【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑦


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 朝晩の冷え込みが厳しい季節となりました。朝晩と昼間の寒暖差があるので,どうしても体調を崩しがちです。帰りが遅くなる場合には,羽織るものをもって外出されると安心かと思います。また,体調を崩したときは,無理をせず,早めの手当とゆっくりと休息することが肝心です。急激に発熱し,熱が下がらないときは,気管支炎,肺炎あるいはインフルエンザの疑いがありますので,早めに病院に足を運んだ方が無難です。
 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,前回③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,前回④参照)
⑷ 遺言信託(以上,前回⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,前回⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合(以上,今回)



4.信託の開始

 これまで学習してきた,契約信託,遺言信託,自己信託は,いずれも効力発生日以降,これらの信託方法に基づき,受益者のために,信託財産の管理・運用・処分が始まります。例えば,委託者と受託者との間で,受益者のために,委託者の所有する不動産(共同住宅,貸店舗,駐車場等)を受託者に信託する旨の契約がなされている場合には,信託契約の効力発生日以降,これら信託財産である不動産につき,「平成○年○月○日信託」を原因とする,委託者から受託者への「所有権移転および信託」の登記をすることになります。また,これらの不動産の賃料の集金や保守等の管理権は,委託者から受託者へ移ります。
 なお,ここでは,受託者が信託財産である金銭を処分して,不動産を取得する例をいくつかご紹介します。
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
① 所有権保存および信託財産の処分の登記
 受託者が委託者との間で,信託財産である金銭,または,信託財産である土地を担保に建築資金を借り入れ(以下,「当該資金」という。),当該資金を元手に建物を新築した上で,当該建物を賃貸し,その賃料等を受益者に交付する内容の信託契約を締結する場合があります。この場合において,新築された建物は信託財産である当該資金が形を代えたものに過ぎず,当該建物は当然に信託財産に属することになります(信託財産の物上代位性,信託法16条1号)。したがって,受託者名義の所有権保存の登記とともに信託財産の処分による信託の登記をしなければなりません(不動産登記法98条1項,不動産登記令5条2項)。受託者が,信託契約の内容にしたがい,当該資金を元手に未登記不動産を第三者から取得した場合も同様です。要は,新築した建物の建築費用あるいは購入した建物の元手となった金銭が信託財産である場合には,これらの建物もまた当然に信託財産に属するということです。
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<登記原因証明情報~受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合>

登記原因証明情報
1 登記申請情報の要項
⑴ 登記の目的 所有権保存及び信託財産の処分による信託
⑵ 申請人 受託者 ○区○町○丁目○番○号 B
⑷ 不動産の表示 後記のとおり
⑸ 信託目録に記録すべき情報 後記のとおり
2 登記の原因となる事実又は法律行為
⑴ 信託契約の締結
 委託者A(以下,「A」という。)と受託者B(以下,「B」という。)は,平成○年○月○日,後記信託目録に記録すべき情報のとおり,不動産及び金銭の管理,運用又は処分を目的とする信託契約を締結した。
当該信託契約には,Aの指図により信託財産である金銭を処分して不動産の購入及び建物の建築をすることができ,これにより取得した当該不動産は信託財産とする旨の条項がある。
⑵ 本件建物の建築と信託財産への帰属
Bは,上記信託契約に基づき,信託財産である金銭を処分して後記建物を建築し,後記建物は信託財産に帰属した。
よって,受託者A名義での所有権保存登記を申請する。
平成○年○月○日 東京法務局 ○○ 出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
申請人 受託者 ○区○町○丁目○番○号 B ㊞

不動産の表示
 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡

信託目録に記録すべき情報
1.委託者に関する事項 ○区○町○丁目○番○号 A
2.受託者に関する事項 ○区○町○丁目○番○号 B
3.受益者に関する事項等 受益者 ○区○町○丁目○番○号 A
4.信託条項
⑴ 信託の目的
本信託の目的は,受託者が,受益者のために信託財産である不動産及び金銭の管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
受託者は,受益者の指図に従い,信託財産である不動産及び金銭の管理,運用及び処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
また,当該信託契約には,委託者の指図により信託財産である金銭を処分して不動産の購入及び建物の建築をすることができる。
⑶ 信託の終了の事由
本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
① 信託期間が満了したとき。
本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
② 信託不動産をすべて売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
① 受益権は,これを分割することができない。
② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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<登記申請書~信託による所有権の移転及び信託の登記>

