【司法書士】
民法(相続法)の改正について⑦


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 一時,涼しくなったから,このまま秋になるかと思えば,猛暑が復活してしまいました。がっかりですね。
 この時期は,まだ,時間的な余裕がありますので,来年の本試験を目指そうという方は,自分の苦手分野を把握すると共に,時間をかけてその分野の克服に努めてください。苦手分野というのは,集中して学習することによって,かえって得意分野にすることができる場合もありますから。

 さて,今回ご紹介する改正相続法のテーマは,公布の日(平成30年7月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。改正債権法)の施行と同時に施行される可能性が高いと予想されます。来年の本試験では出題されませんので,「このような改正があったのか」程度の理解でよろしいかと思います(読み物として,通読していただければ幸いです)。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,③)
4.遺産分割等に関する見直し(民法903条~909条の2)
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
(以上,前回④)
5.相続の効力等に関する見直し(民法899条の2,902条の2)
⑴ 相続における権利の承継の対抗要件
⑵ 相続による債務承継
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(民法1050条)
⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定
⑵ 特別寄与料の額
⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質
⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等
(以上,前回⑤)
7.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者短期居住権)(民法1037条~1041条)
⑴ 配偶者の居住権制度の創設とその背景
⑵ 配偶者短期居住権の意義とその成立要件
⑶ 配偶者による居住建物の使用と第三者による使用制限等
⑷ 配偶者短期居住権の消滅
⑸ 居住建物の返還等
⑹ 使用貸借・賃借権に関する規定の準用
(以上,前回⑥)
8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者長期居住権)(民法1028条~1036条)
⑴ 配偶者居住権の意義とその成立
⑵ 配偶者居住権の価値
⑶ 審判による配偶者居住権の取得(以上,今回)


○ 遺言書保管法

8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者配偶者居住権)

⑴ 配偶者居住権の意義とその成立

 近年の高齢化社会の進展により,配偶者の相続開始時点で生存配偶者が既に高齢となっている事案が増加していますが,平均寿命の伸長に伴い,その配偶者がその後長期間にわたって生活を継続する場合も少なくありません。このような場合には,その配偶者としては,住み慣れた居住環境での生活を継続するために居住権を確保しつつ,かつ,その後の生活資金としてそれ以外の財産(金銭・預貯金)についても一定程度確保したいという希望を有する場合も多いと考えられます。
 しかし,現行法下において,遺産分割協議等により,配偶者が居住建物の所有権を取得すると居住建物の評価額によっては,配偶者がそれ以外の遺産(預貯金や金銭)を十分に取得することができなくなり,その後の生活に支障を来すおそれがあります。
 例えば,被相続人の遺産が,居住建物(評価額2000万円)と預貯金(3000万円)であり,その相続人が配偶者と子の2名であった場合において,配偶者と子は遺産を2分の1ずつ相続するという前提で遺産分割協議をし,配偶者が居住建物を取得したとします。そうしますと配偶者が取得できる遺産は,次のようになるため,配偶者はその後の生活資金を十分に確保できなくなるおそれがあります。

<遺産分割協議結果~その1>
遺産総額 居住建物(評価額2000万円)+預貯金(3000万円)=5000万円
相続割合 1/2ずつ
各自の具体的相続額 5000万円×1/2=2500万円
∴ 配偶者 2500万円の内訳
    居住建物(評価額2000万円)
    預貯金(500万円)
  子 預貯金(2500万円)

 さりとて,配偶者が生活資金を確保するため,相続する預貯金の額を増やそうとすると,今度は,居住建物を相続できなくなってしまいます。

<遺産分割協議結果~その2>
遺産総額 居住建物(評価額2000万円)+預貯金(3000万円)=5000万円
相続割合 1/2ずつ
各自の具体的相続額 5000万円×1/2=2500万円
∴ 配偶者 預貯金(2500万円)
  子  2500万円の内訳
   居住建物(評価額2000万円)
   預貯金(500万円)

