【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 東京では,気温が上がり,コートやマフラーもいらない季節となりました。いよいよ春到来です。今年は,桜(ソメイヨシノ)が咲くのが早かったため,すでに桜の花は散りつつあります。桜の花が散った後の私のささやかな楽しみは,八重桜の開花です。通勤途中の公園の八重桜は,まだ,つぼみですが,ソメイヨシノよりも花が大きく見応えがあります。早く咲かないかな,と八重桜の木を眺めながら毎日通勤しています。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。なお,事柄の性質上,聞き慣れない専門用語や難解な用語が出てきますが,用語の定義まで覚える必要はありません(読み飛ばしてください)。ざっとお読みいただき,司法書士の主要業務である会社設立登記について,このような動きがあることをなんとなく感じていただければ十分です。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(最近の司法書士業務をめぐる動き①

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(同前

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(最近の司法書士業務をめぐる動き②

(4) 我が国の法人設立手続の概要(同前

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(同前

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(同前

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性(最近の司法書士業務をめぐる動き③

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)(同前

① 議事次第(同前

② マイナポータルを活用したワンストップサービス(同前

③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止(同前

④ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化
ⅰ 登記申請の処理の現状
(ア) 登記手続の流れ
 現在,設立登記の申請書(オンライン申請を含む)が登記所に提出(送信)された場合の登記手続の流れは,次のとおりです。これは,登記所内部での事務処理の流れであり,「→」は主な作業です。
・受付
・調査(審査)
→ 関係法令に基づく登記申請書およびその添付書面の実体的・手続的適法性を登記所の調査官が審査します。
・記入(登記簿への記録)
→ 登記簿へ「登記すべき事項」を記録する。登記申請書(紙媒体)による申請の場合は,手入力で登記事項を記録し,オンライン申請の場合は,申請人から送信されたデータを取り込んで記録します。
・校合(登記の実行)
(イ) 行政手続コスト計測結果
 平成29年10月2日に申請された設立登記についての6法務局における計測結果によると,株式会社の設立登記の申請件数260件のうち,補正(注)件数は43件で,補正率は,全体の16.5%,補正があった登記申請と補正がなかった登記申請を併せた登記所の作業時間4.7日でした。また,補正がなく登記が完了したものは217件であり,登記所の作業時間4.4日であり,補正があったものは43件,全体の16.5%,登記所の作業時間5.7日でした。
(注)「補正」とは?
 登記申請書およびその添付書面等の不備を訂正(添付書面の追完,差換えを含む)することをいいます。具体的には,登記申請書の誤記や記載不足,登録免許税の計算違い,添付書面の誤記・不足などがあります。登記申請の不備が補正することができるものである場合において,登記官が定めた相当の期間内に,申請人がこれを補正したときは,登記申請の却下を免れることができます(商業登記法24条柱書)。なお,補正は,登記申請書の調査(審査)の段階で発見されることがほとんどです。

ⅱ 迅速処理の阻害要因

(ア) 迅速処理の阻害要因としての補正の存在
 ⅰ(イ)の結果から,登記所における登記の迅速処理の阻害要因は,「補正」の存在であることが明らかになりました。また,補正事件は処理が長期化するだけではなく(補正ありの場合の登記所の作業時間は,補正なしの場合のそれと比べて+1.3日),補正のための申請人に対する連絡やその後の対応に時間を要し,全体の処理時間に悪影響を及ぼしていることがわかります。
(イ) 設立登記における補正事例
 東京法務局におけるサンプル調査(平成28年1月4日から15日)の結果,補正を要した設立登記申請は,本人申請で40%,資格者代理人で15.8%であり,その補正内容(全67件)は,主に,登記申請書や「登記すべき事項」の記載誤り(29件),添付書面の遺漏(8件)で,これらが補正全体の55%(37/67件)を占めていました。
(ウ) 主な補正の発生要因
 (イ)のデータから主な補正の発生要因には,次のものがあることがわかります。
・ 登記申請書や「登記すべき事項」の記載誤り
 「登記すべき事項」を登記情報システムで取り込むための入力のルール(項目名には鍵かっこ(「」)を付けて入力すること等,例「商号」甲野商事株式会社),機関設計に応じて必要となる「登記すべき事項」を申請人が把握していないこと,申請人の転記ミス(登記申請書の申請人の表示と「登記すべき事項」の齟齬)など。
・ 添付書面の遺漏
 機関設計によって必要となる添付書面や定款の定めの有無によって必要となる添付書面を申請人が把握していないことなど。
(エ) 設立登記の迅速処理のためには
 設立登記の迅速処理のためには,補正(特に(ウ)の2つの補正。以下,同じ)を減らすことおよびその解決策を立てることが不可欠です。
(オ) 補正を減らすための解決策
 補正を減らすための解決策には次のものが考えられています。

申請書情報の作成支援機能

 申請書情報には,申請人の表示(商号・本店,代表者の資格・氏名・住所)のほか,「登記すべき事項」を記録する必要がありますが,機関設計のシンプルな会社を対象として,「登記すべき事項」について,作成支援機能(ソフト)を開発することが予定されています(運用状況をみつつ,対象範囲の拡大を検討) 。
 具体的な作成支援機能とは,選択した会社類型に応じて,必須項目を自動的に設ける(自動作成する)とともに(下記赤字部分),申請人が同じ事項を重ねて入力する必要がないように,申請書情報に一旦入力された事項が登記すべき事項に自動的に転記されるようにするものです(下記青字部分)
<申請書情報のイメージ~本人申請の場合>

