【司法書士】
民法(相続法)の改正について⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 台風と猛暑が交互にやってくる天候の厳しい日々が続いております。
 法務省から,択一式試験の正解,基準点および得点別員数表が公開されました(法務省HP)。自己採点で,合格を確信された方から,来年の試験を受験する決心をされた方まで,いらっしゃると思います。合格を確信された方は,そろそろ口述試験の学習を始めてよいと思います。また,捲土重来を期し,来年の試験を受験する決心をされた方は,今年の試験問題を再度振り返り,自分はどこができなかったか,来年の受験における課題は何かについて,十分に分析をし,来年の受験準備を始めましょう。

 さて,今回も前回に続き,改正相続法について,平成31年の司法書士試験で出題される可能性の高いものから優先的に紹介して参ります。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,③)
4.遺産分割等に関する見直し
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
(以上,前回④)
5.相続の効力等に関する見直し
⑴ 相続における権利の承継の対抗要件
⑵ 相続による債務承継
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定
⑵ 特別寄与料の額
⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質
⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等(以上,今回)

7.配偶者の居住権を保護するための方策

○ 遺言書保管法

5.相続の効力等に関する見直し

⑴ 相続における権利の承継の対抗要件

① 相続による権利の承継の対抗要件(債権を除く。)
 相続による権利の承継は,遺産分割や遺言による財産の処分があります。そして,現行法上,遺言による財産処分の方法としては,相続分の指定(民法902条),遺産分割方法の指定(民法908条),遺贈(特定遺贈および包括遺贈。964条)等があります。しかし,これらの方法により財産処分がされた場合に,債務者その他の第三者との関係でどのような法的効果が生ずるかという点については規定上必ずしも明確でない部分もあり,判例等により解釈の補充がされてきました。
 遺産分割(最判昭46.1.26)や遺贈(最判平9.8.20,昭39.3.6)については,その効果を第三者に対抗するには,原則として対抗要件(登記)を具備する必要があると解されています。これは,第三者がそれらに有無やその効力を確認することは相当困難だからです。
 これに対し,相続分の指定による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとしているほか(最判平5.7.19),特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(いわゆる「相続させる旨」の遺言)についても,特段の事情がない限り,「遺産分割方法の指定」(民法908条)に当たるとした上で,遺産分割方法の指定そのものに遺産分割の効果を認め,前記遺言によって不動産を取得した者は,登記なくして,その権利を第三者に対抗することができるとしています(最判平3.4.19,平14.6.10)。
 これらの判例の考え方は,相続分の指定や遺産分割方法の指定は相続を原因とする包括承継であるため,民法177条の「第三者」(注1)に当たらないが,遺贈は意思表示による物権変動であって特定承継であることから,同条の「第三者」に当たると解しているものと考えられます(注2)。
 しかし,このような判例の考え方を貫くと,法定相続分による権利の承継があったと信頼した差押債権者などの第三者が不測の損害を被るなど,取引の安全を害するおそれがあるといった指摘がされています。また,相続人はいつまでも登記なくして第三者にその所有権を対抗することができることになりかねず,登記制度や強制執行制度に対する信頼が害されるおそれがあるとの指摘がされています。実際のところ,遺言による相続分の指定や遺産分割方法の指定は,その法的性質は包括承継ではあるものの,実質的には,被相続人の意思表示によって法定の承継割合(法定相続分)を変更するという意味合いを有しています。このように遺言による相続分の指定や遺産分割方法の指定による権利の承継は,包括承継の性質を有するものであっても,意思表示が介在し,被相続人による処分性が認められるものについては,遺産分割や遺贈の場合と区別する合理的な理由がないことから,その権利の承継につき対抗要件を備えなければならないと改めるべきであるとの指摘がされています。これに対して,法定相続分に限っては,相続による権利の承継のうち対抗要件を備えることを要しないと考えるのが妥当と考えられています。法定相続分は,相続開始の事実や被相続人との身分関係によって客観的に定まるものだからです。
 そこで,改正相続法では,「相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない」旨の明文の規定を設けました(新民法899条の2第1項)。この規定を設けることにより,これまでの判例による解釈の補充により,第三者に対して対抗要件を要しないとされてきた遺言による相続分の指定や遺産分割方法の指定(いわゆる「相続させる旨」の遺言)がなされた場合であっても,第三者との関係では,法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければならないこととなりました。また,この規定により,遺言の有無およびその内容を知り得ない相続債権者等の利益や第三者の取引の安全を確保することができると共に,登記制度や強制執行制度に対する信頼を確保することにもつながるものと期待されています。

