【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑥


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 ようやくその季節にふさわしい気候になりました。1日ごとに日も短くなり,冬の足音が聞こえてきました。早いもので,今年も残り2か月を切りました。苦手分野の攻略が終わりましたら,年明けの答練に備えて,学習ペースを整えていきましょう。

 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,前回③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,前回④参照)
⑷ 遺言信託(以上,前回⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,今回)



⑸ 自己信託(信託宣言,信託法3条3号)

① 定義
 自己信託とは,委託者自身が受託者となって,自己の財産を他人のために管理・処分する信託を設定することです。
 自己信託は,委託者(兼受託者)が一定の目的(専ら自己の利益を図る目的を除く。)に従い自己の有する一定の財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を,公正証書その他の書面または電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下,同じ。)で当該目的,当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項(信託法施行規則3条)を記載し,または,記録したものによってする方法により行われます(信託法3条3号)。
 一般に,契約は,信託の設定も含めて,当事者の口頭の合意のみで成立し,かつ,効力が生じます。しかし,自己信託の成立のためには,信託の目的,信託財産の特定に必要な事項その他の一定の事項を記載または記録した公正証書その他の書面または電磁的記録を作成する方法によらなければなりません(要式行為,信託法3条3号)。そして,自己信託は,これらの記載または記録等をすることによって,委託者兼受託者が単独で行うこととなります。自己信託は,いわば,自ら受託者として管理する旨を宣言に等しいものであり,「信託宣言」と呼ばれることもあります。
 自己信託の成立のための公正証書その他の書面または電磁的記録には,次の事項を記載し,または,記録します(信託法施行規則3条)。
ⅰ 信託の目的
ⅱ 信託をする財産を特定するために必要な事項
ⅲ 自己信託をする者の氏名または名称および住所
ⅳ 受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む)
ⅴ 信託財産に属する財産の管理または処分の方法
ⅵ 信託行為に条件または期限を付すときは,条件または期限に関する定め
ⅶ 信託行為において定めた信託の終了事由(当該事由を定めない場合にあっては,その旨,信託法163条9号)
ⅷ 前各号に掲げるもののほか,信託の条項
 なお,自己信託は,受益者の定めが要件であるので(信託法258条1項),目的信託を自己信託とすることはできません(注)
(注)「目的信託」とは?
 受益者の定めのない信託を「目的信託」といいます。例えば,委託者の死後ペットの飼育を託する目的,会社の経営者が従業員のための保養施設を開設する目的等をもってなされる信託は,必ずしも受益者が特定の人に限定されるわけではないことから,受益者の定めのない信託と考えられています。
② 当事者
 信託行為における自己信託の当事者は,委託者(兼受託者)です。また,自己信託では,必ず受益者を定めなければなりません(信託法258条1項)。
③ 信託の効力発生,成立要件等
 自己信託の効力の発生時期については,次のとおりとされています(信託法4条3項)。
ⅰ 公正証書または公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録によってされる場合には,当該公正証書等の作成の時
ⅱ 公正証書等以外の書面または電磁的記録によってされる場合には,受益者となるべき者として指定された第三者(この第三者が2人以上ある場合にはその1人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨およびその内容の通知の時
 ただし,信託行為に停止条件または始期が付されているときは,当該停止条件の成就また当該始期の到来によってその効力を生じます(信託法4条4項)。
 自己信託により信託された信託財産は,委託者(兼受託者)の固有財産との区別が不明瞭であり,債権者等の第三者に認識し難いので,自己信託がされた事実およびその内容を第三者に明らかにする必要があることから,特にその成立要件が厳格に定められています。
 また,これらの特別の方式を要求することにより,自己信託がされた事実,その内容および日時等が客観的に明確になるとともに,自己信託がされた日時を事後的に虚偽に遡らせることによって委託者の債権者を違法に害することを防止することが可能となります。
④ 信託財産に対する強制執行の可否
 信託財産に属する財産に対しては,原則として,強制執行,仮差押え,仮処分もしくは担保権の実行もしくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)または国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができません(信託法23条1項)。信託財産は,委託者または受託者の固有財産ではありませんので,このような制限が設けられています(信託財産の独立性)。ただし,自己信託においては,委託者がその債権者を害することを知って当該信託をしたときは,当該委託者(受託者であるものに限る。)に対する債権で信託前に生じたものを有する者らは,信託財産に属する財産に対し,強制執行,仮差押え,仮処分もしくは担保権の実行,もしくは競売または国税滞納処分をすることができます(信託法23条2項・3項)。債権者保護の観点から,委託者が,債権者を害する目的で,自己信託を利用することを許さないとする趣旨です。
⑤ 信託の成立の効果
 自己信託の効力発生に伴い,信託された財産は,委託者(兼受託者)の固有財産から独立した存在になります。しかし,自己信託の場合には,委託者が,自らに帰属する一定の財産について,自ら受託者として管理する旨を宣言するものであるので,法主体間での財産の処分・移転はありません。
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<登記原因証明情報>