 その結果,引き続き居住建物に住み続けるには,子との間で使用貸借または賃貸者契約を締結しなければならなくなります。そして,子がこれらの契約の締結を拒んだ場合には,居住建物に住み続けることができなくなってしまいます。
 そこで,改正相続法は,「相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし,被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては,この限りでない。
① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
② 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。」
旨の規定を新たに設け,生存配偶者の居住権を長期的に保護し,かつ,他方配偶者の死亡後の生活資金としてそれ以外の財産についても一定程度確保できる余地を認める制度として,配偶者居住権(注1)の制度を明文化しました(新民法1028条1項)
 ただし,被相続人と第三者が居住建物を共有していた場合には,配偶者居住権は成立しません(新民法1028条1項ただし書)。配偶者居住権は,配偶者が居住建物を物理的に占有して居住の用に供することを可能とするためのものであるから,共有持分について配偶者居住権を成立させることは相当でないからです。
 これに対し,改正相続法は,「2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても,他の者がその共有持分を有するときは,配偶者居住権は,消滅しない。」旨を定めています(新民法1028条2項)。これは,配偶者居住権の成立を除外する事由を「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合」に限ることにより(新民法1028条1項ただし書),それ以外の場合,すなわち,相続開始前から配偶者が居住建物について共有持分を有していた場合や,配偶者が相続により居住建物の遺産共有持分を取得した場合にも配偶者居住権の成立を認めることを明らかにしています。
 なお,配偶者が居住建物の共有持分を有している場合には,自己の持分に基づいて居住建物を使用することができるから,配偶者居住権を成立させる必要はないとの考え方もあり得ます。しかし,このような場合であっても,配偶者が居住建物を他の共有者から使用料相当額の不当利得返還請求または共有物分割請求がされた場合には,配偶者が居住建物での居住を継続することができなくなるおそれがあることから,これを避けるためにも配偶者居住権の成立を認める必要性があります(注2)。特に,最近は,夫婦が居住する自宅を購入する場合に,夫婦の共有名義とすることも多くなっており,さらにその必要性が高まってくるものと考えられます。
 また,改正相続法は,「3 第903条第4項の規定は,配偶者居住権の遺贈について準用する。」旨を定め,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈をしたときは,当該被相続人は,その遺贈の価格を相続財産に含めないとする,いわゆる「持戻し免除」について民法903条1項の規定は,配偶者居住権の遺贈にも準用されることを明らかにしています(新民法1028条3項)

(注1)ここでいう「配偶者居住権」は,配偶者短期居住権(新民法1037条)ではなく配偶者の長期の居住権を指します(新民法1028条以下,以下同じ)。
(注2)改正相続法では,自己借地に関する借地借家法15条2項(借地権が借地権設定者に帰した場合であっても,他の者と共にその借地権を有するときは,その借地権は,消滅しない。)類似の規定を置いています(新民法1028条2項)

⑵ 配偶者居住権の価値とその有効利用

① 配偶者居住権の価値
 配偶者居住権の制度は,価値という側面から検討しますと,配偶者に居住建物の使用のみを認め,収益権限や処分権限のない権利を創設することによって,建物の財産的価値を居住権部分とその残余部分とに二分することを可能とするものといえます。これは,遺産分割の際に,配偶者が居住建物の所有権を取得する場合よりも低廉な価額で居住権を確保することができるようにすることを意図したものとされています。
 例えば,被相続人の遺産が,居住建物(評価額3000万円)と預貯金(4000万円)であり,その相続人が配偶者と子の2名であった場合において,配偶者と子は遺産を2分の1ずつ相続するという前提で遺産分割協議をし,配偶者が居住建物を取得したとします。そうしますと配偶者が取得できる遺産は,次のようになります。居住建物の評価額が高いため,配偶者は遺産分割により,預貯金は500万円しか相続できなくなり,その後の生活資金を十分に確保できなくなるおそれがあります。

<遺産分割協議結果~配偶者居住権を設定せず,居住建物の所有権を取得した場合>
相続人 配偶者と子のみ
遺産総額 居住建物(評価額3000万円)+預貯金(4000万円)=7000万円
相続割合 1/2ずつ
各自の具体的相続額 7000万円×1/2=3500万円
∴ 配偶者 3000万円の内訳
   居住建物(評価額3000万円)
   預貯金(500万円)
  子  預貯金(3500万円)

 これに対し,遺産分割協議により,配偶者居住権を設定し,配偶者が居住建物の所有権ではなく,配偶者居住権を取得すれば,そのほかに1000万円の預貯金を取得することができるようになります。

<遺産分割協議結果~配偶者居住権を設定し,配偶者がこれを取得した場合>
相続人 配偶者と子のみ
遺産総額 居住建物(評価額3000万円)(注)+預貯金(4000万円)=7000万円
配偶者居住権の評価額 2500万円
相続割合 1/2ずつ
各自の具体的相続額 7000万円×1/2=3500万円
∴ 配偶者 3500万円の内訳
   配偶者居住権(評価額 2500万円)(注)
   預貯金(1000万円)
  子   3500万円の内訳
   居住建物(評価額500万円)(注)
   預貯金(3000万円)