(注1)民法177条の「第三者」とは?
 民法177条の「第三者」とは,当事者またはその包括承継人以外の者であって,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう(大判明41.12.15)。
(注2)「遺産分割と第三者対抗要件具備の要否」
 遺産分割についても,「遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものではあるが,第三者に対する関係においては,相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから,不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については,民法177条の適用があり,分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は,その旨の登記を経なければ,分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し,自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。」と判示しています(最判昭46.1.26)

② 相続により債権を承継した場合の対抗要件
 通常の債権譲渡では,譲渡人による通知があればそれだけで債務者に債権譲渡の事実を対抗することができるとされています(民法467条)。しかし,これは,債務者は譲渡人が誰であるかを把握していることが前提とした規定であると考えられます。これに対し,遺言によって債権を取得した場合には,譲渡人である遺言者は既に死亡しているため,その相続人が譲渡人の地位を承継することになりますが,債務者は,相続開始の事実およびその相続人の範囲を通常知り得ないため,相続人全員から通知があっても,それだけではその相続人が譲渡人の地位を承継した者であるかどうか分かりません。実際のところ,虚偽通知がされる懸念もあります。
 そこで,改正相続法は,相続により法定相続分を超えて債権を承継した場合には,「前項の権利(相続による承継される権利)が債権である場合において,次条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。」旨の規定を定め,相続により法定相続分を超えて債権を承継した相続人(以下,「受益相続人」という。)は,承継した債権に係る遺言の内容を明らかにし(注3),債務者に対し,単独で通知することにより,対抗要件を備えることができるよう,その方法について明らかにしています(新民法899条の2第2項)。承継した債権に係る遺言の内容を明らかにすることを要求した理由は,虚偽通知の防止にあります。
 これに対し,債務者以外の第三者に対する対抗要件は,通常の債権譲渡と同様,確定日付のある証書によってなされなければなりません(新民法899条の2第2項・1項,民法467条)。

(注3)「承継した債権に係る遺言の内容を明らかにすること」とは?
 債務者をして,客観的に遺言等の有無やその内容を判断できるような方法(例えば,受益相続人が遺言の原本を提示し,債務者の求めに応じて,債権の承継の記載部分について写しを交付する方法)をもって通知することでも足りるとされています。

⑵ 相続による債務承継

 遺言で相続分の指定や包括遺贈がされた場合には,規定上は,相続債務についても積極財産と同じ割合で承継されるように解釈する余地もあります(民法902条,990条)。しかし,判例は,「遺言による相続債務についての相続分の指定等は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」と判示し,相続債務の承継割合についてまで遺言者にこれを変更する権限を認めるのは相当でないとして,相続分の指定等がされた場合でも,相続人は,原則として法定相続分に応じて相続債務を承継するとの考え方を採っていています(最判平21.3.24)。
 そこで,改正相続法は,判例の趣旨を踏まえ,「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は,前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても,各共同相続人に対し,第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし,その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは,この限りでない。」旨の規定を新たに設け,相続債務の承継に関する規律を明確にしました(新民法902条の2)。この規定の新設により,相続開始の時において有した債務の債権者(以下,「相続債権者」という。)は,各共同相続人に対し,法定相続分に応じてその権利を行使することができることが明文の規定で認められるようになりました(新民法902条の2本文)。ただし,共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは,その効果はすべての共同相続人に及ぶこととされました(新民法902条の2ただし書)。これは,そのようにした方が相続債権者の債権回収のために望ましい場合があることのほか,法律関係の複雑化を防止する意味があります。


