【司法書士】
民法(相続法)の改正について⑧


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 残暑が厳しく,なかなか涼しくなりませんね。秋の到来が待ち遠しところです。
 年明けが答練等によるアウトプットの時期だとしますと,今はまだインプットをすべき時期です。今年の過去問を中心に,正解率の高い問題を確実に解ける能力を養っておいてください。繰り返し申し上げますが,10のあやふやな知識より,1の正確な知識を確実にマスターすることこそが,合格に不可欠な学習です。インプットは必ずしも新しい知識を仕入れるというわけではありません。既存の知識を確たるものにすることも含まれます。択一式試験では,問題文の長文化が近年の傾向です。問題文を丁寧に読むことは解答を導き出す上で,とても大切なことです。しかし,近年の本試験では問題文をゆっくり読んでいる暇はありません。正確な知識で確実に判断ができる肢が2~3肢あれば,5肢全部を読まなくても,解答することができる場合があります。このような意味でも,正確な知識を確実にマスターすることを心がけてください。

 さて,今回ご紹介する改正相続法のテーマは,公布の日(平成30年7月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。改正債権法)の施行と同時に施行される可能性が高いと予想されます。来年の本試験では出題されませんので,「このような改正があったのか」程度の理解でよろしいかと思います(読み物として,通読していただければ幸いです)。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,③)
4.遺産分割等に関する見直し(民法903条~909条の2)
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
(以上,前回④)
5.相続の効力等に関する見直し
⑴ 相続における権利の承継の対抗要件
⑵ 相続による債務承継
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定
⑵ 特別寄与料の額
⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質
⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等
(以上,前回⑤)
7.配偶者の居住権を保護するための方策
⑴ 配偶者の居住権制度の創設とその背景
⑵ 配偶者短期居住権の意義とその成立
⑶ 配偶者居住権の意義とその成立
⑷ 審判による配偶者居住権の取得
⑸ 配偶者居住権の存続期間
⑹ 配偶者による居住建物の使用および収益
⑺ 配偶者による居住建物についてのその他の規定
⑻ 配偶者居住権の登記等
(以上,前回⑥)
8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者長期居住権)
⑴ 配偶者居住権の意義とその成立
⑵ 配偶者居住権の価値
⑶ 審判による配偶者居住権の取得
(以上,前回⑦)
⑷ 配偶者居住権の存続期間
⑸ 配偶者居住権の効力
⑹ 配偶者居住権の登記(対抗要件)
⑺ 配偶者居住権の消滅
⑻ 居住建物の返還等(以上,今回)

○ 遺言書保管法

8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者配偶者居住権)

⑷ 配偶者居住権の存続期間

 配偶者居住権が設定された場合には,その負担を受ける建物所有者は,その存続期間中,対価(賃料)を得ることなく配偶者による建物の使用を甘受すべき立場に置かれることになります。そのため,その存続期間(負担を甘受しなければならない期間)を明確にする必要性は高いものと考えられます。他方で,配偶者居住権の存続期間を定めることをその成立の要件としてしまうと,被相続人が単独行為である遺贈によって配偶者居住権を設定しようとする場合に,その存続期間が定められていないことを理由として,その設定が無効になるおそれがあります。同様に,配偶者居住権の設定行為(遺産分割協議もしくは審判,遺贈または死因贈与契約)においても,存続期間を定めなければならないものとすると,これを定めなかったことを理由として,その設定が無効になるおそれがあります。また,遺言者が遺言においてその存続期間を特に定めずに,配偶者に配偶者居住権を取得させることとした場合には,配偶者が望む限り,その建物の使用を認める趣旨を有していたと解することが合理的です。
 そこで,改正相続法は,配偶者居住権の存続期間を「配偶者居住権の存続期間は,配偶者の終身の間とする。ただし,遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによる。」旨の規定を新たに設け,設定行為で存続期間の定めをしなくとも,原則として,配偶者居住権の存続期間を配偶者の終身の間とすることを明文化し,生存配偶者が,住み慣れた居住建物での生活を生涯にわたり継続することができるようにしました(新民法1030条)

