【司法書士】
司法書士と社会問題~空き家問題②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 晴れれば猛暑,雨なら梅雨寒と極端な天候が続いております。受験生の皆様におかれましては,体調の管理に悩まれていることと拝察します。本試験の日も目前に迫りました。もう少しの辛抱です。心身とも最高のコンディションで,本試験の日を迎えられ,日頃の実力をいかんなく発揮され,合格を勝ち取ることを祈っております。秋の朗報をお待ちしております。がんばってください。

さて,今回も「空き家問題」の続きについて,話を進めたいと存じます。

2「所有者不明土地」の問題

⑴ 「所有者不明土地」の定義と具体例

 「所有者不明土地」とは,「不動産登記簿等の所有者台帳により,所有者が直ちに判明しない,または判明しても所有者に連絡がつかない土地」をいうこととされています(国土交通省「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」の部会における定義)。具体的には,次のような土地を指すこととされています。

所有者の探索を行う者の利用できる台帳が更新されていない,台帳間の情報が異なるなどの理由により,所有者(登記名義人が死亡している場合は,その相続人も含む。以下同じ。)の特定を直ちに行うことが難しい土地
所有者を特定できたとしても,転居先が追えないなどの理由により,その所在が不明である土地
登記名義人が死亡し数代にわたり相続登記がされていないなど,相続人が多数となっており,その所在の探索が困難となっている土地
所有者の探索を行う者の利用できる台帳に,全ての共有者が記載されていない共有地
(例:不動産登記簿の所有者欄に「山田 太郎 外10名」との記載しかない場合等)


 そして,民間研究機関会の推計では,全国の所有者不明土地の地積は,平成28年時点で九州より広い約410万ヘクタールも存在するという驚異のデータがあります(全国の所有者不明率20.3%)。直近では,兵庫県は,平成30年6月11日,2016年度の地籍調査で5万8535筆のうち,22%に当たる1万2829筆の土地が,所有者不明になっていたことを明らかにした旨が報道されています。

⑵ 「所有者不明土地」が生じる原因

① 相続
 一般的には,土地所有者が死亡すると,相続人により,相続を原因とする所有権移転登記(以下,「相続登記」といいます)の申請がなされ,実際の土地所有者と登記簿上の土地所有者が合致することになります。しかし,その土地が居住に適せず,また,転売も地方自治体等への寄付もできない無価値な場合には,その土地の相続人は,あえて,登記費用(主に,登録免許税)をかけて相続登記を申請しようとはしないでしょう。また,相続登記(権利の登記)については,登記の申請義務がありません(対抗要件を必要とする者だけが登記をすればよいという考え方です)。そのため,相続登記がされないまま(実際の土地所有者と登記簿上の土地所有者が合致しないまま),長期間放置され,その結果,さらに次の相続等が生じ,権利関係が複雑になり,真の所有者が誰であるか不明な土地が生じてしまうのです。
 また,数次の相続が発生すると,その土地の所有権(持分)を有する相続人が膨大な数になり,権利関係の全容を解明することが困難となります。仮に,全ての相続人を特定できたとしても,これらの相続人の全員の同意がなければ,その土地を処分することができませんので,事実上,手の施しようがない土地が生じてしまいます。

② 転居先不明
 登記簿上の土地所有者が転居しながら,所有者の住所変更登記を申請しないまま,長期間放置されると,土地所有者を特定することが困難になり,所有者が不明である土地が生じてしまいます(除住民票の保存期間は,5年間であるため,これを取得できなくなり,所有者の現住所を調査することが困難となります)。

③ 土地所有者が法人である場合の法人の解散・破産
 土地所有者が法人である場合において,その法人が解散し,あるいは,破産手続開始決定を受け,法人がすでにその実態を有しなくなっている場合も,真の土地所有者が不明となるときがあります。これも,所有者が不明である土地が生じる原因になります。

⑶ 「所有者不明土地」の増加の原因・背景

 日本経済の高度成長が始まった時代から,長い間,土地は必ず値上がりするもので値下がりはしないという,いわゆる「土地神話」が国民の間で信じられてきました。しかし,バブル経済の崩壊以降,土地が値下がりし,もはや「土地神話」も通用しない時代になりました。また,少子高齢化社会の急速な進展から,土地自体の需要が減少し,特に有効利用できない土地,売却できない土地や資産価値のない土地については,誰も見向きもせず,放置されるようになり,これらが次々と「所有者不明土地」化しています。さらに,地方から都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化も原因とされています。将来,いわゆる団塊の世代に相続が生じる時代になると,相続された土地の多くが,「所有者不明土地」化することが必至であるといわれています。

⑷ 「所有者不明土地」の地域性

 「所有者不明土地」は,地方の耕作放棄地や管理がされていない山林などに多いとされてきましたが,最近では,地方だけの問題ではなく,大都市圏,特に東京などでも広がり始めています。「所有者不明土地」は,住宅密集地の中にも少なくないとされ,もはや,全国的な問題になりつつあるといっても過言ではないでしょう。

⑸ 「所有者不明土地」は,なぜ社会問題になるのか?

