【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 急に夏日の気温になったかと思えば,翌日は,10℃も最高気温が低下するなど,極めて寒暖の激しい日々が続いております。このような気候では,衣服の選択も悩ましく,体調管理が難しいです。受験生の皆様も体調を崩さないようお気をつけくださいね。
 待ちに待った八重桜が開花しました。鮮やかな桜色の大輪の花は,人の心を和ませるように思います。また,気がつけば山吹の花も咲き,季節は少しずつ動いていることが実感されます。紫陽花も,葉の緑が鮮やかになってきました。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。
 なお,テーマの性質上,聞き慣れない専門用語や難解な用語が出てきますが,用語の定義まで覚える必要はありません(読み飛ばしてください)。ざっとお読みいただき,司法書士の主要業務である会社設立登記について,このような動きがあることをなんとなく感じていただければ十分です。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(最近の司法書士業務をめぐる動き①

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(同前

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(最近の司法書士業務をめぐる動き②

(4) 我が国の法人設立手続の概要(同前

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(同前

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(同前

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性(最近の司法書士業務をめぐる動き③

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)(同前

① 議事次第(同前

② マイナポータルを活用したワンストップサービス(同前

③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止(同前

④ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化(最近の司法書士業務をめぐる動き④

⑤ 定款認証の合理化について(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第2回,第4回,第5回および第6回))


ⅰ 定款の意義と有効要件
 定款とは,実質的には会社の目的・内部組織・運営活動に関する根本規則のことであり,形式的にはこれを記載し,または記録した書面または電磁的記録そのものをいいます。
株式会社を設立するには,発起人は,定款を作成し,これに署名または記名押印(電子署名を含む)をしなければなりません(会社法26条1項・2項)。
そして,定款は,設立しようとする会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局所属の公証人の認証を受けなければ,その効力を生じません(会社法30条1項,公証人法62条ノ2)。
なお,持分会社(合名会社,合資会社,合同会社)も,定款の作成は必要ですが(会社法575条1項・2項),作成した定款には公証人の認証を要しません。

ⅱ 公証人による認証制度の意義~真正性と適法性のチェック
 公証人による認証制度は,私文書の成立・内容等による紛争予防のために,公権力により文書の証拠力を高め,内容を明確にするものといわれています。
現行制度では,発起人は,定款の内容について公証人の事前確認を受けるとともに,公証人の面前で定款にある自身の記名押印・署名を自認することが求められ,これらを基に,公証人が,定款の真正性および適法性(注)の観点から確認し,これを公に証明することで,原始定款をめぐる紛争や定款に違反する行為などを予防しています。
また,公証人の事前確認には,定款の記載内容が発起人の真意に沿っているか,その内容を発起人が理解していることを確認することまでも含まれているものと解釈されています。
 なお,定款中登記事項に関する内容は,登記所における登記申請処理の過程においても確認されており,定款の真正性と適法性については,二重のチェック体制が整っているといえるでしょう。  また,会社成立後の定款変更には,公証人の認証は不要です。
会社成立後の定款変更は,株主総会(募集設立における創立総会も含む)の決議事項とされており(会社法466条・66条),設立中の会社とは異なり,監督・監視の機関・制度が整備されているためです。 (注)定款の真正性と定款の適法性
 定款の真正性とは,定款が発起人の意思に基づき真正に作成されたものであるということであり,また,定款の適法性とは,定款を会社法等の法令に照らし,記載事項に違法・無効な点がないということです。

ⅲ 定款の認証における公証人による面前確認~定款の真正性の確認
 私文書について民事訴訟で証拠力を持たせるには,「真正な成立」の証明が必要ですが(民事訴訟法228条1項),私文書に本人またはその代理人の署名または押印があるとき,真正に成立したものと推定されます(推定効,同条4項)。
また,同様に電子文書の場合も,本人による電子署名が行われていれば真正に成立したものと推定されます(電子署名及び認証業務に関する法律3条)。
 現行法では,定款については,これらの推定効を上回る水準で,本人の意思に基づいてなされたことの証明が求められています。
書面の定款につき公証人の認証を受けるには,定款の末尾に押印する発起人の印鑑は,その住所地の市区町村長に登録した印鑑(実印)でならなければならず,かつ,その印鑑につき市町村長(特別区の区長を含むものとし,地方自治法252条の19第1項の指定都市にあっては,市長又は区長若しくは総合区長とする。以下同じ)の作成した証明書を添付しなければならない上,公証人の面前で定款にある発起人自身の記名押印・署名を自認することが求められます(公証人法62条の3第2項)。
電子定款の場合も,発起人が作成した電子定款に電子署名・電子証明書(注)を付して,これをオンライン申請システムによって送信するとともに,電子定款のデータの受領に際しては,書面の定款と同様に公証役場に出頭し,公証人による面前確認が求められています(同法62条の6第1項)。
つまり,いずれの定款についても,定款の真正な成立を公証人が発起人と対面して確認しているわけです。
(注)電子署名・電子証明書とは?
 電子署名とは電子証明書の利用方法の一つで,アナログ的発想でいえば市区町村長に登録した印鑑(実印)に相当します。一般的に,電子署名をする場合は,電子署名と電子証明書がセットになります。つまり,電子署名は「実印」,電子証明書は市町村長の作成した「印鑑証明書」と同じ役割を果たすことになります。
 電子署名では,公開鍵暗号方式という暗号方式が採用されています。この方式では,「秘密鍵」と「公開鍵」がペアになっており,片方の鍵(「秘密鍵」)で暗号化された情報は,もう一方の鍵(「公開鍵」)でしか解読(暗号化に対する概念としてこれを「復号化」といいます)できない性質をもっています。
 発信者は,相手に送信する情報を秘密鍵で暗号化し,その情報に公開鍵と電子証明書を添付して送信します。
受信者側は,受信した情報が公開鍵に対応する秘密鍵で署名されたか(電子署名が本人のものか),電子証明書が有効であるかどうかを認証局(たとえば,市区町村など)に照会します。
そして,電子証明書の有効性が証明され,さらに,公開鍵を使って受信した情報を解読(復号化)できれば,その情報は,電子署名の本人からの送信された真正な情報であるということが確認できることになります。
アナログ的発想でいえば,秘密鍵は「実印」,公開鍵は「印影」,電子証明書が「印鑑証明書」に相当します。
実印は発信者(書類作成者)側だけが持っており,それが本物かどうかを確認できるものとして公開鍵(印影)と電子証明書(印鑑証明書)が存在することになります。

