【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑫


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 あけましておめでとうございます。年末は寒波襲来で寒い日々でしたが,いよいよ年が明けて新年となりました。今年は,平成最後の年です。本試験の時には,新元号となっていますね。平成の初めは,日本中がバブル経済に酔い,間もなくバブルが崩壊し,その後は,失われた10年,やがて失われた20年といわれるような厳しい経済情勢が続いた時代でした。また,自然災害が多く発生した時代でもありました。新元号の時代は,毎年少しずつでもよいことが続くような年になることを願ってやみません。
 さて,今回も,引き続き信託について,述べて参ります。
 なお,「家族信託」の用語について,末尾に説明をいたしましたので,お読みください。

Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人
(以上,⑨参照)
7.信託の分割
⑴ 意義
⑵ 信託の分割の当事者
⑶ 債権者の異議手続
⑷ 信託の分割の効果
8.信託の終了
⑴ 意義
⑵ 合意による信託の終了
⑶ 信託の終了事由
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
⑹ 信託終了の効果
(以上,⑩参照)
9.信託の清算
⑴ 信託の終了と清算
⑵ 清算受託者の職務と権限
⑶ 残余財産の帰属等
⑷ 信託受託者の職務の終了
⑸ 信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消
(以上,前回⑪参照)
Ⅱ 各論
1.商事信託と民事信託
2.家族信託の概略
⑴ 家族信託における当事者
⑵ 家族信託の目的
⑶ 家族信託を成立・開始させるための方法
⑷ 家族信託における信託財産
⑸ 家族信託にかかる費用(以上,今回)


Ⅱ 各論
1.商事信託と民事信託
 受託者が報酬・利益を得て行う信託を「商事信託」と言います。信託銀行または信託会社が法令に基づく免許または許可を得て行う投資・運用目的の信託など,受託者がその営業として引き受ける信託は代表的な商事信託 (営業信託)です。商事信託は,営業として行われるものであるため,受託者には信託業法を遵守する義務が生じ,受託者はこの法律に基づいて業務を行わなければなりません。また,商事信託は,受託者が報酬を受ける目的で,不特定多数の者に対して,反復・継続的に行われるものです。信託(契約)の内容も,一定程度は委託者の希望に応じてなされるようですが,比較的集団的,定型的なものとなる場合が多いようです。
 これに対し,受託者が原則として無報酬であって,主として家族内部,親族内部における財産の管理,移転等を目的として行う信託であって,受託者が営業として行うものではない信託を,民事信託(非営業信託)といいます。
 急速な高齢化社会が進む中で,高齢者・障碍者の財産管理システムの1つとして,すでに民法上の委任契約,遺言制度や成年後見制度(法定・任意)が整備されていますが,民事信託は,これらの制度よりも利便性が高い制度として,近年特に注目され,その利用が増え始めてきています。
 民事信託は,商事信託に比べて,その目的による個別性が極めて強く,集団的,定型的な信託契約等になじまず,福祉的要素が強いという特徴があります。民事信託の場合,受託者が営利目的でこれを行うものではないため,信託業法の適用がなく,信託業免許を持たない法人や個人も受託者となることができます。無報酬ということから,家族,親族や一般社団法人が受託者となることが多いようです。
 民事信託の中でも,家族の財産を,委託者の意向に沿ってその家族や親族が受託者となって管理,処理を行うものは,特に「家族信託」と呼ばれています。
 以下,この「家族信託」を中心にお話しを進めて参ります。


