【司法書士】
民事信託(家族信託)について④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 ようやく秋の気配が感じられるようになりました。そろそろ,年内答練が開始されます。年明けの答練の前哨戦(肩慣らし)として,あるいは,年内の学習のペース・メーカーとして利用してみてはいかがでしょうか。

 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,前回③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託(以上,今回)



3.信託の成立

⑴ 信託行為とは?

信託行為は,信託を設定する法律行為をいいます。
信託法上,信託とは,「信託契約を締結する方法」,「遺言による方法」と「公正証書等によってする意思表示の方法(自己信託による方法)」のいずれかにより,特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。)に従い,財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることと定義されています(信託法2条1項)。そして,信託の設定とは,信託を目的として所有権等を移転する旨の「信託契約を締結する方法」等が原因行為になります。
「信託行為」とは,次の信託の区分に応じ,それぞれ定めるものをいいます(信託法2条2項)。
① 信託契約を締結する方法による信託
 → 信託契約
② 遺言による方法による信託
 → 遺言
③ 公正証書等によってする意思表示の方法(自己信託による方法)による信託
 → その書面または電磁的記録(信託法3条3号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示


⑵ 信託の方法

⑴で述べましたように,信託の性質や適用される信託法等の条項の違いにより,信託法上の信託には,①契約信託,②遺言信託,または,④自己信託が定められています(信託法3条)。


⑶ 契約信託

① 定義
委託者が受託者との間で,受託者に対し財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨ならびに受託者が一定の目的(専ら自己の利益を図る目的を除く。)に従い,財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法により行われる信託を「契約信託」といいます(信託法3条1号)。
この契約においては,次の事項を定める必要があります。
 ⅰ 委託者に関する事項(委託者の氏名または名称および住所)
 ⅱ 受託者に関する事項(受託者の氏名または名称および住所)
 ⅲ 受益者に関する事項(受益者の氏名または名称および住所ほか)
 ⅳ 信託の目的
 Ⅴ 信託財産
 Ⅵ 信託財産の管理・処分方法
 Ⅶ 信託期間(信託の終了事由)
 Ⅷ 契約年月日
これらのうち,大半は信託目録の記載事項となり,公示されることになります。
② 当事者
信託行為,すなわち,信託契約の当事者は,委託者と受託者です。受益者は,信託契約の当事者とはなりませんが,信託の利益を受ける意思表示を必要とせず,当然に信託の利益を受ける権利を享受し得る地位に立つ者として(信託法88条1項),契約信託において重要な地位を占めます。また,受益者が存しないときに選任される信託管理人(信託法123条1項・4項),必要に応じて,信託監督人(信託法131条1項・4項),受益者代理人(信託法138条1項)が信託関係人として,信託に関与する場合があります。
③ 信託の効力発生,成立要件等
契約信託は,信託の対象となる財産の移転がなくとも,委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生じます(諾成契約,信託法4条1項)。ただし,信託行為に停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件の成就または当該始期の到来によってその効力を生じます(信託法4条4項)。
また,信託財産の移転(不動産における所有権移転および信託の登記)等は,信託契約の成立の要件ではありません。これらは,信託財産に属する財産の対抗要件にすぎません(信託法14条)。
④ 信託の成立の効果
信託契約を締結すると,原則として,信託財産の所有権は受託者に移り,受託者は信託財産の引渡しを請求する義務を負い,委託者は信託財産を引き渡す義務を負うことになります。そして,信託された財産は,委託者の固有財産から独立した存在になります。また,いうまでもなく,受託者の固有財産からも独立した存在になります。
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<登記原因証明情報~契約信託による所有権の移転及び信託の登記>

     登記原因証明情報
1 登記申請情報の要項
⑴ 登記の目的 所有権移転及び信託
⑵ 原因 平成○年○月○日信託
⑶ 当事者
  受託者 ○区○町○丁目○番○号 B
  委託者 ○区○町○丁目○番○号 A
⑷ 不動産の表示 後記のとおり
⑸ 信託目録に記録すべき情報 後記のとおり
2 登記の原因となる事実又は法律行為
⑴ 信託契約の締結
 委託者Aと受託者Bは,平成○年○月○日,後記不動産(以下,「本件不動産」という。)について,後記信託目録に記録すべき情報のとおり管理又は処分を目的とする信託契約を締結した。
⑵ 所有権の移転
 よって,本件不動産の所有権は,同日信託を原因として委託者から受託者に移転した。
平成○年○月○日 東京法務局 ○○ 出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
             委託者 ○区○町○丁目○番○号 A ㊞

     不動産の表示

 所  在  ○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡

信託目録に記録すべき情報
1.委託者に関する事項 ○区○町○丁目○番○号 A
2.受託者に関する事項 ○区○町○丁目○番○号 B
3.受益者に関する事項等 受益者 ○区○町○丁目○番○号 C
4.信託条項
⑴ 信託の目的
本信託の目的は,受託者が,信託財産を受益者のために管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
受託者は,受益者の指図に従い,信託不動産の管理・運用・処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
⑶ 信託の終了の事由
本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
① 信託期間が満了したとき。
本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
② 信託不動産を売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
① 受益権は,これを分割することができない。
② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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<登記申請書~契約信託による所有権の移転及び信託の登記>

     登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転及び信託
原   因  平成○年○月○日信託(注1)
権利者兼信託 ○区○町○丁目○番○号(注2)
登記申請人   B
義 務 者  ○区○町○丁目○番○号(注3)
        A
添付書面   登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
       信託目録に記録すべき情報(注4) 代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人 ○区○町○丁目○番○号
       司法書士 法務律子 ㊞
課税価格  金1000万円
登録免許税 金4万円
      内訳 信託分 金4万円(注5)
         移転分 登録免許税法第7条第1項第1号により非課税
不動産の表示
 所  在  ○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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(注1) 登記原因の日付は,「信託契約成立の日」です。
(注2) 登記権利者として,「受託者」の住所および氏名を記載します。信託の登記は,受託者が単独で申請することができます(不動産登記法98条2項)。
(注3) 登記義務者として,「委託者」の住所および氏名を記載します。
(注4) 書面申請の場合には,信託目録に記録すべき情報が記載された書面を添付します(不動産登記令別表65項添付情報欄ハ)。
(注5) 課税価格(不動産の価格)の1000分の4です(登税別表第1.1⑽イ)。この登記を申請しますと,登記簿上信託財産である不動産の所有権は,受託者に移転しますが,実質的には受託者は委託者の不動産を預かっているにすぎず,その不動産が受託者の固有の財産となるわけではないことから,所有権移転の部分が非課税とされています。
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】(注)                 【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】       【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   A
2.受託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   B
3.受益者に関する事項等
  受益者 ○区○町○丁目○番○号
       C
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 本信託の目的は,受託者が,信託財産を受益者のために管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,受益者の指図に従い,信託不動産の管理・運用・処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
① 信託期間が満了したとき。
 本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
② 信託不動産を売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
① 受益権は,これを分割することができない。
② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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(注) 信託目録の作成者
委託者,受託者および受益者の氏名または名称および住所等不動産登記法97条1項各号に掲げる事項を明らかにするため,法務省令(不動産登記規則176条1項)で定めるところにより,登記官は,信託目録を作成することとされています(不動産登記法97条3項)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
   1   所有権移転    平成○年○月○日      平成○年○月○日相続
              受付第○○○号        所有者 ○区○町○丁目○番○号
                                A
   2   所有権移転    平成○年○月○日      平成○年○月○日信託
              受付第○○○号       受託者 ○区○町○丁目○番○号
                                B
       信託       余白            信託目録第○○号
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