【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑯


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 北風の吹く朝夕は,体感温度の低下と相俟って,日中より寒さを感じます。東京では,当分雨の降る気配はなく,ますます空気が乾燥してしまいそうです。特に就寝前は,寝室で加湿器を使うなどして,喉を保護し,くれぐれも風邪をひかないようにしてくださいね。また,亜鉛は人間の免疫力を高めると共に,風邪をひいた場合でも回復を早める働きがある栄養素とのことです。そのため,亜鉛を多く含む食材(牡蠣,牛肉肩ロース,卵など)をとることも風邪等の予防になるようです。
 さて,今回も,引き続き信託について,述べて参ります。


Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人
(以上,⑨参照)
7.信託の分割
⑴ 意義
⑵ 信託の分割の当事者
⑶ 債権者の異議手続
⑷ 信託の分割の効果
8.信託の終了
⑴ 意義
⑵ 合意による信託の終了
⑶ 信託の終了事由
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
⑹ 信託終了の効果
(以上,⑩参照)
9.信託の清算
⑴ 信託の終了と清算
⑵ 清算受託者の職務と権限
⑶ 残余財産の帰属等
⑷ 信託受託者の職務の終了
⑸ 信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消
(以上,⑪参照)
Ⅱ 各論
1.商事信託と民事信託
2.家族信託の概略
⑴ 家族信託における当事者
⑵ 家族信託の目的
⑶ 家族信託を成立・開始させるための方法
⑷ 家族信託における信託財産
⑸ 家族信託にかかる費用
(以上,⑫参照)
⑹ 家族信託のメリット
① 成年後見制度(法定・任意)との比較
(以上,前回⑬参照)
② 委任契約との比較
③ 遺言制度との比較
(以上,前回⑭参照)
④ 家族信託と相続
⑺ 家族信託のデメリット
① 受託者による信託財産の横領のおそれがあること成年後見で事例あり
② 遺言の撤回等が難しくなること
③ 委託者の身上看護は契約内容にならないこと
(以上,前回⑮参照)
④ 遺留分減殺請求を受けた場合に信託が機能しなくなるおそれがあること
⑤ 損益通算ができなくなること(税法関係)
※ 信託と税法(以上,今回)


