【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き⑦


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 ここのところ,春を通り越して,初夏を思わせる陽気となっています。冷房が効いている通勤電車に乗り合わせることさえあります。
 本試験の準備は進んでいますか?この時期に至っては,復習中心の学習をおすすめしますが,過去問や答練の復習において,重要なことがあります。それは,正解率が高い(=みんなが正解できる)問題で,正解できなかったものを中心に復習するということです。正解率の低い難問・奇問は,正解できなくても,他の受験生と差がつきません。みんなが間違えるからです。これに対して,正解率の高い問題は,みんなが正解できるので,正解できないと他の受験生と差がついてしまいます。正解率の高い問題を確実に得点することが司法書士試験合格の鉄則です。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。今回と次回は,法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会第8回の審議中,司法書士の業務に密接に関連する部分を中心に,筆者の実務上の経験や実感を交えながら,これまでのまとめを述べて参ります。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(最近の司法書士業務をめぐる動き①

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(同前

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(最近の司法書士業務をめぐる動き②

(4) 我が国の法人設立手続の概要(同前

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(同前

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(同前

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性(最近の司法書士業務をめぐる動き③

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)(同前

① 議事次第(同前

② マイナポータルを活用したワンストップサービス(同前

③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止(同前

④ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化(最近の司法書士業務をめぐる動き④

⑤ 定款認証の合理化について(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第2回,第4回,第5回および第6回))(最近の司法書士業務をめぐる動き⑤


ⅰ 定款の意義と有効要件(同前
ⅱ 公証人による認証制度の意義~真正性と適法性のチェック(同前
ⅲ 定款の認証における公証人による面前確認~定款の真正性の確認(同前
ⅳ 定款の認証における公証人による定款の内容の審査~定款の適法性の確認(最近の司法書士業務をめぐる動き⑥
ⅴ 「モデル定款」とは?(同前
ⅵ モデル定款を活用した設立時手続のファストトラックの創設~海外の例(同前
ⅶ モデル定款を活用した電子定款の公証人による認証の不要化の可否(同前

⑥ 法人設立手続のオンライン・ワンストップ化に向けて(案)(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会第8回)
ⅰ 電子定款に関する株式会社の原始定款の認証の在り方を含めた合理化
(ア) 現行制度とその役割
 株式会社の設立時(原始定款)については,公証人の面前における認証が必要とされています(会社法30条1項参照)。この規定は,書面の定款と電子定款のいずれについても適用がありますので,公証人に対し,オンライン申請により電子定款を送信しても,書面の定款の場合と同様に,発起人またはその代理人は公証人役場に出向き,公証人の面前で定款にある自身の電子署名を自認することが求められることになります(公証人の認証後,CD-Rなどの記録媒体に認証された電子定款を記録の上,受領することになります)。
 これは,公証人の面前で定款にある自身の電子署名(書面の場合には記名押印)を自認することによって,公証人が,定款の真正性および適法性の観点から確認し,これを公に証明することで,原始定款をめぐる紛争や定款に違反する行為などを予防するためであると説明されています。
(イ) 課題や問題点
 公証役場に出頭して面前確認を行うことについては,役場に出頭する手間や,役場に出頭する日時調整にかかる手間,形式修正にかかる指摘を受けることがあると言った点から,起業者の負担になっているという指摘がありました。

筆者の実務上の経験や実感
 オンライン申請により電子定款を送信しても,公証役場に出頭し,公証人の面前確認を受けた上で,CD-Rなどの記録媒体により認証された電子定款を受領しなければならないという現行制度では,書面の定款の場合と時間的な負担はあまり変わりません(メリットとしては,電子定款には収入印紙を貼らなくてよいため(物理的に無理ですが),書面の定款に貼付すべき収入印紙(4万円)の節約の意味しかないことになります)。また,繁忙な公証役場では,公証人との面談の日時が,数日先~1週間先となることも珍しくなく,依頼者の希望する設立日(設立登記の申請日)に間に合わないことも少なくありません。
 さらに,公証役場によっては,せっかく司法書士本人が出頭しても,公証人と一度も面談することなく,窓口の事務作業だけで定款認証が終わってしまうところもあり,公証人による面前確認が形骸化している感も否めません。加えて,司法書士の作成する定款については,絶対的記載事項や相対的記載事項等を欠くといった法律上の瑕疵はまずあり得ず,何か訂正事項があるとしても,形式的な文言の修正を求められる場合がほとんどです。
なお,電子定款の認証の場合には,原則として司法書士本人が公証役場に出頭しなければならず,その司法書士の補助者が出頭する場合には,司法書士が補助者に定款認証を委任する旨の復代理委任状を作成し,これに司法書士が電子署名をして,公証役場に送信しなければなりません。書面の定款の認証が補助者の出頭で足りることに比べると,電子定款の認証は負担感を覚えます。
(ウ) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会での議論
 検討会においては,いかなる場合についても公証人による認証が必要か,また「面前」における認証が必要か否かについて議論が行われました。
 電子署名を付された電子定款については,印鑑・印鑑証明書よりもそれが本人のものであるという点については信頼性が高く,「偽造」や「なりすまし」の可能性が低いことから,公証人による面前での確認を不要としてはどうかという意見が出ました(慎重意見あり)。
 また,会社法等に基づいて作成された適法なモデル定款は,モデル定款で示された部分については違法・無効となる余地が認められず,またモデル定款中自由記載とされた部分については登記官による審査が行われるため,定款の適法性が担保されたモデル定款を採用する場合,公証人による定款の確認を不要としてはどうかという意見が出されました(慎重意見あり)。
(エ) 今後の取組み
検討会での議論を含め,次の点を今後取り組んでいくこととされました(調整中のものも含む)
・ 定款認証における公証人による面前確認は,電子署名等により申請者(嘱託人)の特定と意思確認が行われている場合は,撤廃する。
・ オンライン申請により,モデル定款に則した電子定款であることが明らかな場合は,公証人による認証を撤廃とすることとする。
・ こうした取組の平成 32 年度中の実現に向けて,具体的な制度設計について検討し,必要な制度改正やシステム改修等を実施するとともに,モデル定款の策定に向けて検討を実施する。