6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定

 現行法上,寄与分は,相続人にのみ認められているため,例えば,相続人の妻が,被相続人(夫の父)の療養看護に努め,被相続人の財産の維持または増加に寄与した場合(療養看護を外注した場合に要する費用が節減されることとなり,特に長年にわたり療養看護をした場合には,被相続人の財産の維持または増加に寄与したと認められる場合が多いと考えられる。)であっても,遺産分割手続において,相続人でない妻が寄与分を主張したり,あるいは何らかの財産の分配を請求したりすることはできません。この点については,夫の寄与分の中で妻の寄与を考慮することを認める裁判例も存在します(東京家審平12.3.8等)。しかし,このような取扱いに対しては,寄与行為をした妻ではなく夫に寄与分を認める法的根拠が明らかでないといった指摘がされています。また,同様の事例において,推定相続人である夫が被相続人よりも先に死亡した場合には,前記裁判例のような考え方によっても,妻の寄与行為を考慮することができない結果となり,実質的公平に反するのではないかとの指摘もされています。
 さらに,被相続人の生前には親族としての愛情や義務感に基づき無償で自発的に療養看護等の寄与行為をしていた場合でも,被相続人が死亡した場合にその相続の場面で,療養看護等を全く行わなかった相続人が遺産の分配を受ける一方で,実際に療養看護等に努めた者が相続人でないという理由でその分配に与れないことについては,不公平感を覚える者が多いとの指摘がされています。
 加えて,現行法上の制度,例えば,特別縁故者制度(民法958条の3),準委任に基づく請求(民法653条,643,648条1項),事務管理(民法697条,702条),不当利得返還請求(民法703条)などでは,被相続人の療養看護等に努めた者の貢献に報いることはできないため,新たな制度の創設の必要性が求められていました。
 そこで,改正相続法は,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人,相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定(相続人の欠格事由)に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。」旨の規定を設けました(新民法1050条1項)。この規定の制定により,相続人以外の者が無償で被相続人の療養看護等をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人,相続の放棄をした者,相続人の欠格事由に該当するものおよび廃除された者を除く。以下,「特別寄与者」という)は,相続人に対し,その寄与に応じた額の金銭(以下「特別寄与料」という。)の支払いを請求することができるようになりました。特別寄与者による特別寄与料の請求は,不利益を受ける相続人が存在しない特別縁故者制度とは異なり,各相続人にも一定の負担を課すものですが,実質的公平の理念から,無償の労務提供のみならず,被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与があったこと(各相続人が相続によって取得する財産の維持または増加があったこと)が請求の要件とされています。

⑵ 特別寄与料の額

 改正相続法は,「特別寄与料の額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」と定めました(新民法1050条4項)。これは,特別寄与者による特別寄与料の請求に対し,相続人がこれを負担する関係上,不相当に過大な額にはならないようにするため,特別寄与料の額には上限を設ける趣旨です。
 また,「相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。」ことと定めました(新民法1050条5項)。特別寄与者および特別寄与料の制度は,被相続人に対して貢献をした相続人以外の者が,相続人でないという理由で遺産分割にあずかれないことの不公平感を解消することを目的とするものです。そのため,本来は,相続財産に対して認められるべき性質のものであり,これとは無関係である相続人に請求できる性質のものではありません。しかし,特別寄与者による被相続人に対する無償の療養看護等により被相続人の財産の維持または増加し,結果として,各相続人が相続によって取得する財産の維持または増加があったことを根拠に,相続人が法定相続分に応じて負担することとされたものです。


⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質

 特別寄与料の請求権は,特別の寄与や相続の開始といった要件が満たされることにより特別寄与者について生じる抽象的な請求権(清算的要素のみから成る財産分与請求権のようなもの)が,協議または家庭裁判所の審判によって具体化される性質のものであると解されています(段階的形成説)。 また,特別寄与者の請求権については,必ずしも相続人全員に対してしなければならないものではなく,各相続人がその相続分に応じて責任を負うことを想定していることから(新民法1050条5項参照),相続人の一部に対してすることも許容されます。しかし,特別寄与者の請求権の全相続人に対する総額の決定が審判事項であるとすると,1人の相続人に対して行われた審判が他の相続人との関係で効力を持ってしまうこととなりかねません。そこで,各相続人に対する個別の請求権の決定のみが審判事項であるとされています。


⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等

 改正相続法は,「特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。」旨および「家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定める。」旨の規定を設けています(新民法1050条2項本文・3項)
 また,特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わない場合に家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求するための権利行使期間として,「ただし,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したときは,この限りでない。」旨も定めています(新民法1050条2項本文)。これは,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止するためには,その権利行使期間を短期間に制限する必要があること(必要性),相続の場面においては,現行法でも様々な短期の権利行使期間が定められているところ(民法915条1項本文,941条1項前段,958条の3第2項),この制度で真に保護されるべき貢献の認められる者であれば,通常,相続の開始(被相続人の死亡)の事実を知り得ると考えられること(許容性)から,権利行使期間についての規定を設ける合理性が認められるからです。
 なお,改正相続法の施行に併せて,改正家事審判手続法では,特別の寄与に関する処分の審判は,家事審判であるとして(家事審判手続法39条,別表第2の15の項),管轄(新家事審判手続法216条の2),給付命令(新家事審判手続法216条の3),即時抗告(新家事審判手続法216条の4)および特別の寄与に関する審判事件を本案とする保全処分(新家事審判手続法216条の5)についての定めが設けられています。





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