【司法書士】
民法(相続法)の改正について⑩


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 関西の豪雨による被害と北海道胆振東部地震とそれに伴う大規模停電は,詳細が報道されるにつれ,その被害の甚大さに驚き,心が痛みました。被害に遭われた方には,本紙面をお借りして,心よりお見舞い申し上げます。

 いよいよ明日は筆記試験の合格発表ですね。法務省による択一式試験の正誤や基準点の発表で,ある程度,ご自身の合否の予想はついているといえ,やはり結果を見ないと合否ははっきりしないものです。私が,受験した頃は,法務省による択一式試験の正誤や基準点の発表がないばかりか,問題文の持ち帰りもできない時代でした。そのため,今以上に自分の合否を知るには,合格発表を見ざるを得なかったのです。その頃の話でこのような話がありました。ある受験生が,自分は落ちていると思って,合格発表も見ずに長期の旅行に出てしまったそうです。ところが,実はその受験生は合格していて,合格通知が届いており,口述試験さえ受ければ最終合格となったはずのところ,長期の旅行のため,その事実を知らず,また,口述試験を受けなかったため,不合格になってしまったとのことです(口述試験を受けないで合格した筆記試験合格者は1人もいません)。このような事例もありますので,厳しいことをいうようですが,たとえ,今年は難しいと思われた方でも,合格発表は,必ずご自分の目で確かめるようにしてください。

 さて,今回ご紹介する改正相続法のテーマは,公布の日(平成30年7月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。改正債権法)の施行と同時,あるいはそれ以降に施行される可能性が高いと予想されます。来年の本試験では出題されませんので,「このような改正があったのか」程度の理解でよろしいかと思います(読み物として,通読していただければ幸いです)。

○ 改正相続法の骨子
1.自筆証書遺言の方式の緩和等(民法968条,998条)
⑴ 自筆証書遺言の方式の緩和
⑵ 遺贈義務者の引渡義務
2.遺言執行者の権限の明確化(民法1007条・1012条~1016条)
⑴ 遺言執行者の法的地位および一般的な権限の明確
⑵ 遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱い
(以上,①参照)
⑶ 特定財産に関する遺言の執行についての遺言執行者の権限
⑷ 遺言執行者の復任権・その責任の緩和
3.遺留分制度に関する見直し(民法1042条~1049条)
⑴ 遺留分侵害額請求権の創設と受遺者等の保護
(以上,②)
⑵ 遺留分侵害額請求権を受けた場合の受遺者または受贈者の負担額
⑶ 遺留分の算定方法の見直し
⑷ 遺留分侵害額の算定における債務の取扱い
(以上,③)
4.遺産分割等に関する見直し(民法903条~909条の2)
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
⑵ 仮払い制度等の創設・要件の明確化
⑶ 遺産の一部分割
⑷ 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
(以上,前回④)
5.相続の効力等に関する見直し
⑴ 相続における権利の承継の対抗要件
⑵ 相続による債務承継
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
⑴ 特別寄与者および特別寄与料の制度の制定
⑵ 特別寄与料の額
⑶ 特別寄与者の特別寄与料請求権の法的性質
⑷ 特別寄与料の支払いにつき当事者間で協議が調わないとき等
(以上,前回⑤)
7.配偶者の居住権を保護するための方策
⑴ 配偶者の居住権制度の創設とその背景
⑵ 配偶者短期居住権の意義とその成立
⑶ 配偶者居住権の意義とその成立
⑷ 審判による配偶者居住権の取得
⑸ 配偶者居住権の存続期間
⑹ 配偶者による居住建物の使用および収益
⑺ 配偶者による居住建物についてのその他の規定
⑻ 配偶者居住権の登記等
(以上,前回⑥)
8.配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者長期居住権)
⑴ 配偶者居住権の意義とその成立
⑵ 配偶者居住権の価値
⑶ 審判による配偶者居住権の取得
(以上,前回⑦)
⑷ 配偶者居住権の存続期間
⑸ 配偶者居住権の効力
⑹ 配偶者居住権の登記(対抗要件)
⑺ 配偶者居住権の消滅
⑻ 居住建物の返還等
(以上,前回⑧)

