【司法書士】
民事信託(家族信託)について③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 通勤途中で公園を通ったら,なにやら,良い香りがしました。辺りを見渡すと,キンモクセイの木がありました。しかし,残念なことに,台風でその花もかなり落ちてしまっていました。台風一過はまだ暑い日がありますが,だいぶ過ごしやすくなりました。秋は食べ物の美味しい季節なので,誘惑もありましょうが,学習にも力を入れてくださいね。

 さて,今回は,信託の当事者について,条文を中心に述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,前々回①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,前回②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人(以上,今回)

⑷ 信託管理人

① 信託管理人の定義
 信託管理人とは,受益者が現に存在しない場合や特定されない場合などに,受益者に代わって,受益者が有する権利を行使する権限を有する者をいいます。このような場合においては,受益者に代わって,信託に関する意思決定をすると共に,受託者を監督し,受益者が有するすべての権利を行使する者が必要不可欠だからです。
 受益者が現に存しない場合の例としては,次のものが挙げられます。
 イ まだ生まれていない子を受益者として指定する場合
 ロ ある大会の優勝者を受益者として指定したところ優勝者がまだ決まっていない場合
 ハ 信託行為の定めにより受益者を指定する権利を有する者がまだこの指定権を行使していない場合(信託法89条)
 ニ 受益者の定めのない信託の場合(信託法258条以下)等


② 信託管理人の資格・能力
 未成年者,成年被後見人,被保佐人は,信託管理人になることができません(信託法124条1号)。信託管理人の職務の重要性や責任の重さを考慮してこのような定めがおかれています。
 また,当該信託の受託者である者は,信託管理人になることができません(信託法124条1号・2号)。信託管理人が受託者を監督する権利を有することから,受託者からの独立性を確保するための規定です。
③ 信託管理人の権限の範囲
 信託管理人は,信託行為に別段の定めがある場合を除き,受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(信託法125条1項)。
④ 信託管理人の義務
 信託管理人は,善良な管理者の注意をもって,その権限を行使しなければなりません(信託法126条1項,125条1項本文)。また,信託管理人は,受益者のために,誠実かつ公平にその権限を行使しなければなりません(信託法126条2項,125条1項本文)。
⑤ 信託管理人の選任と就任
 信託行為においては,受益者が現に存しない場合に,信託管理人となるべき者を指定する定めを設けることができます(信託法123条1項)。信託行為に信託管理人となるべき者を指定する定めがあるときは,利害関係人は,信託管理人となるべき者として指定された者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができます(信託法123条2項本文)。ただし,当該定めに停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件が成就し,または当該始期が到来した後に限られます(信託法123条2項ただし書)。
 この催告があった場合において,信託管理人となるべき者として指定された者は,相当の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては,受託者)に対し確答をしないときは,就任の承諾をしなかったものとみなされます(信託法123条3項)。
 また,受益者が現に存しない場合において,信託行為に信託管理人に関する定めがないとき,または信託行為の定めにより信託管理人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず,もしくはこれをすることができないときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,信託管理人を選任することができることとされています(信託法123条4項)。
 信託管理人があるときは,その氏名または名称および住所は登記事項となりますので(不動産登記法97条1項3号),信託管理人が就任したときはその旨の変更(信託目録の変更)の登記を申請しなければなりません(不動産登記法103条1項)。
⑥ 信託管理人の任務の終了
 信託管理人の任務は,信託の清算が結了した場合のほか,原則として,次の事由によって終了します(信託法128条1項・2項,56条1項1号~7号,57条,58条)。
 イ 信託管理人である個人の死亡
 ロ 信託管理人である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと。
 ニ 信託管理人(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。
 ホ 信託管理人である法人が合併以外の理由により解散したこと。
 ヘ 信託管理人の辞任(信託法128条2項,57条)
 ト 信託管理人の解任(信託法128条2項,58条)
 チ 信託行為において定めた事由
 そして,これらの事由により信託管理人の任務が終了した場合において,信託行為に新たな信託管理人(以下「新信託管理人」という。)に関する定めがないとき,または信託行為の定めにより新信託管理人となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず,もしくはこれをすることができないときは,新信託管理人を選任することができます(信託法129条1項,62条1項)。
⑦ 信託管理人による事務の処理の終了等
 信託管理人による事務の処理は,受益者が存するに至ったこと,委託者が信託管理人に対し事務の処理を終了する旨の意思表示をしたこと(ただし,この場合にあっては,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる。),信託行為において定めた事由により終了します(信託法130条)

