【司法書士】
民法(相続法)の改正について③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 連日の猛暑がいったん止んだと思ったら,今度は台風が通常とは逆のコースで上陸し,各地,特に先の豪雨の被災地にも被害をもたらしました。被害の報道を耳にすると心が痛みます。近年,自然災害が頻発していますが,これも地球温暖化の影響でしょうか。世界気象機関によると,米カリフォルニア州や北アフリカで50℃以上を観測し,また,北欧の北極圏でも30度超えを記録し,森林火災も発生したとのことで,驚くことばかりです。

 さて,今回も前回に続き,改正相続法について,平成31年の司法書士試験で出題される可能性の高いものから優先的に紹介して参ります。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
 ⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
 ⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
 ⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
 ⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,民法(相続法)の改正について①)
 ⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
 ⑷ 遺言執行者 の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
 ⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,民法(相続法)の改正について②)
 ⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
 ⑶ 遺留分の算定方法の見直し
 ⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い(以上,今回)

4.遺産分割等に関する見直し
5.相続の効力等に関する見直し
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
7.配偶者の居住権を保護するための方策

○ 遺言書保管法

⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額

 現行法は,遺留分減殺請求を受けた場合,贈与と遺贈の減殺の順序(民法1033条),遺贈の減殺の割合(民法1034条),贈与の減殺の順序(民法1035条)を定めていますが,改正相続法では,これらの規定を基本的に維持するとしつつも,遺留分侵害額請求権を受けた場合に受遺者または受贈者が複数ある場合の負担額については,金銭債務の負担の順序およびその割合として,次のとおり規定しています(新民法1047条1項1~3号)。
① 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。
② 受遺者が複数あるとき,または受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
③ 受贈者が複数あるとき(②の場合を除く。)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。


⑶ 遺留分の算定方法の見直し

 現行法では,遺留分の算定方法についての規定が十分とはいえず(民法1030条,903条1項参照),これまで,法律の解釈や実務慣行で定められてきました。そのため,解釈を巡り紛争が生じることが少なくありませんでした(最判平10.3.24参照)。
そこで,改正相続法では,遺留分の算定方法等について次のような明文の規定を設け,解釈を巡る紛争の発生の防止を図っています。
① 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前贈与の時期の限定(新民法1044条3項)
 現行法では,遺留分算定の基礎となる財産に含める生前贈与については,「相続開始前の1年間にしたものに限り」その価額を算入するものと規定しています(民法1030条)。しかし,判例(最判平10.3.24)および実務は,この規定は相続人以外の第三者に対して贈与がされた場合に適用されるものであり,相続人に対して生前贈与がされた場合には,その時期を問わず原則としてその全ての贈与が遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されるとの考え方に立っています。このような考え方によりますと,被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者である受遺者または受贈者(以下,「受遺者等」という)が受ける減殺の範囲が大きく変わることになります。ところが,第三者である受遺者等は,相続人に対する古い贈与の存在を知り得ないのが通常ですので,このような考え方によると,第三者である受遺者等に不測の損害を与え,法的安定性を害するおそれがあります。
 そこで,改正相続法では,遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前贈与の時期についての制限を設けることとしました。具体的には,相続人に対する贈与は,相続開始前の10年間にされたものについて,遺留分算定の基礎となる財産の価額額(婚姻若しくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与の価額に限る)に算入するものとされました(新民法1044条3項・1項)。
また,「贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。」旨の規定(民法1030条)を維持しています(新民法1044条1項)。

② 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき負担付贈与の額(新民法1045条1項)
 現行法においては,負担付贈与の減殺請求については,「負担付贈与は,その目的の価額から負担の価額を控除したものについて,その減殺を請求することができる」旨の規定が置かれています(民法1038条)。しかし,この規定が,遺留分算定の基礎となる財産の額を算定するに当たって,目的の財産の価額から負担の価額を控除することを意図したものなのか(一部算入説),遺留分算定の基礎となる財産の額を算定する際には,その目的財産の価額を全額算入しつつ,減殺の対象を前記控除後の残額に限定した趣旨なのか(全額算入説)について,学説上見解が分かれており,明確ではありません。
 例えば,相続人がX,Yの2名(法定相続分各2分の1)であり,被相続人がその財産1億円のうち,相続人Xに対して相続開始の5年前に被相続人の債務2000万円を引き受ける代わりに4000万円を贈与し(負担付贈与),第三者Aに対して6000万円を遺贈し,Yが受贈者Aに遺留分減殺請求をしたとします(民法1033条,新民法1047条1項1号)。

