【司法書士】
司法書士と社会問題~空き家問題①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 30℃を超える晴天の暑い日の翌日が,20℃の涼しい雨の日になるなど,今年は寒暖の差が激しい天候が続きます。このような天候では,いくら気をつけても体調を崩してしまうこともあります。体調を崩してしまったときには,いかに早く回復させるかを工夫してみてください。心身とも最高のコンディションで,本試験の日を迎えられるようにしたいものです。

 さて,今回から,近年,社会問題として顕在化しつつある,いわゆる「空き家問題」について,初歩的なことから話を進めたいと存じます。

1 「空き家問題」について

⑴ 「空き家」の定義とその類型

「空き家」とは,一般に,人が住んでいない住宅のことをいいますが,この「空き家」には,その状態により,次の4つの類型があります(総務省の「平成 25 年住宅・土地統計調査」での「空き家」4類型)。

①  二次的住宅
イ 別荘
週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で,ふだんは人が住んでいない住宅
ロ その他
ふだん住んでいる住宅とは別に,残業で遅くなったときに寝泊まりするなど,たまに寝泊まりしている人がいる住宅
② 賃貸用の住宅
新築・中古を問わず,賃貸のために空き家になっている住宅
③ 売却用の住宅
新築・中古を問わず,売却のために空き家になっている住宅
④ その他の住宅
上記以外の人が住んでいない住宅で,例えば,転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など


この中で,「空き家問題」として社会問題化している「空き家」は,④です。④は,他の「空き家」に比べ,建物の保守や維持管理をする動機が弱く,これらがなされないまま,放置されることによって,様々な問題を生じさせてしまいことになります。

⑵ 「空き家問題」を引き起こす「空き家」とは?

⑴④の「空き家」であっても,すべての「空き家」が「空き家問題」を引き起こしているわけではありません。たとえ,人が日常的に居住しない「空き家」であっても,定期的に建物・庭木の保守や維持管理がなされていれば,「空き家問題」を引き起こす可能性は少ないでしょう。これに対して,「空き家問題」を引き起こす「空き家」とは,人が日常的に居住しない状態が長期化し,また,定期的な建物の保守や維持管理がなされていないものです(いわば「放置された空き家」。以下,単に「空き家」という)。以下,この放置された「空き家」について話を進めて参ります。

⑶ 「空き家」が生じる直接的な原因

「空き家」が生じる直接的な原因には,次の原因があります。
① 転勤
② 利便性の高い土地への引っ越し
③ 入院や老人ホームへなどの施設への入居
④ 解体のため居住者の引っ越し
⑤ 住宅に住んでいた親の死亡後子が建物を相続したもののそのまま放置していること

そして,①~⑤の原因のうち,⑤の原因が圧倒的に多く,生じる「空き家」の半数以上を占めるというデータもあります(国土交通省「平成26年空家実態調査」)。つまり,相続(住宅の居住者の死亡)によって,「空き家」が生じるケースが最も多いということになります。

⑷ 「空き家」が増加する原因

① 高齢化社会の進行
 「空き家」が増加する理由として,「空き家」の所有者の高齢化が挙げられます。所有者が高齢になると,体力的に「空き家」を保守や維持管理することが難しくなります。また,居住地の近くであれば,まだしも,遠隔地に「空き家」がある場合は,「空き家」の保守や維持管理がますます難しくなります。
そして,「空き家」の所有者である高齢者が死亡した場合,一般的には,その子供が,「空き家」を相続することになります。しかしながら,子供もすでに住宅を持っている場合には,親の所有していた「空き家」(親が死亡によって「空き家」になった住宅を含む)の多くは,「空き家」のまま放置されがちです。⑶の「空き家」が生じる原因とも符号します。

② 老朽化した「空き家」の処分が困難
 「空き家」の多くは,すでに老朽化しており,そのままでは住めない建物が多いといわれています。また,「空き家」のおよそ4分の3(74.6%)が,昭和55年以前の旧耐震基準以前に建築された建物です(国土交通省 平成26年度空家実態調査 集計結果報告書)。
このような「空き家」は,災害時に倒壊するおそれがあり,倒壊して直接的に人的被害が生じた場合,「空き家」の所有者は,民法上の所有者責任を負うことになります(民法717条1項ただし書)。そのため,賃貸にも出せませんし(仮に出したとしても借り手がない),売却するにしても,買い手がない場合がほとんどです。仮に,買い手があったとしても,「空き家」を解体して土地のみを利用するというのが購入の前提となる場合がほとんどであり,解体費用を差し引いた売買代金を呈示されることから,「空き家」の所有者が納得できる価格で売却することは極めて困難であるのが現状です。

