【司法書士】
司法書士と社会問題~空き家問題③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

梅雨の中休みでしょうか?晴れた日は,まるで真夏のような厳しい暑さとなります。
受験生の皆様におかれましては,本試験の受験,本当におつかれさまでした!手応えを感じられた方,あるいは,実力が十分発揮できなかったと感じられた方それぞれいらっしゃることと思います。この時期から筆記試験の合格発表までの間のおすすめの学習は,口述試験の過去問の学習と苦手分野の徹底的な学習です。これらは,夏の時間のあるうちに,取り組んでおきたい学習です。いずれの学習も,合否にかかわらず,将来決して無駄になることはありません。


さて,今回も「空き家問題」の続きについて,話を進めたいと存じます。


⑵ 国または立法上の対策

「地方自治体による「空き家」対策(前回3⑴)」で述べましたように,各地方自治体単位で適切な管理が行われていない「空き家」に対し,既存の法令(建築基準法など)や条例に基づき,地域の実情の応じた「空き家」対策が行われてきました。しかし,全国各地で「空き家」が増加し,これらの「空き家」が全国規模で増加し,社会問題化していることから,国を挙げて総合的かつ計画的な施策を推進する必要が生じました。
そこで,議員立法というかたちで,空き家等(注)への立ち入り調査,空き家の所有者に関する税情報の内部利用のような迅速な「空き家」問題解決のための施策の充実について定めた,「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下,「空家特措法」という)が成立し,平成27年5月26日に施行されるに至りました。


(注)「空家等」とは?
空家等とは,国または地方公共団体が所有しまたは管理するものを除いた建築物またはこれに附属する工作物であって,居住その他の使用がなされていないことが常態であるものおよびその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいいます(空家特措法2条1項)。


空家特措法は,適切な管理が行われていない空き家等が防災,衛生,景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み,地域住民の生命,身体または財産を保護するとともに,その生活環境の保全を図り,あわせて空き家等の活用を促進するため,空き家等に関する施策に関し,国による基本指針の策定,市町村(特別区を含む。以下同じ)による空き家等対策計画の作成その他の空き家等に関する施策を推進するために必要な事項を定めることにより,空き家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的とすることとされています(空家特措法1条)。


空家特措法では,空家等の所有者または管理者は空家等の適切な管理に努めるものとし(空家特措法3条),市町村は,空家等対策計画(空家特措法6条1項)の作成及びこれに基づく空家等に関する対策の実施その他の空家等に関する必要な措置を適切に講ずるよう努めるものとし(空家特措法4条),それぞれに努力義務を課しています。そして,国土交通大臣及び総務大臣は,空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針を定めるものとされています(空家特措法5条)。


また,「所有者不明土地」についても,所有者不明土地の発生の抑制・解消に向けた取組みとして,平成30年6月6日の参議院本会議において,「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」が可決,成立しました。この法律においては,①登記官が,登記名義人が死亡した後,長期間にわたり相続登記等がされていない土地について,亡くなった方の法定相続人など所有権の登記名義人となり得る者を探索した上で,職権で,長期間にわたり相続登記がされていない旨等を登記に付記するなどの不動産登記法の特例を設けたほか,②地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例も設けられています。


4 「空き家問題」・「所有者不明土地問題」と司法書士

⑴ 「空き家問題」・「所有者不明土地問題」における司法書士の役割

① 所有者の特定
土地や建物の「相続」は,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」発生の一番大きな原因となっていることは前述のとおりです。そして,司法書士は,土地や建物の「相続」の登記手続のスペシャリストです。被相続人の戸籍謄本等を取得して,登記簿上の所有者から現在の所有者(相続人)を探し,これを特定する作業は,司法書士の最も得意とするものです。現在の所有者(相続人)から依頼を受ければ,登記所に相続を原因とする所有権移転登記を申請し,土地や建物の実体法上の所有者と登記簿上の所有者を合致させることができます(「空き家問題」・「所有者不明土地問題」の解決等)。相続人も,相続登記の完了によって,土地・建物についての公簿である登記簿に自分の住所・名前が載り,登記識別情報(従前の言い方をすれば,「登記済権利証」)を手にすることによって,所有者としての誇りと自覚が出るものと思われます。


