【司法書士】
民法(相続法)の改正について①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 全国各地で,暑さの厳しい日々が続いております。さすがに,ここまで暑いと,熱中症にならないように気をつけることで精一杯で,なかなか計画どおりの学習をすることは難しいと思います。そういうときは,無理をせず,休憩時間を多くとりながら,少しずつ学習していくしか方法はありませんね。比較的涼しい,早朝や夜間を学習の時間にあてるのもよいと思います。

 さて,去る7月6日,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。以下「改正相続法」という)および法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号。以下,「遺言書保管法」という)が国会で成立し,7月13日に公布されました。


○ 改正相続法の骨子は次のとおりです。
 1.自筆証書遺言の方式の緩和等
 2.遺言執行者の権限の明確化
 3.遺産分割等に関する見直し
 4.遺留分制度に関する見直し
 5.相続の効力等に関する見直し
 6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
 7.配偶者の居住権を保護するための方策

○ 遺言書保管法
 公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設

○ 改正相続法の施行日は次のとおりです(2~7の施行日は予想)。
 平成31年1月13日
  1.自筆証書遺言の方式の緩和
 平成31年4月1日(~平成31年7月12日)(注1)
  2.遺言執行者の権限の明確化
  3.遺産分割等に関する見直し
  4.遺留分制度に関する見直し
  5.相続の効力等に関する見直し
  6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
 平成32年4月1日(~平成32年7月12日まで)
  7.配偶者の居住権を保護するための方策(注2)
  8.遺言書保管法(注3)

(注1)公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
(注2)公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日。民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。以下,「改正債権法」という)の施行と同時に施行される可能性が高いと予想されます。
(注3)公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される可能性が高いと予想されます。改正債権法の施行と同時に施行される可能性が高いと予想されますが,平成32年7月1日に施行される可能性もあります。


 司法書士試験は,試験実施の年の4月1日現在の法律に基づいて出題されます。しかし,会社法が施行されたとき(会社法の施行日は,平成18年5月1日)のように,例外的に4月2日以降に施行される法律も出題の対象となる可能性は否定できません(その場合には,かなり早い時期に法務省から試験範囲に関する告知があるはずです)。
 そうしますと,「1.自筆証書遺言の方式の緩和」は確実に,「2.遺産分割等に関する見直し」~「6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」も平成31年の司法書士試験の民法において,出題される可能性が出てきました。
 そこで,今回から,改正相続法について,平成31年の司法書士試験で出題される可能性の高いものから優先的に紹介して参ります。


1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)

⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和

 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付および氏名を自書し,これに印を押さなければなりません(民法968条)。当然ながら,自筆証書の一部である財産目録も全文自書しなければなりません。しかし,特に,財産が多数ある場合には,全文の自書は,遺言者にとって相当な負担になります。そこで,改正相続法は,全文の自筆を原則としながら(改正相続法(条文の記載においては,以下「新民法」という)968条1項),「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(相続財産に属しない権利。民法997条1項)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。」旨の規定を新設しました(新民法968条2項前段)。この規定の新設により,パソコンで作成した財産目録や通帳のコピーを添付したものを自筆証書と一体のものである相続財産の全部または一部の目録として添付することができるようになり,遺言者の自筆証書遺言の作成の負担を大幅に軽減する効果が期待できます。
 なお,偽造や変造を防止するため,「この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならない。」旨も規定しています(新民法968条2項後段)。

⑵ 遺贈義務者の引渡義務

 現行民法では,不特定物の遺贈義務者の担保責任として,不特定物を遺贈の目的とした場合において,受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,これに対して,売主と同じく,担保の責任を負い(追奪担保責任,民法998条1項),不特定物を遺贈の目的とした場合において,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は,瑕疵のない物をもってこれに代えなければなりません(瑕疵担保責任,民法998条2項)。
 改正債権法では,売買等の担保責任に関する規定について見直しがされています。そこでは,買主等は,目的物が特定物であるか,不特定物であるかを問わず,その種類および品質等に関して契約内容に適合する物を引き渡す義務を負い,引き渡した物が契約内容に適合しない場合には,売主等に対し,追完請求等をすることができることとされています(不完全履行,法定責任説を否定。改正債権法(条文の記載においては,以下「新民法」という)562条1項・2項)。また,無償行為である贈与においても,贈与者は,契約内容に適合する目的物を引き渡す義務を負うことが前提ですが,その契約において,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,または移転することを約したものと推定することとされています(新民法551条)。無償行為である贈与においても,このような考え方をすうことを考えれば,同じく無償行為である遺贈においても,同様の考え方を採用すべきであるものと考えられます。
 そこで,改正相続法では,贈与の担保責任に関する規定(新民法551条)と遺贈の無償性を考慮して,不特定物についての遺贈義務者の担保責任についての規定(民法998条)を改正し,遺贈の目的となる物または権利が相続財産に属するものであった場合には,「遺贈義務者は,遺贈の目的である物又は権利を,相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては,その特定した時)の状態で引き渡し,又は移転する義務を負う。」旨を定めています(新民法998条本文)。「ただし,遺言者が別段の意思を表示していたときには,その意思に従う。」旨の規定も定めています(同条ただし書)。新民法998条本文の規定は,あくまでも遺言者の通常の意思を前提としたものにすぎませんので,遺言者が別段の意思を表示していたときは,遺贈義務者は,その意思に従った履行をすべき義務を負うことになります。
 また,改正相続法は,「遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは,受遺者は,遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。」旨の規定(民法1000条)を削除しています。これは,改正相続法998条の規定の変更により,遺贈の目的である物または権利が第三者の権利の対象となっていた場合においても,遺贈義務者は,その状態で引渡しまたは権利を移転すれば足り,当該第三者の権利を消滅させる必要がないこととなるためです。