登 記 申 請 書
登記の目的  所有権保存及び信託財産の処分による信託(注1)
申 請 人  東京都○○区○○町○丁目○番○号(注2)
(受託者)   B
添付書面  登記原因証明情報(注3) 住所証明情報(注4)
        信託目録に記録すべき情報 代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 不動産登記法第74条第1項第1号申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  東京都○○区○○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
課税価格  金1000万円
登録免許税  金8万円
          保存分 金4万円(注5)
          信託分 金4万円(注5)
不動産の表示
 所  在  東京都○○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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(注1)受託者が信託財産である金銭または信託財産である土地を担保に建築資金を借り入れ(以下,「当該資金」という。),当該資金を元手に建物を新築した場合であり,受託者名義で表題登記がなされていることから,登記の目的は,「所有権保存及び信託財産の処分による信託」と記載します。これに対して,委託者名義で表題登記がされている建物を信託財産として,受託者名義で所有権保存登記を申請する場合には,登記の目的は,「所有権保存及び信託」と記載します。
(注2)受託者による単独申請です。
(注3)所有権保存登記(不動産登記法74条1項1号)については登記原因証明情報の添付を要しませんが(不動産登記令別表28項参照),信託財産の処分による信託登記分として,信託契約書または信託の内容を記載した登記原因証明情報(本事例では報告形式)を添付します。
(注4)受託者の住所を証する情報の提供を要します。
(注5)所有権保存分として,課税価格(不動産価格)の1000分の4となります(登録免許税法別表第1.1.⑴)。登録免許税法第7条第1項第1号(非課税)の適用はありません。また,信託分として,課税価格(不動産の価格)の1000分の4です(登税別表第1.1⑽イ)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
    1    所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
                 受付第○○○号       B  (注)
        信託財産の  余白              信託目録第○○号
        処分による
        信託

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(注)権利者は,「受託者」ではなく,「所有者」と表示されます(登記記録例529参照)。
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】                       【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
東京都○○区○○町○丁目○番○号
  A
2.受託者に関する事項
 東京都○○区○○町○丁目○番○号
  B
3.受益者に関する事項等
受益者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
      C
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 本信託の目的は,受託者が,受益者のために信託財産である不動産及び金銭の管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,受益者の指図に従い,信託財産である不動産及び金銭の管理,運用及び処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
 また,当該信託契約には,委託者の指図により信託財産である金銭を処分して不動産の購入及び建物の建築をすることができる。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
① 信託期間が満了したとき。
 本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
② 信託不動産をすべて売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
① 受益権は,これを分割することができない。
② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
 なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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② 所有権保存および信託財産の原状回復による信託
 受託者がその任務を怠ったことによって,信託財産に変更が生じた場合に該当するに至ったときは,受益者は,当該受託者に対し,原状の回復を請求することができます(信託法40条1項2号)。例えば,受託者Bが信託財産である未登記建物を第三者Xに売却した場合に,これをXから取り戻す場合などです。
そして,原状回復により受託者が再取得した不動産は信託財産となります。
 この場合,受託者は,自己を登記名義人とする所有権保存の登記と信託財産の原状回復による信託の登記を同時に申請しなければなりません(不動産登記法98条1項,不動産登記令5条2項)。いずれも,受託者の単独申請です。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
     1    所有権保存   平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
                   受付第○○○号              B
         信託財産の  余白              信託目録第○○号
         原状回復に
         よる信託

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 ただし,受益者または委託者は,受託者に代位して信託の登記(信託財産の原状回復による信託)を申請することができます(不動産登記法99条)。
 なお,所有権保存登記については,当然に受託者に代位して登記をすることができる旨の規定(不動産登記法99条参照)がありませんので,受益者または委託者が,所有権保存登記を申請するには,債権者代位(民法423条)の行使を申請情報とし(不動産登記令3条4号),債権者代位の要件を満たすことを内容とする代位原因証明情報(不動産登記令7条1項3号)を提供してすることになります。