【司法書士】
本試験分析~記述式試験(不登法)


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 梅雨明けの便りと同時に猛暑がやってきました。急な暑さで体調を崩された方もいらっしゃるかと思います。猛暑日には,水分のこまめな補給が大切です。水分の補給の際には,一気にたくさん飲むのではなく,少しずつ何回かに分けて飲むのがよいそうです。暑い時は,冷たいものが欲しくなるところですが,常温の飲み物あるいは熱い飲み物を飲むのがよいそうです(夏バテ防止)。また。エアコンの使用による適切な室温の調整,不急不要の外出を控えるなどの対策も有効です。やむを得ない外出の際には,帽子・日傘の利用を徹底してください。さらに,夜は早めに床につき,十分な睡眠をとりましょう。

 さて,本試験を受けた皆様は,すでに本試験の速報会,本試験関係のガイダンスなどに出席され,ご自身の択一式試験の自己採点を済まされているかと思います。これに対して,記述式試験については,答案用紙を持ち帰れないこともあり,受験予備校の模範解答を見ても,ご自身がどのくらいできたのか,記憶がはっきりしないところがあるかと思います。
 そこで,今回は,不動産登記の記述式試験を分析してみることにします。なお,紙面の都合で問題文を載せることができませんので,お手数ながら,本試験問題をご用意いただき,問題を見ながら,読み進めていただけるとありがたく存じます。
 なお,本コーナー執筆後,新たな論点の発見などがあり,訂正をする可能性があることもお含みおきくださいませ(解答速報的に読んでいただけるとありがたいです)。

I 不動産登記法

1 事実関係の要約と問いの内容

第1欄(1)(2)
 株式会社カガワソーラーが,甲土地を購入するにあたり,その前提として甲土地についてする,相続を原因とする所有権移転の登記(被相続人甲山司)と持分全部移転(被相続人甲山昭子)の申請情報(2件)の一定事項(登記の目的,登記原因及びその日付,申請事項,添付情報)を記載させるという問いです。
第2欄(1)
 第1欄(1)(2)の登記完了後,株式会社カガワソーラーが,甲土地を購入したことに伴う売買を原因とする所有権移転の登記の申請情報(1件)の一定事項(登記の目的,登記原因及びその日付,申請事項,添付情報)を記載させるという問いです。
第2欄(2)
 第2欄(1)の登記申請情報と併せて提供する売買を原因とする所有権移転の登記原因証明情報の所定の欄に記載すべき事項を起案し,これを箇条書きで記載させるという問いです。
第3欄(1)
 地役権の承役地である甲土地に,株式会社サンエネルギーが区分地上権を設定したことに伴う地上権設定の登記の申請情報(1件)の一定事項(登記の目的,登記原因及びその日付,申請事項,添付情報,登録免許税額)を記載させるという問いです。
第3欄(2)
 第3欄(1)で設定した地上権に,株式会社B銀行(取扱店 香川支店)が,根抵当権を設定したことに伴う根抵当権設定の登記の申請情報(1件)の一定事項(登記の目的,登記原因及びその日付,申請事項,添付情報,登録免許税額)を記載させるという問いです。

2 答案作成のポイント

第1欄(1)(2)について
 甲土地(別紙1)の登記簿上の所有者甲山司が,平成7年4月10日に死亡したことにより(事実関係1),妻甲山治子,長男甲山一郎,長女甲山昭子,二女乙川和子が相続したものの,その登記前に長女甲山昭子が平成15年7月15日に死亡し(事実関係2),直系尊属である母甲山治子が相続しています(数次相続)。また,被相続人につき,いずれも遺言書の作成や遺産分割協議はなされていません(事実関係10)。したがって,(1)でいったん甲山司についての法定相続分のとおりの相続の登記を申請し,(2)で長女甲山昭子についての法定相続分のとおりの相続の登記を申請することになります(事実関係9)。

ここでのポイントは,次のとおりです。
① 登記原因が異なり,かつ,中間の相続人が1人ではないので,申請情報が2件となること。
② (1)の申請事項に記載すべき相続人としては,死亡した長女甲山昭子を記載するが,その登記の申請人は甲山治子であるため(相続人による申請,不動産登記法62条),「6分の1 亡甲山昭子 上記相続人甲山治子」と記載すること。
③ ②の申請人甲山治子は成年被後見人であり,成年後見人として乙川平太が就任しているため(事実関係4,別紙4),実際の登記の申請((1)と(2)の両方共)は,成年後見人乙川平太が甲山治子に代わって行うこと(司法書士に委任すること)。
④ ③における成年後見人である乙川平太の代理権限を証する書面として,成年被後見人甲山治子に係る登記事項証明書(エ・別紙4)を添付すること((1)と(2)の両方)。
⑤ (1)の申請は,相続人による申請であるので,甲山司の相続を証する書面(ア)のほか,甲山昭子の相続を証する書面(ウ)も添付すること。
⑥ (1)の申請情報においては,長女甲山昭子の死亡時の住所を証する書面として,同人の住民票の除票(キ)を添付すること。

