【司法書士】
大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 ゴールデンウィークも終わり,いよいよ本試験まで残り期間が2か月を切りました。この時期に至っては,迷いを捨て,ご自分の立てた学習計画を淡々と進めてください。合格できる実力をお持ちの方ほど,「今年は,合格できるだろうか?」との強い不安に襲われるかと思います。しかし,不安を感じる必要はありません。合格圏内の実力をお持ちの方であれば,このような不安を感じるのは,みんな同じだからです。ご自分を信じてください。そして,不安を覚える時間があったら,その時間で1つでも多くの重要条文に目を通すようにした方がはるかに有益だと思います。また,忙しく学習していた方が不安を感じる暇さえなくなります。

 さて,今回は,「大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット」について述べて参ります。大学生以外の方にも興味をもって読んでいただけるような内容にするように心がけるつもりでおります。

前座1 司法書士の仕事とは?

 今さらですが,司法書士の具体的な仕事の内容を確認しておきましょう(司法書士法3条1項各号)。

① 登記または供託に関する手続について代理すること。
 不動産登記,商業登記,債権譲渡登記等につき,本人を代理して登記を申請する,いわゆる登記業務は,司法書士の中核となる業務です。
 登記業務でも,仕事の件数や報酬から,不動産登記が業務の中心であるといえるでしょう。売買,贈与,代物弁済などを原因とする所有権移転登記,(根)抵当権設定登記とその抹消登記の申請代理が依頼の中心です(相続については,後述)。各種の登記申請書の作成・申請代理のほか,登記原因証明情報や委任状のような添付書面(添付情報)の作成・収集なども手がけます。

 とりわけ,司法書士がもっともその存在価値(レーゾンデートル)を発揮・アピールできる仕事として「登記の立会」があります。
 これは,不動産売買の(残)代金決済に立会い,所有権移転登記に必要な書類が揃っているか等を確認し,売主・買主・仲介会社・金融機関など時には20人近い利害関係者が集まった席で,「(抵当権抹消・所有権移転・抵当権設定)登記に必要な書類はすべて揃っていますので,(残)代金決済を実行してください!」と,融資実行や代金決済にゴーサインを出すという仕事です。所有権移転登記に必要な売買代金が確実に売主に支払われたことを確認して,登記申請を急ぐことになります。筆者も,司法書士の実務について四半世紀を迎えようとしていますが,「登記の立会」はいつも緊張しますね。でも,不動産登記の中では最もやりがいを感じる仕事だと思っています。

 また,相続等を原因とする所有権移転登記の申請代理の依頼も,司法書士の登記業務のうちの中心的な業務の1つです。
 特に,遺言書のない相続登記では,相続を証する情報として,被相続人の10歳(生殖年齢)以降~死亡に至るまでの連続した戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)を登記の申請情報と併せて登記所に提出しなければなりませんが,これを一般の方がもれなく揃えるのは大変です。このような場合には,戸籍謄本の取り方を説明し,あるいは,司法書士が依頼を受けてこれらの手配を代行することも少なくありません。登記申請情報の作成より,こちらの業務の方が,難しく時間がかかることもあります。また,遺産分割協議がととのっている場合(どの不動産をだれが相続するかについて争いなく決まっている場合)には,遺産分割協議の作成の依頼を受けることもあります。
最近では,空き家問題や所有者不明土地問題の解消のため,相続登記の義務化が議論されていますが,ここでも,司法書士がこれまで相続登記で培ってきたノウ・ハウを活かして活躍できることは間違いないでしょう。

 商業登記では,2年に一度の役員変更登記のほか,設立登記,商号や目的の変更登記,本店移転登記などの登記の他,合併などの組織再編の登記,解散・清算人選任・清算結了など幅広い登記申請の代理の依頼を受けます。不動産登記と同様,依頼があれば,株主総会議事録,株主リスト,取締役会議事録,委任状のような添付書面(添付情報)の作成・収集なども手がけます。

