【司法書士】
本試験分析~記述式試験(商登法)


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 このたび,数十年に一度とよばれる西日本を襲った豪雨(平成30年7月豪雨)は,政府が激甚災害に指定するなど,その被害には甚大なものがあったとの報道がなされています。テレビでは,ショッキングな映像が多々流れました。災害の犠牲なった方々には,心よりお悔やみ申し上げますと共に,被災地の1日も早い復興をお祈りしております。

 さて,今回は,商業登記の記述式試験を分析してみることにします。なお,紙面の都合で問題文を載せることができませんので,お手数ながら,本試験問題や解答例をご用意いただき,これらを見ながら,読み進めていただけるとありがたく存じます。
 なお,本コーナー執筆後,新たな論点の発見などがあり,訂正をする可能性があることもお含みおきくださいませ(解答速報的に読んでいただけるとありがたいです)。


Ⅱ 商業登記法

1 出題の概要

第1欄(問1)
 会社継続,取締役,代表取締役及び監査役の変更,取締役会設置会社の定めの設定,監査役会設置会社の定めの設定および支配人の選任について,登記申請書に記載すべき,【登記の事由】【登記すべき事項】【登録免許税額】【添付書面の名所及び通数】を問うもの。
第2欄(問2)
 株式無償割当て,取締役及び代表取締役の変更,支配人の代理権消滅について,登記申請書に記載すべき,【登記の事由】【登記すべき事項】【登録免許税額】【添付書面の名所及び通数】を問うもの。
第3欄(問3)
 登記することができない事項(株式の譲渡制限に関する規定の廃止)とその理由を問うもの。
第4号(問4)
 問3の登記することができない事項があった場合において,改めてその登記をするため,後日臨時株主総会を開催して議案の承認決議によって直ちにその事項の効力を生じさせようとするときに,司法書士が株式会社の代表者に対し,当該株主総会において,どのような議案を決議すべきであると提案すればよいか,法令遵守の観点も踏まえ,その決議すべき議案を問うもの。


2 答案作成のポイント

第1欄(問1)について
 会社継続と取締役及び代表取締役の就任は,必ずセットになるものであり,特に難しい論点はありませんでした。しいて,申し上げるとすると,代表取締役を選定する取締役会の議事録には,出席者は必ず市区町村に登録した印鑑を押印し,押印した印鑑につき市町村長の作成に係る印鑑証明書を添付しなければならないということでしょうか(先例昭43.2.16-303)。もっとも,「別紙4の取締役会議事録には,取締役及び監査役の全員につき市町村に登録された印鑑が押されている。」とヒントが書いてあるので,間違える方は少なかったのではないでしょうか(別紙8の4)。
 また,「監査役の任期は,選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」旨の定款19条1項の規定(別紙2,会§336)は,清算株式会社の監査役については,適用されません(会§480Ⅱ)。しかし,平成30年5月30日開催の臨時株主総会において,会社継続と共に監査役の任期に関する定款の規定の変更の決議もなされ,「監査役の任期は,選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」旨が定められたことにより,この変更後の監査役の任期に関する定款の規定が,現任監査役C(平成22年2月26日重任)にも適用され,現任監査役Cは,平成30年5月30日開催の臨時株主総会の当該定款変更時で退任します(先例平18.3.31-782,昭35.8.16-146)。そして,同株主総会において,Cは監査役に再任されているため,Cは同日付けで監査役を重任します。定款変更の日をもって退任し,遡って退任するわけではないことがポイントですね。
 取締役会設置会社の定めの設定および支配人の選任も難しい論点はありませんでした。
 第1欄での最大の論点は,社外監査役の要件と監査役会設置会社の定めの設定の可否を問うものです。平成27年5月1日の会社法改正により,社外監査役の要件が厳格化(一部緩和)されました。しかし,社外監査役の要件を記述式問題で訊かれようとは,おそらくどの受験予備校も予想すらしていなかったことと思います。
 特に,G(親会社の会計参与)が,社外監査役の要件を満たすかについては,議論の的となっています(別紙3,別紙8の5)。最も素直な考え方としては,会社法は,社外監査役の要件の1つとして,「当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役,監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。」(会§2⑯ハ)を規定しており,この条文に「親会社の会計参与」の記載がないことから,Gは社外監査役の要件を満たすというものでしょう。また,会計参与がなることができない地位(以下,「欠格事由」という)に,「子会社の監査役」があげられていますが(会§333Ⅲ①),この規定は,親会社の会計参与が子会社の監査役に就任した場合は,その会計参与は欠格事由に該当して会計参与の資格を喪失しますが(注1),それは親会社におけるハナシであって,子会社の監査役の就任そのものの有効性には影響を与えないと解釈すべきであると思われます。この解釈からもGは社外監査役の要件を満たすという結論に至ります。さらに,会計参与の欠格事由についての規定(会§333Ⅲ)を,会計参与と監査役の兼任禁止と考える見解もあります(注2)。もっとも,兼任禁止と解せば,子会社の監査役の就任承諾=会計参与の地位の辞任ということになり,結論は同じということになります。したがって,以上の見解では,Gが社外監査役の要件を満たす結果,監査役4人(C・D・F・G)のうち,DとGが社外監査役であり,半数を社外監査役が占めることとなるため,監査役会設置会社の定めの設定も有効と考えることになりましょう。
 しかし,親会社の会計参与が子会社の監査役となること自体を禁止するという見解も有力です(注3)。この見解は,本試験委員である坂本三郎氏がその著書(注3)で述べているものです。本試験委員の見解どおりに答案を作成して,減点されるということは,おおよそ考えにくいことから,Gは社外監査役の要件を満たず,監査役の半数の社外監査役が存在しないこととなり,社外監査役である旨の登記と監査役会設置会社の定めの設定は登記することができない事項と判断することを誤りと断定することはできないものと思われます(私見ではありますが,減点されない可能性もあると思います)。

