【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑨


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 暦は師走というのに,昼間はコートなしで十分暖かい日もあります。九州の方では,夏日になったところもあるそうで,全く今年は異常気象でした。風邪,気管支炎,肺炎など流行っていますので,皆様もお気をつけくださいね。 年末年始の休みは,働きながら勉強している方にとっては,まとまった学習時間が確保できる貴重な休みです,今から,何をどう学習するか計画を立ててみてくださいね。 さて,今回も,信託について,不動産登記法との関連を意識しながら,初歩的な用語や内容を確認しつつ,具体例を挙げながら述べて参ります。

Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,前回③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,前回④参照)
⑷ 遺言信託(以上,前回⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,前回⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,前回⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,前回⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人(以上,今回)



⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
 受託者が,信託契約に基づき信託財産である金銭をもって,不動産を購入した場合において,当該不動産が別信託の信託財産である場合が考えられます。当該不動産については,所有権移転の登記および信託財産の処分による信託の登記のほか,別信託の抹消の登記を申請しなければなりません。これらの登記は,受託者を登記権利者(信託登記申請人),当該不動産を信託財産とする別信託の受託者を登記義務者として,いずれも同時に申請しなければなりません(不動産登記法98条1項,不動産登記令5条2項)。
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<登記申請書~別信託の目的である土地・建物を購入した場合>

登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転,○番信託登記抹消及び信託財産の処分による信託(注1)
原   因  所有権移転   平成○年○月○日売買
           信託登記抹消  信託財産の処分(注2)
権 利 者(信託登記申請人)
       ○区○○町○丁目○番○号
             B
義 務 者  ○区○○町○丁目○番○号
              Y
添付書面  登記原因証明情報(注3) 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
        代理権限証明情報 信託目録に記録すべき情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  ○区○○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
       連絡先電話番号 03-3456-7890
課税価格  金1000万円
登録免許税  金24万2000円
         移転分 金20万円(注4)
         抹消分  金2000円(注4)
         信託分 金4万円(注4)

不動産の表示

 所  在  ○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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(注1)受託者が信託財産である金銭をもって,別信託の目的である土地及び建物を購入した場合には,登記の目的は,「所有権移転,○番信託登記抹消及び信託財産の処分による信託」と記載します。別信託の目的である土地および建物は,売買により,信託が終了し,その信託の信託財産ではなくなるため,別信託の目的である旨の登記を抹消しなければなりません(以後は,売買代金が別信託の信託財産となります)。
(注2)信託財産である当該不動産を処分したことによる別信託の抹消登記の原因は,「信託財産の処分」です(日付は記載しません)。
(注3)売買により所有権が移転し,信託が終了した旨および当該不動産が新たに信託の目的となった旨の記載のある登記原因証明情報を添付します。
(注4)所有権移転分として,課税価格(不動産価格)の1000分の20となります(登録免許税法別表第1.1.⑵ハ)。登録免許税法第7条第1項第1号(非課税)の適用はありません。また,信託の抹消分は,不動産1個につき金1000円です(登税別表第1.1⒂)。信託分として,課税価格(不動産の価格)の1000分の4です(登税別表第1.1⑽イ)。
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<建物の登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
   1   所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
             受付第○○○号         X
   2   所有権移転  平成○年○月○日    原因 平成○年○月○日売買
             受付第○○○号     所有者 ○区○町○丁目○番○号
                       Y
       信託     余白抹消           信託目録第○○号
   3    所有権移転   平成○年○月○日     原因 平成○年○月○日売買(注1)
             受付第○○○号       所有者 ○区○町○丁目○番○号
                       B(注2)
       2番信託登   余白              原因 信託財産の処分
       記抹消
       信託財産の   余白              信託目録第○○号
       処分による
       信託