ⅱ 法人設立における印鑑届出を任意とする制度の実現
(ア) 現行制度とその役割
 法人の設立登記申請に当たっては,申請書の提出とあわせ,同申請書または司法書士による代理申請の場合には委任状に押印した会社代表者の印鑑を印鑑届書に押印して,登記所に書面で持参又は郵送により提出することが求められています(印鑑の届出制度)。これは,申請書の真正性(申請人が登記の申請権限を有する者であること(本人性の確認))を担保するための制度です。
(イ) 課題や問題点
 設立登記のオンライン申請の場合においては,申請書情報に押印に代えて電子署名を行い,申請権限を有する者であることを確認するためにその者の個人用電子証明書を添付しなければならないこととされていますので,書面である設立登記の申請書に押印する必要がないにも関わらず,これに加えて別途,会社代表者の印鑑を印鑑届書に押印して,登記所に書面で持参または郵送により提出する必要があるため,設立登記の完全オンライン化が実現できない原因となっています。
筆者の実務上の経験や実感
 会社の設立の際には,登記申請書の押印に適する印鑑(1㎝の正方形を超え,3㎝の正方形に収まる印影を有する印鑑)を起業者が持っていない場合,あるいは,会社名の入った印鑑を登記所に提出したいと考える場合,起業者は新たに印鑑を作成しなければならず,これに対する時間と費用がかかります。また,登記の申請を頻繁に行わない,あるいは,複数の会社を保有する起業者の場合,当該会社が登記所に提出した印鑑がどの印鑑だったかわからなくなることがあります。この場合,誤った印鑑を委任状等の書面に押印して登記を申請してしまうことがあり,その結果,当該登記の申請は,補正の対象となり,登記の処理にかかる時間が長期化することになります(印鑑の届出制度の趣旨から,どの印鑑を登記所に届けたかを確認することはできないこととされています)。
 また,設立登記のオンライン申請は,当該会社を管轄する登記所が遠方であるとか,どうしても依頼を受けた当日中に設立登記を申請しなければならない等申請に時間的制約がある場合には,大いにメリットがあります。しかし,印鑑届出はオンライン化されておらず,会社代表者の印鑑を印鑑届書(書面)に押印して,登記所に書面で持参または郵送により提出しなければならないため(オンライン申請+印鑑届出書の持参または送付),当該会社を管轄する登記所が近くにある場合や起業者が登記申請日(会社成立の日)に特にこだわりがない場合には,オンライン申請をせず,持参または郵送の方法により,書面の登記申請書を提出した方が事務負担は軽くて済みます。
 なお,個人用電子証明書や商業登記電子証明書は,まだ,一般に普及していないと思われます(上場企業など一部の会社に限られて利用されているようです)。
(ウ) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会での議論
 法人設立手続オンライン・ワンストップ化の前提として,会社の設立登記の完全オンライン化を実現するには,(イ)の印鑑届出の在り方を見直す必要があるとの議論がなされました。
(エ) 今後の取組み
 検討会での議論を含め,次の点を今後取り組んでいくこととされました。
・ 商業登記電子証明書(登記所が会社代表者等に対して発行する電子証明書)を利用する会社は,会社代表者の印鑑の届出を任意とする制度への見直しの実施(印鑑届出の義務の廃止)
→ 具体的には,設立登記の申請時に商業登記電子証明書に関する届出を行う場合は印鑑の届出は必須としないこと,会社成立後は印鑑証明書または商業登記電子証明書によって会社代表者の本人確認を行うこととなります。
・ 商業登記電子証明書の使い勝手の改善(印鑑の届出を任意とする制度への見直しの実施に伴い,商業登記電子証明書を取得するための申請をオンラインによりすることができる仕組みも創設すること,事務処理や取得コストの低減などを通じて,商業登記電子証明書の利便性や費用対効果の向上を目指すこと)
・ 現在の商業登記法は,会社代表者から会社設立時に印鑑の届出を受けることを前提に制度設計がされていることから,印鑑の届出を任意とする制度を実現するためには,商業登記法の改正を含む運用体制の抜本的な見直しが必要となる。併せて,登記情報システム,登記・供託オンライン申請システム及び電子認証システムの改修が必要となる。今後,平成 31 年中の商業登記法改正に向けて取り組むとともに,平成32 年度中に必要なシステム改修を実施し印鑑の届出を任意とする制度を実現することを目指して,必要な準備を進める。
 次回は,法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会第8回の「登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化」等について述べて参ります。