(注1)相澤哲ほか『論点解説 新・会社法 千問の道標』P376・396参照。
(注2)江頭憲治郎『株式会社法』(第7版)P552
(注3)坂本三郎『一問一答 平成26年改正会社法』P105参照。

 なお,補助者の方やベテラン受験生の方は,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の規定の登記(とその廃止)に思いを馳せたかもしれません。しかし,①登記簿(別紙1)の株式の譲渡制限に関する規定が,会社法施行前には認められていなかった規定振り(「当会社の株式を譲渡により取得するには,当会社の承認を要する。」)であることから,会社法施行前は公開会社であったものが(整備法のみなし規定(整備§53)の適用はない),会社法施行後任期を10年に伸長するために,新たに株式の譲渡制限に関する規定を設定したとも考えられること(他管轄から本店移転で設定日は不明ですが),②別紙として示された定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の規定がないことから(別紙2),その検討は不要であると思われます。

第2欄(問2)について
 株式無償割当てについては,①自己株式に株式を割り当てないこと,②割り当てる株式は全て新しく発行すること(=自己株式を交付しない)を読み取れれば大丈夫です。
 第2欄での最大の論点は,支配人Bを代表取締役に選定したことでしょう。代表取締役を支配人に選任することはできませんが(先例昭40.1.19-104),支配人を代表取締役に選定することは構いません(先例昭57.2.12-1371参照)。この場合,支配人は代表取締役に選定され,就任承諾をして支配人よりもより広範囲な代表権を有する代表取締役に就任しているのであるから,代表取締役に就任した時点で,代表取締役と両立しない支配人たる地位を辞任する意思表示があったものと解するのが合理的と考えられるからです。ここは,問題が難しいというより,支配人であるBと代表取締役に選定されたBが同一人物であるということに気がつくかどうかがポイントです。それから,ここで悩ましいのは,「支配人の辞任を証する書面」でしょう。「登記申請書の添付書面については,他の書面を援用することができる場合には,これを援用しなければならない」(答案作成に当たっての注意事項2)と指示があるためです。あくまでも,問題文の指示に従って解答しようとすると,「支配人の辞任を証する書面 代表取締役の就任承諾書を援用する」と書くことになりましょう。しかしながら,実務の現場では,このような登記を申請すると,登記所に「辞任届」を別途添付してほしいと言われるような気がするので,その解答については,あくまでも試験問題の解答と考えるしかないのかもしれません。
 また,代表取締役Bについては,再任ではないので(別紙6,別紙1参照),その就任承諾書に押印した印鑑について市町村長の証明書の添付を要します(商登規§61Ⅵ③)。そして,Bを代表取締役に選定した取締役会議事録には,代表取締役Aが登記所に提出している印鑑を押印しているため,出席取締役および出席監査役全員の印鑑証明書を添付することを要しません(商登規§61Ⅵただし書)。これは,当たり前のことかもしれませんが,この当たり前のことが理解できていない受験生の方が大勢いらっしゃいます(筆者が答練などの答案を採点しているとそのことを強く感じます)。
 さらに,取締役Eが,平成30年6月26日に死亡していることから(別紙9),法令または定款で定める取締役の員数(3人)を欠くことになりますが(別紙3),本問の会社では,平成30年5月30日開催の臨時株主総会において,あらかじめ補欠取締役としてH・Iを選任しており,候補者の就任の優先順位は,Hが第1順位とされていることから(別紙3),取締役Eの死亡に伴い,同日付けでHが取締役に就任することになります。ここも見落としてはいけない論点です。また,Hは再任ではなく,登記申請書に印鑑証明書を添付する場合にあたらないため,Hの本人確認証明書を添付しなければならないことも忘れてはなりません(商登規§61Ⅶ)。

