【司法書士】
民法(相続法)の改正について④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 またもや,全国的に,猛暑が続いています。ためらわずにエアコンを使用すること,こまめな水分補給や炎天下の外出を避けるようテレビの気象情報で呼びかけられています。ここまで暑いと,たとえ,エアコンを使用していても,頭がボーッとしてしまい,学習効率も落ちるのもやむを得ないこととは思います。とにかく,熱中症の予防,十分な睡眠や栄養の確保により,体調維持を心がけてください。

 さて,今回も前回に続き,改正相続法について,平成31年の司法書士試験で出題される可能性の高いものから優先的に紹介して参ります。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,前回③)
4.遺産分割等に関する見直し
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲(以上,今回)

5.相続の効力等に関する見直し
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
7.配偶者の居住権を保護するための方策

○ 遺言書保管法

4.遺産分割等に関する見直し

⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)

① 改正の背景
 高齢化社会の進展等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活保障の必要性が高まっていることから,配偶者の相続分を一定の条件で引き上げるという考え方が示されました。しかしながら,パブリックコメント(注1)等においてはこれに反対する意見が多数を占めるなど,現段階では,配偶者の相続分の引上げを実現することは断念せざるを得ないとの結論が出されました。もっとも,配偶者保護のための方策を検討するという方向性自体は必要かつ有益であり,配偶者の相続分の引上げに代わる別の方策を含めて検討すべきであるという指摘がなされました。また,配偶者の貢献を相続の場面で評価することには限界があるため,生前贈与や遺贈を促進する方向での検討もされるべきではないかとの指摘もされました。

(注1)「パブリックコメント」とは?
 行政機関による法令の制定・改廃する際に,原案を事前に公表して,広く一般から意見を募り,それを考慮して決定する制度(意見公募手続)をいう。

② 現行法上の配偶者の保護
ⅰ 民法
 現行法上,各相続人の相続分を算定するに当たっては,通常,相続人に対する贈与の目的財産を相続財産とみなした上で,相続人が贈与または遺贈(以下「贈与等」という。)によって取得した財産は特別受益に当たるものとして,当該相続人の相続分の額からその財産の価額を控除することとされています(民法903条1項)。このような計算(持戻し計算)を行った場合には,配偶者が超過特別受益者(注2)である場合を除き,結局は贈与等があっても,配偶者の最終的な取得額は贈与等がなかった場合と比べても変わらないことになります。
 ただし,理論上は,被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をした場合には,特別受益の持戻し計算をする必要はなくなるため,贈与等を受けた配偶者は,より多くの財産を最終的に取得することができることとされています(民法903条3項)。もっとも,実際には,遺言等において被相続人がその配偶者に対し特別受益の持戻し免除の意思表示をすることは稀であるとの指摘もあります。

(注2)「超過特別受益者」とは?
 特別受益者が,法定相続分よりも多くの贈与等を受けている場合,その特別受益者を超過特別受益者といいます。持戻し計算を行うと,当該特別受益者が受け取るべき金額は,計算上はマイナスになりますが,計算上マイナスになった金額を他の相続人に返還する必要はないとされています。

ⅱ 相続税法(贈与税)
 相続税法に規定されている贈与税にあっては,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で,居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合,基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例制度があります(贈与税の特例。相続税法21条の6)。

③ 贈与税の特例の制度創設の理由と相続分の引上げに代わる配偶者保護のための方策
 贈与税の特例制度は,次の事実を考慮して設けられたものと説明されています。
ⅰ 居住用不動産が通常夫婦の協力によって形成された場合が多いこと。
ⅱ 夫婦の一方が他方にこれを贈与する場合にも一般に贈与という認識が薄く,それまでの他方配偶者の当該財産の形成についての貢献に報いる(あるいは,配偶者の当該財産の形成についての貢献の程度を実質的に考慮した財産の分配)という性質が強いこと。
ⅲ 他方配偶者の老後の生活保障を意図してなされる場合が多いこと
 民法上も,配偶者に対してなされた一定の贈与等について,この贈与税の特例と同様の観点から一定の措置を講ずることは,贈与税の特例とあいまって配偶者の生活保障をより厚くするものといえ,配偶者の相続分の引上げに代わる配偶者保護のための方策として有用であると考えられます。