④ 遺留分減殺請求を受けた場合に信託が機能しなくなるおそれがあること
 遺言信託(遺言代用信託を含みます。以下「遺言信託等」という。)は,遺留分の問題が生じ得ます。例えば,相続人A・同Bが存する場合に,相続人Aのみを受益者として,遺言者の全財産を信託財産とする遺言信託等を設定した場合,その遺言信託等は,相続人Bの遺留分を侵害することとなります。そして,相続人Bから遺留分減殺請求がなされた場合には,Aは,Bの遺留分につき,信託受益権の譲渡など(東京地判平30.9.12参照),何らかの対応をしなければなりません。
 遺留分を侵害することとなる遺言がなされた場合において,遺留分減殺請求がなされたときには,遺留分減殺請求を受けた者が遺留分権利者に対し,遺留分に相当する金銭等を交付すれば足りるため,法律関係がそれほど複雑にはなりません。
 これに対し,例えば,推定相続人に乙(長男)と丙(二男)がいる甲が,乙の遺留分を侵害することとなる受益者連続信託契約(甲→丙→丁)を受託者と締結したとします。このような場合において,委託者甲死亡後,遺留分権利者である相続人乙が,相続人である後継受益者(第二次受益者)丙に対して,遺留分減殺請求がなされたときには,受益権の一部を乙に取得させなければならないこととなり,後継受益者(丙・丁)のために構築された信託の仕組みが当初の予定どおり機能しなくなってしまうおそれがあります。
 そこで,遺言信託等の設定をする場合には,あらかじめ,当該遺言信託等が実質的に遺留分を侵害することがないよう様々な角度から検討しなければなりません。表向きは遺留分に配慮した形式をとっている遺言信託等の設定であっても,実質的には遺留分を侵害することとなる場合,後から遺留分減殺請求をされ,予定した信託の仕組みが機能しなくなるおそれは十分にあります。
 受益者連続信託契約を締結後に遺留分減殺請求がされた場合については,未だ係争中ではありますが,東京地方裁判所で興味深い判決が出ていますので,要約してご紹介します(東京地判平30.9.12)。
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(判決要旨)
・ 信託の設定が遺留分制度を潜脱する意図でなされたものである場合,当該信託の設定の部分については,公序良俗に反して無効である。
・ 信託における遺留分減殺請求は受益権を対象とすべきである。
(事案の概要)
1 Aは,平成27年2月5日,被告Bとの間で,Aを委託者,被告Bを受託者とし,次の内容の信託契約(以下,「本件信託」という。)を締結した。
⑴ 本件信託の目的は,Aの死亡後も,その財産を受託者が管理・運用することによって,被告B及びその直系血族がいわゆるA家を継ぎ,お墓・仏壇を守っていってほしいとのAの意思を反映した財産管理を継続することにあるとされ,Aは,祭祀を承継する被告Bにおいて,その子孫を中心として管理,運用することにより,末永くA家が繁栄していくことを望む旨を信託の目的とする。
⑵ 本件信託契約の締結日における信託の目的財産は,A所有の全ての不動産(以下「信託不動産」という)および300万円(以下「信託金銭」という)とする。また,将来において,信託不動産の売却・賃貸その他,運用により得られた金銭,信託財産たる金銭を用いて受託者が新たに建築・取得する不動産の全て等も目的財産とする。信託不動産には,①Aの居住している土地(敷地の一部を駐車場として第三者に賃貸)・建物のほか,②共同住宅(土地・建物),③第三者に対して無償で貸与している倉庫とその敷地,④栃木県の山林等がある(以下,これらを「対象不動産」という。)。
⑶ 受託者は,信託不動産の維持・保全・修繕又は改良を,自らの裁量で行う。受託者は,信託不動産の管理事務の全部又は一部について第三者に委託することができる。受託者は,信託不動産を無償で使用することができる。
受託者は,信託金銭を用い,信託不動産に関する公租公課・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の支払のために使うことができる。
信託金銭を,受益者の身上監護のために使うことができる。
⑷ 委託者の死亡により,委託者の権利は消滅するものとする。
⑸ 本件信託の当初受益者は,Aとする。
⑹ A死亡後の受益者につき,次のとおり定める。
① 受益権の取得の順位及び割合
第一順位 原告Cに受益権割合6分の1
Dに受益権割合6分の1
被告Bに受益権割合6分の4
第二順位 Bの子供らが均等に取得する。
② 受益権を有する者が死亡した場合には,その者の有する受益権は消滅し,次順位(第二順位)の者が新たな受益権を取得する。
③(略)
④ 受益者は,信託不動産の売却代金,賃料等,信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。
⑤ 受益者が複数となった場合は,受益者の一人は他の受益者に対して当該受益者の有する受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができる。なお,取得する受益権の価格は,最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする。
2 委託者兼当初受益者Aは,平成27年2月18日に死亡した。
3 信託不動産について,上記1の契約に基づき,受託者を被告Bとする信託および信託を原因とする所有権移転登記がなされた。
4 原告Cは,被告Bに対し,平成28年1月23日,本件信託により遺留分を侵害されたとして,遺留分減殺の意思表示をした。
(裁判所の判断)