自己信託設定公正証書

 本公証人は,信託設定者A(以下「委託者」,「委託者A」または「受託者A」という。)の嘱託により,次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し,この証書を作成する。

 (信託の設定)
第1条 委託者Aは,平成○年○月○日,本証書に記載する目的に従い,別紙信託財産目録記載の財産について,自己を信託の受託者として,受益者のために,当該財産の管理,処分及びその他本信託日的の達成のために必要な行為を行うものとして信託する(以下「本信託」という。)。
 (信託の目的)
第2条 本信託は,委託者A及び受益者Bのために,また,委託者Aの死後は受益者Bのために,別紙信託財産目録記載の財産を第7条に定める受託者が管理又は処分することにより,委託者A及び受益者B又は受益者Bの日常生活を支援することを目的とする。
 (信託をする財産を特定するために必要な事項)
第3条 本信託の信託財産は,別紙信託財産目録記載の財産とする。
 (自己信託をする者の氏名及び住所)
第4条 本信託をする者の氏名及び住所は,次のとおりである。
 住所 東京都○区○町○丁目○番○号
 氏名 A
 (昭和○年○月○日生)
 (受益者)
第5条 本信託の受益者は,次の者である。
 ① 前条に定める者
 ② 前条に定める者の配偶者
   住所 東京都○区○町○丁目○番○号
     氏名  B(昭和○年○月○日生)
 (受益権)
第6条 本信託において,受益者が委託者A及び配偶者Bであるときは,配偶者Bの受益権の割合は委託者Aが民法第760条により負担している婚姻費用の範囲内とする。なお,一方の受益者が死亡した場合は,他方の受益者がすべての受益権を取得する。
2 本受益権は,譲渡又は質入れすることはできない。
 (当初受託者及び後継受託者)
第7条 本信託の当初受託者は,委託者Aとし,Aが死亡し,若しくは受託者Aにつき任意後見人が選任され,又は,後見開始もしくは保佐開始の審判がなされ,成年後見人又は保佐人(以下,「後見人等」という。)が選任された場合の後継受託者は次の者とする。
     住所 東京都○区○町○丁目○番○号
     氏名  C
      (昭和○○年○月○○日生)
 (本信託の効力発生,信託の期間及び信託の終了の事由)
第8条 本信託は,本公正証書作成とともに効力が発生するものとする。
2 本信託の期間(信託の終了の事由)は,次のとおりとする。
① 委託者A及びその配偶者Bの両名が死亡したとき
② 信託財産が消滅したとき
 (信託に属する財産の管理又は処分の方法など)
第9条 本信託に属する財産の管理または処分の方法等は,次のとおりである。
① 受託者Aは,信託財産日録記載1及び2の信託不動産を管理又は処分するものとする。また,受託者は,信託財産目録記載1及び2の信託不動産の管理を第三者に委託することができる。
② 受託者Aは,信託財産日録記載1及び2の信託不動産については,信託による所有権変更及び信託の登記手続をする。
③ 受託者Aは,信託財産日録記載3の預金については換価換金してこれを配当などの収益とともに新たな信託口口座でその保存管理をし,さらに運用等に必要な処置を行うものとする。
④ 受託者Aは,第1項及び前項において受領した金銭を管理し,委託者A及び受益者Bの生活費,医療費及び介護費用等の日常生活の費用に充てるため支出するものとする。
⑤ 受託者Aは,その他の信託目的の達成のために必要な行為を行うものとする。
 (帳簿等の作成・報告・保存義務)