2.家族信託の概略
⑴ 家族信託における当事者

 家族信託にあっても,その当事者は通常の信託とほぼ同じです(以前に学習しました)。
例えば,父親と母親と長男の3人家族があったとします。父親が,自分とその妻(長男からみて母親)の老後の財産管理や生活資金を確保するために,長男に自らの財産を託する家族信託にあっては,父親が「委託者」,長男が「受託者」,父親と母親が「受益者」ということになります。また,必要に応じて,受託者である長男を監督するため,第三者である「信託監督人」が置かれる場合もあります。「信託監督人」は,司法書士や弁護士といった法律や信託の制度に明るい法律の専門職が就任する場合が多いようです。
⑵ 家族信託の目的
 信託の目的とは,信託によって達成しようとする目的であり,信託行為(信託を設定する法律行為,例えば信託契約等)で必ず定めなければならないものです。信託の目的は,受託者が信託事務を処理する上で従うべき指針・基準となるものだからです。受託者は,信託の効力発生後,信託行為で定められたこの信託の目的に拘束され,これを実現するため事務処理をしなければなりません。
 商事信託であれば,信託の目的は,もっぱら信託財産の管理・運用・処分等とこれらによって得た金銭等の財産の交付となりましょうが,家族信託においては,必ずしもこのようなものだけが信託の目的になるとは限りません。
 他にも,例えば,次のような目的が考えられます。
① 高齢者が認知症になった後も相続税対策を円滑に行うため
② 生前に贈与した不動産や自社株を自分が元気な間は自分の管理下に置くため
③ 相続人間で紛争を生じない円滑な相続をさせるため
④ 中小企業の事業承継を円滑に行うため
⑤ 自分の死後,自宅等の不動産を売却してその売却代金を相続させるため
⑥ 兄弟間で共有する不動産における将来の紛争を防止するため
⑦ 自分やその配偶者の老後の生活資金を確保するため
⑧ 認知症あるいは高齢病弱な配偶者の財産管理と生活費確保のため
⑨ 障碍のある子の生涯(特に親なき後)にわたる財産管理と生活費確保のため
⑩ 特定の時期が来たときに孫へ金銭等の贈与をするため
⑪ 自分やその配偶者の死亡後もペットの世話をしてもらうため
⑫ 自分たち夫婦には子供がいないので配偶者の死亡後は自分の財産は血のつながりのある甥姪に承継させたい など
 委託者は,このような自らの要望,希望,願いや想いを信託で実現することができるようにするため,言い換えれば,受託者が委託者の意向に沿って信託事務を適切に処理できるようにするため,信託行為において信託の目的を明確かつ具体的に定めなければならないといえます。
 また,商事信託は主として富裕層の利用が多いのに対して,このような多種多様な要請に応えられる家族信託は,財産の多寡にかかわらず,一般国民の利用が可能です。そのような意味では,家族信託は一般国民にとってかなり身近な信託の制度であるといえるでしょう。
⑶ 家族信託を成立・開始させるための方法
 これも,復習になりますが,信託行為を設定し,家族信託を成立・開始させるための方法には,通常の信託同様,①契約信託(信託契約を締結する方法による信託),②遺言信託(遺言による方法による信託),または,③自己信託(公正証書等によってする意思表示の方法)による信託の3つの方法があります(信託法3条)。
⑷ 家族信託における信託財産
 これも,復習になりますが,通常の信託同様,「信託財産」とは,受託者に属する財産であって,信託により管理または処分をすべき一切の財産をいうこととされ(信託法2条3項),その信託財産には,財産的な価値(積極財産)のあるものであれば,理論上すべて信託財産とすることができます。具体的には,「不動産」のほか,「現金」「動産」「上場株式」「未上場場株式」「投資信託」「国債等の有価証券」「特許権・商標権等の知的財産権」などがあります。家族信託では,現在のところ,「現金」「不動産」「未上場株式(主として,自社株)」の3つの財産にほぼ限定されています。家族信託は,活用されるようになってまだ日も浅く,金融機関等の関係機関に未だに周知徹底されていない面もあるため,その対応などで信託財産の範囲に限界があるのが現状のようです。しかし,今後,家族信託のさらなる普及や金融機関等の関係機関の家族信託制度への理解の深まりと共に,家族信託で扱える財産は増えていくものと予想されています。
⑸ 家族信託にかかる費用
 家族信託では,原則として受託者に支払う報酬はありません。家族信託は,民事信託の範疇に含まれるものだからです。
 その他,手続のための費用としては,不動産を信託財産とする場合に必要となる信託の登記の登録免許税(注)がかかります。司法書士などの専門家に信託等の登記手続や書類作成を依頼した場合には,信託や所有権移転登記手続の報酬,信託契約書の作成費用(公正証書にした場合には,公証人への報酬。確定日付をもらう場合には,公証人または法務局への手数料)がかかります。また,家族信託は,非定型的であるため,法律の素人である当事者自らが,適切な信託の仕組みを構築することはかなり困難といえます。そこで,当事者の要請に応じた信託の仕組みを構築することを専門家に依頼することが多く,その場合には,コンサルティング料がかかります。
(注)これも復習になりますが,信託を原因とする所有権移転登記の登録免許税は非課税とされています(登録免許税法第7条1項1号)。また,信託の登記の登録免許税も不動産の価額の1000分の4とされています(登録免許税法別表第1.1⑽イ)。これらの登記をすると,登記簿上形式的には,委託者から受託者へ所有権が移転し,受託者が所有権の登記名義人となりますが,信託である旨の登記(公示)がなされることによって,その不動産の所有者が受託者ではない旨が登記記録上明らかになるからです。


※「家族信託」の用語について
 「家族信託」は,一般社団法人家族信託普及協会の登録商標(®「家族信託」)です。
したがって,その用語の使用については注意が必要です。同協会のHPによりますと,「協会の会員でない方であっても本名称(「家族信託」,一般向けの説明資料等で使用されることについても特段の申請等は不要です」とありました(注)。
 本ブログにおける「家族信託」との用語につきましては,念のため,筆者が同協会に問い合わせを行いましたところ,次のような回答をいただきました(以下,一部を引用)。
「本協会の登録商標である「家族信託」の使用につきまして,本協会ホームページでご案内しておりますが,一般的な民事信託の意味合いでご使用になられる限りは特段の制約なく許諾しております。もし,広く配布等を行う制作物(HPやパンフなど)に該当する場合には,®とともに,一般社団法人家族信託普及協会の登録商標である旨の文言を付して頂ければ有り難く存じます。」
 熟慮の結果,本司法書士ブログも,「広く配布等を行う制作物(HPやパンフなど)」に該当する可能性があるとの判断に至りましたので,ここに,®とともに,一般社団法人家族信託普及協会の登録商標である旨の文言を付言させていただくことといたしました。
(注)http://kazokushintaku.org/registered_trademark/