【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑩


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 東京でも最高気温が10℃を下回るようなようやく冬らしい気候になってきました。空気が乾燥していると,喉を痛め,そこから風邪に至るおそれもあります。また,空気感染で,風邪がうつりやすくなります。マスクや加湿器などを効果的に利用して風邪の予防に努めてください。
 さて,今回も,引き続き信託について,述べて参ります。

Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人(以上,⑨参照)
7.信託の分割
⑴ 意義
⑵ 信託の分割の当事者
⑶ 債権者の異議手続
⑷ 信託の分割の効果
8.信託の終了
⑴ 意義
⑵ 合意による信託の終了
⑶ 信託の終了事由
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
⑹ 信託終了の効果
⑺ 目的達成による信託の終了と登記手続(以上,今回)



7.信託の分割
⑴ 意義

 「信託の分割」とは,吸収信託分割または新規信託分割の双方を含む概念です(信託法2条11項)。「吸収信託分割」とは,ある信託(分割信託)の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託(承継信託)の信託財産として移転することをいいます(信託法2条11項)。「新規信託分割」とは,ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいいます(信託法2条11項)。会社分割における吸収分割と新設分割に相当するものと考えるとわかりやすいでしょう。
 吸収信託分割は,例えば,受託者が複数の年金信託を受託している場合において,企業再編に伴い,事業の選択と集中を図ることによってその効率化を実現すべく,一方の年金信託を分割してその一部を他方の年金信託に統合する場合等において有用であると考えられています。
 また,新規信託分割は,例えば,2人の投資家が1つの信託を設定してその共同受益者になっていたところ,当該信託の運営方針についての意見の相違から,同一の信託を続けることをやめ,各自を受益者とする別々の信託を新たに設定しようとする場合等において有用であると考えられています。
⑵ 信託の分割の当事者
 吸収信託分割は,委託者,受託者及び受益者の合意によってすることができます(信託法155条1項,159条1項)。
 ただし,①信託の目的に反しないことが明らかであるときは,受託者および受益者の合意で,また,②信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであるときは,受託者の書面または電磁的記録によってする意思表示ですることができます(信託法155条2項,159条2項)。
また,これらのほか,各信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによります(信託法155条3項,159条3項)。
⑶ 債権者の異議手続
 吸収信託分割をする場合には,分割信託または承継信託の信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者は,吸収信託分割をしても当該債権者を害するおそれのないことが明らかであるときを除き,受託者に対し,吸収信託分割について異議を述べることができます(信託法156条)。分割信託の債権者にとっては,吸収信託分割によって重大な財産が移転することになった場合には,その債権回収に関し重大な影響を受けますし,承継信託の債権者にとっても,承継信託が分割信託から過大な信託財産責任負担債務を承継するような場合等,当該債権者の債権の回収可能性に重大な影響を受けるおそれがあるからです。
 新規信託分割をする場合には,従前の信託の信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者は,新規信託分割をしても当該債権者を害するおそれのないことが明らかであるときを除き,受託者に対し,新規信託分割について異議を述べることができます(信託法160条)。従前の信託の信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者にとっては,新規分割信託により,いかなる信託財産が従前の信託から新たな信託に移転するかによって,自己の債権の回収可能性に影響を受けるおそれがあるからです。
⑷ 信託の分割の効果
 吸収信託分割の効力が生じると,分割信託の信託財産の一部は,受託者を同一とする承継信託の信託財産に移転します。この場合において,吸収信託分割により分割信託の信託財産責任負担債務でなくなり,分割信託からその承継信託の信託財産責任負担債務となると定められた債務(信託法155条1項6号)は,吸収信託分割後の分割信託の信託財産責任負担債務でなくなり,吸収信託分割後の承継信託の信託財産責任負担債務となります(信託法157条)。
 また,新規信託分割の効力が生じると,分割信託の信託財産の一部は,受託者を同一とする新たな信託の信託財産に移転します。新規信託分割がされた場合において,新規信託分割により従前の信託の信託財産責任負担債務でなくなり,新たな信託の信託財産責任負担債務となると定められた債務(信託法159条1項6号)は,新規信託分割後の従前の信託の信託財産責任負担債務でなくなり,新規信託分割後の新たな信託の信託財産責任負担債務となります(信託法161条)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
   1   所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
                受付第○○○号         X
   2   所有権移転  平成○年○月○日    原因 平成○年○月○日信託
                受付第○○○号     受託者 ○区○町○丁目○番○号
                                    Y
       信託     余白抹消           信託目録第○○号
   3    信託分割に   平成○年○月○日     原因 平成○年○月○日信託分割
       より別信託    受付第○○○号
       の目的となっ
       た旨の登記
       2番信託登    余白             原因 信託分割
       記抹消
       信託        余白             信託目録第○○号

