【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 ここへ来て,急に冷え込んできました。まるで,真夏から一気に晩秋へと季節が飛んでしまった感があります。毎日の寒暖の差が激しく,体調を崩しがちですので,皆様の風邪などお召しになりませぬようお気を付けください。

 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,今回)



⑷ 遺言信託

① 定義
 委託者(遺言者)が,受託者に対し財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨ならびに受託者が一定の目的(専ら自己の利益を図る目的を除く。)に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法により行われる信託を遺言信託といいます(信託法3条2号)。
 遺言の方法や方式について,信託法では特別の規定が置かれておりませんので,民法の遺言の規定に従って作成することとなります(民法960条,967条ほか)。
② 信託の成立要件等
 遺言信託は,当該遺言の効力の発生によってその効力を生じます(信託法4条2項)。
 ただし,信託行為に停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件の成就または当該始期の到来によってその効力を生じます(信託法4条4項)。
 なお,信託銀行等のいわゆる「遺言信託」(注)と,信託法上の「遺言信託」は,内容が全く異なります。
(注)信託銀行等のいわゆる「遺言信託」とは?
 信託銀行等のいわゆる「遺言信託」とは,遺言についての事前の相談から始まり,遺言書の作成,遺言書の保管,財産に関する遺言の執行までの事務を信託銀行等が顧客から請け負う金融商品の一種です。遺言で信託を設定するわけではない点において,信託法上の「遺言信託」とは異なります。
③ 当事者
 信託行為の当事者は,遺言者である委託者です。遺言信託の場合には,信託行為に別段の定めがあるときを除き,委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しません(信託法147条)。委託者の相続人と受益者は,利害が対立する関係にあるからです。
 また,受益者のほか,受益者のために遺言信託に基づいて信託財産を管理・処分する者として,受託者が必要になります(④参照)。
 受益者の定めのない遺言信託において,信託管理人を指定する定めがない場合において,遺言執行者の定めがあるときは,遺言執行者は,信託管理人を選任しなければなりません(信託法258条5項前段)。この場合において,その執行者が信託管理人を選任したときは,その管理人について信託行為で信託管理人の定めが設けられたものとみなされます(信託法258条5項後段)。
④ 信託の効力発生
 遺言は,遺言者本人の死亡により効力を生じる一方的な法律行為(単独行為)です(民法985条)。そして,遺言信託の効力は,「当該遺言の効力の発生」によってその効力を生じることから(信託法4条2項),受託者として遺言書に記載された者の承諾および引受行為そのものがない場合および引受不能の場合であっても,信託は成立したものとして扱われます。
 また,受託者となるべき者を指定する遺言の定めの有無等に応じて,受託者の選任手続が法定されています(信託法5条,6条)。これは,遺言信託においては受託者がいない場合であっても, 裁判所等により受託者を選任することによって,遺言者の信託の意思を尊重し,直ちに遺言信託を無効としないようにする趣旨です。
 なお,死者は受益者になることができないので,遺言信託によって指定された受益者が遺言者の死亡前に死亡したときは,遺言信託はその効力を生じません。
⑤ 信託の成立の効果
 遺言信託の効力の発生により,財産等が委託者から受託者に処分等がされます。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<登記原因証明情報>

遺言公正証書

 本公証人は,遺言者Aの嘱託により,証人G及び証人Yの立会いをもって,次の遺言の趣旨の口授を筆記し,この証書を作成する。
遺言の本旨

第1条(遺言信託)
 遺言者は,遺言者の所有する別紙信託財産目録記載の財産を,別紙「信託条項」記載のとおり信託する。
第2条(信託財産以外の財産)
 遺言者は,遺言者の有する下記表示の財産について,第3条で指定した遺言執行者をして,これを随時適宜の方法によりすべて換価させたうえ,その換価により得られた金銭(第3条第5項及び第4条記載の諸費用等を控除した後の手取額。以下,これを「手取額」という)を次の者に次のとおり相続させ,又は遺贈する。
① 遺言者の養子C(平成○年○月○日生)に金○円を相続させる。
② 遺言者の養女D(平成○年○月○日生)に金○円を相続させる。
③ 遺言者の弟E(昭和○年○月○日生)に残りすべての手取額を遺贈する

