【司法書士】
民事信託(家族信託)について①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 気温も下がり,ようやく,秋らしくなってきました。この季節は,学習するのに最もよい季節ですので,時間を有効に使い,効率よく学習するようにしてください。

 司法書士筆記試験の合格発表がありました。
 受験生の皆様の中には,合格レベルの実力を有しながら,不合格になってしまった方も少なくないのではないかと推察されます。合格レベルでは,実力者がひしめき,0.5~1点の差で合否が分かれる場合もあります。このような状態では,実力というより,運の善し悪し(たまたま,試験直前に学習していたところがズバリ出題されたなど)で合否が決まることも珍しくありません。合格を逃した方は,腐らずに,気持ちを新たに来年に向けた学習を始めてください。また,合格レベルにありながら,不合格が続く場合は,学習方法を再検討・改善する余地もあろうかと思います。不本意とは思いますが,謙虚な気持ちで,合格者の学習方法についてのガイダンスなどに足を運ぶのもよいかと思います。

 さて,今回から,最近話題の民事信託(家族信託)をテーマとして取り上げます。私もそうでしたが,信託を苦手とする受験生の方は多いのではないでしょうか。その理由として,具体的なイメージが描きづらいことがあげられると思います。そこで,民事信託(家族信託)と不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な信託の知識を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?

⑴ 「信託」の意味

 「信託」とは,平たくいえば,「信頼して託する」という意味であり,信頼できる人にお金や土地などの財産の運用や管理,または処分を委託し,その利益を自己または自己が指定する人に交付させることをいいます。
 ここで,信託の対象となるお金や土地などの財産(以下,これらを「信託財産」といいます)の運用や管理または処分を委託する人を「委託者」といい(信託法2条4項),その委託を受けて信託財産の運用や管理,または処分をする人を「受託者」といい(信託法2条5項),その利益の交付を受ける権利(受益権)を有する人を「受益者」といいます(信託法2条6項)。
 通常は,委託者と受益者は異なる場合が多いですが(これを「他益信託」といいます),委託者と受益者が同じ人でも構いません(これを「自益信託」といいます)。また,委託者と受託者が同じ人でも構いません(これを「自己信託」といいます)。さらに,一定期間であれば,受託者と受益者が同じ人でも構いません(注)。
 なお,人と申し上げましたが,それらは必ずしも自然人に限らず,法人でも構いません。
 (注)受託者と受益者が同じ人物である場合
 受益者と受託者が同じ人物である場合,すなわち,受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続すると,信託は強制終了となります(信託法163条2号)。このような状態は,信託の本質に反するからであると説明されています。

⑵ 信託制度の仕組み等

① 信託制度の仕組み
 信託制度は,財産を管理するためにある制度であり,信託財産が制度の中心となっているところに特色があります。しかし,代理のようにお金や土地などの財産自体は本人に帰属したままで代理人にはそれらの財産を管理処分する権限のみが与えられるにすぎない任意代理の制度とは異なり,それらの財産自体の名義(所有権等)を受託者に移転することによって,受託者にその管理・処分権限を与え,これらを行わせる仕組みです。この受託者の権限は,受託者自身の利益のために与えられたものではなく,受益者の利益のために与えられたものであり,その目的のために行使されなければなりません。
② 信託財産とは?
 「信託財産」とは,受託者に属する財産であって,信託により管理または処分をすべき一切の財産をいうこととされています(信託法2条3項)。
③ 信託財産の種類
 信託財産となり得る財産は,法律上は制限がありません。財産的な価値(積極財産)のあるものであれば,理論上すべて信託財産とすることができます。具体的には,「不動産」のほか,「現金」「動産」「上場株式」「未上場場株式」「投資信託」「国債等の有価証券」「特許権・商標権等の知的財産権」などがあります。なお,次号以降で述べる家族信託では,実務上,「現金」「不動産」「未上場株式」の3つの財産にほぼ限定されているようです。
④ 信託財産の独立性
 信託財産は,信託によって委託者の固有財産から隔離され,受託者により,受託者の固有財産(注)とは分離されて管理されます。また,信託によって信託財産が受益者の財産となるわけでもありません。信託財産は,結局のところ,誰のものでもない分離独立した財産という特殊な性質を有する財産となります。信託財産は,このような独立性を有しているため,次のような制限が課せられています。

