【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き⑥


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 ようやく春らしい陽気になってきました。日中は,暑いくらいの日がありますが,そういう日であっても朝夕はまだまだ冷え込む日があります。出かけるときは,上から羽織れるものを持っていくのが無難です。くれぐれも風邪などお召しになりませんように。
 また,本試験まで3か月を切りました。いよいよ,ラストスパートをかける時期ですが,これまで学習してきたことの復習を中心とし,理解を確かなものにすることを心がけてください(10のあやふやな知識より,1の確実な知識が勝ります)。これから,新しい知識を取得しようとすることは極力避けることが賢明です。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(最近の司法書士業務をめぐる動き①

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(同前

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(最近の司法書士業務をめぐる動き②

(4) 我が国の法人設立手続の概要(同前

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(同前

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(同前

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性(最近の司法書士業務をめぐる動き③

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)(同前

① 議事次第(同前

② マイナポータルを活用したワンストップサービス(同前

③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止(同前

④ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化(最近の司法書士業務をめぐる動き④

⑤ 定款認証の合理化について(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第2回,第4回,第5回および第6回))(最近の司法書士業務をめぐる動き⑤


ⅰ 定款の意義と有効要件(同前
ⅱ 公証人による認証制度の意義~真正性と適法性のチェック(同前
ⅲ 定款の認証における公証人による面前確認~定款の真正性の確認(同前
ⅳ 定款の認証における公証人による定款の内容の審査~定款の適法性の確認
 公証人による認証制度は,定款の真正性に加えて,定款の適法性を担保する意義を有しています。公証人は,定款認証にあたって,その記載内容に会社法その他の法律に照らして違法,無効な点がないか等につき確認しています(定款の適法性の確認)。また,法制度上,会社法制のみならず,例えば定款における事業目的が各種の業法に違反しないかなどの確認が求められています(公証人法26条)。
これらの例は,次のとおりです。

<会社法関係>
・ 絶対的記載事項(記載が無ければ定款の効力が認められない)が記載されているか。
・ 相対的記載事項(定款に記載が無いとその効力が認められない)、例えば、現物出資を予定している場合,現物出資に関する記載があるか。
・ 取締役会設置会社と記載している場合,監査役が設置されているか(機関設計の矛盾の有無)。など。
<その他法律関係>
・ 事業目的の記載内容が○○業等の独占業務に抵触していないか。
・ 事業目的の記載内容が新たに許可制の導入された○○業について,導入前の他の事例をそのまま参考転用していないか。など。

ⅴ 「モデル定款」とは?
 「モデル定款」は,適法性が担保されている定款であり,公証人の定款認証を不要とする特別の法的地位を有する定款のことをいいます。モデル定款を採用すれば,パソコン上でのマウスをクリックする等の作業のみにより,公証人の認証なしに,定款を作成することができ,これをオンラインによる設立登記の申請書情報の添付書面情報として提供することができるというものです。適法性を担保するため,自由記載とされている部分を除き,記載内容は固定化されています。また,モデル定款の活用にあたっては,固定化されている記載内容の発起人による改変等を防止するための方策(公的なシステム上で作成し,当該システムを通じて提出する等)を講じることが必要であると考えられています。
 なお,似て非なるものとして,「定款のひな型」があります。しかし,「定款のひな型」はあくまでも定款の記載例にすぎず,「定款のひな型」に基づいて定款を作成しても,何らの特別な法的効果はありません。

<モデル定款の例~非公開会社・取締役会非設置会社>

入力:商号定款
第1章 総則
(商号)
第1条 当会社は,(転記)商号と称する。
(目的)
第2条 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
1.選択肢 or 入力:目的
○.前各号に附帯関連する一切の事業
(本店の所在地)
第3条 当会社は,本店を選択肢:本店所在地(○県○市○区/東京都○○区)※最少行政区画)に置く。
(公告の方法)
第4条 当会社の公告は,選択肢:公告方法
-プルダウンメニュー
選択肢1:官報に掲載してする
選択肢2:電子公告とする
選択肢3:○○(都道府県名)において発行する○○(新聞名)に掲載する方法とする
選択肢4:…(全国紙・地方紙をリストアップ)

第2章 株式
(発行可能株式総数)
第5条 当会社の発行可能株式総数は,入力:株式総数株とする。
(株券の選択肢:発行 or 不発行(※本条記載内容と連動)
第6条 当会社の株式については,選択肢:株式発行の有無
-プルダウンメニュー
選択肢1:株券を発行しない
選択肢2:株券を発行する

(株式の譲渡制限)
第7条 当会社の株式を譲渡により取得するには,株主総会の承認を受けなければならない。
(中略)
第4章 取締役及び代表取締役
(取締役の員数)
第17条 当会社の取締役は,1名以上とする。
(選任及び解任の方法)
第18条 当会社の取締役の選任及び解任は,株主総会において,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の選択肢:株主の割合をもって行う。
-プルダウンメニュー
選択肢1:過半数
選択肢2:3分の2以上

2 取締役の選任決議については,累積投票によらないものとする。 (任期)
第19条 取締役の任期は,選任後選択肢:任期以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
-プルダウンメニュー
選択肢1:2年
選択肢2:3年

選択肢9:10年

2 補欠または増員により選任した取締役の任期は,その選任時に在任する取締役の任期
の満了すべき時までとする。
(代表取締役)
第20条 当会社の取締役が2名以上ある場合は,そのうち1名を代表取締役とし,選択肢:代表取締役の選任方法 によってこれを定める。
-プルダウンメニュー
選択肢1:株主総会の決議
選択肢2:取締役の互選