2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)

⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確

 遺言の内容の実現は,本来,遺言者の権利義務の承継人である相続人がこれをすべきものですが,遺言の内容によっては,相続人との利害対立,相続人間の意見の不一致,一部の相続人の非協力などによって,遺言の公正な執行が期待できない場合があります。遺言執行者制度の趣旨は,このような場合に,遺言の内容の実現,すなわち,遺言の執行を遺言執行者に委ねることにより,遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能とすることにあると考えられます。このような趣旨に照らすと,遺言執行者は,遺言者(遺言の効力発生時点では,すでに遺言者は死亡しているため,遺言者の地位を承継した相続人)の代理人としての立場を有し(民法1015条),遺言者の意思を実現することを職務とする者であることから,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するものとされています(民法1012条1項)。
 しかしながら,現行民法のこれらの規定では,遺言執行者の法的地位やその行為の効果が誰に帰属するのか,遺言執行者の責務または遺言執行者にどのような権限が付与されているか必ずしも明確ではありません。そのため,遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合に,遺言執行者と相続人との間で紛争が生じることがあるとの指摘がされていました。また,遺言執行者がいる場合に,遺言執行者と相続人のいずれに当事者適格が認められるかが争われた判例や裁判例も多数存在しています(最判昭31.9.18ほか)。さらに,遺言において遺言執行者の指定がされた場合に,その権限の有無および内容を公示する手段がなく,現行法では遺言執行者が就任した旨および遺言の内容を相続人へ通知すべき規定はなく,実務上,遺言執行者から通知がないことに関して,相続人との間で紛争が生じることがあり,遺言執行者は,就任後にその旨および遺言の内容を相続人に通知することを義務付けるべきであるとの指摘がなされています。
 これらの紛争や訴訟が生じるのも,遺言執行者の責務またはその権限の内容,法的地位および遺言執行者の行為の効果の帰属主体が条文上明確になっていないことがその一因になっているとの指摘もされていました。
 そこで,改正相続法では,現行民法1012条1項に,「遺言の内容を実現するため」との文言を追加し,「遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています(新民法1012条1項)。この文言は,遺言執行者の責務が遺言内容の実現にあることを明らかにするために追加されたものであり,遺言執行者は,遺言内容を実現することを目的として,遺言執行に必要な一切の行為をする権限と法的地位を有することが条文上明確にされました。
 また,現行民法1015条の「相続人の代理人とみなす」の実質的な意味を明らかにし,遺言執行者の行為の効果が相続人に直接帰属することを明確にするため,「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は(=顕名),相続人に対して直接にその効力を生じる」旨の規定を新設しました(新民法1015条)。これは,遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合(例 遺留分侵害額請求(新民法1046条~))にも,遺言執行者としては,相続人の利益のために行動するものではなく,あくまで遺言者の意思を実現するという責務を果たせば足りることも明らかにする意味もあります。そして,この新民法1012条1項,1015条の新設に伴い,「相続人の代理人とみなす」旨の規定(民法1015条)の実質的な意味が明らかにされたものとして,当該規定は廃止されました。
 また,遺言執行者が就職を承諾したときは,直ちにその任務を行わなければならないこととされていますが(民法1007条),この規定に加え,「遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」旨の規定が新設されました(新民法1007条2項)。なお,明文の規定はありませんが,遺言執行者は,遺言の内容のみならず,自らが遺言執行者に就職した旨を相続人に通知すべきであると解されています。

⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い

 現行法上,遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱いについては,「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない」とされています(民法1013条)。そして,相続人がこれに違反する行為をした場合の効果について,判例は絶対的無効であると解しています(大判昭5.6.16)。
 他方で判例は,例えば,遺言者が不動産を第三者に遺贈して死亡した後に,相続人の債権者が当該不動産の差押えをした事案について,受遺者と相続人の債権者とは対抗関係に立つと解しています(最判昭39.3.6)。
 これらの判例の考え方によりますと,例えば,遺贈がされた場合については,①遺言執行者があれば遺贈が絶対的に優先し対抗関係は生じないのに対し,②遺言執行者がなければ対抗関係に立つことになります。しかし,この結論では,遺言の存否および内容を知り得ない第三者に不測の損害を与え,取引の安全を害するおそれがあるとの指摘がされていました。
 そこで,現行民法1013条「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」を改正相続法1013条1項として,遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から,善意の第三者を保護するために,「2 前項の規定に違反してした行為は,無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができない。」旨の規定を加え,相続人による違反行為の効果を絶対的無効とする判例の立場を改めて,善意の第三者には対抗できないこととしました(新民法1013条2項)。そして,この場合の保護要件については,第三者に遺言の内容に関する調査義務を負わせるのは酷であることから,善意であれば足り,無過失は要求されていません。
 さらに,改正相続法では,「3 前二項の規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。」旨の規定も新設しています(新民法1013条3項)。これは,相続人の債権者,相続債権者は,遺言執行者の有無の善意・悪意を問わずに,その権利行使が可能であるとするものです。

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