【司法書士】
築地市場の豊洲市場への移転(後編)


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 ここのところ,穏やかな天気が続いています。体調を崩し,近所の内科に通っておりましたところ,インフルエンザの予防接種を受けに来る方が大勢いらっしゃいました。医師に,インフルエンザの予防接種を受けるとしたら,いつ頃がよいのですかと聞きましたところ,「今でしょ!」との回答でした。筆者も回復したら,予防接種を受けようと思っています。
 今回も,築地市場の豊洲市場への移転と司法書士の関わりについてお話しします。

1 小池百合子都知事による豊洲市場への移転の決定等

 東京都の小池百合子知事(以下,「知事」という。)は,平成29年6月20日,記者会見で,豊洲市場を活用しつつ築地市場を再開発する基本方針を表明しました。具体的には,「築地は守る,豊洲は生かす。」旨を強調し,豊洲は機能を強化して「総合物流拠点」とすると共に,築地は「5年をめどに食のテーマパーク機能を持つ一大拠点に再開発する。」と説明しました。知事の説明の趣旨がよくわからないという声もありましたが,この発言からは,少なくとも,知事はこれまで凍結していた築地市場の豊洲市場への移転を容認したということは明らかです。
 そして,知事は,平成29年12月20日,土壌汚染に対する追加の対策工事が完了する時期との関係から豊洲市場の開場日予定を平成30年10月11日に設定しました。
 また,平成30年7月31日,土壌汚染対策の追加工事が完了し,「将来リスクを踏まえた安全性が確保された」として,知事により豊洲市場の安全宣言が出されました。


2 「築地本店移転登記等支援業務再開のお知らせ」メールが届く

 平成30年6月に,受託団トップからの「築地本店移転登記等支援業務再開のお知らせ」のメールが届き,約2年の間,凍結されていた受託団の仕事が再開されることとなりました。おそらく,この時期に,豊洲市場の移転のため,築地本店移転登記等支援業務再開につき,東京都から受託団トップに正式な要請があったものと思われます。
 なお,受託団では,メーリングリストが作られ,参加者であれば誰でもメーリングリストに加わることができ,メーリングリストにアップされたメールを見ることによって,受託団の最新情報を知ることができるようになっています(これは前回と同じです。)。


3 預かっていた書類はどうするか?

 受託団トップと東京法務局の協議・打合せにより,築地本店移転登記等支援を希望する事業者(以下,「本店移転登記支援希望事業者」という)から,預かっていた書類のうち,議事録や株主リストについては,新しい日付のものをもらいなおすこととなりました。


4 再度の書類の収集

 受託団員各自が,本人確認まで終え,本店移転登記に必要な書類を預かっている本店移転登記支援希望事業者に対しては,それぞれ郵送等により,新たな用紙を送付し,署名捺印後,返送してもらうという方法をとりました。すでに,一度,作成したことがある書類だったこともあり,書類の授受もほぼ順調に進み,大きな混乱はありませんでした。


5 新たな本店移転登記支援希望事業者が続々登場

 これで終わりかと思いきや,前回の豊洲への移転のときには,豊洲への移転を検討中,あるいは,当時,本店移転登記支援希望をしていなかった水産仲卸業者等がまだたくさんあるとのことでした。そこで,受託団トップから,各受託団員1人(団員は全部で50人くらい)あたり1社程度,これらの水産仲卸業者等に築地本店移転登記等支援を希望するか否かのヒアリングをし,支援を希望する水産仲卸業者等に対しては,本店移転に必要な書類を案内・手配する仕事があてがわれました。筆者も2社(A社,B社)ほどあてがわれ,連絡先電話番号を聞いて,直接電話することになりました。


6 本店移転登記支援希望事業者とのやりとり

 A社に電話をかけましたところ,A社では,未だに社内でも豊洲に移転するかどうか検討中であり,築地本店移転登記等支援を希望するかどうかの返事は保留にさせてほしいとのことでした。
 A社は後に電話がつながらなくなり,音信不通になりました。
 が後日,新たな電話番号を東京都が入手したとして,筆者に電話番号の通知がありました。しかし,電話をかけてみると,「本店は豊洲市場には移転せず,会社の本店は自宅に移転する。その登記も自分で行う。」との返事であり,築地本店移転登記等支援業務の対象から外れました。支援対象はあくまでも豊洲市場に本店を移転する水産仲卸業者等に限られるからです。
 続いて,B社に電話をかけましたところ,社長という方で電話に出られ,築地本店移転登記等支援を希望するとの回答でした。そこで,手配していただく書類等をあらためて案内しますと説明していったん電話を切りました。


