなければなりません。
 ① 登記・供託オンライン申請システムおよび登記ねっと・供託ねっと(法務局での設立登記申請手続等,上記(4)③に相当)
 ② e-Tax(税務署への届出,上記(4)④に相当)
 ③ eLTAX(都道府県税事務所へ届出,上記(4)⑤に相当)
 ④ e-GOV(労働基準監督署,社会保険事務所,公共職業安定所への届出,上記(4)⑥⑦⑧に相当)
 これらのオンライン申請システムについては,起業者側から「まず何をしなきゃいけないのかがわからない。何がわからないのかわからない。」「どこから手をつけるのか,明確な順序がないのが,分かりにくかった。」等の意見が寄せられています。起業者にとっては,同じ情報(例えば,商号や本店など)をシステムごとに何度も入力(登録)しなければならないこと,システムごとに操作方法が異なることなど手続の全体像がわかりづらい上に,手続負担(電子証明書の取得など)も大きいのが実情のようです。また,たった1回の法人設立手続のために,起業者がオンライン申請システムを利用するために負担するコストがメリットを上回っていることから,オンライン申請システムの利用は進んでおらず,その利用率は低迷しています。  

 ●参考:海外における先進事例(韓国)
 韓国では,従来は,申請にあたって銀行や行政機関(市役所,登記所,税務署,保険機関,労働事務所)をそれぞれ直接訪問する必要がありましたが,2011年にオンライン法人設立システム”Start-biz”が構築・導入され,このシステムを利用することにより,労働事務所を除き,全てオンライン申請で完結するようになりました。また,電子政府法(2001年制定)において,行政機関保有の行政情報は他の行政機関(地方自治体,電力会社,銀行などを含む)と共有しなければならず,同様の情報を個別に収集してはならないこととされました。その結果,行政機関の間で交換される情報は114種類にのぼり,年間の書類削減は2億件以上の実績を上げたとのことです(2013年の実績)。
 <オンライン法人設立システム”Start-biz”>
 以下の手続が,全てオンラインで完結することができるようになっています。
 ① 会社設立の基本情報の作成
 ② 資本金の残高証明書の申請
 → システムから銀行に対し,証明書の発行を依頼します。
 ③ 法人登録免許税申告・納付
 ④ 法人設立登記申請
 → ①~④で作成した証明書類をまとめて申請します。
 ⑤ 国税庁への事業者登録申請
 → ⑤が承認されると,自動的に申請を送信します。
 ⑥ 社会保険手続
 → ⑥が承認されると,自動的に厚生年金,健康保険,雇用保険,労災保険の届出情報が送信され,4大社会保険連携センターのページに移動し,届出が実施されます。

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス
 ① ワンストップサービス提供の背景
 前述のとおり,我が国の法人設立手続については,法人設立登記手続の後,税・社会保障等の届出を別途行う必要があるなど手続数が多いことから世界銀行のビジネス環境ランキングにおいて,低評価を受けています。また,我が国の法人設立手続に関する4つのオンライン申請システムは,その使い勝手の悪さから,起業者の支持を得るに至っておりません。
 そこで,我が国経済の再生に向けて,経済財政諮問会議との連携の下,必要な経済対策の実施や成長戦略の実現のための司令塔である日本経済再生本部で,起業者が法人を設立するための必要な手続が一括して完了できるようなワンストップサービスの提供が検討されるに至りました(法人設立手続に関するワンストップサービス)。
 ② ワンストップサービス提供にあたる基本的な考え方
 法人設立手続に関するワンストップサービス実現に向けた検討において,「利用者中心の行政サービス」「行政サービスの100%デジタル化」という観点を実現することが重要であるとされています。端的には,利用者にとって,行政サービスが,「すぐ使えて」,「簡単で」,「便利」であり,また,行政のあらゆるサービスが最初から最後までデジタル(=オンライン)で完結されることを目指すものとされています。
 ③ マイナポータルとは?
 「マイナポータル」とは,政府が運営するオンラインサービスであり,このサービスを通じ,行政機関からのお知らせ確認や,電子申請手続の全国横断的な検索・比較・申請など,様々な行政サービスの利用が可能です。既に提供されている「ぴったりサービス(マイナポータルのサービス検索・電子申請機能)」では,多くの自治体に対し,同サービスを通じた電子申請を行うことができるようになっています。このサービスでは,マイナンバーカードに搭載されている公的個人認証サービス(※)によって本人確認を行います。そして,法人設立のオンライン・ワンストップサービスにおいても,このマイナポータルの基盤の活用が予定されています。
 ※ 「公的個人認証サービス」(総務省HPより抜粋)
 「公的個人認証サービス」とは,オンラインで(=インターネットを通じて)申請や届出といった行政手続などやウェブサイトにログインを行う際に,他人による「なりすまし」やデータの改ざんを防ぐために用いられる本人確認の手段です。「電子証明書」と呼ばれるデータを外部から読み取られるおそれのないマイナンバーカード等のICカードに記録することで利用が可能となります。「電子証明書」をパソコンで実際に利用する場合には,ICカードリーダライタ(ICカード読み取り機)が必要になります。なお,スマートフォンをカードリーダとして利用できるよう,現在検討中のようです。
 ④ マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービスの実施時期等
 日本経済再生本部では,法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会において7回の会議を経て,起業者の設立手続の負担を軽減するために,現在4つある法人設立に関するオンライン申請システムをマイナポータルの基盤を活用することによって統合し,起業者が一度手続(必要事項の入力・必要書類の提出・署名付与等)をすれば,法人設立に関する全手続をオンライン・ワンストップで完了できるようなサービスの実現を目指すこととされました。マイナポータルの活用によって,法務局,税務署,都道府県税事務所などの各行政機関は,必要情報を共有することができるようになりますので,これまでのように,起業者に関する情報を各行政機関がその手続ごとに起業者に求めることはなくなります。
 そして,関係省庁(内閣官房(日本経済再生総合事務局,番号制度推進室),総務省,法務省,国税庁,厚生労働省)で連携しながら技術的検討を進め,必要な制度改正を実施する等サービス提供に向けた準備を進め,まず平成31年度中に登記後手続のワンストップサービスを開始し,平成32年度中には,登記手続を含む法人設立に関する全ての手続のオンライン・ワンストップ化を実現することが予定されています。
 次回は,平成29年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」における法人設立のオンライン・ワンストップ化について,主に司法書士の業務に関連する部分を中心に述べて参りたいと思います。