④ 持戻し免除の意思表示の推定規定の創設
 そこで,改正相続法では,「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたときは,当該被相続人は,その遺贈または贈与について,特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定する」こととされました(新民法903条4項,1項)。このように,被相続人が,その配偶者に居住の用に供する建物またはその敷地を遺贈しまたは贈与をする場合には,遺産分割における配偶者の相続分を算定するに当たり,その価額を控除してこれを減少させる意図は有していない場合が多いものと考えられることから,このような推定規定を設けることは,一般的な被相続人の意思にも合致するものと考えられています。また,現行法では,特別受益の持戻し免除のためには,原則として遺言による被相続人の意思表示を要しますが(民法903条3項),改正相続法の規定では,被相続人の意思表示がなくても,特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定されることとなりました。つまり,反証がない限り,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をした場合であっても,その価額を特別受益として扱わずに計算をすることができようになったため,改正相続法では,他方配偶者をより厚く保護する内容となっています。

⑵ 仮払い制度等の創設・要件の緩和および明確化

① 改正の背景
 平成28年12月19日最高裁大法廷決定(以下「本決定」という。)は,従前の判例(最判昭29.4.8)を変更し,「預貯金債権が遺産分割の対象に含まれる」との判断を示しました。
 預貯金債権については,本決定前は,相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割され,各共同相続人は分割により自己に帰属した債権を単独で行使することができるものと解されていましたが(最判昭29.4.8),本決定後は,遺産分割までの間は,共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなりました。そのため,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に払い戻すことができないという不都合が生じることとなりました。  そこで,改正相続法(改正後の家事事件手続法を含む。)は,遺産分割における公平性を図りつつ,相続人の資金需要に対応するため,家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(新家事事件手続法200条3項)と,家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策(新民法909条の2)を定めました。

② 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(新家事事件手続法200条3項)
 被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるには,仮分割の仮処分(家事事件手続法200条2項)の方法を活用することが考えられます。
 この方法によれば,共同相続人間の実質的な公平を確保しつつ,個別的な権利行使の必要性に対応することができます。しかし,共同相続人の「急迫の危険を防止」する必要がある場合に仮処分ができるとしており,厳格な要件を課しています。そこで,改正後の家事事件手続法では,預貯金債権の仮分割に限り,一定の要件の下で,これらの要件を緩和しています。具体的には,「家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法466条の5第1項に規定する預貯金債権をいう。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは,その申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。」旨を定めました(新家事事件手続法200条3項)。

③ 家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策(新民法909条の2)
 ②の方策は,家事事件手続法の要件を緩和し,一定の要件の下で預貯金債権の仮払いを認めるものですが,保全処分の要件を緩和したとしても,相続開始後に資金需要が生じた場合に,裁判所に保全処分の申立てをしなければ単独での払戻しが一切認められないことになれば,相続人にとっては大きな負担になると考えられます。また,パブリックコメントにおいても,仮に相続開始後遺産分割終了までの間,可分債権の行使が原則として禁止されるのであれば,一定の上限を設けた上で,裁判所の判断を経ることなく,金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度を設けるべきであるとの指摘がなされました。
 そこで,改正相続法は,「各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については,単独でその権利を行使することができる。」旨の規定を設けました(遺産の分割前における預貯金債権の行使,新民法909条の2前段)
 例えば,被相続人Aには,その子である相続人Bと相続人Cがおり,Aには,相続開始時の預貯金債権の額(いわゆる預貯金)が600万円あった場合,相続開始時の預貯金債権の額×1/3×当該共同相続人の法定相続分=単独で払戻をすることができる額であることから,相続人Bは,100万円(=600万円×1/3×1/2)につき払戻しをすることができます。
 なお,「この場合において,当該権利の行使をした預貯金債権については,当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」旨の規定も併せて設けられています(新民法909条の2後段)。

⑶ 遺産の一部分割

① 現行法下における実務の運用
 通常,遺産分割においては,遺産の範囲を確定させた上で,遺産の全部について1度で解決を図ることが望ましいと考えられます(遺産の全部分割)。しかし,実務上,遺産の全部分割を行うことに支障がある場合や,遺産分割を早期に解決するためには争いのない遺産について先行して一部分割を行うことが有益な場合がなどには,遺産の一部分割をする必要性があり(一部分割の必要性),また,最終的に遺産の全部について公平な分配を実現することができる場合(一部分割の許容性)には,審判,調停または協議のいずれにおいても,遺産の一部を除外して分割することができると解されています(民法907条3項参照,最判平28.12.19,大阪高判昭46.12.7参照)。しかし,どのような場合に一部分割が可能であるかは,条文上その要件が必ずしも明らかではありませんでした。

