【司法書士】
大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット⑤
番外編「その他の資格取得のおすすめ~
司法書士受験生よ,隣接資格に貪欲になれ!」


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


蒸し暑い日が続くと思いきや,関東地方は梅雨入りしました。紫陽花の花も,梅雨を告げる,そんな咲き方をしています。梅雨(つゆ)寒(ざむ)といいます。夜中に暑いと感じて,布団をはいでしまったところ,明け方に雨と共に冷たい空気が部屋に流れ込み,風邪を引いてしまうこともあります。読者の皆様がそのようなことにならないことを祈っています。

本試験も間もなくですね。もはやこの時期に至っては,まな板の鯉です。ご自分の学習計画を粛々とすすめてください。1つだけ申し上げるとすると,マスターした知識や理解というものをより完成度の高いものにしていただきたいということです。筆者も長年にわたり,答練や公開模試の記述式の採点に関与していますが,答案用紙のほぼ全てに解答しながら,いざ採点してみると0点あるいは一桁台の点数になってしまう答案に出会うことも珍しくありません。記述式答案は,極めて厳格な形式的正確性が求められます(特に,登記事項)。ですから,あいまいな知識や理解でいくらがんばって答えを書き,答案用紙を埋めてみても,それが不正確なものであれば,すべて減点の対象になってしまうということです。このような答案を見ると,「10個のあやふやな知識より,1個の正確な知識が大切!」という言葉が実感されてなりません。

さて,今回は,「大学生が(司法試験ではなく)あえて司法書士試験に合格するメリット」の番外編として,「その他の資格取得のおすすめ~司法書士受験生よ,隣接資格に貪欲になれ!」を執筆します。


おすすめ資格第1位:宅地建物取引士

1 「宅地建物取引士」とは?
「宅地建物取引士」とは,宅建・宅建士などとの略称で呼ばれている国家資格(以下,「宅建士」という)のことであり,また,この資格を有する者をいいます。
一般国民が,不動産の取引をするのは,一生のうちに数えるほどしかありません。そのため,不動産の取引において,一般国民は素人です。不動産の取引において,素人である一般国民(顧客)に対し,その顧客の購入する不動産について,その顧客が知っておくべき重要事項を,売買契約等の締結に当たって説明し,顧客が不測の損害を被ることがないようにするのが,この宅建士の主な仕事です(不動産取引の専門家)。
宅建士の仕事をするためには,宅地建物取引士資格試験(以下,「宅建試験」という)に合格し,合格後は試験開催地の都道府県知事に対して登録手続きを行い,宅地建物取引士証の交付を受けなければなりません。
2 宅建試験
⑴ 試験科目
① 民法等(14問)
主として契約等の「不動産の取引」に関係した部分から出題されます。詳しい内訳は,民法(10問),借地借家法(2問),区分所有法(1問),不動産登記法(1問)です。
② 宅地建物取引業法(20問)
③ 法令上の制限(8問)
都市計画法(2問),建築基準法(2問),国土利用計画法,その他制限法令(1問),農地法(1問),宅地造成等規制法(1問)および土地区画整理法(1問)がそれぞれ出題されます。
④ その他関連知識(8問)
不動産鑑定評価基準,地価公示法(1問),登録免許税等の税法(2問),住宅金融支援機構(1問),景品表示法(公正競争規約)(1問),統計(1問)および土地,建物(1問)がそれぞれ出題されます。
※ 赤字は,司法書士試験と共通の試験科目です。
⑵ 試験の形式
全問マークシート方式(4肢択一式),出題数は50問,試験時間は2時間です。
⑶ 難易度
宅建試験の過去10年間の合格率は15%~17%で,合格点は31~36点(50問中)です。つまり,全ての問題の7割程度正解できれば合格できるということです。ちなみに,2017年度の合格率は15.6%です(受験者209,354人のうち合格者32,644人)。
不動産業を営む者は,ひとつの事務所において「業務に従事する者」5人につき1名以上の割合で,専任の宅建士の設置をしなければならないという規定(宅地建物取引業法31条の1第1項,宅地建物取引業法施行規則15条の5の3)があります。そのため,試験では,必ず一定数の合格者を出さなければなりません(政策的配慮)。この点において,落とすための試験である司法書士試験とは,試験の性質が大きく異なるといえるでしょう。
⑷ 受験資格
年齢,性別,学歴等関係なく,誰でも受験することができます。
3 おすすめの理由
おすすめの理由としては,①司法書士試験と共通の試験科目があること,②司法書士試験の多肢択一方式と試験の形式が同じであること,③難易度としても司法書士試験よりは易しく,法律の入門資格として適当であることなどが挙げられます。司法書士試験の前哨戦的な資格試験として,チャレンジする価値は大いにあります。また,企業等からも評価の高い資格でもあり,この資格を持っていると就職にも有利です。さらに,司法書士として開業した後でも,宅建受験で学んだことが大いに役立ちます。これらを考え合わせますと,おすすめ資格第1位の地位は不動だといって過言ではありません。
なお,司法書士と宅地建物取引業(不動産業)を兼業する例が増えています。これらを兼業している場合,宅地建物取引業として,不動産の売買契約で売主・買主とを仲介し,さらに,司法書士としてその所有権移転登記も申請できるので,司法書士としての業務の幅が拡がります。