第10条 本信託の計算期間は,毎年1月1日から6月30日まで及び7月1日から12月31日までとする。ただし,第1期の計算期間は,信託開始日から平成○年12月31日までとする。
2 受託者は,本信託開始と同時に,①信託財産目録,②信託財産に関する帳簿,③事務処理日誌,④事務引継があった場合の財産目録及び⑤信託財産に関する帳簿を作成し,受益者に対し,以後6か月ごとに適宜の方法にて信託財産の内容等について報告する。
3 受託者は,受益者または受益者の任意後見人等から報告を求められたときはすみやかに求められた事項をその者に報告するものとする。
4 受託者は,信託財産の管理・保全等に要した費用その他信託事務に要した諸費用について信託財産から支払いまたは償還を受けることができる。
5 期間満了により信託が終了したとき,受託者は,第2項記載の書面を作成して信託財産及び関係書類等を後記清算受託者に引き渡し,事務引継ぎを行うものとする。
6 この信託条項に定めのない事項は,受益者と受託者の合意により定めるほか,信託法その他の法令に従うものとする。
7 受託者は,信託財産に関し,第1項の信託期間に対応する第2項の書面のほか収支計算書を当該計算期間が満了した月の翌月末日までに作成しなければならない。
8 受託者は,第2項に基づき作成した帳簿は作成の日から10年間,前項に基づき作成した帳簿及び収支計算書は信託の清算の結了の日までの間,保存しなければならない。
 (清算受託者,残余財産の清算手続及び帰属権利者)
第11条 信託終了時の清算受託者として,信託終了時の受託者を指定する。ただし,第8条第2項第1号によって信託が終了し,その時の受託者がAである場合は,前記Cを指定する。
2 清算受託者は,現務を終了し法令に従い清算手続を行うものとする。この場合,信託財産は,すべて換価換金して給付等を行うものとする。
3 信託終了に伴う残余財産受益者は,第5条第1号及び第2号記載の者とし,均等の割合で残余財産の換価金の給付を受けるものとする。ただし,一方の者が死亡していたときは残りの者がすべての財産の給付を受けるものとし,残りの者が死亡していたときには,その者の法定相続人が均等に財産の給付を受けるものとする。
 (報酬)
第12条 受託者及び清算受託者には,報酬は支給しない。

 (別紙)
信託財産目録
1.土地
 所  在  東京都○区○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

2.建物
 所  在  東京都○区○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡

3.預金
 株式会社○○銀行○○支店 定期預金 証書番号○○
   同      普通預金 口座番号 ○○○○○○○
以上

本旨外要件

東京都○区○町○丁目○番○号
 会社役員 A
 昭和○年○月○日生
上記は,印鑑証明書の提出により人違いでないことを証明させた。
この証書は,平成○年○月○日,本公証役場において,法律の規定に従って作成し,嘱託者に読み聞かせたところ,これを認諾して,本公証人とともに以下に署名押印した。

A ㊞

東京都○○区○○町○丁目○番○号
東京法務局所属
公証人 X㊞

この謄本は平成○年○月○日本公証人役場において原本に基づき作成した。
東京都○区○町○丁目○番○号
東京法務局所属
公証人 X ㊞
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<登記申請書~自己信託の場合の信託の登記>