 「所有者不明土地」が,社会問題になるのは,次のような場合です。
広場等として利用の意向がある土地について,約80筆,地権者約40名の土地が相続登記されておらず, 所有者の所在が不明となっているため樹木の伐採等や利用の方針を立てることができないでいる。 土地に家電製品等が大量に投棄されているが,土地所有者の現在の住所が不明で所在が把握できないため,不法投棄か保管をしているか確認ができず,自治体で処分ができないでいる。
公共事業の円滑な実施の妨げ
・公共事業のために取得しようとする用地について,明治時代の登記のまま相続登記がされておらず相続人多数となり,かつ,一部相続人が特定できなかったため,用地の取得に多大な時間と労力を要した。
・公共事業のために取得しようとする用地について,共有地が相続登記されておらず相続人多数となり,相続人の一部が所在不明なため,用地取得が困難となっている。
・公共事業のために使用貸借しようとする用地について,登記名義人が解散した法人となっており,所有者が不明なため,事業着手が困難となっている。
土地の有効活用の妨げ
ゴミの不法投棄
災害時の復旧作業の妨げ
台風被害により崩れた急傾斜地への対策工事について,緊急に実施する必要があるが,相続人多数,かつ,一部相続人の特定ができないため,着手が困難となっている。
防災作業の妨げ
現在,道路が狭隘で消防車も救急車などの緊急車両の通行ができないため,大きな地震や火災が発生した場合に備え,道路の拡幅工事をしようしても,拡幅予定地の所有者が不明であるため,道路の拡幅工事の着手が困難になっている。

3「空き家」・「所有者不明土地」問題の解消のための各界の対策

⑴ 地方自治体による「空き家」対策

 これまでは,「空き家」に関する問題が生じた場合,あくまでも私人間でも問題であるとして,行政として積極的に関わることが難しいとされてきました。しかし,「空き家問題」が表面化し,実際に社会問題化している地方自治体では,条例等により,その解消に取り組むようになっています。
倒壊のおそれのある「空き家」については,撤去を念頭に,空き家所有者に対し指導,勧告,命令,行政代執行を行うことができるとする条例を定める自治体が増えています(平成27年10月1日現在,455の地方自治体が条例を制定済み)。

 その先駆けとなったのは,埼玉県所沢市の「所沢市空き家等の適正管理に関する条例」)(平成22年1月施行)であり,この条例では,所有者に適正管理を義務付けるとともに,実態調査を行い,市が所有者に助言・指導,勧告,命令できるという内容です(改善されない場合は,所有者名を公表)。

 また,東京都足立区では,平成22年に老朽化した家屋の壁面タイルが歩道上に落下した事故を受けて,都内で初めての空き家対策条例である「足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例」(平成23年11月施行。以下,「条例」という)を制定しています。
この条例によれば,区長は,次の行為をすることができるものとされています。

適正な維持管理が行われていない建物その他の土地の工作物(以下「建物等」という。)があると認めるときには,当該建物等の実態調査を行うことができる(条例4条1項)。
建物等が倒壊し,もしくは建築材等を飛散させるおそれがあり,又は不特定の者が建物等に侵入して火災を発生させ,若しくは犯罪を起こすおそれがある(以下「危険な状態」という。条例2条⑴)と認めるときは,建物等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。条例2条⑵)に対し,危険な状態を解消するための措置をとるべきことを指導し,または期限を定めて勧告することができる(条例5条)。
②の指導または勧告に従って措置を行う者に対し,別に定めるところにより助成を行うことができる(条例6条)。
建物等の危険な状態が切迫している場合で,所有者等から自ら危険な状態の解消をすることができないとの申出があったときには,所有者等の同意を得,また,事前に足立区老朽家屋等審議会(条例8条)の意見を聴いた上で,危険な状態を回避するために必要な最低限度の措置をとることができる(条例7条)。


 さらに,利用が可能な「空き家」については,「空き家バンク」を設置・運営している地方自治体もあります。「空き家バンク」とは,地方自治体が主体となって,空き家の登録を募り,主にウェブで物件情報を公開するなどして,買い手や借り手を探し,双方をマッチングさせるシステムです(地方自治体から委託を受けた一般の団体が地方自治体に代わって運営を行うケースもあります)。このシステムにより、「空き家」の減少と有効活用が可能になっています。
 なお,国土交通省では,将来,全国各地の空き家情報を一元化した全国版空き家バンクの構築・始動を目指していると発表しています。

 次回は,「空き家」・「所有者不明土地」問題の解消のための各界の対策として,国または立法上の対策について述べる予定です。