Aは,本件信託において,A所有不動産を信託財産とし,発生する経済的利益を受益者に受益権割合に従って分配するものとした。しかし,A所有不動産のうち,1⑵③④の不動産は,これを売却し,あるいは,賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件であること,1⑵①の不動産についても,駐車場部分の賃料収入は同不動産全体の価値に見合わないものであり,これを売却することも,あるいは全体を賃貸してその価値に見合う収益を上げることもできていないことが認められる。これらは本件信託当時より想定された事態であるといえることからすると,Aは,これらの各不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託当時より想定していなかったものと認めるのが相当である。
加えて,(中略)原告Cが遺留分減殺請求権を行使することが予想されるところ,仮に,Cが遺留分減殺請求権を行使し,本件信託におけるCの受益権割合が増加したとしても(遺留分減殺の対象は受益権とみるべきである),A所有不動産のうち対象不動産により発生する経済的利益がない限り,原告Cがその増加した受益権割合に相応する経済的利益を得ることは不可能である。そして,本件信託では,受益権の取得請求によっても,取得する受益権の価格は,最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするとしていることからは,対象不動産の価値に見合う経済的利益を得ることはできない(注)。そうすると,Aが対象不動産を本件信託の目的財産に含めたのは,むしろ,外形上,原告Cに対して遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより,これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない。
したがって,本件信託のうち,経済的利益の分配が想定されない対象不動産を目的財産に含めた部分は,遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって,公序良俗に反して無効であるというべきである。(中略)他方,本件信託のうち,対象不動産以外の目的財産に係る部分については,原告Cは信託不動産により発生する経済的利益を享受することができるのであり,また,信託金銭300万円についても信託不動産の維持管理に必要な費用等に充てるものとして合理的であり,本件全証拠によっても同部分を無効とすべき事情は認められない。(中略)以上によれば,本件信託のうち,対象不動産に関する部分は公序良俗に反して無効であり,その余の不動産および信託金銭300万円に関する部分は有効である。
(中略)そして,信託契約による信託財産の移転は,信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため,信託財産ではなく,実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺請求の対象とすべきである。
(注)実務上,固定資産税評価額はその不動産の時価の7割程度とされています。
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⑤ 損益通算ができなくなること(税法関係)
 委託者が保有する財産をすべて信託財産とする場合以外の場合,例えば,委託者が保有する財産の一部を信託財産とし,財産の一部を委託者に所有権を残した場合,信託不動産に関する損失は,信託財産以外からの所得と損益通算して課税対象の所得を減らすことができませんし(租税特別措置法41条の4の2),その損失の翌年への繰越しもできません。また,信託契約を複数に分けた場合も,それぞれの信託財産から生じる損失と利益についても同様です。そのため,これらのような家族信託(Ⓡ一般社団法人家族信託普及協会の登録商標。以下,同じ。)をする場合には,税務的に不利益が生じないか,税理士等の専門家に相談の上,あらかじめ十分に検討する必要があります。
※ 信託と税法
司法書士試験では,主に登録免許税くらいしか問われません。しかし,一歩,実務の世界に入ると,司法書士であっても,贈与税,(譲渡)所得税,相続税,不動産取得税,固定資産税,租税特別措置法などの税法について,一定の理解が必要になります(もっとも,個別具体的な案件では,税理士の先生の力をお借りすることになります)。
そこで,不動産を信託した場合を例に,簡単に信託と税法をみておきましょう。
前にも述べましたが,信託契約による委託者から受託者への不動産の所有権移転は,信託目的達成のための形式的なものにすぎません。そこで,その所有権移転に対価を伴わない場合であっても,通常の贈与と異なり,贈与税が課せられることはありません。また,同様に不動産取得税も課せられることはありません。
また,委託者と受益者という関係では,委託者と受益者が同一人物である場合(自益信託)には,信託の利益を受けるのは,元々の所有者本人であるため,贈与税が課せられることはありません。
これに対し,委託者と受益者が異なる場合(他益信託)には,受益者(別人格の者)が信託の利益を受けることになりますので,受益者に贈与税が課せられることになります。
遺言信託の場合であれば,本人が死亡したことをきっかけとして信託が開始しますので,受益者が相続人であれば,相続税が課せられることになります。なお,不動産を信託財産にすると,その不動産の「所有権」が「信託受益権」という財産に変わりますが(信託の権利転換機能),贈与税や相続税の評価額に影響を及ぼすことはありません。そのため,通常の不動産の所有権を相続する場合と同様の税務上の特例や軽減措置を受けることはできます(小規模宅地の特例など)。つまり,信託をしても,通常の相続と同様の相続税の課税が生じることから,家族信託をしただけでは,特に節税のメリットはありません。
 その他,信託では,信託契約書に貼付する収入印紙代(印紙税)がかかります。さらに,不動産につき信託による所有権移転登記をするときには,税率は軽減されるとはいえ,登録免許税がかかります。

 

 

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