【司法書士】
民法(相続法)の改正について⑨


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 残暑が厳しく,なかなか涼しくなりませんね。秋の到来が待ち遠しいところです。
 年明けが答練等によるアウトプットの時期だとしますと,今はまだインプットをすべき時期です。今年の過去問を中心に,正解率の高い問題を確実に解ける能力を養っておいてください。繰り返し申し上げますが,10のあやふやな知識より,1の正確な知識を確実にマスターすることこそが,合格に不可欠な学習です。インプットは必ずしも新しい知識を仕入れるというわけではありません。既存の知識を確たるものにすることも含まれます。また,択一式試験では,問題文の長文化が近年の傾向です。問題文を丁寧に読むことは解答を導き出す上で,とても大切なことです。しかし,近年の本試験では問題文をゆっくり読んでいる暇はありません。正確な知識で確実に判断ができる肢が2~3肢あれば,5肢全部を読まなくても,解答することができる場合があります。このような意味でも,正確な知識を確実にマスターすることを心がけてください。

 さて,今回ご紹介する改正相続法のテーマは,公布の日(平成30年7月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。改正債権法)の施行と同時に施行される可能性が高いと予想されます。来年の本試験では出題されませんので,「このような改正があったのか」程度の理解でよろしいかと思います(読み物として,通読していただければ幸いです)。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,③)
4.遺産分割等に関する見直し(民法903条~909条の2)
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
(以上,前回④)
5.相続の効力等に関する見直し
⑴ 相続における権利の承継の対抗要件
⑵ 相続による債務承継
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定
⑵ 特別寄与料の額
⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質
⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等
(以上,前回⑤)
7.配偶者の居住権を保護するための方策
⑴ 配偶者の居住権制度の創設とその背景
⑵ 配偶者短期居住権の意義とその成立
⑶ 配偶者居住権の意義とその成立
⑷ 審判による配偶者居住権の取得
⑸ 配偶者居住権の存続期間
⑹ 配偶者による居住建物の使用および収益
⑺ 配偶者による居住建物についてのその他の規定
⑻ 配偶者居住権の登記等
(以上,前回⑥)
8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者長期居住権)
⑴ 配偶者居住権の意義とその成立
⑵ 配偶者居住権の価値
⑶ 審判による配偶者居住権の取得
(以上,前回⑦)
⑷ 配偶者居住権の存続期間
⑸ 配偶者居住権の効力
⑹ 配偶者居住権の登記(対抗要件)
⑺ 配偶者居住権の消滅
⑻ 居住建物の返還等
(以上,前回⑧)

○ 遺言書保管法
1.遺言書保管法制度の創設の背景
2.遺言書の保管機関
3.遺言書の保管の申請
4.遺言書保管官による遺言書の保管および情報の管理
5.保管されている遺言書の閲覧(以上,今回)


1.遺言書保管法制度の創設の背景

 公正証書遺言は,その作成時に遺言者に正本や謄本が交付されると同時に公証人役場でも厳重に保管されます。そして,相続開始時に,たとえ遺言者に交付された正本や謄本が所在不明となったとしても,相続人であれば,最寄りの公証役場で,公正証書遺言の存否,当該公正証書遺言がどこの公証人役場で保管されているか等を調べることができます(遺言書検索サービス)。そして,公正証書遺言が存在する旨の回答を受けた場合,相続人は,必要に応じて,公正証書遺言が現実に保管されている公証人役場に対して,遺言書の謄本の交付を請求することができます。
 これに対し,自筆証書遺言は,その存否につき,遺言者が生前に推定相続人・遺言執行者に告知した場合等を除き,遺言者本人しか知り得ない場合がほとんどです。現行法では,その保管制度が存在しないため,遺言書を紛失し,あるいは相続人等に破棄または隠匿されてしまうと,他の相続人がその存否を調査することはほとんど不可能に近いといえます。
 また,相続人は,「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に相続を承認するか,放棄するかを決めなければなりませんが(民法915条1項),相続開始後速やかに遺言の有無および内容を確認することができなければ,その判断を適切に行うことは困難です。さらに,被相続人が自筆証書遺言を作成していた場合であっても,相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺産分割協議が終了し,あるいは遺言書が存在しないものとして進められた遺産分割協議が後日遺言書の発見により無駄になるおそれもあります。このほかにも,複数の遺言書が発見された場合や,一部の相続人が遺言書の偽造または変造を主張した場合には,遺言書の作成の真正等をめぐって深刻な紛争が生じるおそれがあります。加えて,近年,自分の死後の相続をめぐる紛争を防止するため,遺言,とりわけ,公正証書遺言と比べて作成が容易な自筆証書遺言を作成する高齢者が増加傾向にあります。
 そこで,高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み,相続をめぐる紛争を防止するという観点から,法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」といいます。)が制定され,法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度が新たに設けられました。この制度の普及により,自筆証書遺言の有無の検索を可能とすることにより,自筆証書遺言の紛失や隠匿の防止につながり,相続をめぐる紛争の防止や相続人の利便性も向上するなどの効果が期待されています。

2.遺言書の保管機関

 パブリックコメントでは,自筆証書遺言の保管業務を行う公的機関については,全国に相当数存在し,利便性がある一方で,市区町村役場ほど国民が頻繁に訪問する機関でもないため遺言者のプライバシー保護も確保できるなどの理由から法務局が相当であるという意見が出されました。また,遺言書という極めて重要な個人情報を含む文書を保管する機関には高度の信頼性が要求されるところ,公的機関において保管事務を行うとすれば,遺言書の保管に関するデータを安全に管理しつつ,遺言書の保管の有無の確認,正本や謄本の請求等について全国で統一的に対応することが可能な国の機関である法務局がこれを行うことが適切であるものと考えられます。そこで,遺言書保管法では,自筆証書遺言に係る遺言書を保管する機関(遺言書保管所)として,法務局が定められました。この法務局は,法務大臣の指定する法務局とされています(遺言書保管法2条1項)。また,遺言書保管所における事務は,遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから,法務局または地方法務局の長が指定する遺言書保管官が取り扱うこととされました(遺言書保管法3条)。

