【司法書士】
民事信託(家族信託)について②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 秋らしくなってきたと思ったら,再び台風が襲来し,各地に被害をもたらしました。都市部では,翌日になっても,空の便や交通網が混乱しました。被害に遭われた方に対しましては,心よりお見舞い申し上げます。また,台風一過で各地の気温が上がり,寒暖差が激しく,体が対応できませんね。

 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,前号)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者(以上,本号)

2.信託の当事者

⑴ 委託者

① 委託者の定義
 「委託者」とは,信託の当事者であって,①契約信託,②遺言信託,③自己信託の方法(信託法3条1号~3号)により信託をする者をいいます(信託法2条4項)。平たくいえば,委託者とは,受益者のために自らの財産を受託者に信じて託する人のことをいいます。
② 委託者の資格・能力
 委託者の資格・能力には,信託法上特に規定はありませんが,権利能力・行為能力があること,遺言能力があることが必要と解されています。また,法人が委託者の場合には,信託がその法人の目的の範囲内でなければならないと解されています。

⑵ 受託者

① 受託者の定義
 「受託者」とは,信託の当事者であって,信託行為(信託契約,遺言,公正証書によってした自己信託の意思表示。信託法2条2項)の定めに従い,信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいいます(信託法2条5項)。平たくいえば,受託者とは,委託者から信じて託されたその財産を,受益者のために管理・運用・処分する人のことをいいます。
② 受託者の資格・能力
 信託は,未成年者または成年被後見人もしくは被保佐人を受託者としてすることはできません(信託法7条)。また,法人が受託者の場合には,信託がその法人の目的の範囲内でなければなりませんが,信託を業として行う場合は,内閣総理大臣の免許を受けることを要します(信託業法3条)。なお,破産手続開始の決定を受け,免責を受けていない者も受託者となることができますが(信託法7条参照),受託者が破産手続開始の決定を受けた場合には,信託行為に別段の定めがあるときを除き,受任者の任務終了事由になります(信託法56条1項3号)。
③ 受託者の権限の範囲
 受託者は,信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有します。ただし,信託行為によりその権限に制限を加えることができます(信託法26条)。
④ 受託者の義務
 受託者は,信託財産に属する財産と固有財産および他の信託の信託財産に属する財産とを,次の財産の区分に応じ,それぞれに定める方法により,分別して管理しなければなりません(分別管理義務,信託法34条)。
ⅰ 信託の登記または登録をすることができる財産(信託法14条,ただしⅲを除く。)
  → 当該信託の登記または登録の方法
ⅱ 信託の登記または登録をすることができない財産(信託法14条,ただしⅲを除く。)
  → 次のイまたはロに掲げる財産の区分に応じ,当該イまたはロに定める方法
イ 動産(金銭を除く。) 信託財産に属する財産と固有財産および他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法
ロ 金銭その他のイに掲げる財産以外の財産 その計算を明らかにする方法
ⅲ 法務省令で定める財産
→ 当該財産を適切に分別して管理する方法として法務省令(信託法施行規則4条1項等)で定める方法
 その他,受託者には,信託の本旨に従って信託事務を処理する義務(信託法29条1項),善管注意義務(信託法29条2項),忠実義務(信託法30条),利益相反行為の制限(信託法31条),公平義務(信託法34条)が課せられています。
⑤ 受託者の変更
ⅰ 受託者の任務の終了
受託者の任務は,信託の清算が結了した場合のほか,原則として,次の事由によって終了します(信託法56条1項1号~7号)。
イ 受託者である個人の死亡
ロ 受託者である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと。
ニ 受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。
ホ 受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと。
ヘ 受託者の辞任(信託法57条)
ト 受託者の解任(信託法58条)
チ 信託行為において定めた事由
ⅱ 受託者の選任と就任
 ⅰの各事由により受託者の任務が終了した場合において,信託行為に新たな受託者(以下「新受託者」という。)に関する定めがないとき,または信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず,もしくはこれをすることができないときは,委託者および受益者は,その合意により,新受託者を選任することができます(信託法62条1項)。なお,合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,新受託者を選任することができます(信託法62条4項)。
 また,ⅰの各事由により受託者の任務が終了した場合において,信託行為に新受託者となるべき者を指定する定めがあるときは,利害関係人は,新受託者となるべき者として指定された者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができます(信託法62条2項本文)。ただし,当該定めに停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件が成就し,または当該始期が到来した後に限ります(信託法62条2項ただし書)。そして,この催告があった場合において,新受託者となるべき者として指定された者は,催告期間内に委託者および受益者(2人以上の受益者が現に存する場合にあってはその1人,信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人(注))に対し確答をしないときは,就任の承諾をしなかったものとみなされます(信託法62条3項)。
(注)「信託管理人」とは?
 信託行為においては,受益者が現に存しない場合に信託管理人となるべき者を指定する定めを設けることができます(信託法123条1項)。このような場合において,受益者が本来受けるべき利益を損なわないように受益者に代わって権利を行使する者が信託管理人です。信託管理人が権限を行使するには,受益者がその当時存在しないことが要件とされます。信託管理人は,原則として,受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(信託法125条1項本文)。
⑥ 受託者の変更の登記
ⅰ 原則
 受託者の任務の終了に伴い新受託者が就任した場合においては,「受託者変更」を原因とする旧受託者から新受託者への所有権移転登記を申請することになります。この登記は,旧受託者を登記義務者とし,新受託者を登記権利者とする共同申請になります(共同申請の原則,不動産登記法60条)。
ⅱ 例外(単独申請)
イ 受託者の死亡等の場合
 受託者の任務が死亡,後見開始もしくは保佐開始の審判,破産手続開始の決定,法人の合併以外の理由による解散または裁判所もしくは主務官庁等の解任命令により終了し,新たに受託者が選任されたときは,信託財産に属する不動産についてする受託者の変更による権利の移転の登記は,不動産登記法60条の規定(共同申請の原則)にかかわらず,新たに選任された当該受託者が単独で申請することができます(不動産登記法100条1項)。
ロ 受託者が2人以上ある場合の受託者の1人の任務終了がしたとき
受託者が2人以上ある場合において,そのうち少なくとも1人の受託者の任務が前項に規定する事由により終了したときは,信託財産に属する不動産についてする当該受託者の任務の終了による権利の変更の登記は,不動産登記法60条の規定(共同申請の原則)にかかわらず,他の受託者が単独で申請することができます(不動産登記法100条2項)。
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<登記申請書~受託者死亡による変更の登記(単独申請)>