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8.信託の終了
⑴ 意義

 信託の終了とは,信託財産を中心とする継続的法律関係である信託関係が,その存続すべき根拠を失って将来に向かって消滅することをいいます。信託法は,信託の終了事由の発生をもって「信託の終了」と定め,これを開始原因として信託債権に係る債務の弁済等を行い,残余財産の給付をもって結了するに至る一連の手続をもって「信託の清算」と定めています。
⑵ 合意による信託の終了
 委託者および受益者は,いつでも,その合意により,信託を終了することができます(信託法164条1項)。委託者および受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは,やむを得ない事由があったときを除き,委託者および受益者は,受託者の損害を賠償しなければなりません(信託法164条2項)。また,これらにつき,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによります(信託法164条3項)。
⑶ 信託の終了事由
 信託は,次の場合に終了します(信託法163条)。
① 信託の目的を達成したとき,または信託の目的を達成することができなくなったとき。
② 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。
③ 受託者が欠けた場合であって,新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。
④ 受託者が信託法52条(信託法53条2項および同法54条4項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
⑤ 信託の併合がされたとき。
⑥ 信託の終了を命ずる裁判があったとき(信託法165条,166条)。
⑦ 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
⑧ 委託者が破産手続開始の決定,再生手続開始の決定または更生手続開始の決定を受けた場合において,破産法53条1項,民事再生法49条1項または会社更生法61条1項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律41条1および206条1項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
⑨ 信託行為において定めた事由が生じたとき。
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的および信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受託者または受益者の申立てにより,信託の終了を命ずることができます(信託法165条1項)。
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
 裁判所は,一定の場合において,公益を確保するため信託の存立を許すことができないと認めるときは,法務大臣または委託者,受益者,信託債権者その他の利害関係人の申立てにより,信託の終了を命ずることができます(信託法166条1項)。
⑹ 信託終了の効果
 信託は,当該信託が終了した場合(信託の併合がされたことにより終了した場合(信託法163条5号)および信託財産についての破産手続開始の決定により終了した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)には,清算をしなければなりません。
⑺ 目的達成による信託の終了と登記手続
 信託財産である不動産の処分を目的とする信託(以下,「処分信託」という。)にあっては,受託者は信託によって定められた目的および方法に従い,不動産を処分しなければなりません。「処分信託」の場合には,信託財産を処分することにより,信託の目的を達成したこととなり,信託は終了します。ここでいう「処分」とは,売却を意味することがほとんどです。そして,信託財産を組成していた不動産は,処分すなわち売却により,信託財産から離れ,信託財産に属しないこととなると共に,第三者にその所有権が移転します。
 信託財産に属する不動産に関する所有権が移転により信託財産に属しないこととなった場合における信託の登記の抹消の申請は,当該所有権の移転の登記の申請と同時にしなければなりません(不動産登記法104条1項)。4.⑵で学習した「受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合」の逆のケースになります(⑧参照)。
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<登記申請書~信託財産の処分による所有権移転登記と信託登記の抹消>

登 記 申 請 書

登記の目的   所有権移転及び信託登記抹消  (注1)
原     因  所有権移転   平成○年○月○日売買
         信託登記抹消  信託財産の処分  (注2)
権利者   ○区○○町○丁目○番○号  (注3)
           D
義務者兼信託登記抹消申請人
         ○区○○町○丁目○番○号  (注4)
           B
添付書面  登記原因証明情報(注5) 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
       代理権限証明情報 承諾を証する情報(注6)
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  ○区○○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
       連絡先電話番号 03-3456-7890
課税価格  金1000万円
登録免許税  金20万2000円
         移転分  金20万円(注7)
         抹消分  金2000円(注7)

不動産の表示

 所  在  ○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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(注1)信託財産を組成していた不動産は,処分すなわち売却により,信託財産から離れ,信託財産に属しないことと,第三者にその所有権が移転したことを公示するため,「所有権移転及び信託登記抹消」と記載します。
(注2)所有権移転の登記の原因は,信託財産である不動産の所有権が売買契約により移転した日を記載します。また,信託登記の抹消原因は,「信託財産の処分」とし,その日付は記載しません。
(注3)登記権利者として,買主の氏名および住所を記載します。
(注4)登記義務者兼信託の抹消登記申請人として,受託者(売主)の氏名および住所を記載します。
(注5)売買により不動産の所有権が移転し,信託が終了した旨の記載のある登記原因証明情報を添付します。
(注6)信託の登記のされている不動産の移転に関して,信託契約に「受託者は受益者の承諾を得て管理処分をする」旨の規定がある場合には,受益者の承諾を証する情報を添付します(質疑登研508P173参照)。
(注7)所有権移転分として,課税価格(不動産価格)の1000分の20となります(登録免許税法別表第1.1.⑵ハ)。また,信託の抹消分は,不動産1個につき金1000円です(登税別表第1.1⒂)。
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<登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
  1   所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
              受付第○○○号         X
  2   所有権移転  平成○年○月○日    原因 平成○年○月○日信託
              受付第○○○号     受託者 ○区○町○丁目○番○号
                                B
      信託     余白抹消           信託目録第○○号
  3    所有権移転   平成○年○月○日     原因 平成○年○月○日売買
                 受付第○○○号       所有者 ○区○町○丁目○番○号
                                D
      2番信託登   余白              原因 信託財産の処分
      記抹消

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