【司法書士】
最近の司法書士業務をめぐる動き⑧


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 もう,初夏の陽気ですね。スーツの上着を着て歩くと汗ばむくらいです。春はいずこに過ぎ去ってしまったのだろう,と思ってしまいます。
 本試験の準備は,学習だけではありません。体調を整えること,心(精神)の準備も必要です。体調を整えるには,まずは,夜型から朝型への転換が必要です。この時期に至って,夜遅くまで学習することは,寝不足になりがちです。寝不足は体調不良,ひいては風邪をひくおそれがあります。少しずつで結構ですので,夜型の方は,朝型への切り替えをし,本試験が実施される時間に一番頭が冴えるようにコンディションを整えるように心がけてください。また,心(精神)では,いかに本試験で緊張しすぎないようにするか(適度の緊張は問題ありません),つまり,本番で落ち着いて実力を十分に発揮できるようにするかということにつながりますのでとても重要です。この対策は非常に難しく,また,人によって異なるものだと思います。ちなみに,私は受験時代,目を閉じて,これまでの成功体験(高校や大学の合格発表を見に行って掲示板に自分の番号があったときの感動のシーンなど)や好きな異性とのデートのシーンなど,とにかく本試験のことを忘れ,自分がリラックスできることを思うようにつとめたものです。ご参考にしてください。
 さて,今回も前回に引き続き,最近の司法書士業務をめぐる動き国として,国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供について述べて参ります。今回と次回は,法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会第8回の審議中,司法書士の業務に密接に関連する部分を中心に,筆者の実務上の経験や実感を交えながら,これまでのまとめを述べて参ります。

2 国による法人設立手続に関するオンライン・ワンストップサービスの提供

(1) ワンストップサービスとは?(最近の司法書士業務をめぐる動き①

(2) これまでのオンライン・ワンストップサービスの例(同前

(3) 世界銀行のビジネス環境ランキングにおける我が国の低評価(最近の司法書士業務をめぐる動き②

(4) 我が国の法人設立手続の概要(同前

(5) 法人設立に必要な我が国のオンライン申請システム(同前

(6) マイナポータルを活用した法人設立手続に関するワンストップサービス(同前

(7) 「新しい経済政策パッケージ」で決定された法人設立のオンライン・ワンストップ化の方向性(最近の司法書士業務をめぐる動き③

(8) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第7回)(同前

① 議事次第(同前

② マイナポータルを活用したワンストップサービス(同前

③ 法人設立における印鑑届出の義務の廃止(同前

④ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化(最近の司法書士業務をめぐる動き④

⑤ 定款認証の合理化について(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(第2回,第4回,第5回および第6回))(最近の司法書士業務をめぐる動き⑤


ⅰ 定款の意義と有効要件(同前
ⅱ 公証人による認証制度の意義~真正性と適法性のチェック(同前
ⅲ 定款の認証における公証人による面前確認~定款の真正性の確認(同前
ⅳ 定款の認証における公証人による定款の内容の審査~定款の適法性の確認(最近の司法書士業務をめぐる動き⑥
ⅴ 「モデル定款」とは?(同前
ⅵ モデル定款を活用した設立時手続のファストトラックの創設~海外の例(同前
ⅶ モデル定款を活用した電子定款の公証人による認証の不要化の可否(同前

⑥ 法人設立手続のオンライン・ワンストップ化に向けて(案)(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会第8回)
ⅰ 電子定款に関する株式会社の原始定款の認証の在り方を含めた合理化(最近の司法書士業務をめぐる動き⑦

ⅱ 登記の24時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化
(ア) 現行制度とその役割
 現在,登記の申請が受け付けられると,申請書および添付書面について,登記官によって調査・記入・校合という流れで処理が行われています(最近の司法書士業務をめぐる動き④参照)。
(イ) 課題や問題点
 (ア)の場合の登記官による処理中「調査」は,オンライン申請されたものであっても,いったん紙でプリントアウトし,登記申請書の内容審査や添付書面間で記載に齟齬が無いかの突合等の形式的な審査の全てが,登記官によって目視で確認されているのが現状です(紙の登記申請書が提出された場合と同じ審査方法)。登記の申請処理に2~8日を要しています。
 また,登記申請書または添付書面等に補正があると,処理が長期化するだけではなく,補正のための申請人に対する連絡やその後の対応に時間を要し,全体の処理時間に悪影響を及ぼしていました(最近の司法書士業務をめぐる動き④参照)。
 さらに,例年4月や7月は,商業登記の申請が多数なされることから,登記の繁忙期として,登記の処理が遅れる傾向にあります(登記処理の人的限界)。この繁忙期には1~2週間など,登記の処理に普段以上の時間を要しています(なお,ビジネス環境ランキングで上位に位置するイギリス,フランス,カナダ等では,オンライン申請であれば1日以内に審査が完了しています)。