⑸ 配偶者居住権の効力

 改正相続法は,配偶者居住権の効力について,配偶者居住権と賃借権の類似性を考慮し,概ね賃借権と同様の規定を設けています。
 ① 居住建物の用法遵守義務および善管注意義務
 改正相続法は,「配偶者は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし,従前居住の用に供していなかった部分について,これを居住の用に供することを妨げない。」旨を定め,賃貸借契約における借主と同様(新民法616条,594条1項),配偶者に居住建物について用法遵守義務および善管注意義務を負わせています(新民法1032条1項)
 ② 配偶者居住権の譲渡,第三者による使用の禁止
 改正相続法は,「配偶者居住権は,譲渡することができない」旨のほか(新民法1032条2項)「配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,居住建物の改築若しくは増築をし,又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。」旨をも定めています(新民法1032条3項)。これは,居住建物の所有者は誰が建物を使用するかについて重大な利害関係を有していることを考慮したものであり,配偶者に民法上の賃貸借(民法612条1項)と同様の義務を負わせています。
 ③ 居住建物の使用および収益と修繕等
 改正相続法は,「配偶者は,居住建物の使用および収益に必要な修繕をすることができる」(新民法1033条1項)が,「居住建物の修繕が必要である場合において,配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは,居住建物の所有者は,その修繕をすることができる」(新民法1033条2項)旨を定めています。
 加えて,改正相続法は,「居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く。),または居住建物について権利を主張する者があるときは,居住建物の所有者が既にこれを知っているときを除き,配偶者は,居住建物の所有者に対し,遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし,居住建物の所有者が既にこれを知っているときは,この限りでない。」旨をも定めています(新民法1033条3項)
④ 居住建物の費用の負担
 改正相続法は,「配偶者は,居住建物の通常の必要費を負担する。」旨を定めるほか(新民法1034条1項)配偶者が居住建物について通常の必要費以外の費用を支出したときは,居住建物取得者は,占有者による費用の償還請求の規定(民法196条)に準じて,その償還をしなければならない旨を定めています。ただし,有益費については,裁判所は,居住建物取得者の請求により,その償還について相当の期限を許与することができることとされています(新民法1034条2項による民法583条2項の規定の準用)

⑹ 配偶者居住権の登記(対抗要件)

 改正相続法は,「居住建物の所有者は,配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。 以下この節において同じ。)に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。 」旨を定めています(新民法1031条1項)。配偶者居住権については,賃借権とは異なり,これを取得した配偶者に居住建物の所有者に対する登記請求権を付与しています。配偶者居住権の法的性質については,賃借権類似の法定の債権と位置づけられていますが,賃借権とは異なり,対抗要件は登記のみとし,居住建物の占有は第三者に対する対抗要件とはされていません。
 また,改正相続法は,「2 第605条の規定は配偶者居住権について,第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。」旨を定めています(新民法1031条2項)。すなわち,配偶者が配偶者居住権の登記をしたときは,その不動産について物権を取得した者その他の第三者にこれを対抗することができることとするものです(新民法605条)。また,配偶者が配偶者居住権の設定の登記をしたときは,①その不動産の占有を第三者が妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止の請求,②その不動産を第三者が占有しているときはその第三者に対する返還の請求をそれぞれすることができます(新民法605条の4)

※ 改正相続法と不動産登記法との関連
 改正相続法施行後には,登記することができる権利として,配偶者居住権が追加され(新不動産登記法3条9号),①存続期間,②第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す旨の定めがあるときはその定めが配偶者居住権の登記事項とされました(新不動産登記法81条の2第1項1号・2号)

⑺ 配偶者居住権の消滅

 ① 居住建物の配偶者の用法遵守義務等の違反による消滅
 改正相続法は,「配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において,居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし,その期間内に是正がされないときは,居住建物の所有者は,当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。」旨を定めています(新民法1032条4項)
 ② 配偶者居住権の期間満了による消滅
 改正相続法は,当事者が配偶者居住権の期間を定めたときは,配偶者居住権は,その期間が満了することによって終了するものとしています(新民法1036条による新民法597条3項の準用)
 ③ 配偶者の死亡による消滅
 改正相続法は,配偶者居住権は,配偶者の死亡によって,その効力を失うこととしています(新民法1036条による新民法597条3項の準用)。配偶者居住権は,その存続期間が満了していなくても,配偶者が死亡した場合には消滅します。
 ④ 居住建物の全部滅失等による
 改正相続法は,居住建物の全部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合には,配偶者居住権は,これによって終了します(新民法1036条による新民法616条の2の準用)。権利の客体がなくなってしまった以上,配偶者居住権を存続させることはできないからです。

⑻ 居住建物の返還等

 改正相続法は,「配偶者は,配偶者居住権が消滅したときは,居住建物の返還をしなければならない。ただし,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は,居住建物の所有者は,配偶者居住権が消滅したことを理由としては,居住建物の返還を求めることができない。」旨の規定を新設しています(新民法1035条1項)。配偶者は,居住建物について共有持分を有する場合を除き,配偶者居住権が消滅したときは,居住建物を返還しなければなりません。
 この場合において,配偶者は,相続開始の後に居住建物に附属させた物を収去させる義務を負いますが,居住建物から分離することができない物または分離するのに過分の費用を要する物についてはその義務を負いません(新民法1035条2項による新民法599条1項・2項の準用)。また,配偶者は,相続開始後に居住建物に生じた損傷(通常の使用により生じた損傷および経年変化を除く)を原状に復する義務を負いますが,その損傷が配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,その義務を負いません(新民法1035条2項による新民法621条の準用)

 今回は,条文の紹介で終わってしまい,いささか退屈だったかと思いますが,ご勘弁ください。次回は,「遺言書保管法」(法務局による自筆証書遺言の保管)を取り上げる予定です。





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