⑸ 信託監督人

① 信託監督人の定義
 信託監督人は,受益者のために受託者の監督を行う者をいいます。受益者が高齢者や未成年者,あるいは知的障碍者等などである場合,受益者が直接受託者を監視・監督することが困難であることから,このような受益者を保護するために,受託者を監視・監督させること目的として選任される者が信託監督人です。
② 信託監督人の資格・能力
 未成年者,成年被後見人,被保佐人または当該信託の受託者である者は,信託管理人になることができません(信託法137条,124条)。
③ 信託監督人の権限
 信託監督人は,信託行為に別段の定めがあるときを除き,受益者のために自己の名をもって受託者の監督に係る権利(信託法92条1号から26条(17号・18号・21号・23号を除く)。)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(信託法132条1項)。
 信託監督人は,受益者が現に存する場合に選任される者ですので,受益者自身によるこの権利の行使と信託監督人によるこの権利の行使との競合の問題が生じます。しかし,この権利については,各受益者が単独で行使することのできる権利と位置付けられていますので,これを受益者と信託監督人とが重畳的に行使できることとしても,信託事務の円滑な処理を妨げることにはなりません。したがって,信託監督人が選任されている場合であっても,受益者自身も,この権利を行使する機会を失うものではないと考えられています。
 2人以上の信託監督人があるときは,信託行為に別段の定めがあるときを除き,これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければなりません(信託法132条2項)。

④ 信託監督人の義務
 信託監督人は,善良な管理者の注意をもって,その権限を行使しなければなりません(信託法133条1項,132条1項本文)。また,信託監督人は,受益者のために,誠実かつ公平にその権限を行使しなければなりません(信託法133条2項,132条1項本文)。
⑤ 信託監督人の選任と就任
 信託行為においては,受益者が現に存する場合に,信託監督人となるべき者を指定する定めを設けることができます(信託法131条1項)。信託行為に信託監督人となるべき者を指定する定めがあるときは,利害関係人は,信託監督人となるべき者として指定された者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができます(信託法131条2項本文)。ただし,当該定めに停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件が成就し,または当該始期が到来した後に限られます(信託法131条2項ただし書)。
 この催告があった場合において,信託監督人となるべき者として指定された者は,相当の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては,受託者)に対し確答をしないときは,就任の承諾をしなかったものとみなされます(信託法131条3項)。
 受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において,信託行為に信託監督人に関する定めがないとき,または信託行為の定めにより信託監督人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず,もしくはこれをすることができないときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,信託監督人を選任することができることとされています(信託法131条4項)。
 信託監督人は,明確に信託の登記事項とはされていませんが(不動産登記法97条1項参照),信託の登記事項である「その他の信託の条項」(不動産登記法97条1項11号)として登記することができるとする見解もあります。
⑥ 信託監督人の任務の終了
 信託監督人による事務の処理は,信託の清算の結了のほか,委託者および受益者が信託監督人による事務の処理を終了する旨の合意をしたこと(信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる),または,信託行為において定めた事由により終了します(信託法136条1項)。

⑹ 受益者代理人

① 受益者代理人の定義
 受益者代理人は,現に存する特定の受益者のために受益者の権利を行使する者をいいます。年金信託(注)などのように受益者が頻繁に変動するためにその固定性を欠くような場合,受託者の側からしても,受益者に対して信託の利益(配当)を給付し,あるいは,信託の変更などの意思決定をする上で,受益者を逐一把握することが容易ではないことがあります。また,受益者が,行為無能力者などのように,迅速かつ適切に信託に関する意思決定や受託者の監督を行うことが困難な場合もあります。そのため,その代理する受益者のために当該受益者が有する信託法上の一切の権利を行使する権限を有する受益者代理人を選任しておくことにより,受益者の利益を保護するとともに,信託事務を円滑に処理することが可能となり,受益者および受託者の双方にとって有益であると考えられています。