③ 我が国の新築住宅信仰?
 我が国では,戦後の住宅難を解消すべく,住宅の建設には,税法(登録免許税(租税特別措置法),固定資産税の一定期間の課税猶予,住宅ローン減税など)や住宅建設のために借入れをした場合の金利の優遇(旧住宅金融公庫などからの低利融資,財形など)など,政策的にさまざまな特典が与えられてきました。これらは,戦後から高度経済成長期までは,人口増による住宅需要や持ち家志向の高まりと相俟って,時代にあった政策として,受け入れられ,住宅難の解消も進みました。また,新築住宅の増加と購入者の増加の均衡がとれており,住宅需要に合致した住宅建設となっていました。しかし,現在のように,少子高齢社会が進み,人口が減少し,住宅需要が減少しているにもかかわらず,なお,住宅建設による経済効果への期待や景気刺激策の一環として,新築住宅に対する減税等の優遇措置は続けられています。そのため,住宅の需要が減少しているにもかかわらず,いわば,需給バランスを無視したかたちで,いまだに住宅が数多く建設されています。そのため,市場に出回る新築住宅の数が中古住宅の数を超えています。また,数少ない購入者も,新築物件と中古物件を比較して,新築物件を購入した方が税金等の面で得になるということであれば,どうしても新築物件を選びがちです。その結果,中古物件の需要は低迷し,ますます「空き家」を増やしてしまうことにつながってしまっています。

⑸ 「空き家」の解体が進まない理由(=「空き家」が増加する理由)

「空き家」は解体されれば,「空き家」ではなくなりますが,現状は,「空き家」の解体は思うように進んでいません。むしろ,「空き家」は年々増加しています。その理由としては,次のものが指摘されています。
①  経済的理由
現在の固定資産税の制度では,住宅のある土地の固定資産税は,住宅用地として軽減されるため,建物を解体して土地を更地にしてしまうと,結果として固定資産税が大幅に増税されてしまうことがその理由としてあげられています(固定資産税が最大4倍程度に増税される)。また,近年,建物解体費用が高騰していることも理由に挙げられます。高い解体費用をかけて,建物を解体しても,固定資産税が数倍に増税されるのでは,積極的に「空き家」を解体しようとする人はいないのも無理からぬことだと思われます。

② 法律上の理由
築年数のある古い「空き家」は,現行の建築基準法施行以前に建てられ,建て替えが認められない土地に建っているものが多数あります。建て替えができないため,「空き家」を解体すると,その土地には二度と住宅を立てることができなくなってしまいます。これに対して,建物の一部が残っていれば,改築という理由で大規模なリフォームが可能です。つまり,「空き家」を解体して更地としてしまうと,もはや宅地として利用することができなくなってしまいます。そのため,①の理由と相俟って,「空き家」を放置することが多いようです。

③ 所有者の主観的理由
現在は居住していなくても,長年居住していた,あるいは,結婚するまで居住していた,実家であったという想い出がある場合のように,「空き家」に,経済的価値を超えた主観的な思い入れがある場合,①②の理由と相俟って,解体を躊躇してしまう方が少なくないようです。

⑹ なぜ「空き家」が社会問題化するのか

「空き家」が,社会問題化する理由として,次のものが指摘されています。
①  防災上・安全上の理由
建物は,人が居住していないと,換気・通水がなされないので,老朽化が急速に進行しやすくなります。老朽化は,建物内部だけの居住部分だけの問題ではありません。屋根瓦の落下や外壁の剥落のほか,雨漏りや浸水,白アリ等害虫の発生により,木造部分の腐食など建物の躯体(くたい)部分の弱体化を招き,地震,台風,大雪などの自然災害で倒壊する可能性が高くなります。倒壊により,直接的な死傷者が出るおそれや,道路を塞いで救急車両の通行を妨げるなど,災害時の避難や救援などに支障を来すおそれもあります。

②  防犯・治安上の理由
「空き家」は,管理の行き届かないことをよいことに,不審者が出入りするなど,不法侵入や不法占拠(アジト化)されるおそれがあります。「空き家」の中で犯罪が行われることも十分に考えられます。また,「空き家」が放火の対象となり,放火による近隣を巻き込んだ大規模な火災などの発生も懸念されます。このように,「空き家」は犯罪の温床となるおそれがあります。

③  衛生上・景観上の理由
「空き家」の壁・塀への落書きは地域の景観を害します。また,「空き家」の庭が管理されないことにより,「空き家」は蔦が絡まり,地域の景観を乱すばかりか,生い茂った庭木や雑草などを住み家とする,蚊・スズメバチなどの害虫の発生によって,近隣へ害虫被害が拡散するおそれがあります。同様に,「空き家」は,野良猫,害獣(ネズミ・ハクビシンなど)の侵入をも許し,これらが増殖する結果,近隣へもその被害が拡散するおそれがあり,衛生上の問題も懸念されます。人目がつかないということで,ゴミの不法投棄がなされるおそれもあります。

④  社会インフラの維持の問題
「空き家」の増加は,その地域の人口が減少することを意味します。人口の減少により,その地域の魅力や活力が低下するにとどまらず,道路や水道,電気,鉄道,バス,飲食店,ショッピングセンターといった社会インフラを維持することさえ困難になるおそれがあります。

このように「空き家問題」は,その「空き家」およびその所有者だけの問題にとどまらず,近所や近隣の住宅・居住者ひいては社会インフラの維持に至るまで,地域社会に広く悪影響を及ぼすおそれがあることから,全国的な社会問題となっているのです。

次回は,さらに「所有者不明土地」の問題や,「空き家」問題の解消,「空き家問題」への司法書士の取組みなどを述べる予定です。