第3欄(問3)について
 定款を変更し,株式の譲渡制限に関する規定を廃止することは,公開会社でない株式会社が,公開会社になる定款の変更です。そのため,公開会社ならではの会社法上の規律をクリアしているかという観点から,登記簿や定款の規定を検討しなければなりません。幸い,問4を見ると,「登記することができない事項があった場合,改めてその登記をするため…法令遵守の観点も踏まえ…」とあります。つまり,第3欄の登記することができない事項として,法令遵守の観点から問題のある事項を指摘すればよいことになります。公開会社でない株式会社が公開会社になるときに,まず,注意しなければならないことは,発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍以内になっているかということです(会§113Ⅲ②)。本問では,発行可能株式総数が3,000株であり(別紙1),発行済株式の総数が700株ですので(別紙5,6),発行可能株式総数(3,000株)>発行済株式の総数の4倍(2,800株=700株×4)であることから,このままで株式の譲渡制限に関する規定を廃止することはできないことがわかります。したがって,登記することができない事項は,「株式の譲渡制限に関する規定の廃止」であることがわかります。

第4欄(問4)
 第3欄(問3)がわかれば,第4欄(問4)も自ずと答えが導き出せます。司法書士法務道子は,まず,「株式の譲渡制限に関する規定の廃止のための定款変更に関する議案」と,続いて「発行可能株式総数を発行済株式の総数の4倍以内に減少するための定款変更に関する議案」を提案したものと思われます。ここまでは,問3の解答で導き出せることです。そこで,「株式の譲渡制限に関する規定の廃止のための定款変更に関する議案」が承認可決されれば,現在の取締役および監査役が任期満了により退任することが(会§332Ⅶ③,336Ⅳ④),頭に浮かべたしめたものです。株式の譲渡制限に関する規定の廃止に伴い,現在の取締役(代表取締役)および監査役の全員が退任し,その権利義務を有する者となったままの状態は決して望ましいものではありません(選任懈怠)。そこで,司法書士法務道子は,公開会社となった後の取締役および監査役を選任すべく,「取締役及び監査役の選任に関する議案」をも議案に加えることを提案したものと思うべきでしょう。

3 まとめ

 第1欄および第2欄の登記申請書に記載すべき,【登記の事由】【登記すべき事項】【登録免許税額】【添付書面の名所及び通数】や,第3欄および第4欄については,いずれも基本的な論点であり,書き方がわからないという難解な登記についての出題はなかったものと思われます(もっとも,第4欄のような形式の出題は珍しいので,その形式に戸惑われた受験生の方は一定数いらっしゃったものと推測されます)。
 他方,支配人を代表取締役に選定することの可否や,補欠取締役Hの就任のように,そこに論点があることに気が付かないと全く得点できない性質の出題もみられました。また,親会社の会計参与が子会社の監査役に就任することの可否(社外監査役の要件を満たすかいなか)については,様々な見解があり,現時点では,100%確定的な答えが出せない状況です。今年の商業登記の記述式の試験にはこのような部分もありましたが,問題の難易度から考えると,平均点は意外に高いものと思われます(今のところ,予想の域を出ませんが)。
 今年のような問題の対策としては,まず,基本的な論点を当たり前のように得点する実力を養うことが必要です。これには,基本的な論点を繰り返し訓練し,基本的な論点の理解を確実なものにしておくという学習が欠かせないでしょう(1個の確かな知識は,10個のあやふやな知識に優る!)。
 また,問題に登場する人物(B)が現在どのような地位(支配人)にあり,次にその人物がどのような地位(代表取締役)についたかを丁寧に観察することのできる注意深さが必要です。それから,甲という事実・法律行為の発生(例,取締役の死亡)が,当然に乙という事実・法律行為(例,補欠取締役の就任)を生じさせるという論点があることに,いち早く気付く能力も身につけておきたいところです。これらの論点は,それほど数が多いわけではないので,記述式の問題を解く過程で,それを発見したときには,ノートなどに書きとめ,パターン化して覚えてしまうとよいでしょう。
 それから,商業登記の記述式は,同じような出題傾向が一定期間続くことが多いため,この先も,当面の間は,変更登記を中心とした出題が続くものと思われます。なお,今年は出題されませんでしたが,増資(募集株式の発行,新株予約権の行使など)は,来年以降出題が予想される要注意論点といえます。

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