② 管理者の選任または管理者への就任
司法書士は,裁判所に提出する書類の作成もその業務としています。そのため,特定した所有者(相続人)がすでに高齢等の理由で判断能力が十分でない場合には,親族や地方自治体の長から要請を受けて,家庭裁判所への成年後見開始の申立書を作成・提出することができます。また,親族や家庭裁判所等の依頼により成年後見人に就任をすることもできます。さらに,特定した所有者(相続人)のが行方不明である場合には,利害関係人の依頼により,家庭裁判所への不在者財産管理人の選任の申立書の作成・提出することができます。そして,不在者財産管理人に就任をすることもできます(「空き家」や「所有者不明土地」の管理の開始)。


③ 国や地方自治体またはこれに準じる公的機関の取組みへの参加
 各地の公共嘱託登記司法書士協会単位では,すでに,主に地方自治体またはこれに準じる公的機関(以下,「地方自治体」等という)からの要請を受け,再開発にかかる土地や建物の権利関係の調査(現在の所有者の所在調査等)を受託し,実績を積んでいます(「空き家問題」・「所有者不明土地問題」の解消への着手)。また,各地の司法書士会単位では,地方自治体等から要請を受け,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」をテーマとする相談会へ相談員を派遣しています(後述⑤と同じ)。「空き家問題」・「所有者不明土地問題」をテーマとする講演会などがあれば,司法書士はその講師を務めることもできるでしょう。


④ 国や地方自治体等の対策計画の策定や協議会への参画
国や地方自治体等の空き家問題等の対策計画の策定や協議会の発足にあたっては,司法書士はこれらの参画し,相続登記等でこれまで培ってきたノウ・ハウを活かした適切な提言や助言をすることができるでしょう(後述⑤と同じ)。


⑤ 「空き家」・「所有者不明土地」の発生の予防等
日本各地の各司法書士会(または,その支部単位)では,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」の無料の相談会を開催しています。これらの相談会において相談者へ適切な助言・提案等により,すでに「空き家」・「所有者不明土地」になっているものについての解決法を示すことができるのはもちろんのこと,これから「空き家」・「所有者不明土地」になろうとしつつあるものを抑止する効果が期待されます。


⑵ 「空き家問題」・「所有者不明土地問題」に対する司法書士の存在意義等

⑴で述べましたように,司法書士が,所有者の特定や成年後見開始等の申立て,成年後見人等への就任および相談等の諸業務を通じ,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」の解決,解決への道筋をつけること,あるいは少なくともその糸口をつかむことができるでしょう。
このように,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」の解決において,司法書士はその一翼を担う重要な存在であり,非常に高いポテンシャルを秘めているといえます。
平成27年7月,日本司法書士会連合会は,「空き家問題」・「所有者不明土地問題」で司法書士が果たすことのできる役割を周知・徹底させるため,全国1700を超える市町村にチラシを配布すると共に,「全国空き家問題110番」を実施しました。