※1 (1)の申請情報に甲山司の住民票の除票(オ)(被相続人の同一性を証する書面)を添付することの要否
 甲山司の死亡時の住所は(事実関係)等から,必ずしも明らかではないが,「5 甲山治子は,亡甲山司と婚姻した当初から神戸市北区天神五丁目10番10号に居住している。」との記載(事実関係5)から,その配偶者である甲山司の死亡時の住所は,「神戸市北区天神五丁目10番10号」と推測され,登記簿上の住所「香川市銀座88番地」と死亡時の住所「神戸市北区天神五丁目10番10号」は同一でない可能性が高い。また,甲山司の本籍も明らかではないが,後見登記事項証明書「【氏名】甲山治子(中略)【本籍】神戸市天神五丁目10番」との記載(別紙4)から,その配偶者である甲山司の死亡時の本籍は,「神戸市天神五丁目10番」と推測され,登記簿上の住所は本籍とも同一ではない可能性が高い。実務上は,このように死亡時の住所または本籍(転籍した場合の過去の本籍でもよい)と登記簿上の住所が一致しない場合,被相続人の同一性を証する書面として,住民票の除票のほか,戸籍の付票,登記済証(登記識別情報)等を申請情報と併せて提供する。そう考えると,少なくとも,被相続人の同一性を証する書面として,(1)の申請情報に甲山司の住民票の除票(オ)の添付を要するものと考えられる。もっとも,試験ではここまでの理解や検討は求められていないものと思われるが…。

※2 (2)の申請情報に甲山昭子の住民票の除票(キ)(被相続人の同一性を証する書面)添付することの要否
 甲山昭子については,(1)の申請情報の添付情報(住所を証する書面)として,住民票の除票(キ)を提供することから,その住所が登記簿に記録される。したがって,(2)の申請情報には,被相続人の同一性を証する書面として,その住民票の除票(キ)を添付する。

第2欄(1)について
株式会社カガワソーラーは,甲土地(別紙1)の共有者甲山治子,甲山一郎および乙川和子(以下,「売主」という)との間で,平成30年4月25日付けで甲土地を購入する旨の契約を締結しています(事実関係12,別紙5)。乙川平太は,平成30年4月25日までに,甲山治子の成年後見人として,必要な関係機関および関係当事者の許可または同意を得ています(事実関係13)。また,この売買契約書によれば,「本件土地の所有権は,買主が上記売買代金の全額を支払い,売主がこれを受領した時に,売主から買主に移転する」旨の所有権移転時期の特約があります(売買契約書第2条第2項)。そして,平成30年5月10日,株式会社カガワソーラーは,売買契約書(別紙5)記載の売買代金600万円全額を売主に支払い,売主はこれを受領しているので(事実関係14),同日付けで甲土地の所有権が売主から株式会社カガワソーラーに移転しています。

ここでのポイントは,次のとおりです。
① 登記の目的が「共有者全員持分全部移転」となること(正確には「所有権移転」ではない。もっとも,「所有権移転」と書いても減点は軽微なものと考えられる)。
② 登記原因の日付は,すなわち,所有権移転日は,売買代金が売主に支払われ,売主がこれを受領した「平成30年5月10日」となること(売買契約の締結の日付(平成30年4月25日)ではない)。
③ 甲土地は,成年被後見人甲山治子の居住用不動産ではないため(事実関係5・6),その売買について家庭裁判所の許可を得ることを要しない(民法859条の3)。しかし,成年被後見人甲山治子には,後見監督人民事大介が就任しているので(事実関係4・別紙4),後見人乙川平太が甲土地を売買するには,後見監督人民事大介の同意を得なければならないこと(民法864条,13条1項3号)。 ④ ③を証するため,添付情報として「ヒ(後見監督人民事大介のもの)」を提供しなければならないこと(不動産登記令7条1項5号ハ)。

第2欄(2)について
 売買による所有権移転の登記原因証明情報の起案,すなわち,別紙6「2 登記の原因となる事実又は法律行為」として(X)に記載すべき事項は,次のようになります。
① 売買契約
平成30年4月25日,共有者甲山治子(成年後見人乙川平太),甲山一郎および乙川和子(以下,「売主」という)は,株式会社カガワソーラー(以下,「買主」という)に,本件不動産を売った。
② 後見監督人の同意
①の売買契約については,後見監督人民事大介の同意を得ている。
③ 所有権移転時期の特約
①の売買契約には,本件不動産の所有権は,買主が上記売買代金の全額を支払い,売主がこれを受領した時に,売主から買主に移転する旨の特約が付されている。
④ 代金の支払い
 買主は売主に対し,平成30年5月10日売買代金全額を支払い,売主はこれを受領した。
⑤ 所有権の移転
よって,本件不動産の所有権は,同日,売主から買主に移転した。

