【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 東京では桜が満開となりました。気温の高い日や風の強い日などあり,残念ながら,今年の桜の見頃はそう長くないようです。桜の花びらが散る様を目にすると,なんとなく寂しい気持ちになりますが,よく見ると桜の枝には色鮮やかな若葉が育ちつつあります。本試験まで3か月余りとなりましたが,桜のように,新たな気持ちで残りの日数を有効に使い,合格へ向かって前進しましょう。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。なお,事柄の性質上,聞き慣れない専門用語や難解な用語が出てきますが,用語の定義まで覚える必要はありません(読み飛ばしてください)。ざっとお読みいただければ幸いです。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(前々回

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(前々回

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(前回

(4) 我が国の法人設立手続の概要(前回

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(前回

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(前回

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性
 平成29年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」においては,法人設立のオンライン・ワンストップ化については下記のとおりとされました。

<「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)抜粋>
 世界最高水準の起業環境を目指して,法人設立に関して,利用者が全手続きをオンライン・ワンストップで処理できるようにするために,以下の事項に関する具体策と実現に向けた工程について今年度末までに成案を得る。
ⅰ) オンラインによる法人設立登記の24時間以内の処理の実現及び世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化
ⅱ) 法人設立における印鑑届出の義務の廃止
ⅲ) 電子定款に関する株式会社の原始定款の認証の在り方を含めた合理化
ⅳ) 法人設立手続のオンライン化とマイナポータルを活用したワンストップサービスの提供

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)
① 議事次第
 (7)のⅰ),ⅱ)およびⅳ)の事項については,平成30年2月23日開催の日本経済再生本部における法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)において,議論されました。その議事次第は次のとおりです。
1 開会
2 マイナポータルを活用したワンストップサービス
3 法人設立における印鑑届出の義務の廃止
4 登記の24時間以内の処理の実現及び世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化
5 閉会
② マイナポータルを活用したワンストップサービス
 前回の(6)マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービスをご参照ください。
③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止
ⅰ 印鑑届出の制度の現状
 登記の申請書に押印すべき者は,あらかじめ(登記申請と同時に),その印鑑(印鑑届出書,商業登記規則9条)を登記所に提出しなければなりません(印鑑届出の制度,商業登記法20条1項前段)。これは,登記の申請書(または代理人による申請の場合,委任状)に押印された印鑑と(商業登記法17条2項),登記所に提出されている印鑑とを照合することによって,申請された登記が,登記を申請する権限のある者によってなされたものか,登記の申請書上の申請人と実際に申請を行うものの同一性を確認し,真実の登記がなされることを制度的に保証するために,採用されている制度です。現行法下では,この規定があるがために,起業者が会社の設立登記を申請する際には,会社代表者の印鑑を印鑑届書という書面に,登記所に提出する印鑑を押印して,登記所に提出しなければなりません。
ⅱ 完全オンライン化への障害
 皆様がすでにご存知のとおり,会社の登記は,書面のほか,法務省オンライン申請システムを利用してオンラインによる申請が可能です(電子情報処理組織による登記の申請等,商業登記規則101条以下)。そして,平成28年度は,約52%の会社の登記がオンラインによって申請されています。
 しかし,印鑑届書は,書面による提出しか認められておらず,オンラインによる提出ができません。そのため,オンライン申請をする場合であっても,印鑑届出書を登記所に持参または郵送により提出しなければなりません。印鑑届書をPDFデータに変換すると画質が悪くなり,印影の照合が困難になるおそれがあることとデータ画像は自由に拡大・縮小でき,印影の正確な大きさを担保できないおそれがあるからです。これが,会社の登記の完全オンライン化への障害となっており,会社の設立登記の完全オンライン化を実現するには,印鑑届出制度の在り方を見直すことが不可欠です。
ⅲ 印鑑届出制度の在り方の見直し
 会社の設立登記の完全オンライン化を実現するには,今後,商業登記電子証明書(注1)を利用する場合には,会社代表者の印鑑の届出を任意とする選択制(注2)へと見直し(印鑑届出義務の廃止),とあわせて商業登記電子証明書の使い勝手や利用コスト(利用に必要な事務処理や取得費用等)を見直し,商業登記電子証明書を初めて使う者を含め,誰にとっても更に利用しやすい電子証明書にする取り組みがなされる予定です。
 商業登記法は,印鑑の届出の制度を前提に制定されていることから,印鑑届出義務を廃止するためには,印鑑の届出の制度を前提とした商業登記法の規定を改正した上,印鑑を商業登記電子証明書に置き換えた場合の運用体制の抜本的な見直しが必要となります(法令の見直し)。また,登記情報システム,オンライン申請システムおよび電子認証システムも,同様の前提にたって実施されているため,商業登記法および運用体制の見直しや上記システムを改修する必要があります(関係システムの改修)。
 印鑑の届出を任意とする選択制へと法制度の改正やシステムの改修後は,会社代表者の印鑑を届け出ない者は印鑑証明書の代替として商業登記電子証明書を使用することとなるので,会社の設立登記の完全オンライン化が,法制度やシステム上,実現可能となります。完全オンライン化によって,起業者(申請人)が登記所に赴くことなく,会社の迅速な設立が可能となります。
 次回は,「登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化」について説明します。

