【司法書士】
大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 まだ,5月だというのに,まるで初夏のような陽気ですね。暑いときは,エアコンの使用,水分のこまめな補給,不急不要な外出はなるべく避け,外出の際には,帽子と日傘で熱中症の予防に努めてください。直射日光というのは,存外強烈なものです。自分だけは大丈夫という根拠のない自信は捨て,石橋を叩いて渡るように慎重に行動するようにしましょう。かく申す筆者も,真夏の炎天下を往復40分,帽子なしに自転車で走行し,あやうく熱中症になりかけたことがあります。

 いよいよ本試験までわずか1か月程度を残す時期になりました。直前の学習法で特におすすめなのが,年度別の過去問(5~10年)を1日1年ずつ解くものです。午前の部は午前の部を,午後の部は午後の部をというように,本試験と同じ時間帯に同じ時間で問題を解くことがポイントです。過去問の学習は十分だと思われますが,このように,本試験と同じ状態で過去問を解くということも,本試験慣れをする上で,重要な学習です。

 さて,今回も,「大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット」について述べて参ります。もちろん,大学生以外の方にも興味をもって読んでいただけるような内容にいたします。


メリット5:若い時から実務で活躍でき,経験を積むことができる

 前回,大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリットとして,「大学在学中に資格が取れる可能性が高い」ということを申し上げました。若いうちに資格を取れるということは,若いうちに世に出て司法書士として活躍できるということを意味します。理論上は,合格後,事務所を開業する地の司法書士会に入会して,日本司法書士会連合会に登録を受けることによって,独立開業が可能です。もっとも,実際のところは,全くの未経験でいきなり独立開業というのは,誰でも不安が先行してしまいますね。そこで,ほとんどの方は,所属司法書士会の研修,日本司法書士会連合会の研修を受け(事実上登録の要件となっているようです),さらには配属研修(司法書士会の紹介する司法書士事務所で数か月実務を経験すること)など,独立開業に必要な実務のスキルを学びます。また,1~2年間(期間は個人差があります)くらいは,司法書士事務所に補助者として勤務し,登記の立会の仕方など,通り一遍の実務経験を積もうとする方が多いです。それでも,大学在学中に司法書士の資格を取得できれば,大学卒業後,各種の研修を受け,2年程度司法書士事務所に勤務したとしても,24歳~25歳くらいには,独立開業は可能です。

これに対して,司法試験の場合,原則としてロースクール2年間(法学既修者の場合,未修者の場合3年間)の修了が受験資格になりますので,1回目の受験で運良く合格できたとしても,24~25歳にはなっています。それから,司法修習生の期間(1年間)やイソ弁(法律事務所の居候弁護士)の期間(数年)を経て,弁護士として,独立開業となると,早くとも,30歳近くにはなってしまうでしょう。

早く独立開業することの最大のメリットは,元気で頭も冴えている若い時期に,情熱をもって,実務や事務所経営のノウ・ハウを習得できることだと思います(若い時期は,無理もききます)。若い時期に一生懸命学んで習得したもの(つまり「経験」ですね)は,これから先の長い司法書士人生の指針になります(司法書士には定年はありません。生涯現役です。私事ながら私の祖父(明治生まれ)は,85歳まで現役司法書士として仕事をしておりました)。また,経験は,いくらお金を出しても買えません。これらの経験は生涯の財産(プライスレス)であるといっても過言ではないでしょう。『若いときに流さなかった汗は,老いてから涙となって返ってくる』(鍵山秀三郎『人間を磨く言葉』より)とか,『年をとってから暖まりたいものは,若いうちに暖炉を作っておかなければならない。』(ドイツの諺)など,若いうちに努力して多くの経験を積むことはその後の人生をよりよく生きるために必要不可欠であることを示唆した言葉がたくさんあります。