財産の表示
 次の金融機関に対する預貯金債権及び保護預け中の有価証券等並びにその他一切の金融資産
 (金融機関等の表示)
 ① 株式会社○○銀行○○支店
 ② ○○信用金庫本店
 ③ ○○証券株式会社○○支店
第3条(遺言執行者)
 遺言者は,この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
 住所 東京都○区○町○丁目○番○号
 職業 司法書士
 氏名 Y
 生年月日 昭和○○年○月○日
2 遺言執行者に対する報酬は金○○万円とする。
3 第1項の遺言執行者は,信託財産目録記載の遺言者名義の不動産,預貯金の名義変更,解約及び払戻しの権限を有するものとする。
4 第1項の遺言執行者は,代理人をして遺言執行をさせることができ,その選任については,同遺言執行者に一任する。
5 第1項の遺言執行者は,相続人の同意を要しないで,金融機関における遺言者の権利に属する貸金庫を開披し,その内容物を取り出して遺言執行をすること及び当該金融機関との貸金庫契約を解約することができる。
第4条(遺言執行に要する費用)
 第3条第1項で指定した遺言執行者は,第2条の財産の中から次の費用等を随時支払うことができる。
① 遺言者の未払いの公租公課その他の債務(期限の到来していないものを除く。)
② この遺言の執行に要する費用。
③ 上記遺言執行者に対する執行報酬
第5条(遺言公正証書正本の保管)
 遺言者は,この遺言公正証書の正本を遺言執行者に保管させる。

信託条項

第1条(信託目的)
 本信託の信託目的は,以下のとおりである。
 本信託は,委託者Aの死後,受益者Bのために,信託目録記載の財産を受託者Cが管理又は処分することにより,Bの日常生活を支援することを目的とする。
第2条(信託財産である信託不動産)
 遺言執行者及び受託者は,本信託の効力発生後直ちに,前項信託不動産について本信託を原因とする所有権移転の登記申請を行う。
2 受託者は,前項の登記申請と同時に,信託の登記の申請を行う。
3 前2項の登記費用は,受託者が信託財産から支出する。
第3条(受託者)
本信託の受託者は,以下のとおりである。
 東京都○区○町○丁目○番○号
  C
 生年月日 平成○年○月○日生
第4条(受託者の信託事務とその権限)
 受託者は,以下の信託事務を行う権限を有し,その権限に基づき当該信託事務を行う。
1 信託財産日録記載1及び2の信託不動産を管理,処分すること。
2 前項において受領した売却代金を管理し,受益者の生活費,医療費及び介護費用等に充てるため支出すること。
3 信託財産日録記載3の預金を管理し,受益者の生活費,医療費及び介護費用等に充てるために支出すること。
4 その他信託目的を達成するために必要な事務を行うこと。
第5条(信託事務処理の第三者への委託)
 受託者は,信託財産目録記載1及び2の信託不動産の管理を第三者に委託することができる。
第6条(善管注意義務)
 受託者は,信託財産の管理,処分その他の信託事務について善良な管理者の注意をもって処理しなければならない。
第7条(分別管理義務)
 受託者は,信託財産日録記載3の預金と受託者の固有財産とを外形上区別することができる状態で管理しなければならない。
第8条(帳簿等の作成・報告・保存義務)
 本信託の計算期間は,毎年1月1日から6月30日まで及び7月1日から12月31日までとする。ただし,第1期の計算期間は,信託開始日から平成○年12月31日までとする。
2 受託者は,信託事務に関する計算を明らかにするため,信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を記録しなければならない。
3 受託者は,信託財産に関し,第1項の信託期間に対応する信託財産目録及び収支計算辞を当該計算期間が満了した月の翌月末日までに作成しなければならない。
4 受託者は,前項記載の信託財産目録及び収支計算書を,前項により決められた期日までに,受益者代理人に提出しなければならない。
5 受託者は,第2項に基づき作成した帳簿は作成の日から10年間,前項に基づき受益代理人に提出した書類は信託の清算の結了の日までの間,保存しなければならない。
第9条(信託費用の償還)
 受託者は,信託事務処理に係る費用を,直接,信託財産から償還を受けることができる。
2 受託者は,受益者から信託事務処理に係る費用の償還または前払いを受けることができる。
第10条(信託報酬)
 受託者は無報酬とする。
第11条(受益者) 
 本信託の受益者は,Bである。
第12条(受益権)
 受益者は,受益権として以下の内容の権利を有する。
① 信託財産目録記載1及び2の信託不動産を生活の本拠として使用する権利
② 前号の信託不動産が処分された場合には,その代価から給付を受ける権利
③ 信託財産目録記載3の預金から給付を受ける権利
第13条(受益権の譲渡・質入れの禁止)
 受益者は,受益権を譲渡又は質入れすることはできない。
第14条(受益者代理人)
 本信託の受益者代理人として,以下の者を指定する
 東京都○区○町○丁目○番○号
   D(平成○年○月○日生)
第15条(受益者代理人の報酬)
 受益者代理人は無報酬とする,
第16条(信託の変更)
 受託者及び受益者代理人が協議し,両者の合意により,信託の変更をすることができる。
第17条(信託の終了事由)
 本信託は,受益者の死亡により終了する。
 (帰属権利者)
第18条 信託終了時の残余財産は,受益者の法定相続人に均等に帰属させる。