 ここでのポイントは,通常の売買による所有権移転の登記原因証明情報に記載すべき事項(①・⑤)のほかに,後見監督人の同意(②),所有権移転時期の特約(③),代金支払い(④)を記載することです。

第3欄(1)
地役権の承役地である甲土地(別紙1)に地役権者(要役地である乙土地(別紙2)の所有者株式会社A電力開発)の承諾を得た上で,株式会社カガワソーラーは,株式会社サンエネルギーに対して,同社が太陽光発電施設を設置し,その所有のための区分地上権を設定しています(事実関係18,別紙7)。

ここでのポイントは,次のとおりです。
① 登記の目的は,「地上権設定」となること(「区分」である旨は書かない。もっとも,「区分地上権」と書いても減点は軽微なものと考えられる)。
② 区分地上権(民法269条の2)では,通常の地上権の登記事項のほか,その目的である地下または空間の上下の範囲も登記事項となること(不動産登記法78条5号)。
③ 地代またはその支払時期の定めは地上権の本質的要素ではないが(民法266条参照),これらを定めた時は,登記事項となること(不動産登記法78条2号)。
④ 区分地上権は,第三者がその土地の使用または収益をする権利を有する場合においても,その権利またはこれを目的とする権利を有する者の承諾があるときは,設定することができ(民法269条の2第2項前段),その登記の申請情報には,その者の承諾があったことを証する情報を要するため,添付情報として「ヒ(株式会社A電力開発のもの)」を提供しなければならないこと(不動産登記令7条1項5号ハ)。
⑤ 区分地上権設定の登録免許税は,不動産の価額〔事実関係に関する補足7〕37万5,600円の1000分の10となること(金3700円)。

第3欄(2)
 株式会社サンエネルギーが太陽光発電施設所有のために設定した区分地上権に対し,株式会社B銀行が根抵当権を設定しています(事実関係19,別紙8)。
ここでのポイントは,次のとおりです。
① 乙区1番で区分地上権が設定されて,それを目的とする根抵当権を設定していることから,登記の目的は,「2番地上権根抵当権設定」となること。
② 債務者が,株式会社カガワソーラーと株式会社サンエネルギーであること(別紙8)。
③ 債務者である株式会社カガワソーラーと株式会社サンエネルギーについては,申請人ではないことから,申請事項として,本店をそれぞれ記載しなければならないこと(答案作成に当たっての注意事項1(2)参照)。
④ 根抵当権者である株式会社B銀行の取扱支店は,香川支店であるため,根抵当権者の名称のほか,(取扱店 香川支店)をも記載すること(事実関係19,別紙8)。
⑤ 地上権を目的とする根抵当権であっても,その設定の登記の登録免許税は,極度額である金5,000万円の1000分の4となること(金20万円)。

3 まとめ

 答案に書くことが求められた各申請情報の内容は,地上権(区分地上権)を設定する登記を除き,すでに学習済みの基本的なものがほとんどだったといえましょう。受験予備校の模範解答を見て,「あれっ,こんなものだったか」と思われた方も多かったのではないでしょうか。全く手も足も出ないという問題はなかったと思います(まだ,予想の域を出ませんが,平均点は割と高いのではないでしょうか)。
しかしながら,短い試験時間の中で,全く関係のない情報を含む大量の情報を与えられ,そこから答案作成に必要なものだけを読み取り,答案にまとめる作業は,非常な困難が伴うものということは,筆者も問題を解きながら強く感じました。
 今年のような問題の対策としては,とにかく問題を解くことに慣れることだと思います(もっとも,その前提として民法(実体法)の十分な理解が必要であることはいうまでもありませんが)。今年の問題と同じような問題を数多く解き,いかに短時間で正確な答案を書くことができるようになるかの訓練をしてみるといいでしょう。
 問2の登記原因証明情報の起案は,不動産登記の実務経験のある方に圧倒的に有利な問題だったと思います。多少のひねりはあるものの,典型的な売買の登記原因証明情報です。筆者も,ここだけは自信を持って書けました(笑)。もっとも,どのような事実や法律行為によって所有権が移転したのか(民事訴訟法でいうところのいわゆる「要件事実」)については,理詰めで考えれば解答は可能だったと思います。決して解けないほど難しい問題ではないはずです。
 それから,これまでの本試験の不動産登記法の記述式問題は,所有権・抵当権・根抵当権からの出題がほとんどでした。しかし,これからは,信託,用益権や担保物権(抵当権・根抵当権を除く)からの出題も十分あり得るものと思われます。そのため,日頃から,これらの登記の基本的な申請情報のパターンを押さえておき,書けるようにしておくべきでしょう。今年,地上権の設定の出題を見て,頭が真っ白になってしまった方には,特にそのことを申し上げたいです(一度こういう状態になると,できる問題もできなくなってしまい,ダメージが大きいです)。

 次回は,商業登記法の記述式試験を分析してみましょう。