 設立登記や合併などの組織再編の登記では,単に登記申請書の作成だけを依頼されるということは少なく,手続全般について相談を受けます。このような場合には,依頼者に依頼の趣旨に最も合致するようなスケジュールをたてて,いつ何をすべきかを依頼者に説明し,予定どおり実行してもらうというコンサルタント的な仕事もすることになります。

 債権譲渡登記は,前二者の登記と比べると数は少なく,依頼も稀です。債務者に資力がなく第三債務者に資力がある場合には,債務者の債務の担保のため,債権者は,債務者の第三債務者に対する売掛金などの債権の譲渡を受け,その登記をしておく実益があります。

 供託に関する手続の代理の依頼も滅多にありません。しかしながら,会社から「従業員の給料が差し押さえられたがどうしたらよいか?」などと相談され,民事執行法に基づく供託手続の代理の依頼を受けることもあります。依頼が滅多にないからといって,自己研鑽をおろそかにできない仕事です。

② 法務局または地方法務局に提出し,または提供する書類または電磁的記録を作成すること。
 登記・供託業務では,②単独で依頼を受けることは少なく(例えば,登記申請は自分でやるので,登記申請書だけ作成してほしいという依頼など),①とセットで依頼されることがほとんどです。

③ 法務局または地方法務局の長に対する登記または供託に関する審査請求の手続について代理すること。
 審査請求は残念ながら私は未だ受託したことはありません。お上(法務局または地方法務局)には逆らわないという我が国の国民性なのでしょうか,登記申請をして,少々理不尽な補正指示(書類の訂正や追加提出,登録免許税の追加納付など)が出ても,依頼者の方は,最終的には納得してその指示に従います。補正指示に応じずにその登記申請を却下させた上で,審査請求をしてまで,お上と争うという発想がないのかもしれません。

④ 裁判所もしくは検察庁に提出する書類,または筆界特定の手続において法務局もしくは地方法務局に提出し,もしくは提供する書類もしくは電磁的記録を作成すること。
 身近なところでは,特別代理人や遺言執行者の選任申立,相続放棄申述,未成年後見開始の申立て,自筆証書遺言の検認申立などの各種申立書類の作成代理と提出代行の依頼を受けることがあります。
 最近では,成年後見開始等の申立てをし,あるいは,成年後見人等に就任して,判断能力が不十分な被後見人等に代わってその財産管理を行う成年後見業務が,登記業務に次ぐ司法書士の主力業務となりつつあります。

⑤ 上記①~④の事務について相談に応ずること。

⑥ 簡易訴訟代理関係業務
 司法書士試験合格後,法務省令で定める法人が実施する研修であって法務大臣が指定するものの課程(特別研修)を修了し,考査(筆記試験)に合格しなければ,この業務を行うことはできません。特別研修では,グループリーダーを中心に6~7名程度で行うグループ学習,裁判官・弁護士や学者を講師に招いての講義,弁護士の監督の下での模擬裁判などを行います。そして,これらに基づき,簡易訴訟代理関係業務を行い得る能力担保のため,考査(筆記試験)を受けることになります。司法書士試験の合格に要する時間よりも,簡易訴訟代理関係業務の資格を取るための考査の合格に要する時間の方がかかってしまった(具体的には,司法書士には2回目の受験で受かったが,簡易訴訟代理関係業務の考査に受かるのに4回の受験を要したなど),という笑えない現実があります。
 主な業務としては,簡易裁判所で取り扱う訴額140万円以下の事件につき,本人の委任を受けて,代理人として和解,民事訴訟の提起,支払督促等を行います。最近は少なくなりましたが,一時期は,サラ金等の金融業者に対し,過払い金返還請求(和解,訴訟)をする仕事があります。