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(注1)原因は,「信託」ではなく,「売買」となります(登記記録例530)。
(注2)Bは,「受託者」ではなく,「所有者」と登記されます(登記記録例530)。
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<信託目録の内容(一部省略)>
【信託目録】                       【調整】平成○年○月○日
【番号】  【受付年月日・受付番号】         【予備】
第○号   平成○年○月○日第○○○号
1.委託者に関する事項
○区○○町○丁目○番○号
  A
2.受託者に関する事項
○区○○町○丁目○番○号
  B
3.受益者に関する事項等
受益者 ○区○○町○丁目○番○号
      A
4.信託条項
⑴ 信託の目的
 本信託の目的は,受託者が,受益者のために信託財産である金銭の管理,運用及び処分をすること。
⑵ 信託財産の管理方法
 受託者は,受益者の指図に従い,信託財産である金銭の管理,運用及び処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する。
 また,当該信託契約には,委託者の指図により信託財産である金銭を処分して賃貸用不動産の購入をすることができる。
⑶ 信託の終了の事由
 本信託は,次の各号のいずれかに該当したときは終了する。
 ① 信託期間が満了したとき。
 本契約は平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし,受益者から信託終了日の3か月前までに信託期間延長の申し入れがあり,受託者がこれを承諾したときには,信託期間は延長される。
 ② 信託不動産をすべて売却したとき。
⑷ その他の信託の条項
 ① 受益権は,これを分割することができない。
 ② 受益者は,受託者の事前の承諾を得なければ,受益権を譲渡または質入れをすることができない。
 ③ 受託者は,受益者の同意を得たときに辞任をすることができる。ただし,受益者の同意は書面によらなければならない。
 なお,この受託者辞任の効力は,新受託者が就任することで生じる。
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5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更

 信託の変更には,信託行為に定められた信託の目的,信託財産の管理方法,信託の終了事由,その他の信託の条項を事後的に変更することです。そして,変更には,以下の態様があります。
① 当事者の合意による変更
 信託の変更は,委託者,受託者および受益者の合意によってすることができます(信託法149条1項前段)。そして,この場合においては,変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければなりません(信託法149条1項後段)。
② 受託者および受益者の合意
 ①にかかわらず,信託の目的に反しないことが明らかであるときは,受託者および受益者の合意で信託の変更をすることができます(信託法149条2項1号)。そして,この場合においては,変更後の信託行為の内容を委託者に対し,通知しなければなりません(信託法149条1項後段)。
③ 受託者の書面または電磁的記録によってする意思表示
 ①にかかわらず,信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときは,受託者の書面または電磁的記録によってする意思表示で信託の変更をすることができます(信託法149条2項2号)。そして,この場合においては,変更後の信託行為の内容を委託者および受益者に対し,通知しなければなりません(信託法149条2項後段)。
④ 委託者および受益者による受託者に対する意思表示
 ①~③にかかわらず,受託者の利益を害しないことが明らかであるときは,委託者および受益者は,受託者に対する意思表示によって信託の変更をすることができます(信託法149条3項1号)。
⑤ 受益者による受託者に対する意思表示
 ①~③にかかわらず,信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らかであるときは,受益者は,受託者に対する意思表示によって信託の変更をすることができます(信託法149条3項2号)。この場合,受託者は,委託者に対し,遅滞なく,変更後の信託行為の内容を通知しなければなりません(信託法149条3項)。
⑥ 信託行為に別段の定めがあるとき
 ①~⑤にかかわらず,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによって信託の変更をすることができます(信託法149条4項)。
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的および信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなるに至ったときは,裁判所は,委託者,受託者または受益者の申立てにより,信託の変更を命ずることができます(信託法150条1項)。この申立ては,当該申立てに係る変更後の信託行為の定めを明らかにしてしなければなりません(信託法150条2項)。
6 信託の併合
⑴ 意義