参考1:司法書士の仕事は,争いごとが少ない

 以下は,必ずしも「大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット」とはいえませんが,司法書士試験か司法試験か迷ったときの道標(判断材料)になろうかと思われますので,「参考」として述べて参ります。
司法書士の仕事(主として登記業務をいう。以下同じ),例えば,不動産の売買による所有権移転登記では,司法書士は,ヒト・モノ・意思の十分な確認を通じて,実体法上の権利変動に合致する真実の登記をすることに腐心します。また,不動産の相続で遺産分割協議がなされた場合において,司法書士は遺産分割協議の内容につき,すでに相続人の全員が納得していることを確認し,これ前提に遺産分割協議書を作成し,署名捺印を求め,その内容に合致する真実の登記をします。これらは,いずれも単に真実の登記をすることだけでなく,登記を申請するまでの過程で,不動産の売買契約や遺産分割協議において,無効・取消あるいはそれらの原因がないことを十分確認し,将来の紛争の芽をあらかじめ摘み取っているという意味もあります(これは「予防司法」といわれます)。商業登記においても同様ですが,司法書士の仕事は,既に確定した実体法上の権利関係に基づき,その登記を申請するというものです。司法書士の仕事は,このように争いごとが少ないものがほとんどです(争いごとがある場合には,いたずらに関与できませんので,弁護士にバトンタッチすることになります)。このような仕事の性質のためか,筆者の司法書士仲間も,総じて温厚であり,争いごと(あるいは争いごとにかかわるのを)を嫌う性格の人がほとんどです。

これに対して,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。」とあるように(弁護士法1条),「依頼人の権利が蹂躙されるならば,その権利の目的物が侵されるだけではなく,依頼人の人格までも脅かされる。そして,権利のために闘うことは,依頼人のみならず国家・社会に対する義務であり,ひいては法律の生成・発展的改正に貢献するものである。」という信念が,その行動のバックボーンとなっているものと思われます。また,弁護士は,何らの制限も受けず紛争性のある事件に関与できることを認められた唯一の国家資格者です。例えば,民事訴訟では,依頼人から委任を受け,代理人として依頼人の意向に沿った訴状,答弁書,準備書面等を作成し,法廷では,依頼人の利益のため主張をし,事実の存否や証拠調べにおいて相手方(またはその代理人弁護士)と丁々発止のやりとりをして,最終的には依頼人のための勝訴判決(または,和解)を得て,争いごとを解決し,依頼人の利益を最大限に実現しようとすることが,その主要な仕事になりますが,これができるのは弁護士だけです。争いごとが好きな人という人は,ほとんどいないとは思いますが,依頼人の利益を最大限に実現するためであれば,あえて権利のために闘うことを厭わないという強い使命感をお持ちの方は,弁護士向きだといえるでしょう。このような方は,司法書士試験よりも,司法試験(弁護士志望の場合)を選択することになるものと思われます。

司法書士試験か司法試験(弁護士志望の場合)のいずれを受けるか悩んだ場合に,ご自分の性分・性格あるいは志向,自分の一生の仕事とするのにどちらの仕事が自分に合っているかを考慮してみることが重要です。
司法書士も,特別研修を受け,考査に合格すると,簡易訴訟関係代理業務ができるようになります(訴額140万円以下に限ります)。しかし,「自分は争いごと(あるいは争いごとにかかわること)が嫌いだから。」と言って,考査合格の実力を持ちながらも敢えて,特別研修を受けない司法書士も結構たくさんいるのです(簡易訴訟関係代理業務については,次回説明します)。