ⅰ 一部算入説を採用した場合の計算
遺留分算定の基礎財産 6000万円+(4000万円―2000万円)=8000万円
Yの遺留分侵害額 8000万円×1/2×1/2=2000万円
最終的な取得額 A 6000万円―2000万円=4000万円
         X 4000万円―2000万円=2000万円
         Y 2000万円
ⅱ 全部算入説を採用した場合の計算
遺留分算定の基礎となる財産 6000万円+4000万円=1億円
Yの遺留分侵害額 1億円×1/2×1/2=2500万円
 最終的な取得額  A 6000万円―2500万円=3500万円
         X 4000万円―2000万円=2000万円
         Y 2500万円

 一部算入説においては,YはAに対して2000万円請求できるにとどまります。これに対し,全額算入説によれば,Yは,Aに対しては2500万円を請求できることになる結果,贈与を受けたXの最終的な取得額の方が,贈与を受けていないYの最終的な取得額よりも少ないという逆転現象が生じることとなり相当ではありません。
 そこで,改正相続法では,「負担付贈与がされた場合における民法1043条1項(遺留分を算定するための財産の価額)に規定する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。」旨の明文の規定を新設しました(新民法1045条1項)。明文の規定を設けて,一部算入説の解釈に一本化することにより,解釈の違いによる争いを回避するためです。

③ 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき不相当な対価による有償行為(新民法1045条2項)
 現行法では,不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,これを贈与とみなすとされ,この場合において,遺留分権利者がその減殺を請求するときは,その対価を償還しなければならないとされています(民法1039条)。つまり,遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき不相当な対価による有償行為については,対価を控除した残額部分が算入される一方で,全額が減殺の対象となるとの扱いです。
 例えば,相続人がX,Yの2名(法定相続分各2分の1)であり,被相続人が,第三者Aに対して死亡半年前に1000万円の価値がある土地(以下「本件土地」という)を代金200万円で売却し,相続人Xに対して死亡3年前に3200万円贈与した場合に,Yが遺留分減殺請求をするときを想定しましょう。

現行法による計算
遺留分算定の基礎財産 (1000万円―200万円)+3200万円=4000万円
Yの遺留分の侵害額 4000万円×1/2×1/2=1000万円
Yの遺留分減殺請求 Aに対して,本件土地全部(ただし,対価200万円は償還)
          Bに対して,200万円
 最終的な取得額 Y 1000万円(本件土地全部の価値)-200万円(Aへの対価の償還)
          +200万円(Xからの取得額)=1000万円
          A 200万円(償還を受けた土地の対価)
          X 3000万円(3200万円-200万円)

 遺留分権利者Yは,Aに対し遺留分の侵害額である1000万円につき遺留分減殺請求をした後,Xに対し200万円を請求しているが,本来権利行使できる価額(1000万円)を超えて減殺を認める必要性は乏しいとも考えられ,特に,遺留分減殺請求権の行使によって生じる権利を原則として金銭債権化する場合には,目的財産全部に対する減殺を認めつつ,対価を償還させるという手段を設けておく合理性に欠けるとも考えられます。
 そこで,改正相続法では,「不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。」旨を規定しました(新民法1045条2項)。負担付贈与の例に倣い,不相当な対価を控除した残額のみを遺留分侵害額の請求の対象とし,対価については償還しないこととしました。
 先の事例では,Yは,遺留分侵害額である1000万円について,Aに対して800万円の支払いを,Xに対して200万円の支払いをそれぞれ求めることができることになります。
その結果は,次のとおりとなります。

遺留分算定の基礎財産 (1000万円―200万円)+3200万円=4000万円
Yの遺留分の侵害額 4000万円×1/2×1/2=1000万円
最終的な取得額 Y 800万円(Aからの取得額)+200万円(Xからの取得額)
=1000万円
A 本件土地全部-800万円(Yへの支払い)
        X 3200万円―200万円=3000万円(Yへの支払い)