前座2 経営面から見た司法書士業の魅力

 私が懇意にしている公認会計士の先生から興味深いお話しを聞いたことがあります。曰く,「在庫を持たず,リピーターが多く,日銭商売」は,倒産しにくいとのこと(日銭商売とは,毎日現金が入ってくる商売のことをいいます)。おそらく,公認会計士の先生は,蕎麦屋などの飲食店を念頭においてお話しをされていたと思いますが,私はこのお話を聞いたとき,まさに「司法書士業こそこの定義に当てはまるな」とハタと膝を打ったものです。

 司法書士業では,いわゆる「在庫」はほとんどありません。せいぜい,コピー用紙とか,不動産登記の登記識別情報を綴じる表紙程度で多寡がしれています。つまり,「在庫を持たない」という定義にぴったりとあてはまります。
 また,定期的に役員変更登記を依頼してくださるお客さんは,もとより,不動産の売買をしたときの買主さんが私のことを覚えていてくださり,住宅ローン完済後,売買の時に設定した抵当権の抹消登記の依頼を受けることもあります。さらに,日頃,懇意にしていただいている各士業の先生方(弁護士,公認会計士,税理士,行政書士,社会保険労務士)からは,案件があれば継続的な依頼があります。つまり,「リピーターが多い」という定義にもぴったりとあてはまるのです。
 それから,最近は報酬の支払い方法としては,「銀行振込」が主流ではありますが,先程述べた「登記の立会」では報酬をその場で現金で支払ってもらえる場合がほとんどです。特に,個人のお客さんは,「現金払い」が多いです。つまり,「日銭商売」という定義にもぴったりとあてはまるわけです。「日銭商売」がなぜいいかというと,それは,すぐに使えるお金が手に入るからなのです。大げさな言い方をすれば,午前中に現金で報酬をもらえれば,当座の昼食代・夕食代・飲み会のお金には困りません(笑)。食べていくお金に困ることは少ないと言うことなのです。

 貸し倒れ(報酬等をもらい損ねること)がほとんどないのも,司法書士業の経営面からの魅力かもしれません。なお,商売をしている方(主に会社)などからは,報酬を小切手でもらうこともありますが,今のところ,不渡りになったことはありません。何回か,先日付小切手(さきひづけこぎって)(注)でもらったことがあり,そのときは,さすがにヒヤヒヤしましたが(笑),無事決済されました(なお,報酬を小切手でもらうのは信用のある取引先の場合に限ります)。

(注)小切手を振出すときに,現在は銀行の当座預金に振出した小切手金額相当の資金の準備はないが,何日か後には資金の手当てが見込まれるという場合,その日になってから取立てにまわしてもらう約束で,振出日を実際の振出しの日よりも後の日付にして振出す小切手のことです(振出しの日よりも前の日に銀行に取立にまわすと不渡りになり,こちらがお金をもらえないばかりか,相手にも多大な損害を及ぼすので注意が必要です)。

 その他,開業資金が少なくて済むのも,司法書士業の経営面からの魅力の1つといえるでしょう。電話,FAXのほか,インターネットへの接続環境の整ったパソコンとプリンターがあれば,とりあえず自宅で開業することができます。新人研修などに行きますと,司法書士用業務ソフトや加除式の立派な実務書などが展示されており,「先生!いかがですか?」など営業マンに言葉巧みに誘われるかもしれません。しかし,開業直後はまだ仕事も少ないので,高額なリース料や追録代金を支払ってまで司法書士用業務ソフトや加除式の実務書を導入する必要はありません。また,電話,FAXも当面は家庭用のもので十分です。パソコンとプリンターもすでにお持ちならそれで十分です。これらソフト・立派な実務書・備品類は,仕事が増え,お金に余裕ができて,なお,その必要がある場合にあらためて揃えればそれで十分です(見栄をはる必要はありません)。開業当初は,見栄よりも,いかに,ランニングコストをかけないようするかに重きをおくことが大切です。

 今回は,前座のお話で終わってしまいましたが,次回こそ,メリットについて述べる予定です。