おすすめ資格第2位:行政書士

1 行政書士とは?
「行政書士」とは,行政書士法に基づく国家資格であり,官公署に提出する書類および権利義務・事実証明に関する書類の作成,提出手続きの代理または代行,作成に伴う相談などの業務を行う行政に対する手続きの専門家です(ただし,これらの業務であっても,他の法律で制限されている業務はすることができません)。自動車を購入した際の自動車の登録手続,飲食店,風俗営業や建設業を開業する際の営業の許認可手続,法人設立手続(設立登記の手続を除く),外国人の帰化申請,在留資格の更新および変更手続が行政書士の主な仕事です。
 行政書士の仕事をするためには,行政書士試験に合格し,開業しようとしている事務所の所在地の都道府県行政書士会を経由して,登録の申請を行い,日本行政書士会連合会の行政書士名簿に登録される必要があります(この登録の手続と同時に都道府県行政書士会に入会することになります)。
2 行政書士試験
⑴ 試験科目
① 行政書士の業務に関し必要な法令等(46問)
憲法(6問),民法(11問),行政法(22問),商法(会社法を含む)(5問),基礎法学
(2問)
② 行政書士の業務に関する一般知識等(14問)
文章理解(3問),政治・経済・社会(7問),情報通信・個人情報保護(4問)の合
※ 赤字は,司法書士試験と共通の試験科目です。
⑵ 出題の形式
行政書士の業務に関し必要な法令等は,択一式40問,多肢選択式3問および記述式3問(40字程度で記述するもの)が出題されます。また,行政書士の業務に関連する一般知識等は択一式の形式で14問出題されます。試験時間は,3時間です。
⑶ 難易度
行政書士試験の過去10年間の合格率は4.79%~15.72%となっており,年によってかなりばらつきがあります。合格基準としては,下記要件のいずれも満たす必要があります。
① 「行政書士の業務に関し必要な法令等」科目の得点が,満点の50%以上である者(244点満点:択一式1問4点で40問(160点),多肢選択式1問8点で3問(24点),記述式1問20点で3問(60点))
② 「行政書士の業務に関連する一般知識等」科目の得点が,満点の40%以上である者(56点満点:択一式1問4点で14問)
③ 試験全体の得点が,満点(300点)の60%以上である者
ちなみに,2017年度の合格率は15.72%です(受験者 40,449人のうち合格者6,360人)。
行政書士試験と宅建試験との単純比較はできませんが,難しい行政法が試験科目であることや記述式試験があること等から,行政書士試験の方が,宅建試験に比べ難易度が高いものと思われます。また,行政書士試験は,司法書士試験(3~4%)に比べれば合格率は高いものの決して簡単な試験ではありません。
⑷ 受験資格
年齢,性別,学歴等関係なく,誰でも受験することができます。
3 おすすめの理由
おすすめの理由としては,宅建試験とほぼ同じです(ただし,行政書士試験の方が宅建に比べ,難易度が高いことから法律の入門資格としてはハードルが高く,まずは宅建試験を受験すべきだと考えます)。また,行政書士の業務は多岐に亘るため,司法書士と兼業するメリットが大きいこともおすすめの理由です(特に地方)。例えば,司法書士と行政書士を兼業している場合,建設業等の営業許可が必要となる会社の設立登記や目的変更の登記の依頼を受けたときには,まず司法書士として,会社の設立登記や目的変更の登記を申請し,登記完了後,行政書士として,これらの営業の許認可の申請手続をも併せてすることができるので,司法書士としての業務の幅が拡がるわけです。