参考2:司法書士の仕事の性質

 登記所の登記官による登記申請情報(以下,「登記申請書」という。)やその添付情報(以下,「添付書類」という。)の審査は,「形式審査」と呼ばれるものです。「形式審査」とは,登記の申請があると,登記官は登記申請書に記載された事項が法定の登記事項か,管轄に間違いはないか,適法に申請権限を有する申請人からなされた登記か,あるいは申請書およびその添付書類が法定の形式を具備するかなどを調査しますが,登記官はそれ以上のこと,つまり,申請された事項が実体法上有効になされた真実のものか否かに至るまでの実質的な調査・審査権限を有しないというものです。
もちろん,司法書士サイドとしては,参考1で申し上げたように,登記申請をするために,実体法上その法律行為が適法になされたものか十分に調査・確認を尽くします。そして,登記所に提出する登記申請書や添付書類については,登記所の登記官の形式審査に耐え得る形式的な正確性を有するよう,「確認に次ぐ,確認」をして,慎重に精査しています。そのため,司法書士の仕事は,はっきり申し上げて「とても細かい」ものになります。特に,登記申請書の登記事項(登記すべき事項)は,そこに記載された事項がそのまま登記記録(登記簿)に転写されるという性質上,極めて厳格な形式的正確性が求められます。例えば,売買による所有権移転登記の依頼を受けた場合,司法書士は,登記申請書の登記権利者の住所・氏名等の登記事項に誤りがないよう極めて慎重に精査し,登記の申請をします。ところが,万一,登記事項を間違えて申請してしまい,それが補正にもならずに,誤った事項が登記されてしまったときは,大変です(前述のように登記の申請は慎重に行いますので,実務的には,このようなミスは滅多にあるものではありません)。このようなときは,当然,更正登記を申請しなければなりませんので,権利者・義務者から再度委任状の交付を受けなければなりません。「名前を間違えるような司法書士に仕事の依頼はできない。」と言われることは必定で,信頼はガタ落ちです。このような仕事の性質のため,司法書士は,細かいところに気を配れる几帳面な人に向いています(もちろん,「慣れ」ということもありますが)。
また,登記所は法令だけではなく,法令の解釈やその補完として,法務省から発出された先例(通達・回答など。以下,「先例」といいます)に基づいて,登記申請書の審査をしています。そのため,司法書士の作成する登記の申請情報や添付情報は,法令の他,当然ながら先例の趣旨に沿ったものでなければなりません。したがって,司法書士が,登記実務に携わるにあたっては,法令の条文知識だけではなく,膨大な先例についての知識も必要になります。もっとも,実務上よく使う先例の多くは,受験勉強で学びますので,司法書士試験に合格した時点で,かなりの先例の知識を有していることになります。司法書士試験が実務家登用試験であるといわれるのも,このあたりに理由があるのかもしれません。

これに対して,弁護士は,事件の依頼を受けると,この事件はどのように事実を主張し,裁判その他の手段で解決すれば依頼人の最大の利益になるかを考えます。そして,その根拠となる条文を探し,適切な条文があればそれを論拠とし,適切なものが見当たらない場合には,その条文の立法趣旨等を勘案し,解釈によって自説と条文を結び付け,これを論拠にします。このように,条文を,具体的事案にあてはまるのかどうか,解釈することを「法律解釈」といいます(もちろん,条文だけでなく,過去の判例等も論拠となります)。つまり,弁護士には,訴訟等において,訴訟等の対象となっている事件について,依頼人に最大の利益をもたらすには,当該訴訟等において,どの法律(法令)を根拠に,どのような主張をすべきかについて合理的に理論を組み立てる能力と共にそれを裁判所に提出する訴状等の書面にまとめる起案力が必要とされます。ここで作成される訴状等の書面に正確性が求められることはいうまでもありません。しかし,例えば,途中で訴え変更申立書を出して,最初の請求と関連している売買代金請求(請求の趣旨や原因)を新たに追加することができますし,証拠や添付書類に不足があった場合などは,後からの追完も可能であることなど,登記申請がいわば一発勝負(後から登記事項や不足書類の追完は原則として認められない)であるのに比べると,ある程度緩やかな運用になっている感があります(登記申請書や添付書類ほど極めて厳格な形式的正確性は求められていないというところでしょうか)。

このように,司法書士と弁護士の仕事の性質の違いは,依って立つ手続法の性質が異なるためといえるでしょう(登記法:形式重視,訴訟法:実体重視)。
司法書士試験か司法試験(弁護士志望の場合)のいずれを受けるか悩んだ場合には,開業後のそれぞれの仕事の性質の違いに着目し,どちらがご自分のやりたい仕事,あるいはやりたい仕事に近いかを考慮することも重要です。

次回も,この続き(参考,まとめ,番外編:他の資格も取得しよう!)について,述べる予定です。