(注1)「商業登記電子証明書」とは?
 登記所が法人の代表者に対して発行する電子証明書のことをいいます。登記所が管理する登記情報に基づいて登記官が行う証明であり,登記事項の変更もリアルタイムに反映されたものであって,会社・法人等の代表者の「本人性」,「法人格の存在」,「代表権限の存在」を認証する唯一の公的制度です(商業登記に基づく電子認証制度)。この電子認証を利用することにより,法人が電子取引や電子申請を行う際に,その代表者が電子署名を行うことができ,取引や申請の相手方は,法人の商号・本店や代表者の氏名を,パソコン上で直ちに確認することができるようになります。商業登記電子証明書は,国・地方公共団体等に対する多くのオンラインによる申請・届出の手続に利用可能のほか,企業間の電子契約等でも利用が可能です。ただし,発行する電子証明書の証明期間(有効期間)に応じて,交付手数料を納付する必要があります(3か月で2,500円程度)。
現在の登記所が発行する電子証明書(ファイル形式の電子証明書)の取得の流れは,次のとおりです。
① 電子証明書を取得するための専用ソフトウェアのインストール
② 電子証明書発行申請に必要なファイルの作成
③ 会社の本店の所在地を管轄している登記所に対する電子証明書の発行申請
④ 電子証明書の取得
このうち,③は,電子証明書発行申請書,CD,DVDまたはUSBメモリ(証明書発行申請ファイル(注3)が格納されたもの),印鑑カードを登記所に持参する方法または郵送する方法に限定されていますので,オンラインによる発行請求の仕組みを創設することにより,登記所に赴くことを不要にすることが併せて検討されています。なお,④は,現在でもインターネット経由で,電子認証登記所(注4)にアクセスし,電子証明書をダウンロードすることにより,オンラインによる取得が可能です。
(注2)「印鑑の届出を任意とする選択制」とは?
 起業者(申請人)の判断により,印鑑の届出,または,商業登記電子証明書に関する届出のいずれかを選択することができることをいいます。会社成立後は,印鑑の届出をした者は印鑑証明書を,商業登記電子証明書に関する届出をしたものは,商業登記電子証明書によって,会社代表者の本人性の確認を行い,各種取引や登記申請を行うことになります。
(注3)「証明書発行申請ファイル」とは?
 「証明書発行申請ファイル」とは,申請人(起業者)の作成した電子証明書発行申請に必要なファイルのことをいいます。具体的には,会社情報,代表者情報および公開鍵の情報が記録されたファイルです。申請人(起業者)は,電子証明書の発行申請に当たっては,電子証明書の発行申請をするために必要なファイルを作成するため,専用ソフトウェア(法務省が無償で提供している「商業登記電子認証ソフト」等)を入手し,パソコンにインストールを行い,一定の仕様に準拠した「鍵ペアファイル」(電子証明書を作成するために必要な秘密鍵と公開鍵のペアのファイル)と「証明書発行申請ファイル」を作成しなければなりません。そして,作成した「証明書発行申請ファイル」を,CD,DVDまたはUSBメモリにデータとして格納し,会社・法人の本店の所在地を管轄する登記所(管轄登記所)に提出することになります。
(注4)「電子認証登記所」とは?
 「電子認証登記所」とは,電子証明書の発行やその有効性についての証明を行う登記所で,登記の管轄にかかわらず,全国の各登記所の管轄に属する法人等を対象として,この証明事務を行う登記所です。これに対して,電子証明書の発行等の申請の受付は,法人等の登記を管轄する全国の各登記所(管轄登記所)が行います。