ⅳ 電子定款に電子署名を付した場合の真正性
 発起人が電子定款に電子署名をするには,公的個人認証サービス(注)を利用する必要があります。
公的個人認証サービス上の利用による電子署名・電子証明書は,以下の点で,印鑑・印鑑証明書に優れているといわれています。
(ア) 印鑑より偽造しにくい
 個人番号カードに記録された電子証明書と秘密鍵の2つがないと電子定款を暗号化できません。
この秘密鍵は個人番号カード上のICチップに記録され,第三者が外に取り出して使うのは不可能です。
これに対して,印鑑は技術の進展で偽造が容易になっています。
(イ) 印鑑より盗用しにくい  電子証明書の利用には,本人の個人番号カードを所持した上で,本人の設定した暗証番号を入力する必要あるため,他人が盗用するためにはこの2つを所持する必要あります。
これに対して,印鑑の場合は印鑑さえ所持してしまえば盗用が可能です。
(ウ) 印鑑より最新の情報に紐づいている  電子証明書は住民基本台帳に基づいて発行されており,住所変更等が生じた場合はその手続と併せて自動的に失効されます。
 このように,電子署名・電子証明書は,印鑑・印鑑証明書よりもそれが本人のものであるという点については信頼性が高いことから,「偽造」や「なりすまし」の可能性が低く,電子申請は書面申請よりも一段高い真正性の実質的な確保が可能と考えらます。
そこで,電子署名を付された電子定款については,公証人による面前での確認を不要としてはどうかという意見が出ています(日本経済再生本部事務局)。
これに対し,たとえ定款に電子署名が付されている場合であっても,他人が個人番号カードや暗証番号を盗用するリスクは存在し,公証人による面前での確認により,電子署名では確実にできない部分を確実にしていることを理由に,公証人による面前での確認を不要とすることはできないという意見もあります(法務省)。
 もっとも,法務省は,法人設立手続オンライン・ワンストップ化の円滑な実施のために,現在の公証人の面前における確認行為を,IT化・デジタル化により代替,具体的には,電子定款の面前確認は,スマートフォン等による音声および画像を双方向でやり取りする技術を利用して行い,公証役場への出頭,すなわち,公証人による面前での確認を不要とするという案を提案しています。
(注)「公的個人認証サービス」とは?
 公的個人認証サービスとは,オンラインで(=インターネットを通じて)申請や届出といった行政手続等どやインターネットサイトにログインを行う際に,用いられる本人確認の手段です。
公的個人認証サービスは「なりすまし」や「改ざん」を防ぎ,オンラインで安全・確実な行政手続等を行うための機能を電子証明書(公開鍵暗号方式。以下,同じ)という形で各市区町村から無料で提供されます。
 この電子証明書は,市区町村窓口において取得でき,個人番号カード(番号カード)内の(ICチップ)に記録されます。
電子証明書には,利用者証明用証明書と署名用電子証明書の2種類がありますが,これらのうち,電子申請・申告には,署名用電子証明書が必要です。
署名用電子証明書は,作成・送信した電子文書が,利用者が作成した真性なものであり,利用者が送信したものであることを証明するものです。
署名用電子証明書には,署名用秘密鍵が格納されており,カードの中の格納された領域から外に出ることがありませんし,秘密鍵を無理に読みだそうとすると,ICチップが壊れる仕組みになっています。
 この公的個人認証サービスを利用することによって,自宅や職場などに居ながらにしてパソコン等により様々な行政手続等を行うことができます。
 次回は,定款の適法性の確認について,「モデル定款とは?」「モデル定款を活用した電子定款の公証人による認証の不要化の可否」などを述べる予定です。