   株式会社設立登記申請書
1.商 号 株式会社法務商事
1.本 店 大阪府大阪市中央区谷町二丁目10番1号
1.登記の事由 平成○年○月○日発起設立の手続終了
1.登記すべき事項 別紙のとおり(または,別添CD-Rのとおり)
1.課税標準金額 金100万円
1.登録免許税 金15万円
1.添付書類
  定款                 1通
  発起人の同意書         2通
  設立時取締役の就任承諾書  1通
  印鑑証明書            1通
  払込みを証する書面       1通
上記のとおり,登記の申請をします。
 平成○年○月○日
  大阪府大阪市中央区谷町二丁目10番1号
  申請人 株式会社法務商事
 大阪府大阪市中央区谷町二丁目10番1号
  代表取締役 法務太郎
 ㊞
  連絡先の電話番号 066-123-4567
  大阪法務局 御中

↓ 青字部分は自動的に転記(赤字部分は自動作成)

<登記すべき事項(別紙等)のイメージ>
「商号」株式会社法務商事
「本店」大阪府大阪市中央区谷町二丁目10番1号
「公告をする方法」官報に掲載してする。
「目的」(略)
「発行可能株式総数」800株
「発行済株式の総数」200株
「役員に関する事項」
「資格」取締役
「氏名」法務太郎
「役員に関する事項」
「資格」代表取締役
「住所」大阪府大阪市中央区谷町二丁目10番1号
「氏名」法務太郎
(略)
 選択した会社類型に応じて,赤字部分のとおり登記の項目名を自動作成されますので,必須の登記すべき事項が遺漏する誤りを回避することができます。また,「商号」,「本店」,「代表取締役」については,青字部分のとおり,申請書情報に一旦入力された事項が登記すべき事項に自動的に転記されるので,転記ミス(申請書情報の申請人の表示と「登記すべき事項」の齟齬)を防止することができます。申請人の登記申請書情報の入力箇所が減り,入力の誤りによる補正の防止に加え,申請人の負担軽減や登記官の審査の省力化につながります。

添付書面情報の事前確認機能

 機関設計のシンプルな会社のオンラインによる設立登記の申請について,添付書面情報の遺漏がないかを申請前に確認できる機能を開発すると共に,設立登記申請をオンラインで行う場合に添付書面情報に添付すべき電子証明書について,案内用のホームページを作成することとされています

<添付書面情報の遺漏防止のための事前確認の開発イメージ>
【例】取締役会を設置しない(取締役1人の)株式会社の発起設立について,以下の項目をチェックした上で申請が行われるようにする。

□ 電子定款
□ 発起人の同意書(発起人の公的個人認証電子署名付)
※ 定款に以下の事項が定められていない場合に必要
① 発起人が割当てを受けるべき株式数及び払い込むべき金額
② 株式発行事項又は発行可能株式総数の内容
③ 資本金及び資本準備金 (①~③発起人全員の同意)
④ 本店所在場所
□ 設立時取締役の就任承諾書(公的個人認証電子署名付)
□ 払込みを証する書面(代表取締役の公的個人認証電子署名付)


 この「添付書面情報の事前確認機能」を導入することにより,添付書面情報の添付遺漏の大幅な減少(補正の減少)が期待できるとされています。また,申請人の負担軽減に加え,登記官の審査の省力化につながります。

ⅲ 次期システムの主な業務効率化(自動化)施策
 ⅱ(オ)の取組みに加え,法務省においては,平成30年度から実施予定の登記情報システムの更改において,以下のような業務効率化(自動化)施策の実施が予定されています(平成32年度中の稼動予定)。
・ 受付登録の自動化
 二次元バーコードを活用し,書面申請についてもオンライン申請と同様の自動処理を実現する。
・ 商号調査の効率化(自動化)
 同一商号・同一本店について,システム上で自動検索を行う。
・ 申請情報と登記情報の自動突合による調査工程の簡略化
 申請情報と既存の登記情報等を自動で突合し,突合結果を画面等で確認可能とする。
・ 申請情報を用いた登記事項の自動作成機能
 オンライン申請について,申請書情報を用いて必要な登記事項等を作成する(二次元バーコードが記載された書面申請について同様の対応をする)。

ⅳ 法務省の取組み(まとめ)
 オンラインによる法人設立登記の24時間以内の処理の実現及び世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化の実現に向けて,法務省は以下のような取組みを実施するとしています(赤字が改善点)
① 受付前
• 「登記すべき事項」の作成支援機能
• 添付書面情報の事前確認機能
• 受付登録の自動化等

② 受付
③ 調査(審査)
• 商号調査の効率化
• 申請情報と登記情報の自動突合による調査工程の簡略化

④ 記入(登記簿への記録)
• 申請情報を用いた登記事項の自動作成機能
⑤ 校合(登記の実行)

 申請書情報の作成支援機能と添付書面情報の事前確認機能の開発・導入と次期登記情報システムによる業務の効率化による補正が減少することにより,補正のための連絡やその対応時間が減少し,ひいては法務局における全体の設立登記の処理時間の短縮が期待されています。
 なお,法務省では,③の調査時において,「添付書面情報の内容の適法性審査」や「添付書面情報相互間の整合性審査」等につき,今後の技術の進展や費用対効果を踏まえつつ,登記官の審査の省力化の可否及びその範囲を見極めていくことを今後の検討課題としています。

 次回は,「定款認証の合理化について」(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第2回,第4回,第5回および第6回))を述べて参ります。