 信託の併合とは,受託者を同一とする2以上の信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいいます(信託法2条10号)。会社の合併により,それまで別々にあった年金信託を1つに統合して運用する場合がその典型的な例です。
⑵ 信託の併合の当事者
 信託の併合は,従前の各信託の委託者,受託者および受益者の合意によってすることができます(信託法151条1項本文)。
 この場合においては,次に掲げる事項を明らかにしてしなければなりません(信託法151条1項1~5号)。
 ① 信託の併合後の信託行為の内容
 ② 信託行為において定める受益権の内容に変更があるときは,その内容および変更の理由
 ③ 信託の併合に際して受益者に対し金銭その他の財産を交付するときは,当該財産の内容およびその価額
 ④ 信託の併合がその効力を生ずる日
 ⑤ その他法務省令で定める事項(信託法施行規則12条)
 ただし,信託の目的に反しないことが明らかであるときは,受託者および受益者の合意で(信託法151条2項1号),信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであるときは,受託者の書面または電磁的記録によってする意思表示で信託の併合をすることができます(信託法151条2項2号)。
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
 ⑴および⑵にかかわらず,各信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによって,信託の併合をすることができます(信託法151条3項)。
⑷ 債権者の異議手続
 信託の併合をする場合には,従前の信託の信託財産責任負担債務(注)に係る債権を有する債権者(以下,「債権者」という。)は,受託者に対し,信託の併合について異議を述べることができます(債権者の異議手続,信託法152条1項)。信託の併合に係る一方の信託の運用状況が悪い場合には,債権者は自己の債権の回収が困難になるおそれがあるからです。ただし,信託の併合をしても当該債権者を害するおそれのないことが明らかであるときは,債権者の異議手続をする必要はありません(信託法152条1項ただし書)。その他の債権者の異議手続は,株式会社の資本金の額の減少の債権者の異議手続とほぼ同様と考えてよいでしょう(信託法152条2~5項)。
⑸ 信託の併合の効果
 信託の併合がされた場合には,併合前の各信託は終了します(信託法163条5号)。それぞれの信託については,その清算も要しません(信託法175条括弧書)。そして,2以上の信託のそれぞれの信託財産の全部が一の新たな信託の信託財産を組成することとなります(信託法2条10条)。信託の併合がされた場合において,従前の信託の信託財産責任負担債務であった債務は,信託の併合後の信託の信託財産責任負担債務となります(信託法153条)。また,信託の併合がされた場合において,前条に規定する従前の信託の信託財産責任負担債務のうち信託財産限定責任負担債務(受託者が信託財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)であるものは,信託の併合後の信託の信託財産限定責任負担債務となります(信託法154条)。
(注)「信託財産責任負担債務」とは,受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務のことをいいます(信託法2条9号)。
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人
 信託の併合により不動産に関する権利が一の信託の信託財産に属する財産から他の信託の信託財産に属する財産となった場合,①当該権利に係る当該一の信託についての信託の登記の抹消,②当該他の信託についての信託の登記の申請は,いずれも③信託の併合による権利の変更の登記の申請と同時にしなければなりません(不動産登記法104条の2第1項前段)。これらの登記は,いずれも同一の登記原因に基づくものだからです。信託の併合により信託財産に属する不動産に関する権利の帰属に変更が生じた場合であっても,受託者が同一であり,当該権利の登記名義人に変更はありませんので,信託の併合の登記は,権利の変更の登記を申請することになります。この登記の目的は,「信託併合により別信託の目的になった旨の登記,信託登記の抹消及び信託」です。
 また,この登記は,当該他の信託の受益者および受託者が登記権利者として,当該一の信託の受益者および受託者が登記義務者として,共同して申請します(不動産登記法104条の2第2項3号)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
   1   所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
             受付第○○○号         X
   2   所有権移転  平成○年○月○日    原因 平成○年○月○日売買
             受付第○○○号     所有者 ○区○町○丁目○番○号
                       Y
       信託     余白抹消           信託目録第○○号
   3    信託併合に   平成○年○月○日     原因 平成○年○月○日信託併合
       より別信託    受付第○○○号
       の目的となっ
       た旨の登記
       2番信託登    余白             原因 信託併合
       記抹消
       信託        余白             信託目録第○○号

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