3.遺言書の保管の申請

⑴ 遺言者による保管の申請とその添付書類

 遺言者は,遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対し,遺言書(法務省令で定める様式に従って作成した無封のもの)の保管の申請をすることができます(遺言書保管法4条1~3項)。
 保管の申請の対象となるのは,自筆証書によってした遺言(自筆証書遺言,民法968条)に係る遺言書のみです(遺言書保管法1条。以下,単に「遺言書」という)。
 この申請を行うには,法務省令で定めるところにより,遺言書に添えて,次に掲げる事項を記載した申請書を遺言書保管官に提出しなければなりません(遺言書保管法4条4項1号~4号)。その際には,②の事項を証明する書類その他法務省令で定める書類を添付しなければなりません(遺言書保管法4条5項)。
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① 遺言書に記載されている作成の年月日
② 遺言者の氏名,出生の年月日,住所および本籍(外国人にあっては,国籍)
③ 遺言書に次に掲げる者の記載があるときは,その氏名または名称および住所
 イ 受遺者
 ロ 民法1006条1項の規定により指定された遺言執行者
④ 前3号に掲げるもののほか,法務省令で定める事項
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※ 遺言書保管官による遺言書の審査
 法制審議会の民法(相続関係)部会では,遺言書保管官において,保管申出に係る遺言書について,日付および氏名の自書並びに押印の方式違背の有無を審査し,不備がある場合には遺言者に対して補正を促した上で,補正がされないときは保管申出を却下すべき等の意見が出されていました。これは,遺言者から保管申出がされた遺言書が方式違背により無効であることが明らかな場合には,これを保管する必要性は認めらないこと,また,自筆証書遺言の方式として民法968条に定められたもののうち,方式違背の有無を確認することが比較的容易であることからです。しかし,遺言書保管法上は,このような遺言書保管官による遺言書の審査についての規定は置かれていません。他方,あえてこのような審査についての規定を設けなくとも,例えば,保管申出がされた遺言書に日付や署名の記載がないことが明らかである場合には,保管申請を受けた遺言書保管官において事実上その旨を指摘するという取扱いをすることはできるものと考えられる。今後,運用の指針となる通達等の発出が待たれます。

⑵ 遺言書の保管の申請の資格と遺言書保管官による本人確認

 遺言者が遺言書の保管の申請をするときは,遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません(遺言書保管法4条6項)。
 遺言書保管官は,遺言書の保管の申請があった場合において,申請人に対し,法務省令で定めるところにより,当該申請人が本人であるかどうかの確認をするため,当該申請人を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示もしくは提出またはこれらの事項についての説明を求めるものとされています(遺言書保管法5条)。偽造等の防止の観点から,遺言書保管所に対する遺言保管の申出資格については,これを遺言者本人に限ることとしており,また,遺言書保管官において本人確認を行うこととされています。

4.遺言書保管官による遺言書の保管および情報の管理

⑴ 遺言書(原本)の保管

 保管の申請がされた遺言書については,遺言書保管官が,遺言書保管所の施設内においてその原本が保管されます(遺言書保管法6条1項)。

⑵ 遺言書の保管および情報の管理

 遺言書保管官は,その保管する遺言書について,当該遺言書に係る情報の管理をしなければなりません(遺言書保管法7条1項)。
 遺言書に係る情報の管理は,磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)をもって調製する遺言書保管ファイルに,次に掲げる事項を記録することによって行うものとされています(遺言書保管法7条2項)。
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① 遺言書の画像情報
② 遺言書に記載されている作成の年月日(遺言書保管法4条4項1号)
③ 遺言者の氏名,出生の年月日,住所および本籍(外国人にあっては,国籍)(遺言書保管法4条4項2号)
④ 遺言書に次に掲げる者の記載があるときは,その氏名または名称および住所(遺言書保管法4条4項3号)
 イ 受遺者
 ロ 民法1006条1項の規定により指定された遺言執行者
⑤ 遺言書の保管を開始した年月日
⑥ 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称および保管番号
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 これは,大規模災害等による遺言書原本の滅失のおそれを考慮したものであり,万一,大規模災害等により遺言書原本が滅失した場合であっても,法務局において保管している当該遺言書の画像データを利用して遺言書の正本を作成することができるものとすることが考えられています。

5.保管されている遺言書の閲覧

 遺言者は,その申請に係る遺言書が保管されている遺言書保管所(以下,「特定遺言書保管所」という)の遺言書保管官に対し,いつでも当該遺言書の閲覧を請求することができます(遺言書保管法6条2項)。閲覧の請求をしようとする遺言者は,法務省令で定めるところにより,その旨を記載した請求書に法務省令で定める書類を添付して,遺言書保管官に提出しなければなりません(遺言書保管法6条3項)。
 遺言者が閲覧の請求をするときは,特定遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならず(遺言書保管法6条4項前段),遺言書保管官は,遺言書の閲覧の申請があった場合において,申請人に対し,本人確認を行います(遺言書保管法6条4項後段)。遺言者以外の者による遺言書の偽造や変造を防止し,プライバシー保護の観点から,相続開始前に遺言書原本を閲覧することができる者については遺言者本人に限定されています。もっとも,相続開始後に,相続人等において遺言書の内容を確認することは不可欠と考えられることから,相続人等が特定遺言書保管所において遺言書原本の閲覧をすることができるものとされています(遺言書保管法9条3項)。





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