【司法書士】
民法(相続法)の改正について②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 連日の猛暑がいっこうに止む気配がありません。熱中症での死亡者が出るほどですから,自分だけは大丈夫などと思わず,炎天下での不急不要の外出を避け,水分のこまめな補給,帽子や日傘の利用,エアコンの適正使用を心がけ,熱中症の防止につとめてください。

 さて,今回も前回に続き,改正相続法について,平成31年の司法書士試験で出題される可能性の高いものから優先的に紹介して参ります。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
 ⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
 ⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
 ⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
 ⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,前回①参照)
 ⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
 ⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
 ⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護(以上,今回②)
4.遺産分割等に関する見直し
5.相続の効力等に関する見直し
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
7.配偶者の居住権を保護するための方策

○ 遺言書保管法

⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限

① 特定遺贈がされた場合
 遺言執行者制度の趣旨は,遺言の内容によっては,相続人間の利害対立,意見の不一致,一部の相続人の非協力などによって,遺言の公正な執行が期待できない場合に,遺言の内容の実現,すなわち,遺言の執行を遺言執行者に委ねることにより,遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能とすることにあると考えられています。このように,遺言執行者制度の趣旨に照らし,改正相続法では,遺言の内容が特定遺贈である場合には,遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するものとされました(新民法1012条1項)。また,改正相続法では,「遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる」旨の規定も新設しています(新民法1012条2項)。この規定は,受遺者による遺贈の履行請求の相手方を明確にする点にあり,これによって,受遺者は,遺言執行者がある場合には遺言執行者を,遺言執行者がない場合には相続人を相手方として,遺贈の履行請求をすべきことが,条文上明らかとなりました。

② 遺言で遺産の分割の方法の指定(特定財産承継遺言)がされた場合
 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言(「相続させる」旨の遺言。以下「特定財産承継遺言」という)がなされた場合については,現行民法では,「被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁ずることができる。」旨の規定(民法908条)しかありません。
 そのため,事例や遺言の目的である財産ごとに,遺言執行者の権限の有無が問題になる場合が少なくありませんでした。
 不動産について,「A土地を甲に相続させる。」旨の特定財産承継遺言がなされた場合には,遺言者の死亡により直ちにA土地は甲に相続により承継されたものと解すべきであり(最判平3.4.19),相続人甲は単独で相続を原因とする所有権移転登記の申請をすることができます(不動産登記法63条2項)。この場合,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執行者の職務は顕在化することはなく,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務(権限)も有しません(最判平7.1.24)。これに対し,相続人甲への所有権移転登記がなされる前に,他の相続人乙が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には,「遺言執行者は,遺言執行の一環として,右の妨害を排除するため,右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ,さらには,相続人甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解する。」とされています(最判平11.12.16)。このように,平穏状態においては,遺言執行者の登記申請についての権限が顕在化しない(あるいは当初から否定されている)にもかかわらず,妨害状態が出現したときのように,相続人のみで遺言の内容の実現が困難である場合に限って,遺言執行者の権限が顕在化するという考え方は,遺言執行者の権限を極めて不明確・不安定にするものです。
 特定物(動産や預貯金債権を除く債権)についても,議論はあるものの,ほぼ不動産の場合と同様に考えられてきました。
 預貯金債権についても,それが被相続人名義のものである限り,遺言の執行の余地はありませんが,実務では,金融機関は,遺言執行者からの払戻しに応じています。むしろ,金融機関では,相続人から呈示された遺言書が最後の遺言書であるか否か不明であることを理由に(民法1022条~1025条),責任回避の観点から,相続人からの払戻請求には応じず,遺言執行者からの払戻請求を促す傾向があるようです。
 そこで,改正相続法では,特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限を明確にする観点から,「特定財産承継遺言があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が対抗要件(新民法899条の2第1項)を備えるために必要な行為をすることができる。」旨を規定しました(新民法1014条1項)。遺言の対象財産が不動産のような特定財産である場合には,前記判例が指摘するとおり,当該不動産を相続した相続人が単独で対抗要件を具備することができるため,遺言執行者にその権限を付与する必要はないとも考えられます。しかし,近時,相続時に相続財産に属する不動産について登記がされないために,その所有者が不明確になっている不動産が多数存在することが社会問題となっていること等を鑑み,特定財産承継遺言がされた場合であっても,遺言執行者による単独申請による登記を認める余地を残すべく,条文上「不動産」をその対象(特定の財産)から除外することはしていません。
 また,特定の財産が預貯金債権である場合には,「遺言執行者は,当該共同相続人が対抗要件(新民法899条の2第1項)を備えるために必要な行為のほか,その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。」旨を規定しました(新民法1014条2項本文)。
 ただし,「解約の申入れについては,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。」こととしています(新民法1014条2項ただし書)。
 これは,預貯金の一部のみについて遺産分割方法の指定がされた場合にも全部を解約することができるとすると,遺言執行者が遺言執行に必要な権限を超えて,相続財産の処分権限を認めることになり得ることとなり相当でないからです。具体的には,「1000万円の預金のうち700万円を相続人甲に相続させる。」という遺言の場合,遺言執行者は預金契約全体の解約はできませんが,700万円の払戻しを申し入れることはできることになります。
 なお,「これらの規定にかかわらず,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」こととなります(新民法1014条4項)。上記の規定(新民法1014条2・3項)は,遺言執行者の権限に関する原則的な規律を定めたものにすぎないため,遺言において遺言者が別段の意思を表示した場合には,これらの規定は適用しないことを明らかにしています。

⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和

 現行法上,遺言執行者は,原則として,遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合を除き,やむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができないとされています(民法1016条1項)。しかし,一般に,遺言において遺言執行者の指定がされる場合には,相続人など必ずしも十分な法律知識を有していない者が指定される場合も多く,遺言執行者の職務が広範に及ぶ場合や難しい法律問題を含むような場合には,その遺言執行者において適切に遺言を執行することが困難なときもあり得るとの指摘がされています。また,現在の実務においては,相続人が遺言執行者に選任されることも多いといわれていますが,遺言の内容によっては,遺言執行者の職務とされた行為のうち,その一部については,他の利益相反の関係に立つため,その相続人に遺言執行者の職務を行わせるのが相当でない場合や,遺言執行者が一部の相続人と対立関係にあるためにその相続人の利益となる行為を適切に行うことを期待することができない場合があるとの指摘もされています。
 そこで,改正相続法では,「遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」旨を定め,遺言執行者の復任権の要件を他の法定代理人(民法106条後段)の復任権の要件と同じとすることにより,これを緩和しています(新民法1016条1項)。この規定の新設により,遺言執行者は,やむを得ない事由がなくても,復代理人を選任することができることとされました。また,「第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。」と定め,遺言執行者は,復代理人を選任することにつき,やむを得ない事由があるときには,他の法定代理人の規定(民法106条1項,105条1項)と同様に,復代理人の選任および監督を怠った場合に復代理人の行為から生じた損害を賠償する責任を負えばよいこととされました(新民法1016条2項)。

3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)

⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護

 現行法上,遺留分減殺請求権の法的性質は,形成権(物権的効果説)である解されています(通説)。そのため,この見解によると,遺言者の遺言や贈与により,遺留分の侵害を受けた者が,遺留分減殺請求権を行使することにより,物権的効果として,遺贈または贈与は遺留分を侵害する限度において失効し,受遺者または受贈者(以下,「受遺者等」という)が取得した権利は,その限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属することになります。つまり,減殺の対象となるすべての遺産については,受遺者等と遺留分権利者との共有関係が当然に生じることになります(最判昭51.8.30参照)。
 このような現行法上の遺留分減殺制度は,例えば,被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため,家業である株式会社の株式や店舗等の事業用の財産をその者に遺贈し,または相続させても,遺留分減殺請求権の行使により株式や事業用の財産が他の相続人との共有となる結果,これらの財産の処分が困難になるなど,事業承継後の経営の支障になる場合があるとの指摘もされています。また,遺留分減殺請求権の行使によって生じる共有割合は,目的財産の評価額等を基準に決まるため,通常は,分母・分子とも極めて大きな数字となるなど,受遺者等と遺留分権利者との複雑な共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになるとの指摘がされています。さらに,現行の遺留分制度は,遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており,その目的を達成するためには,必ずしも物権的効果まで認める必要性はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分ではないかとの指摘もれています(実務において,遺留分減殺請求権がなされた場合に,受遺者等の多くが金銭の支払いをもってこれに応じていることも影響しているとの指摘もあります)。
 そこで,改正相続法では,遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重し,かつ,遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずることを回避するため,遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の運用を見直し,「遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」旨の規定を新設しました(新民法1046条1項)。この遺留分を侵害した財産の額(以下,「遺留分侵害額」という)に相当する金銭の支払いを請求することができる権利を,「遺留分侵害額請求権」といいます。この遺留分侵害額請求権は,あくまでも,遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる権利です。そのため,遺留分権利者が,この権利を行使した場合,受遺者等は,必ず金銭をもって当該額について支払いをしなければならず,遺贈や贈与によって取得した財産を返還することによって,金銭の支払いを免れることはできません(もっとも,遺留分権利者と受遺者等との合意により,遺留分侵害額につき,金銭の支払いに代え,遺贈や贈与の目的財産を代物弁済する余地はあります)。
 また,受遺者等を保護するために,遺留分権利者から遺留分侵害額請求権の行使がなされた場合において,受遺者等が,遺留分侵害額相当額の金銭を直ちには準備することができない場合には,「裁判所は,受遺者または受贈者の請求により,第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる」旨の規定も新設されています(新民法1047条5項)。

※ 改正相続法と不動産登記法との関連
 改正相続法施行後には,ある不動産につき,遺贈または遺言により相続分の指定を受けたものの,その登記をする前に遺留分侵害額請求権が行使されても,当該不動産につき,「遺留分減殺」を登記原因として,所有権一部移転等の登記を申請することはできなくなります。遺留分侵害額請求権の行使に対しては,侵害された額につき金銭の支払いのみをもって解決することとされたためです。

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