7 B社との攻防?

 取り急ぎ,インターネット上で民事法務協会が運営する登記情報提供サービスを利用して,B社の登記情報を取得しました。B社の現在の登記の状態を把握するためです。
 すると,あろうことか,2年に1回の役員変更登記の申請を2回も怠っていることが判明しました。B社は社歴が古く,株式の譲渡制限に関する規定がないため(公開会社),取締役等の任期が伸長できません。どうやら,役員変更登記すらしないまま,しばらく放置されていたようです。
 早速,B社の社長にその旨を連絡し,早急に役員変更登記をするように促したところ,「いつも顧問税理士の事務所(以下,「会計事務所」という。)に頼んでいるので,詳しいことはわからない。会計事務所に連絡してほしい。」との話でした。また,役員変更登記が2回も懈怠されているので,過料通知が来る可能性も説明したところ,「なんで,教えてくれなかったのか?」との発言にあい,びっくり。「私は,東京都から委託を受けて,御社の本店移転登記支援事業の担当者として,今回初めて御社の登記記録を見たに過ぎない立場です。そもそも教えることができる立場にありません。」というと,「じゃあ,東京都が教えてくれなかったからいけないんだ。」と発言する始末。社長とこれ以上話をしても話が進まないと思われたので,過料がかかるおそれのあることをしつこいくらい十分に説明し,電話を切りました。
 本来的には,筆者が直接会計事務所に電話をしてあれこれお伺いするのは,望ましいことではありません。登記をするかしないか,どのような登記をするかはあくまでも会社自身で判断すべきことだからです。しかし,本店移転日はすでに決まっており,所定の日時までに本店移転登記ができないと豊洲市場での営業が許可されないおそれがあります。そこで,本店移転登記を期日までに間に合わせるという大義名分のもと,やむなく会計事務所へ電話をすることにしました。会計事務所では,「ウチも会社から依頼されているわけではないので,役員変更登記について知り合いの司法書士に頼むことはできない。貴事務所(筆者)で対応してほしい。」とのことでした。
 とても親切な会計事務所で,過去の定時株主総会日時と,株主リストのもととなる「法人税申告書別表2」だけは,FAXで送ってもらうことができました。また,代表者の追加があるので印鑑証明書が必要である旨を述べると,「それは社長に伝えて,貴事務所に郵送するようにします。」との回答でした。
 印鑑証明書の他の必要書類を箇条書きにしたものと,株主総会メモなど登記に必要な書類や案内をB社宛てにFAXで送っておきました。口頭だと,聞いた聞かないとの行き違いがあるといけないと思ったからです。
 筆者は,過去の定時株主総会日時をもとに,過去2回分の定時株主総会議事録と取締役会議事録,本店移転用の株主総会議事録の下書きを作成し,「法人税申告書別表2」から株主リストをも作成しました。また,登記の委任状もそれぞれ作成し,万全を期しました。
 ところが,1週間さらに1週間,待てど暮らせど,印鑑証明書が送られてくる気配はありません。
 たまりかねて,B社に電話をすると,社長曰く,「そんなFAXは来ていないし,印鑑証明書のことも知らない。」とのこと。話がいっこうに進まず,途方にくれてしまいました。まあ,FAXの到着確認の電話を怠った筆者も詰めが甘かったのですが…。
ご迷惑と思いつつも,藁にもすがる思いで,会計事務所さんに連絡すると,「まだ,届いていませんか。申し訳ない。催促しておきます。それから,いつも電話に出る社長さんより,専務さんの方が登記の手続に詳しいから,そちらに連絡した方がスムーズに話が進むと思いますよ。」と,専務さんの携帯電話の番号を教えてくれました。まさに,「地獄に仏」とはこのことです。会計事務所さんの親切さに心を打たれました。
 専務さんの携帯電話に電話をすると,話がとんとん拍子で進み,数日後には,築地市場内にある本店移転サポート相談室で社長・専務さんと面談ということになりました。当日も,役員変更と本店移転の登記に必要な書類には,判子をもらうことができ,登録免許税(3万円の収入印紙2枚)等もすべてお預かりすることができました。早速,遅れている役員変更登記を申請し,ようやく一件落着となりました。
 後になって冷静に考えれば,筆者(司法書士側)に期日までに受け持ちの会社の本店移転登記を申請しなければならないというプレッシャーがあるのと同じように,水産仲卸業者等も,期日までの本店移転(お店の移転)をしなければならず,その準備で精一杯のところに,普段慣れない登記の手続まで急かされて,大変だったのだろうと思いました。非協力であったもの無理からぬことのようでした。メーリングリストを見ていると,私と同じような苦労をされたセンセイ方も少なくなかったようです(みんなも苦労しているのだなあとほっとしました)。