 配偶者が配偶者居住権を取得した場合には,上記のようなメリットがあります。しかし,居住建物の所有権を取得した場合とは異なり,原則として,その建物を賃貸して利益を得たり,これを処分したりすることはできません(新民法1032条3項)。配偶者居住権の制度は,あくまでもその居住建物を使用することができれば足り,それ以外の権限行使は必要がないという一部の配偶者の需要に応えるものとして創設されたものでもあります。そのような制度趣旨から考えると,配偶者が被相続人所有の建物に居住している場合に一般的に使われるものとして創設された制度ではないといえます。
 配偶者居住権の財産評価方法については,法改正後の事例の積み重ねによって,その相場や評価額の計算方法等が形成されてくるものと思われますが,現時点においても,基本的には,その存続期間の長短によってその評価額も上下するであろうことは想像に難くありません。また,配偶者居住権の存続期間が相当長期に及ぶ場合には,配偶者居住権の評価額は,配偶者が居住建物の所有権を取得する場合とそれほど変わらなくなるものと思われます。このように考えますと,配偶者居住権は,遺産分割時に配偶者が既に高齢に達している場合に,新たな遺産分割方法の選択肢として,より有効性を発揮するものといえましょう。また,配偶者が遺産分割によって配偶者居住権を取得しようとする場合には,配偶者居住権の存続期間を調整することによって,その評価額もある程度調整することが可能になるものと考えられます。
(注)計算を簡単にするため,「居住建物の価額=配偶者居住権の価額+配偶者居住権の負担付の居住建物所有権の価額」との前提で計算しています(後記⑶参照)。

② 配偶者居住権の有効利用の例
 配偶者居住権は,遺産分割等の場面で配偶者の居住権を確保するための新たな選択肢として,配偶者の居住建物の所有権を使用権に関する部分とその余の部分とに分割するのに必要な受け皿となる権利を創設するものであることから,これを有効利用することにより,相続に関する争いを事前に防止することもできます。
 例えば,それぞれ子どもがいる高齢者同士が再婚した場合に,自宅建物を所有する者は,遺言によって,配偶者居住権の制度を利用することにより,その配偶者に配偶者居住権を取得させてその居住権を確保しつつ,自宅建物の所有権を自分の子どもに取得させるという選択をすることもできます。このような事例において,Aが遺言によってその所有する自宅をその配偶者Bに取得させた場合には,Bが死亡したときにはBの子がこれを相続することになりますが,Aが遺言によってBに配偶者居住権を,Aの子にその所有権を取得させることとすれば,Aの子は,Bが死亡した後は,何ら制約のない完全な所有権を取得することができるようになります。このような配偶者居住権の活用によって,高齢化社会で増加している高齢者同士の再婚における最大の問題,すなわち,生存配偶者と死亡した配偶者の子との相続における紛争を予め回避することができるものと期待されます。

⑶ 審判による配偶者居住権の取得

 配偶者居住権を設定した場合の財産評価に関しては,配偶者居住権を取得する配偶者およびその居住建物の所有権を取得する他の相続人の双方にとって一定の不確定要素があります(⑵①参照)。そのため,必ずしも,居住建物の価額が,配偶者居住権の価額と配偶者居住権の負担付の居住建物の所有権の価額の合計額にならないのではないかとの指摘がされています。そして,配偶者居住権の価額と配偶者居住権の負担付の居住建物の所有権の価額の合計額は,居住建物の価額を下回り,その差額は看過することができない程度のものに達し得るとの指摘もあります。
 これらの指摘を前提とすれば,審判において配偶者居住権を設定する場合には,居住建物の所有権を取得する相続人だけでなく,それ以外の相続人についても,その具体的相続分(遺産分割における現実の取得額)が減少することになり,その分の不利益を受けることになると考えられます。
 そこで,改正相続法は,審判で配偶者居住権の設定をすることの相当性を考慮して,「遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
① 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
② 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において,居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。」
旨を定め,遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,①配偶者に配偶者居住権を取得させることについて,配偶者居住権の設定によって不利益を受ける相続人全員の合意がある場合,または,②配偶者の生活を維持するために配偶者居住権を取得させることが特に必要と認められる場合,すなわち,配偶者以外の相続人は,通常は配偶者に対して扶養義務を負い,または負い得る関係にあるため(民法877条1項・2項),他の相続人がこの限度で不利益を受けることになったとしてもやむを得ない場合に限って,審判で配偶者居住権の取得を認めることができるとしました(新民法1029条)





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