おすすめ資格第3位:土地家屋調査士(測量士補を含む)

1 土地家屋調査士とは?
「土地家屋調査士」とは,土地家屋調査士法に基づく国家資格であり,他人の依頼を受けて,不動産の表示に関する登記について必要な土地や家屋に関する調査・測量・図面の作成,申請手続の代理を業とする,非常に高度な技術を有する測量・図面作成と不動産の表示に関する登記の専門家です。土地を分筆あるいは合筆した場合の登記,農地が宅地になった場合の地目変更登記,建物を新築した場合の表題登記が土地家屋調査士の主な仕事です。
土地家屋調査士の仕事をするためには,土地家屋調査士試験に合格し,開業しようとしている事務所の所在地の都道府県土地家屋調査士会を経由して,登録の申請を行い,日本土地家屋調査士会連合会の土地家屋調査士名簿に登録される必要があります(この登録の手続と同時に都道府県土地家屋調査士会に入会することになります)。
2 土地家屋調査士試験
⑴ 試験科目
① 民法(3問)
主として,総則,物権,親族・相続から出題されます。

② 不動産登記法(16問)
不動産登記法については,司法書士試験が権利に関する登記の部分が出題されるのに対して,土地家屋調査士試験では,表示に関する登記の部分が出題されますので,試験科目としての法律名は同じでも,実質的には共通の試験科目とは言い難いです。
③ 土地家屋調査士法(1問)
④ 土地(1問),建物または区分建物(1問)に関する登記の申請書・図面等の作成
※ 赤字は,司法書士試験と共通の試験科目です。
⑵ 試験の形式
試験は筆記試験(午前の部,午後の部)と口述試験によって構成されています。しかし,筆記試験の午前の部は,測量士(補)や建築士に合格していれば免除されます。そのため,まず比較的容易に取得できる測量士補試験を受験,合格し,午前の部の試験の免除を受けて,午後の部だけを受験するのが一般的です。
そして,午後の部の試験内容は,多肢択一式20問(50点満点)と,記述式2問(50点満点)からなります。試験時間は2時間30分です。
⑶ 難易度
 土地家屋調査士試験の過去10年間の合格率は7.71%~8.92%で,合格点は64~70点(100点満点)です。ちなみに,2017年度の合格率は8.69%です(受験者4600人のうち合格者400人)。
⑷ 受験資格
年齢,性別,学歴等関係なく,誰でも受験することができます。
3 おすすめの理由
おすすめの理由としては,主に司法書士と兼業するメリットが大きいことです(特に地方)。司法書士と土地家屋調査士は,業務の住み分け(土地家屋調査士が表題部登記を担当し,司法書士が権利部登記を担当します)がなされており,業務がバッティングすることはありません。例えば,司法書士と土地家屋調査士を兼業している場合において,BさんからAさんの所有地の一部を購入したいという相談があった場合を考えてください。登記手続上,一筆の土地の一部を売却することはできませんから,まず,Aさんから依頼を受け,土地家屋調査士として,その土地を測量し,分筆の登記を申請します。それから,AさんとBさんから依頼を受けて,司法書士として,分筆された土地の売買による所有権移転登記の申請をします。このように,2つの資格があれば,司法書士としての業務の幅が拡がるわけです。さらに,この例で,行政書士も兼業していて,土地が農地であった場合には,所有権移転のための農地法の許可申請をも行うことができますから,「最強」と言って良いでしょう。


まとめに代えて

今回は,番外編「その他の資格取得のおすすめ~司法書士受験生よ,隣接資格に貪欲になれ!」というテーマで司法書士の隣接資格として3つの資格を紹介しました。隣接資格を受験することで,司法書士試験へのステップ・アップを図ることもできると思います(試験慣れや合格体験による自信)。また,本文中にも書きましたように,隣接資格を取得し,これらの業務を兼業することによって,司法書士としての業務の幅が拡がります。
司法書士試験の前後で,お時間があるときには,これらの隣接資格の受験も積極的に(貪欲に)検討してみてはいかがでしょうか。