○ 遺言書保管法
1.遺言書保管法制度の創設の背景
2.遺言書の保管機関
3.遺言書の保管の申請
4.遺言書保管官による遺言書の保管および情報の管理
5.保管されている遺言書の閲覧
(以上,前回⑨)
6.遺言者による遺言書の保管の申請の撤回
7.遺言書の閲覧および相続人等による証明書の請求等
8.遺言書の検認の適用除外
9.遺言書の廃棄(以上,今回)

6.遺言者による遺言書の保管の申請の撤回

 遺言者は,特定遺言書保管所(遺言書保管法4条3項)の遺言書保管官(遺言書保管法3条)に対し,いつでも,遺言書の保管(遺言書保管法4条1項)の申請を撤回することができます(遺言書保管法8条)。これは,遺言者において,事後の事情変更等により当該遺言書を撤回するなどの必要が生ずることが想定されることに対応したものであるとされています。
 遺言を撤回しようとする遺言者は,特定遺言書保管所に自ら出頭した上で(遺言書保管法8条3項),法務省令で定めるところにより,その旨を記載した撤回書に法務省令で定める書類を添付して,遺言書保管官に提出しなければなりません(遺言書保管法8条2項)。
 遺言書の撤回にあたっては,遺言書保管官は,遺言者に対し,法務省令で定めるところにより,当該遺言者が本人であるかどうかの確認をするため,当該遺言者を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示もしくは提出またはこれらの事項についての説明を求めるものとされています(遺言書保管法8条3項,5条)。撤回しようとする者が遺言書の保管を申請した者本人であることを確認し,第三者等による虚偽の撤回を防止する趣旨です。
 なお,相続開始後には,相続人等(相続人,受遺者及び遺言執行者)が遺言書の保管の申請を撤回して,遺言書原本の返還を求めることはできません。これは,仮に原本の返還を認めるとすると,複数の相続人による返還請求が競合した場合の対応が困難となる上,特定の相続人が遺言書原本の返還を受けた後にこれを隠匿するなどのおそれもあること等を考慮したものです。
 そして,遺言書の保管の申請が撤回されると,遺言書保管官は,遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去することになります(遺言書保管法8条4項)。

7.遺言書の閲覧および相続人等による証明書の請求等

⑴ 遺言書の閲覧および相続人等による証明書の請求

 遺言書の保管を申請した遺言者の相続人(相続の欠格事由に該当し(民法891条),または廃除によってその相続権を失った者および相続の放棄をした者を含む。以下同じ。),受遺者等(以下,「関係相続人等」という。)は,遺言者の死亡後,遺言書保管官に対し,遺言書の画像情報等を用いた証明書(以下,「遺言書情報証明書」という。)の交付請求および遺言書原本の閲覧請求をすることができます(遺言書保管法9条1項・3項)。
 閲覧の請求は,関係遺言書を保管する遺言書保管所の遺言書保管官に対し,当該関係遺言書の閲覧を請求しなければなりませんが(遺言書保管法9条3項),遺言書情報証明書の請求は,自己が関係相続人等に該当する遺言書(以下「関係遺言書」という。)を現に保管する遺言書保管所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対してもすることができます(遺言書保管法9条2項)。
 これらの請求をしようとする者は,法務省令で定めるところにより,その旨を記載した請求書に法務省令で定める書類を添付して,遺言書保管官に提出しなければなりません(遺言書保管法9条4項)。

⑵ 相続人等への通知

 遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し,または,相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは,原則として,速やかに,当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人,受遺者および遺言執行者(以下「相続人等」という。)に通知することとされています(遺言書保管法9条5項)。現行法上,自筆証書遺言の検認の申立てがされた場合には,裁判所書記官は検認期日を定めて申立人及び相続人に通知しなければならず,また,遺言書の検認がされたときは,裁判所書記官は,遺言書の検認の期日に立ち会わなかった相続人,受遺者その他の利害関係人(前記通知を受けた者を除く。)にその旨を通知しなければならないとされており(家事事件手続規則115条),これにより他の相続人および受遺者が遺言書の存在とその内容を知る機会が事実上与えられています。そこで,遺言書保管法でも,このような現行法上の取扱いと同様の機会を確保する観点から,このような規定が設けられています。