④ 遺産分割の対象となる財産がある場合の遺留分侵害額の算定において控除すべき遺留分権利者が相続によって得た積極財産の額の算定方法(新民法1046条2項2号)
 現行法上,遺留分の侵害額の計算は,遺留分算定の基礎となる財産を確定し,それに遺留分の割合を乗じ,遺留分権利者が特別受益を得ているときはその額を控除して遺留分の額を算定した上,同遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た積極財産がある場合はその額を控除し,また,同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して求めることとされています(最判平8.11.26)。
 しかしながら,遺産分割の対象となる財産(すでに遺産分割が終了している場合を含む)がある場合に,「遺留分権利者が相続によって得た積極財産」の価額をどのように算定すべきかについては,学説および実務上,法定相続分(ただし,特別受益の存在を考慮しない。)を前提に算定すべきという見解(以下「法定相続分説」という。)と,具体的相続分(ただし,寄与分による修正は考慮しない。)を前提に算定すべきという見解(以下「具体的相続分説」という。)に分かれています。また,遺留分の侵害額の算定をする時点で,既に遺産分割が終了している場合の算定方法についても,法定相続分説では未分割の遺産がある場合と同様の算定方法によるべきとし,具体的相続分説では,実際に行われた遺産分割の結果を前提として算定すべきとしています。
 実際に,遺留分の侵害が問題となる事案においては多くの特別受益が存する場合が多いにもかかわらず,「相続によって得た積極財産の額」を算定する際に特別受益の存在を考慮しない考え方(法定相続分説)を採用すると,その後に行われる遺産分割の結果との齟齬が大きくなり,事案によっては,遺贈を受けている相続人が,遺贈を受けていない相続人に比して最終的な取得額が少ないという逆転現象が生じる場合があること等を考慮して,具体的相続分説を前提とした見直しをすべきであるとの意見が有力でした。
 そこで,改正相続法では,遺産分割の対象となる財産(すでに遺産分割が終了している場合を含む)がある場合に,遺留分侵害額の算定において控除すべき「遺留分権利者が相続によって得た積極財産」を,具体的相続分(民法900条~901条,903条・904条の規定により算定した相続分(注1)に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額)に相当する額としました(新民法1046条2項)。明文の規定を設けて,具体的相続分説の解釈に一本化することにより,解釈の違いによる争いを回避するためです。また,この額の算定において,寄与分(民法904条の2)は考慮しないものとされました(新民法1046条2項参照)。寄与分の有無および額は,相続開始時には確定していないからです。
 遺留分侵害額の計算は,遺留分(新民法1042条)から,次のⅰおよびⅱの額を控除し,これにⅲの額を加算して算定することとされました(新民法1046条2項)。
ⅰ 遺留分権利者が受けた遺贈または贈与の価額(特別受益,民法903条1項)(注2)
ⅱ 遺留分権利者が相続によって得た積極財産(具体的相続分)(民法900条~901条,903条・904条の規定により算定した相続分,寄与分は考慮しない)
ⅲ 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,遺留分権利者が承継する債務(遺留分権利者承継債務)の額(民法899条)
(注1)法定相続分(民法900条),代襲相続人の相続分(民法901条),遺言による相続分の指定(民法902条),特別受益者の相続分(民法903条)等を考慮して算定した相続分をいう。
(注2)特別受益の有無は,相続開始時までに生じた事実であり,その価額を考慮して算出された具体的相続分は相続開始時にも観念しうるものであるとして,具体的相続分に相当する額を控除すべきであるとされます。
∴ 遺留分侵害額=遺留分-(ⅰ+ⅱ)+ⅲ


⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い(新民法1047条3項)

⑶④述べましたように,遺留分侵害額の算定において,被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,遺留分権利者が承継する相続債務(以下,「遺留分権利者承継債務」という)の額を加算する取扱いがされているのは,遺留分権利者が相続債務を弁済した後にも,遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためです。しかし,遺留分権利者が取得する権利は金銭債権ですので,遺留分権利者承継債務の加算は,受遺者または受贈者が,遺留分権利者の債権者への弁済資金を事前に提供したのと同様の状態を生じさせることになります。
 例えば,被相続人が個人事業を営んでおり,事業に関連して多額の債務を負担していたところ,被相続人の死亡に伴い受遺者または受贈者(以下,「受遺者等」という)が当該事業を承継したという事案では,遺留分権利者承継債務の支払いがなされないからといって,相続債権者に対し,その分の支払いをしないというわけにいかない場合が多いと考えられます(特に,受遺者等が連帯保証人となっている場合や,事業用不動産に担保が付されている場合等)。このような場合に,受遺者等が相続債権者に対し,遺留分権利者承継債務の支払いをした上で遺留分権利者にこれを求償するというのは迂遠であるばかりか,遺留分権利者がその求償に応じて速やかに債務を弁済するとは限りません。事業を承継する受遺者等にとっては,遺留分権利者に弁済資金の前渡しをするくらいであれば,むしろ期限の利益を放棄してでも相続債権者に直接弁済したいという要請もあるものと考えられます。
 そこで,改正相続法では,これらの要請に鑑み,権利関係を簡素化するため,「遺留分権利者から遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求を受けた受遺者等は,遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって,遺留分侵害額請求によって負担する金銭債務(民法1047条1項)を消滅させることができる。」こととしました(新民法1047条3項前段)。また,「この場合において,当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は,消滅した当該債務の額の限度において消滅する。」ものとしています(新民法1047条3項後段)。





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