【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑪


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 北風が肌に冷たい季節となりました。北の国からは,豪雪の便りが届きます。いよいよ冬本番といったところでしょうか。年末にかけて慌ただしくなってきますね。お正月はゆっくりしたい気分でしょうが,厳しい試験に合格するには,たとえ,お正月といえども,淡々と計画に従って学習を進めてください。
さて,今回も,引き続き信託について,述べて参ります。

Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人(以上,⑨参照)
7.信託の分割
⑴ 意義
⑵ 信託の分割の当事者
⑶ 債権者の異議手続
⑷ 信託の分割の効果
8.信託の終了
⑴ 意義
⑵ 合意による信託の終了
⑶ 信託の終了事由
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
⑹ 信託終了の効果
⑺ 目的達成による信託の終了と登記手続
(以上,前回⑩参照)
9.信託の清算
⑴ 信託の終了と清算
⑵ 清算受託者の職務と権限
⑶ 残余財産の帰属等
⑷ 信託受託者の職務の終了
⑸ 信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消(以上,今回)



9.信託の清算
⑴ 信託の終了と清算

 信託は,当該信託が終了した場合(信託の併合がされたことにより終了した場合(信託法163条5号)および信託財産についての破産手続開始の決定により終了した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)には,清算をしなければなりません(信託法175条)。
 そして,清算が結了するまでは,なお存続するものとみなされます(信託法176条)。
⑵ 清算受託者の職務と権限
 信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は,次に掲げる職務を行います(信託法177条)。株式会社の清算人の職務とよく似ています。
① 現務の結了
② 信託財産に属する債権の取立ておよび信託債権に係る債務の弁済
③ 受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済
④ 残余財産の給付
 清算受託者は,信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有します(信託法178条1項本文)。ただし,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによります(信託法178条1項ただし書)。
 また,清算受託者は,信託債権に係る債務(信託法177条2号)および受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務(信託法177条3号)を弁済した後でなければ,または,当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合を除き,信託財産に属する財産を,信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(以下「残余財産受益者」という。),もしくは信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)に給付することができません(信託法181条)。
⑶ 残余財産の帰属等
 残余財産は,次の順序で次の者に帰属します(信託法182条)。
① 残余財産受益者となるべき者として指定された者(信託法182条1項1号)
② 帰属権利者となるべき者として指定された者(信託法182条1項2号)
③ 信託行為に残余財産受益者もしくは帰属権利者(以下,これらの者を「残余財産受益者等」という。)の指定に関する定めがない場合,または,信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には,委託者またはその相続人その他の一般承継人(信託法182条2項)
④ ①から③により残余財産の帰属が定まらないときは,清算受託者(信託法182条3項)
⑷ 信託受託者の職務の終了
 清算受託者は,その職務を終了したときは,遅滞なく,信託事務に関する最終の計算を行い,信託が終了した時における受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては,信託管理人)および帰属権利者(以下「受益者等」と総称する。)のすべてに対し,その承認を求めなければなりません(信託法184条1項)。そして,受益者等が前項の計算を承認した場合には,清算受託者の職務の執行に不正の行為があったときを除き,当該受益者等に対する清算受託者の責任は,免除されたものとみなされます(信託法184条2項)。
 受益者等が清算受託者から信託事務に関する最終の計算の承認を求められた時から1か月以内に異議を述べなかった場合には,当該受益者等は,当該計算を承認したものとみなされます(信託法184条3項)。
⑸ 信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消
 信託が終了した場合において,信託財産について清算がなされ,残余財産受益者等が決定すると,信託財産を組成していた不動産は,残余財産受益者等の所有となり,信託財産を離れます。そこで,これを第三者に対抗するために,信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消を申請しなければなりません。これらの登記は同時に申請しなければなりません(不動産登記法104条1項)。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<登記申請書~信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消>

登 記 申 請 書

登記の目的   所有権移転及び信託登記抹消  (注1)
原     因  所有権移転   平成○年○月○日信託財産引継
           信託登記抹消  信託財産引継  (注2)
権利者   ○区○○町○丁目○番○号  (注3)
           D
義務者兼信託登記抹消申請人
   ○区○○町○丁目○番○号  (注4)
             B

添付書面  登記原因証明情報(注5) 登記識別情報 印鑑証明書 住所証明情報
       代理権限証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
送付先の区分→資格者代理人の事務所
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所
代 理 人  ○区○○町○丁目○番○号
        司法書士 法務律子 ㊞
       連絡先電話番号 03-3456-7890
課税価格  金1000万円
登録免許税  金20万2000円
       移転分  金20万円(注5)
       抹消分  金2000円(注5)


不動産の表示

 所  在  ○区○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  80.27㎡

 所  在  ○区○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  共同住宅
 構  造  鉄筋コンクリート造 陸屋根 2階建
 床面積  1階 60.35㎡ 2階 60.35㎡
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(注1)信託財産を組成していた不動産が信託財産から離れ,残余財産受益者等にその所有権が移転したことと,当該不動産が信託財産ではなくなったことを示すため,「所有権移転及び信託登記抹消」と記載します。
(注2)所有権移転の登記の原因は,信託財産が残余財産受益者等に引き継がれた日をもって「平成○年○月○日信託財産引継」と記載します。また,信託登記の抹消原因は,「信託財産引継」とし,その日付は記載しません。登記の原因として,信託の終了原因を記載するのではなく,信託の終了に伴い信託財産から離脱した当該不動産が,残余財産受益者等に引き継がれた旨を記載するのがポイントです。
(注3)登記権利者として,残余財産受益者等の氏名および住所を記載します。
(注4)登記義務者兼信託の抹消登記申請人として,受託者である所有権の登記名義人の氏名および住所を記載します。
(注5)信託が終了し,残余財産受益者等にその所有権が移転したことにより,当該不動産が信託財産ではなくなった旨の記載のある登記原因証明情報を添付します。
(注6)所有権移転分として,課税価格(不動産価格)の1000分の20となります(登録免許税法別表第1.1.⑵ハ)。ただし,信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託の信託財産を,受託者から当該受益者(当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者に限る。)に移す場合における所有権移転の登記は非課税となります(登録免許税法7条1項2号)。また,信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であって,かつ,当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において,当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(当該委託者が合併により消滅した場合にあっては,当該合併後存続する法人または当該合併により設立された法人)であるときは,当該信託による所有権の移転の登記を相続(当該受益者が当該存続する法人,または,当該設立された法人である場合にあっては,合併)による所有権の移転の登記とみなされ,課税価格(不動産価格)の1000分の4となります(登録免許税法別表第1.1.⑵イ)。
また,信託の抹消分は,不動産1個につき金1000円です(登税別表第1.1⒂)。
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<土地の登記記録例(一部省略)>
【甲区】(所有権に関する事項)
【順位番号】【登記の目的】【受付年月日・受付番号】【権利者その他の事項】
  1   所有権保存  平成○年○月○日    所有者 ○区○町○丁目○番○号
             受付第○○○号         X
  2   所有権移転  平成○年○月○日    原因 平成○年○月○日信託
             受付第○○○号     受託者 ○区○町○丁目○番○号
                            B
       信託     余白抹消           信託目録第○○号
   3    所有権移転   平成○年○月○日     原因 平成○年○月○日信託財産
                受付第○○○号           引継
                         所有者 ○区○町○丁目○番○号
                        D
      2番信託登   余白              原因 信託財産引継
      記抹消

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