⑶ 遺言書保管事実証明書の交付

 何人も,遺言書保管官に対し,遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無ならびに当該関係遺言書が保管されている場合には遺言書保管ファイルに記録されている遺言書に記載されている作成の年月日(遺言書保管法7条2項2号(4条4項1号に係る部分に限る。))および遺言書が保管されている遺言書保管所の名称および保管番号(遺言書保管法7条2項4号)を証明した書面(以下「遺言書保管事実証明書」という。)の交付を請求することができます(遺言書保管法10条1項)。
 この証明書の交付可能な時期については相続開始後に限定されています。これは,遺言者のプライバシーを保護する必要性がある(遺言の存在を他者に知らせるか否かは遺言者自身の意思に委ねられるべきである)ことと,現行法上,遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生じるもので,かつ,遺言者においていつでも撤回することができるとされているため(民法985条1項),相続開始前に遺言者以外の者(推定相続人等)にその存否を把握させる必要性は認められないことを理由とするものであるとされています。
 この請求は,これらの請求をしようとする者は,法務省令で定めるところにより,その旨を記載した請求書に法務省令で定める書類を添付して,遺言書保管官に提出しなければなりません(遺言書保管法10条2項,9条4項)が,関係遺言書を現に保管する遺言書保管所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対してもすることができます(遺言書保管法10条2項,9条2項)。

⑷ 手数料

 次の者は,物価の状況のほか,次の①から③までの事務に要する実費を考慮して政令で定める額の手数料を収入印紙によりこれを納めなければなりません(遺言書保管法12条)。
① 遺言書の保管の申請をする者
→ 遺言書の保管および遺言書に係る情報の管理に関する事務
② 遺言書の閲覧を請求する者
→ 遺言書の閲覧およびそのための体制の整備に関する事務
③ 遺言書情報証明書または遺言書保管事実証明書の交付を請求する者
→ 遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付およびそのための体制の整備に関する事務

8.遺言書の検認の適用除外

 自筆証書遺言書の保管者は相続の開始を知った後,また。遺言書の保管者がない場合において,相続人が遺言書を発見した後は遅滞なく,これを家庭裁判所に提出して,その検認を請求しなければなりません(民法1004条)。
 これに対し,遺言書保管所に保管されている遺言書については, 遺言書の検認(民法1004条)の規定は,適用されないことから(遺言書保管法11条),相続が開始しても,当該遺言書については,検認の手続を受けることを要しません。検認手続の意義は,家庭裁判所が遺言書の現状を凍結し,遺言書の状態等を検証する際に,申立人および相続人にも立会いの機会を与えてその状態を確認させることにもあります。しかし,遺言書保管所の遺言書保管官において,遺言書を現状のまま(遺言書の方式を一定程度確認した上)で保管することに加え,相続の開始後に相続人等からの正本の交付請求等があった場合には,他の相続人等に対しても遺言書の保管事実を通知するものとしており(遺言書保管法9条5項),相続人等が遺言書の存在および内容を知る機会を確保しています。このように,遺言書の保管によって,検認の手続と同内容の手続がなされることから,重ねて検認の手続を受ける必要性に乏しく,検認の手続を受けることを要しないこととされました。

9.遺言書の廃棄

 遺言書保管官は,遺言書の保管をする場合において,遺言者の死亡の日(遺言者の 生死が明らかでない場合にあっては,これに相当する日として政令で定める日)から相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間として政令で定める期間が経過した後は,これを廃棄することができることとされました(遺言書保管法6条5項)。

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<自筆証書遺言の記載例>
遺言書

遺言者甲野太郎は,次のとおり,遺言をする。

1.妻甲野花子(昭和○年○月○日生まれ)に全ての遺産を相続させる。
1.本遺言の遺言執行者として,妻甲野花子を指定する。
平成○年○月○日
東京都○○区○○町○丁目○番○号
遺言者 甲野太郎 印
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参考:(自筆証書遺言)
民法968条 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない
2 自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。





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