筆者の実務上の経験や実感
 株式会社の設立の手続は,急ぐ場合が常です。ビジネスチャンスを逃さないようにするためです。そして,ビジネス開始の前提となる銀行口座の開設,税務署等への公官庁での手続には,設立登記の完了後の登記事項証明書等の提出が必要不可欠であるため,起業者は一日も早い設立登記の完了を強く望みます。しかしながら,会社数の多い都心の登記所や商業登記の集中化によって商業登記を取扱う登記所が同じ県内に1~2箇所しかない首都圏(神奈川,千葉,埼玉)の登記所での登記の処理は,どうしても遅れがちで,2週間くらいかかることもあります。株式会社の設立登記を受託すると,起業者から「いつ,できますか?」「まだ,できないのですか?」という問い合わせを受けることが少なくありません。幸い,設立登記のファストトラック化(先例平30.2.8-19。最近の司法書士業務をめぐる動き①参照)が,平成30年3月12日から開始されていますので,最近の設立登記は完了が早くなって,起業者から登記完了についての問い合わせも少なくなったように思います。
(ウ) 法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会での議論と今後の取組み
 オンラインによる法人設立登記の 24 時間以内の処理の実現および世界最高水準の適正迅速処理を目指した業務の徹底的な電子化に向けた実現の手段については複数の手法が考えられるとされ,デジタル前提の業務の抜本的見直しについて集中的に議論がなされました。これとあわせて,補正事件の未然防止も有用であるとして検討がなされました(最近の司法書士業務をめぐる動き④参照)。
・ 補正事件の未然防止
○ 申請書情報の作成支援機能の開発
○ 添付書面情報の事前確認機能
 いずれについても,平成 31 年度末の稼動を目指して,必要な準備を進め,こうした取組により,平成 31 年度中にオンラインによる法人設立登記の 24 時間以内の処理の実現を目指すこととされました。
・ デジタル前提の業務の抜本的見直し(今後さらに深掘すべき事項)
 一方で,オンラインによる法人設立登記の 24 時間以内の処理の実現に向けては,補正事件を原因とするものにとどまらず,事件数に対する登記官の数や処理体制,事件の滞留など,そもそも事件を処理する業務体制にも課題があることが想定されることから,オンラインによる法人設立登記の 24 時間以内の処理を確実に担保するとともに,世界最高水準の適正迅速処理を目指すためには,前述の補正事件の未然防止に加え,時期や地域ごとの審査件数の偏在の課題を乗り越え,限られた人的資源を有効に活用できるようにするための業務の徹底的な電子化を実現する必要があるとされました。
 まず,平成 30 年度から実施予定の登記情報システムの更改において,受付登録の自動化,商号調査の効率化,申請情報を用いた登記事項の自動作成機能といった業務効率化施策を実施し(平成 32 年度中の稼動予定),検討会で指摘された以下の観点を踏まえ,平成 30 年度中に検討を行い,対応策について結論を得るとされました。
○ システムを利用した審査の効率化
 登記官がひとつの事件の審査に要する時間そのものの削減とともに,事件が滞留する時間を削減することが重要。
○ 審査フローの効率化
 事件の迅速処理を実現するためには,登記官が最も効率的に稼働する審査の流れを追求し,事件の滞留を可能な限り解消することが必要。審査フロー効率化の観点から,一つの事件の処理完了までに関わる登記官の業務プロセス等を改めて具体的に検証すべき。
○ 添付書面を機械判読可能とすること
 システムを活用するためには,添付書面が機械判読可能な形式であることが必要。
 → 就任承諾書等の申請時に提出が必要な定型的な内容の書類について,フォーマットを決めることを検討。
 → また,株主総会議事録等の企業内部で作成される書類について,これをいかに機械判読可能な形式にしていくか,民間企業の協力を得るために,企業の実務に鑑み,どのような形式で用意するのが望ましいかについて検討。
 → あわせて,資本金の払込みを証する書面(預金通帳の写しや取引明細書)等について,「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30 年1月 e ガバメント閣僚会議決定)の「個別サービス改革事項」に位置づけられている「金融機関×行政機関の情報連携(預貯金等の照会)」の検討状況等をふまえ,システムにおける取り込みを検討。
○ 地域間の申請件数の偏在の解消
 オンラインによる法人設立登記の 24 時間以内の処理及び業務の徹底的な電子化の実施状況を踏まえ,IT技術を活用した情報連携等により更なる業務の効率化等を検討。