⑶ 筆者の実務経験など

① 東京公共嘱託司法書士協会における活動・経験
平成28年11月,筆者が所属する東京公共嘱託司法書士協会(以下,「協会」という)から,ある公益財団法人が行う用地取得(「所有者不明土地」)のための所在不明者・権利の調査業務の公募がありました。一体どんなことをするのか,募集要項からは明確にイメージできませんでしたが,つい好奇心が勝り,応募いたしました。幸い,採用され,協会から具体的な業務を任されることとなりました(筆者の担当は法人でした)。協会からは用地取得をすべき土地の場所を明らかにするための法務局備え付けの公図(地図に準じる書面)や,現在の所有者のわかる登記事項証明書,住民票や戸籍謄本を取得するための公益財団法人からの委任状のほか,その土地に関するこれまでの交渉過程等のレポートが送られてきました。作業としては,土地の所有者である法人(主として株式会社)の登記事項証明書を取得し,その代表者(以下,「代表取締役」という)の住所・氏名を調べ,代表取締役の所在を確認するために,その代表取締役の住民票を取得するというものでした。実際,法人の登記事項証明書を取得してみますと,すでに解散の登記がされている法人や破産手続開始決定を受けた後に破産廃止(注)の登記がなされている法人がありました。すでに解散している法人であっても,代表清算人の登記がされていれば,登記事項証明書から代表清算人の住所・氏名が判明します。このようにして調べた代表清算人について,その住所地の市区町村に住民票の請求をしたところ,住民票を取得することができました。また,破産廃止がなされたまま法人の場合には,現在,その法人の財産を処分する権限を有する者がいないことになります。そこで,裁判所に,法人の財産を処分する権限を有する者である清算人の選任の申立をすることになります。申立書式集などを調べながら,利害関係人による清算人選任申立書などを作成しました。残念ながら,公益財団法人側の都合で,年度末をもって,この業務委託が途中で終了してしまいました。任された業務を全うできなかったのは,残念でしたが,多少なりとも「所有者不明土地問題」に関わり,自分の実務経験の幅を拡げることができたのは大きな収穫でした。


(注)「破産廃止」とは?
裁判所は,破産手続開始の決定があった後,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,破産管財人の申立てにより又は職権で,破産手続廃止の決定をしなければならないこととされています。これを破産の異時廃止といいます(破産法217条1項)。これに対して,裁判所が破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,裁判所は破産管財人を選任せず,破産手続開始の決定と同時に,破産手続廃止の決定をしなければならないこととされています。これを破産の同時廃止といいます(破産法216条1項)。筆者が取得した株式会社の登記事項証明書には,前者の破産の異時廃止の登記がなされていました。


② 日常業務での経験~「所有者不明土地」が生じる原因を実感
最近,お客さんから,相続で手に入れた,あるいは,自己所有の地方の土地(ある程度の広さがある土地)を手放したいのだが,どうしたらよいかという相談を受けることが多くなってきました(特に固定資産税や管理費等のランニングコストがある物件の場合は深刻です)。地方自治体に寄付しようとして申し入れをしたが,断れたという方もいらっしゃいました。私が相談を受けた土地は,北海道・栃木県の那須・茨城県(主に山林であり,市街地ではありません)所在のものです。普段,懇意にしている不動産屋さんに売買の仲介を頼んだのですが断られてしまいました。東京・横浜・千葉・埼玉の土地ならともかく,このような地方の土地ですと,買い手がないという理由でした。聞くところによると,仮に売買できたとしても,極めて低額な額(10万円~50万円)になるそうです。お客さんに尋ねると,「いくらでもいいから,とにかく売却してほしい。」と言われました。また,あるお客さんからは,「隣地の所有者を訪ねて,無料で土地を引き取ってもらう約束をした,ついては,贈与による所有権移転登記を依頼したい。」と言われ,仕事を引き受けたこともあります。なお,有料,無償で土地を手放せるのはまだ恵まれた方で,このような土地を専門に扱う宅建業者に,お金を払って土地を引き取ってもらうこともすくないという話も耳にします。


「土地神話」はもはや昔話で,少子高齢化社会とそれに伴う人口減少による土地需要の低下に伴い,これからは,利用できない土地は,無価値,あるいは,負の財産(負動産)となっていくことと思われます。これが,「所有者不明土地」が生じる一因であるということを,最近身をもって実感しています。政府も,管理できない土地の所有権を所有者が放棄できる制度の創設を検討し始めたようです。筆者も微力ですが,一司法書士として,今後も「空き家問題」「所有者不明土地問題」の解決のために社会のお役に立てればと考えています。