② 遺産の一部分割についての明文の規定の創設
 そこで,改正相続法では,相続人に遺産についての処分権限があることから,いつでも相続人が遺産分割協議で遺産の一部分割ができることを明らかにするため,「共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」旨を規定することとしました(新民法907条1項)
 そして,「遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わない場合には,又は協議をすることができないときは,各共同相続人は,その全部又は一部分割を家庭裁判所に請求することができる。」旨を規定し(新民法907条2項本文),遺産分割協議が調わないときには,家庭裁判所に対しても,各相続人は,遺産の一部分割の請求ができることを明らかにしました。
 また,「ただし,遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については,この限りでない。」旨,すなわち,家庭裁判所が一部分割の審判をできる場合の実質的な要件を規定しています(新民法907条2項ただし書)。 審判によって,遺産の一部分割をすることができる場合の要件としては,現行法下における実務の運用と同様の要件(一部分割の必要性と最終的に遺産の全部について公平な分配を実現することができること)を定めています。そして,このような要件を満たすかについて十分検討しても,一部分割をすることによって,最終的に適正な分割を達成し得るという明確な見通しが立たない場合には,共同相続人が遺産の一部について分割をすることを合意したとしても,家庭裁判所は一部分割の審判をするのは相当ではなく,当該一部分割の請求は不適法であるとして,却下するのが相当とされます。

⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

 共同相続された相続財産については,原則として遺産共有となります(民法898条)。そして,その共有状態の解消については,民法は遺産分割の手続によることを想定しており(民法907条),遺産分割の手続においては,民法903条(民法904条の2によって修正される場合も含む。)の規定によって算定される具体的相続分を基準として各相続人に遺産を分割することとされています。
 一方で,現行法上,遺産共有となった遺産については,共同相続人がその共有持分を処分することは禁じられておりません。また,当該遺産の処分がされた場合に遺産分割においてどのように考慮・処理すべきかについては明文の規定はなく,また,明確にこれに言及した判例も見当たりません。
遺産分割は分割の時に実際に存在する財産を分配する手続であるという伝統的な考え方によれば,共同相続人の一人が遺産分割の前に遺産の一部を処分した場合には,遺産分割の当事者が当該処分された財産も遺産分割の対象とする旨の合意をした場合を除き,当該処分された財産を除いた遺産を基準に遺産分割をすべきこととなります。しかし,その結果,当該処分をした者の最終的な取得額が,処分が行われなかった場合と比べて大きくなり,その反面,他の共同相続人の遺産分割における取得額が小さくなるという計算上の不公平が生じることとなります。共同相続人の一人が遺産分割の前に遺産の一部を処分した場合,当該処分を行った共同相続人の一人は,遺産共有となった自らの持分(または持分相当額)を処分しているにすぎません。そのため,当該行為は,不法行為(民法709条)に該当せず,また,当該処分により取得した財産について不当利得(民法703条)も成立しないという考え方が有力であり,他の共同相続人については民事訴訟における救済も極めて困難と解されています。仮に,救済されるとしても,処分された遺産に属する財産のうちの自己の法定相続分にとどまるとされています。
 そこで,改正相続法では,このような不公平が生じることのないようにするため,「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」旨の規定(新民法906条の2第1項),「2 前項の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは,当該共同相続人については,同項の同意を得ることを要しない。」旨の明文の規定をそれぞれ設けました(新民法906条の2第2項)。この規定の創設により,遺産に属する財産を処分した相続人以外の共同相続人全員の同意があれば,遺産の分割前に当該財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができることとなりました(処分した遺産の組戻し)。
 例えば,被相続人Aには,その子である相続人Bと相続人Cがおり,Aには,相続開始時に預貯金が2000万円あった場合において,遺産共有の状態で相続人Bが何らかの方法で密かに自己の法定相続分である1000万円の払戻しをしてしまうと,遺産分割協議時の遺産は,1000万円(=2000万円-1000万円)となり,これを遺産分割協議により,1/2ずつ相続することとした場合には,それぞれの取得額は,500万円(=1000万円×1/2)ずつとなります。しかし,Bはすでに1000万円の払戻しをしているので,Bの実質的な取得額は,1500万円(=1000万円+500万円)となり,相続人Cの取得額(500万円)より多くなるため,不公平です。
 しかし,改正相続法施行後は,このような場合,相続人Cの同意(意思表示)さえあれば,相続人Bの同意なくして,Bが払い戻した預貯金1000万円は,遺産に組み戻されます。その結果,遺産分割協議により,1/2ずつ相続することとした場合には,それぞれの取得額は,1000万円(=2000万円×1/2)ずつとなり,不公平は生じません(Bは,すでに1000万円の預貯金を払い戻しているため,遺産分割協議によって取得する実質的な遺産の額は0円となります)。





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