⑦ まとめ~司法書士の仕事はどうなるか。
 筆者としては,法人設立手続オンライン・ワンストップ化は,株式会社の設立登記の迅速化,ひいては起業の促進の観点から,とても素晴らしい試みだと思います。そして,この試みが本格化すれば,残念ながら司法書士の仕事は減る可能性はあります。しかし,もとより司法書士による商業登記申請の占有率は,全体のおおよそ40~50%程度とあまり高くはありません(残りは,ほぼ本人申請が占めています)。これは何を意味するかというと,設立登記を自分でできる起業者は,現時点においてすでに,司法書士に依頼せず,本人申請をしているのです。インターネットで探せば,民間が作成した無料で利用できる設立登記書類作成支援ソフトなども見かけますので,あるいは,こういうものを利用している起業者の方もいらっしゃるのかもしれません(有料のものを含めれば,さらにたくさんあります)。
 これに対して,会社法や商業登記手続に明るくない起業者は,いくら設立登記書類作成支援ソフトが出回っていたとしても,これらを利用するのにためらいや限界を感じるのではないでしょうか。そして,将来,法人設立手続オンライン・ワンストップサービスが導入され,モデル定款が用意されても,自らの判断だけで,これから設立する会社にとって最も適した定款を作成することは難しいものと思われます(例えば,モデル定款中選択肢のある条文では,自らの判断のみで,プルダウンメニューから適切な選択をすることに困難を感じるでしょう)。また,個人番号カードを取得したとしても,これに基づく公的個人認証サービス(個人の電子署名や電子証明書)を利用することを面倒に思うでしょう(ソフト面だけでなく,カード・リーダーの用意やその接続などパソコンのハード面での対応も必要です)。となりますと,やはり,今までどおり,報酬を払ってでも設立登記の申請手続を司法書士に依頼したいという起業者も少なくないはずです(「費用対効果」という意味においても)。あるいは,司法書士のアドバイスを受けながら,法人設立手続オンライン・ワンストップサービスを利用したい起業者も現れるかもしれません。そうなりますと,司法書士にとっては,新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がありますね。
 以上のことから考えますと,いささか楽観的かもしれませんが,法人設立手続オンライン・ワンストップサービスが導入されても,当面の間は,司法書士の仕事が激減するという可能性は低く,むしろ,新たなビジネスチャンスの到来の可能性があるといえるのではないでしょうか。
 次回は,最近大学生の個別相談が増えつつあるテーマとして,「大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット」を取り上げてみたいと思っています(大学生以外の方にも読んでいただけるように,大学生以外の方にとっても有益な情報を提供する予定です)。

(追記)
 平成30年4月30日05時00分の朝日新聞(DIGITAL)によりますと,「政府は,株式会社の設立にかかる期間を今の10日から1日に短縮できるようにする方向で最終調整に入った。登記に必要な公証人による定款のチェックを,今の直接面談からスマホやパソコンでも受けられるようにオンライン化する。手続きを簡素化して起業を促す狙いで,6月にまとめる新たな成長戦略に盛り込む。関連法の適用も検討する。」とのことです。見直し案では,企業者が公証役場に出向かずとも,スマートホンやパソコンの画面を通じて公証人と面談できるようで(認証手数料5万円は変わらず),認証後の法務局への設立登記手続も同時並行してオンラインで済ませられるようにし,24時間で登記できる予定です。定款認証の要否については,モデル定款な電子署名(電子証明書)によって,その省略を主張する議論もなされましたが,結局,定款認証は,設立の手続として残るようですね(法務省案の採用)。