登 記 申 請 書

登記の目的  信託財産となった旨の登記及び信託(注1)
原   因  平成○年○月○日自己信託(注2)
申請人兼   ○区○町○丁目○番○号(注3)
受託者   B
添付書面  登記原因証明情報(注4)  登記識別情報  印鑑証明書
        信託目録に記録すべき情報(注5)  代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  ○区○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
課税価格  金1000万円
登録免許税  金4万2000円
     内訳  変更分 金2000円(注6)
          信託分 金4万円(注7)
不動産の表示
 所  在  東京都○区○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80,27㎡

 所  在  東京都○区○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60,35㎡ 2階 60,35㎡
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(注1) 白己信託により委託者固有の不動産が信託財産となった場合には,委託者と受託者が同一であり,また受託者の固有財産を信託財産に変更することから,権利の移転の登記ではなく,自己信託による権利の変更登記を申請することになります。
(注2) 登記原因の日付は,自己信託の効力の発生時期(信託法4条3項・4項)になります。
(注3) 自己信託による権利の信託の登記は,権利の変更登記と同時に,受託者が単独で申請します(不動産登記法98条1項・3項)。
(注4) 公正証書または公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録(以下「公正証書等」という)の場合は公正証書等(信託法4条3項1号)を添付し,公正証書等以外の書面または電磁的記録によってされた場合は,公正証書等以外の書面または電磁的記録(信託法4条3項2号)と受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が2人以上ある場合にあっては,その1人)に対して通知をしたことを証する情報を添付します(不動産登記令別表65項添付情報欄イ,同66の3項添付情報欄)。
(注5) 書面申請の場合には,信託目録に記録すべき情報が記載された書面を添付します(不動産登記令別表65項添付情報欄ハ)。
(注6) 権利の変更登記は不動産1個について1000円です(登録免許税法別表第1.1.⒁)。
(注7) 不動産価格の1000分の4となります(登録免許税法別表第1.1.⑽イ)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
1   所有権移転  平成○年○月○日   平成○年○月○日相続
             受付第○○○号    所有者 ○区○町○丁目○番○号
                                            A
2   信託財産と  平成○年○月○日    平成○年○月○日自己信託
    なった旨の  受付第○○○号     受託者 ○区○町○丁目○番○号
    登記                    
    信託     余白         信託目録第○○号
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】                  【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   A
2.受託者に関する事項
  ○区○町○丁目○番○号
   A
3.受益者に関する事項等
   受益者 ○区○町○丁目○番○号
        A
        ○区○町○丁目○番○号
        B
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 信託不動産の管理又は処分及び受益者の日常生活の支援
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,信託不動産の管理又は処分及びその他の信託目的の達成のために必要な行為を行うものとする。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,委託者A及びその配偶者Bの両名が死亡したとき又は信託財産が消滅したとき終了する。
⑷ その他の信託の条項
 ① 受益者が委託者A及び配偶者Bであるときは,配偶者Bの受益権の割合は委託者Aが民法第760条により負担している婚姻費用の範囲内とする。
なお,一方の受益者が死亡した場合は,他方の受益者がすべての受益権を取得する。
 ② 受益者は,受益権を譲渡又は質入れをすることができない。
 ③ 当初受託者は,委託者Aとし,Aが死亡し若しくは受託者Aにつき任意後見人が選任され,または,後見開始若しくは保佐開始の審判がなされ,成年後見人又は保佐人が選任された場合の後継受託者は,東京都○区○町○丁目○番○号C(昭和○年○月○日生)とする。
 ④ 信託終了に伴う残余財産受益者は,委託者A及びAの妻Bとし,均等の割合で残余財産の換価金の給付を受けるものとする。ただし,一方の者が死亡していたときは残りの者がすべての財産の給付を受けるものとし,残りの者が死亡していたときには,その者の法定相続人が均等に財産の給付を受けるものとする。
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