(注)「年金信託」とは?
 委託者である企業等から,その従業員の退職年金給付にあてるための資金の管理,運用を目的として信託会社が受託者として行う信託をいいます。

② 受益者代理人の資格・能力
未成年者,成年被後見人,被保佐人または当該信託の受託者である者は,受益者代理人になることができません(信託法144条,124条)。
③ 受益者代理人の権限の範囲
受益者代理人は,信託行為に別段の定めがあるときを除き,その代理する受益者のためにその受益者の権利(損失てん補責任等の免除(信託法42条)に係るものを除く。)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(信託法139条1項)。
 また,受益者代理人は,受益者が現に存する場合に選任されますので,受益者自身による権利(受託者の監督に係る権利と信託に関する意思決定に係る権利)の行使と受益者代理人による権利の行使との競合の問題が生じます。この場合においては,一般の代理の場合とは異なり,受益者代理人に代理される受益者は,受託者の監督に係る権利(信託法92条各号)および信託行為において定めた権利を除き,その権利を行使することができなくなります(信託法139条4項)。信託に関する意思決定に係る権利についてまで,受益者と受益者代理人とが重畳的に行使できることとすれば,信託事務の円滑な処理を阻害するおそれがあるからです。そのため,委託者において,特に受益者が行使できるものとしておくことが相当と考えた権利についてのみ,信託行為の定めをもって受益者に留保することとしたものです。
1人の受益者につき2人以上の受益者代理人があるときは,信託行為に別段の定めがあるときを除き,これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければなりません(信託法139条3項)。
④ 受益者代理人の義務
 受益者代理人は,善良な管理者の注意をもって,その権限を行使しなければなりません(信託法140条1項)。また,受益者代理人は,受益者のために,誠実かつ公平にその権限を行使しなければなりません(信託法140条2項)。
⑤ 受益者代理人の選任と就任
 信託行為においては,その代理する受益者を定めて,受益者代理人となるべき者を指定する定めを設けることができます(信託法138条1項)。信託行為に受益者代理人となるべき者を指定する定めがあるときは,利害関係人は,受益者代理人となるべき者として指定された者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができます(信託法138条2項本文)。ただし,当該定めに停止条件又は始期が付されているときは,当該停止条件が成就し,または当該始期が到来した後に限られます(信託法138条2項ただし書)。
この催告があった場合において,受益者代理人となるべき者として指定された者は,相当の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては,受託者)に対し,確答をしないときは,就任の承諾をしなかったものとみなされます(信託法138条3項)。
 受益者代理人は,信託行為のみによって定めることしかできません。信託管理人や信託監督人の場合のように,裁判所の決定によって選任することはできません(先例平19.9.28-2048)。もっとも,受益者代理人の任務の終了の場合は,その限りではありません(後述します)。
 受益者代理人があるときは,その氏名または名称および住所は登記事項となるので(不動産登記法97条1項4号),受益者代理人が就任したときはその旨の登記を申請しなければなりません(不動産登記法103条1項)。受益者代理人は,信託目録に記録されます(先例平19.9.28-2048)。
⑥ 受益者代理人の任務の終了
 受益者代理人の任務は,信託の清算が結了した場合のほか,原則として,次の事由によって終了します(信託法141条1項,56条1項1号~7号,57条,58条)。
イ 受益者代理人である個人の死亡
ロ 受益者代理人である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと。
ニ 受益者代理人(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。
ホ 受益者代理人である法人が合併以外の理由により解散したこと。
ヘ 受益者代理人の辞任(信託法141条2項,57条)
ト 受益者代理人の解任(信託法141条2項,58条)
チ 信託行為において定めた事由
 そして,これらの事由により受益者代理人の任務が終了した場合において,信託行為に新たな受益者代理人(以下「新受益者代理人」という。)に関する定めがないとき,または信託行為の定めにより新受益者代理人となるべき者として指定された者が就任をせず,もしくはこれをすることができないときは,新受益者代理人を選任することができます(信託法142条1項,62条1項)。
 また,委託者および受益者の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,委託者または受益者代理人に代理される受益者の申立てにより,新受託者を選任することができます(信託法142条1項,62条4項)。
⑦ 受益者代理人による事務の処理の終了等
 受益者代理人による事務の処理は,信託の清算の結了のほか,委託者及び受益者代理人に代理される受益者が受益者代理人による事務の処理を終了する旨の合意をしたこと(信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる),信託行為において定めた事由により終了します(信託法143条1号・2号)。