     登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転
原   因  平成○年○月○日受託者死亡による変更
申 請 人  (旧受託者B)
        ○区○町○丁目○番○号
        C
添付書面  登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  ○区○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
        連絡先電話番号○○-○○○○-○○○○
登録免許税  登録免許税法第7条第1項第3号により非課税
不動産の表示及び信託目録の表示
 所  在  東京都○○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  東京都○○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
 平成○年  信託目録第○号
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<登記記録例(一部省略)~受託者変更の場合>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
 1     所有権移転   平成○年○月○日     平成○年○月○日相続
              受付第○○○号      所有者 ○区○町○丁目○番○号
                              A
 2     所有権移転   平成○年○月○日     平成○年○月○日信託
              受付第○○○号       受託者 ○区○町○丁目○番○号
                              B
       信託                 信託目録第○○号
 3     所有権移転   平成○年○月○日     平成○年○月○日受託者変更
                          受託者 ○区○町○丁目○番○号
                              C

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※ 信託目録の変更
登記官は,受託者の変更による所有権移転の登記をすることにより,信託目録上の受託者の記録についても,その職権により,その変更をしなければなりません(不動産登記規則176条3項)。
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】                   【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   A
2.受託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   B
  受託者変更
  原因 平成○年○月○日変更
  受託者 ○区○町○丁目○番○号
       C
  平成○年○月○日付記
3.受益者に関する事項等
  受益者 ○区○町○丁目○番○号
      D
4.信託条項(以下省略)
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⑶ 受益者

① 受益者の定義
 「受益者」とは,受益権を有する者をいいます(信託法2条6項)。ここでいう「受益権」とは,信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)およびこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいいます(信託法2条7項)。平たくいえば,受益者とは,委託者に指定され,委託者が受託者を信じて託した財産に基づき,受託者が管理・処分によって得た利益を受ける権利(受益権)を有する人のことをいいます。
 委託者と受益者を兼ねることも差し支えありません。このような信託を「自益信託」といいます。
② 受益者の資格・能力
 受益者の資格・能力には,特に規定はありません。未成年者または成年被後見人もしくは被保佐人を受益者としてすることも差し支えありません。権利能力なき社団であっても,実体法上は,受益者となり得ますが,これを受益者として信託の登記の申請をすることはできません(先例昭59.3.2-1131)。権利能力のない社団が,受益者として指定されたときの受益権は,その社団の構成員に総有的に帰属すべきものと解すべきであり,受益者の登記は,その実質権利者たる構成員全員の名義またはその代表者名義をもってする必要があると解されています。
③ 受益権の取得
 信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者は,信託行為に別段の定めがある場合を除き,当然に受益権を取得します(信託法88条)。
④ 受益権の譲渡
 受益者は,その性質がこれを許さないときを除き,受益権を譲り渡すことができます(信託法93条1項)。
⑤ 受益権の譲渡の登記と対抗要件
 受益権の譲渡は,譲渡人が受託者に通知をし,または受託者が承諾をしなければ,受託者その他の第三者に対抗することができません(信託法94条1項)。そして,この通知および承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,受託者以外の第三者に対抗することができません(信託法94条2項)。
 受益権の譲渡の登記(信託目録の変更の登記)は,第三者対抗要件ではなく,公示上の便宜のためであるとされています。
 なお,この登記は,登記名義人である受託者の単独申請となります(不動産登記法103条1項)。
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     <信託目録記載変更申請書~受益権の売買の登記>

         信託目録記載変更申請書

登記の目的  受益者変更
原   因  平成○年○月○日売買
変更後の事項  受益者
        東京都○○区○○町○丁目○番○号 D
申請人    東京都○○区○○町○丁目○番○号
(受託者)    B
添付書面  登記原因証明情報  代理権限証明情報
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代理人    東京都○○区○○町○丁目○番○号
       司法書士 法務律子 ㊞
       連絡先電話番号○○-○○○○-○○○○
登録免許税  金2000円
不動産の表示及び信託目録の表示
 所  在  東京都○○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  東京都○○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積    1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
 平成○年  信託目録第○号
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※ 信託目録の変更
 登記官は,受益権譲渡人である旧受益者の表示を抹消します。
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 <信託目録の内容(一部省略)>
 【信託目録】                   【調整】平成○年○月○日
 【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
 第○号    平成○年○月○日第○○○号
 1.委託者に関する事項
   東京都○○区○○町○丁目○番○号
   A
 2.受託者に関する事項
   東京都○○区○○町○丁目○番○号
   B
 3.受益者に関する事項等
   受益者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
       
   受益者変更
   平成○年○月○日
   第○号
   原因 平成○年○月○日売買
   受益者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
       D
 4.信託条項(以下省略)
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* 下線部分は抹消事項であることを示す。