ⅰ 混同の例外
 同一物について所有権および他の物権が信託財産と固有財産または他の信託の信託財産とにそれぞれ帰属した場合であっても,当該他の物権は,消滅しません(民法179Ⅰ本文参照,信託法20条1項)。
ⅱ 破産財団への組入れの制限
 また,受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても,信託財産に属する財産は,破産財団に属しません(信託法25条1項)。
ⅲ 信託財産に対する強制執行等の制限
 信託財産に属する財産に対しては,原則として,強制執行,仮差押え,仮処分もしくは担保権の実行もしくは競売または国税滞納処分をすることはできません(信託法23条1項)。
ⅳ 信託財産に属する債権等についての相殺の制限
 受託者が固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を有する者は,原則として,当該債権をもって信託財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができないこととされています(信託法22条1項本文)。
 (注)「固有財産」
 「固有財産」とは,受託者に属する財産であって,信託財産に属する財産でない一切の財産をいいます(信託法2条8項)。

⑶ 信託財産の公示と対抗要件等

① 信託財産の公示と対抗要件
 信託財産に属する財産は,その性質上信託財産であることを明らかにしなければなりません。例えば,不動産を信託財産とした場合,その旨を公示(登記)しなければ,委託者または受託者の債権者から,その不動産を目的として差押えをされるおそれがあります。そこで,登記または登録をしなければ権利の得喪および変更を第三者に対抗することができない財産については,信託の登記または登録をしなければ,当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができないこととされています(信託法14条)。

② 不動産を信託した場合の例
 不動産を信託財産とした場合には,委託者から受託者へ信託を登記原因とする不動産の所有権移転登記と信託の登記を同時に申請しなければなりません(不動産登記法98条1項)。その不動産が信託財産であることをこれらの登記は,委託者と受託者との共同申請になりますが,信託の登記は,受託者が単独で申請することができます(不動産登記法98条2項)。これらの登記をすると,登記簿上形式的には,委託者から受託者へ所有権が移転し,受託者が所有権の登記名義人となりますが,信託である旨の登記(公示)がなされることによって,その不動産の所有者が受託者ではない旨が登記記録上明らかになります。
 このような理由から,信託を原因とする所有権移転登記の登録免許税は非課税とされています(登録免許税法第7条1項1号)。また,信託の登記の登録免許税も不動産の価額の1000分の4とされています(登録免許税法別表第1.1⑽イ)。
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<登記申請書~信託による所有権の移転及び信託の登記>

     登 記 申 請 書
登記の目的  所有権移転及び信託
原   因  平成○年○月○日日信託
権利者兼信託 東京都○○区○○町○丁目○番○号
登記申請人   B
義 務 者  東京都○○区○○町○丁目○番○号
        A
添付書面  登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
      信託目録に記録すべき情報 代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  東京都○○区○○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
課税価格  金1000万円
登録免許税 信託分 金4万円
      移転分 登録免許税法第7条第1項第1号により非課税
不動産の表示
 所  在  東京都○○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  東京都○○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】(注)                    【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】          【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
 東京都○○区○○町○丁目○番○号
  A
2.受託者に関する事項
 東京都○○区○○町○丁目○番○号
  B
3.受益者に関する事項等
 受益者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
      C
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 本信託の目的は,受託者が,信託財産を受益者のために管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,受益者の指図に従い,信託不動産の管理・運用・処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
 ① 信託期間が満了したとき。
  本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
 ② 信託不動産を売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
 ① 受益権は,これを分割することができない。
 ② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
 ③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
 なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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(注) 信託目録の作成者
 登記官は,委託者,受託者および受益者の氏名または名称および住所等不動産登記法97条1項各号に掲げる事項を明らかにするため,法務省令(不動産登記規則176条1項)で定めるところにより,信託目録を作成することができるとされています(不動産登記法97条3項)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
  1    所有権移転   平成○年○月○日      平成○年○月○日相続
              受付第○○○号       所有者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
                            A
  2    所有権移転   平成○年○月○日      平成○年○月○日信託
              受付第○○○号       受託者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
                            B
       信託                   信託目録第○○号
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