8 本店移転登記支援希望事業者の再登場

 B社の仕事も一段落してほっとしていると,受託団トップのXセンセイから,電話がありました。「齋藤センセイ,新たな本店移転登記支援希望事業者が生じたのですが,まだ余力ありますか?」とのこと。B社との攻防で懲りていた私は,おそるおそる「余力はありますが,その会社とは十分なコミュニケーションがとれますか?」と答えました。すると,Xセンセイは,「ははは,その点は大丈夫です。今回は先方が積極的に手続をお願いしたいと言ってきていますから。」と私の不安を吹き飛ばしてくれました。「では,引き受けさせてください。」と私。
 結局,最終的には2社追加となりました。いずれの会社も,Xセンセイのおっしゃったように,登記の手続には積極的・協力的で,1回の面談で,本店移転に必要な書類等をすべてお預かりすることができました。

9 登記申請書の作成・チェック

 最終的に私は,5社(10件)の本店移転登記を申請することになりました。30社くらい担当したセンセイもいらっしゃったようです…はっきりいって強者といっていいでしょう(笑)。
 受託団トップと東京法務局の協議・打合せにより,次のような事項が決まった旨がメーリングリストにアップされました。
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① 極力オンライン申請の方式をとること(紙申請を不可とするものではない)
② 新旧本店所在地の申請書の登記すべき事項は,「登記記録に関する事項」のみを記載すること。
例「登記記録に関する事項 平成30年10月11日東京都江東区豊洲六丁目5番1号へ本店移転」「登記記録に関する事項 平成30年10月11日東京都中央区築地五丁目2番1号から本店移転」
本店所在地を管轄する登記所の管轄外への本店移転登記の申請書の登記すべき事項として,商業登記法53条に規定する事項(ただし,「会社の成立年月日」を除く。)の記載があれば足り(平成○年○月○日本店移転),その他の事項の記載を省略しても差し支えないという先例がありますが(先例平29.7.6-111),膨大な築地から豊洲への本店移転等記を処理する登記所に協力するという意味でこのような取扱いになったようです。
③ 極力添付書類は東京法務局に持参すること(郵送も不可とするものではない)
 同じ日に登記所に届いても,なぜか郵送より持参の方が,早く処理できるらしいです。
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 そして,各受託団員が作成した申請書は,受託団トップのセンセイ方の最終チェックを受けるべく,メーリングリストにアップすることとなりました。私もアップし,若干の訂正指示(オンライン申請ならではの項目)を受け,これを訂正し,ようやく5社(10件)の本店移転の登記申請の用意ができたのであります。

10 申請,あわやの取下げと再申請~仇になった親切心

 平成30年10月11日の到来と共に,オンラインで5社(10件)の本店移転の登記申請をしました。オンラインで,1/2(旧本店所在地の登記所への申請書)・2/2(新本店所在地の登記所への申請書)を5セット,それぞれバラバラに申請すると,途中に他の登記が受け付けられて(法務省のオンライン申請システムには,全国津々浦々からたくさん申請が入るので),登記所の方も仕事がしにくかろうと気を遣い,1/2・2/2・1/2・2/2・1/2・2/2・1/2・2/2・1/2・2/2と申請書を10件連件で申請しました。
 やれやれと,ほっと胸をなでおろしていると,突然の電話,しかも,相手は東京法務局法人登記部門。「あれ,申請書は事前にチェックしてもらっているし,補正になるようなところはないはず…」と思いつつ,話を聞くと「10件連件だと,コンピュータのシステムの都合で2件目を経由申請にできない。ついては,10件とも全部取り下げて,10件連件にせずに再申請してください。」とのこと。コンピュータのシステムの都合で取下げ? コチラは間違っていないのに納得できない,との思いが一瞬脳裏をかすめました。
 しかし,ここでそのような議論をしてもまったく建設的ではなく,法務局の円滑な登記処理に協力することも我が受託団の使命でもあるため,ここはおとなしく取り下げて,10件連件にせずに再申請したしだいです。親切心がかえって仇となる出来事でした(涙)。

11 登記の完了と完了後の登記事項証明書の支援希望事業者への返却とメーリングリストへのアップ

 当初の登記所の説明では,登記完了まで2週間程度かかるとのことでしたが,実際は1週間足らずで登記が完了しました(早い!)。
 そこで,早速,登記事項証明書を取得し,支援希望事業者へ次々と発送しました。
 また,登記事項証明書の写しをとり,登記完了の報告として,メーリングリストへアップして,作業の全工程が終了しました。我々受託団員にとっての築地市場から豊洲市場への本店移転は,この時をもって幕を下ろしたのです。
 あの暑い夏に,噴き出す汗をぬぐいつつ,喧騒の築地市場へ通ったのも今となってはよい想い出です。今度,ヒマをみて,寿司でもつまみに豊洲市場へも足を運んでみようと思っています。