信託財産目録
1.土地
 所  在  東京都○区○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

2.建物
 所  在  東京都○区○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡

3.預金
 株式会社○○銀行○○支店 定期預金 証書番号○○
       同      普通預金 口座番号 ○○○○○○○
以上
本旨外要件
 東京都○区○町○丁目○番○号
 会社役員 遺言者 A
 昭和○年○月○日生
 上記は,印鑑証明書の提出により人違いでないことを証明させた。

 東京都○区○町○丁目○番○号
 税理士 証人 G
 平成○年○月○日生

 東京都○区○町○丁目○番○号
 司法書士 証人 Y
 平成○年○月○日生

 上記遺言者及び証人に読み聞かせたところ各自この筆記の正確なことを承認し,次に署名押印する。
A ㊞
G ㊞
Y ㊞

 この証書は,平成○年○月○日,本公証人役揚において民法第969条第1号から第4号までの方式に従って作成し,同条第5号に基づき,本公証人次に署名押印する。
 東京都○区○町○丁目○番○号
 東京法務局所属
 公証人 Z ㊞

 この謄本は平成○年○月○日本公証人役場において原本に基づき作成した。
 東京都○区○町○丁目○番○号
 東京法務局所属
 公証人 Z ㊞
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<登記申請書~遺言信託による所有権の移転及び信託の登記>

登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転及び信託
原   因  平成○年○月○日遺言信託(注1)
権利者兼信託 ○区○町○丁目○番○号(注2)
登記申請人   B
義 務 者  ○区○町○丁目○番○号(注3)
        亡 A
       ○区○町○丁目○番○号
       上記遺言執行者 X
添付書面   登記原因証明情報(注4) 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
       信託目録に記録すべき情報(注5) 代理権限証明情報(注6)
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  東京都○区○町○丁目○番○号
        司法書士 Y ㊞
課税価格  金1000万円
登録免許税 金4万円
       内訳 信託分 金4万円(注7)
          移転分 登録免許税法第7条第1項第1号により非課税

不動産の表示
 所  在  東京都○区○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  東京都○区○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積   1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(注1)  登記原因の日付は,遺言の効力発生日,すなわち「委託者の死亡日」です。
(注2) 「受託者」の住所および氏名です。信託の登記は,受託者が単独で申請すること
ができます(不動産登記法98条2項)。
(注3)  委託者は死亡しているので,「委託者」の住所および氏名のほか,「遺言執行者」の住所および氏名をも記載します。
(注4)  書面申請の場合には,遺言書と委託者の死亡を証する戸籍謄本を添付します。
(注5) 書面申請の場合には,信託目録に記録すべき情報が記載された書面を添付します(不動産登記令別表65項添付情報欄ハ)。
(注6)  書面申請の場合には,代理権限証明情報として,委任状の他,遺言書と委託者の死亡を証する戸籍謄本を添付します。
(注7)  課税価格(不動産の価格)の1000分の4です(登税別表第1.1⑽イ)。この登記を申請しますと,登記簿上信託財産である不動産の所有権は,受託者に移転します。しかし,実質的には受託者は委託者の不動産を預かっているにすぎず,その不動産が受託者の固有の財産となるわけではないことから,所有権移転の部分が非課税とされています。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
   1   所有権移転   平成○年○月○日     平成○年○月○日相続
              受付第○○○号      所有者 ○区○町○丁目○番○号
                               A
   2   所有権移転   平成○年○月○日     平成○年○月○日遺言信託
              受付第○○○号      受託者 ○区○町○丁目○番○号
                               C
       信託     余白           信託目録第○○号
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】                  【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   A
2.受託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   C
3.受益者に関する事項等
  受益者 ○区○町○丁目○番○号
       B
  受益者代理人 ○区○町○丁目○番○号
            D
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 信託不動産の管理又は処分及び受益者の日常生活の支援
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,信託不動産の管理・処分及びその他の信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,受益者の死亡により終了する。
⑷ その他の信託の条項
 ① 受益者は,受益権を譲渡又は質入れをすることができない。
 ② 受託者及び受益者代理人が協議し,両者の合意により,信託の変更をすることができる。
 ③ 信託終了時の残余財産は,受益者の法定相続人に均等に帰属させる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※