2 代表取締役は,社長とし,当会社を代表する。
3 当会社の業務執行は,代表取締役社長が統轄する。
第5章 計算
(事業年度)
第22条 当会社の事業年度は,毎年選択肢:事業年度の年1期とする。
-プルダウンメニュー
選択肢1:1月1日から12月31日まで
選択肢2:2月1日から翌年1月31日まで
選択肢3:3月1日から翌年2月末日まで

選択肢12:12月1日から翌年11月30日まで

(剰余金の配当等)
第23条 当会社は,株主総会の決議によって,毎年転記:第22条で選択した事業年度の末日を設定 の最終の株主名簿に記載又は記録ある株主,登録株式質権者(以下「株主等」という。)に対して剰余金の配当を行う。
2 前項のほか,基準日を定めて剰余金の配当をすることができる。
(中略)
第6章 附 則
(設立に際して出資される財産の価額)
第25条 当会社の設立に際して出資される財産の価額は,金入力:出資金額万円とする。
(最初の事業年度)
第26条 当会社の最初の事業年度は,会社成立の日から転記※:最初の事業年度(平成○年○月○日)とする。
(発起人)
第27条 当会社の発起人の氏名及び住所,発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数及び設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額は次のとおりである。
入力:発起人住所(○県○市○町○丁目○番○号) 入力:発起人名
(転記)株式発行数
払い込む金銭の額 金入力:払込金額 万円
(取締役)
第28条 当会社の設立時取締役は次のとおりである。
入力:取締役住所(○県○市○町○丁目○番○号) 入力:取締役名
(代表取締役)
第29条 当会社の設立時代表取締役は次のとおりである。
入力:代表取締役住所(○県○市○町○丁目○番○号) 入力:代表取締役名
(定款に定めのない事項)
第30条 本定款に定めのない事項は,すべて会社法その他の法令の定めるところによる。

以上, (転記)商号 の設立のため,発起人 (転記)発起人名 は,電磁的記録である本定款を作成し,電子署名する。
入力:定款作成日(○年○月○日)
発起人 (転記)発起人名

※ 「転記」は,以前1回入力した情報がそのままその場所に転記されるという意味です。

ⅵ モデル定款を活用した設立時手続のファストトラックの創設~海外の例
海外ではモデル定款を採用することで内容の適法性を担保し,設立時手続のファストトラック(注)を設けている国があります。
<海外の例~イギリス(Doing Businessランキング:16位,日本は31位)>
イギリスの会社法には,日本の会社法ほど機関設計に関する規定がなく,定款で定めるべきことが多く,伝統的に設立手続にモデル定款が活用されてきました(公証人による定款認証は求められていません)。
日本の定款にあたる「附属定款」は,イギリスの会社類型(株式会社・保証有限会社・無限責任会社)に応じて1種類ずつ,主務大臣によりモデル定款が定められています。そして,モデル定款を全て採用する私会社のみ,オンライン申請による設立が可能であり,かつ,オンライン申請した場合,申請後24時間以内に登記が完了することとされています(オンライン申請率は98.1%)。
これに対し,モデル定款の一部または全部を採用しない場合,書面で申請し,会社登記所の審査を受ける必要があり,この場合には登記申請から登記完了までに8日~10日が必要とされています。
なお,発起人の真正性の確認については,登記申請にあたっては設立意思の確認として,発起人毎にそれに同意するチェックボックスにチェックを入れるのみですが,設立に不備があり,債権者や契約相手に被害が生じたときに,発起人の責任を追及できるように発起人を確保しています。
(注)「ファストトラック」とは?
目的(本稿の場合,会社の設立)を迅速に達成するために,審査等を優先的に実施する,または,各種の手続きを簡素化することをいいます。我が国でも,株式会社および合同会社の設立登記の他,新設合併,新設分割および株式移転によるものをその対象として,すでに平成30年3月12日からファストトラックが実施されています。

ⅶ モデル定款を活用した電子定款の公証人による認証の不要化の可否
起業者にとって,「時は金なり」であり,1日でも早く事業を立ち上げ軌道に乗せないと,事業の成否に関わります。つまり,起業家には「一刻も早く法人を設立したい」という切実なニーズが存在します。
起業時のニーズに基づいた形態によって,モデル定款を作成することにより,これに従った定款は,会社法の適法性が担保されている蓋然性が高いといえます。また,モデル定款中の自由記載(自由選択)とされている事業目的についても,記載内容に関する典型例を作成し,注意喚起を実施することにより,これに従って作成された定款は,適法性が担保されている蓋然性が高いといえます。
このように,会社の設立に際し,適法性が担保されているモデル定款を採用する場合,公証人による定款の確認を不要としてはどうか(定款は設立登記の申請時の登記所による審査・確認のみ),という意見が出されています(日本経済再生本部事務局法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会事務局)。
これに対し,「定款自治の範囲が拡大された会社法の下において,事後的に紛争が生じにくく,かつ,適法性が担保される蓋然性が高くなるようなシンプルなモデル定款を用意すること自体,現実的ではない。仮にモデル定款を作成できたとしても,複数のモデル定款が必要となり,モデル定款への適合性を審査する機関がないと,設立無効の訴え等の紛争が生じるリスクが高まり」,したがって,「モデル定款によっても,発起人の意思に沿って適法に記載されるように助言するという,公証人の相談・助言機能は代替できない」という反対意見もあります(法務省)。
次回は,日本経済再生本部事務局法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会のまとめである,「法人設立手続オンライン・ワンストップ化に向けて」(案)を述べる予定です。