【司法書士】
実務の今~定款認証手続と方法の改正


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 東京では,久しぶりに雨(一時雪)が降りましたが,翌日からは再び晴天が続いています。相変わらず,湿度の低い乾燥した状態が続いています。インフルエンザの感染を予防するために,手洗いやうがいを徹底することが有効であることはよく知られていますが,意外にも歯磨きやマウスウオッシュ(口腔内の除菌)も有効のようです。口腔内の雑菌はインフルエンザのウイルスを粘膜に侵入しやすくする酵素を出すので,口腔内が不潔だと,インフルエンザに感染しやすいのだそうです。手洗いとうがいに加えて,口腔内の清潔を保つこともインフルエンザの予防方法の1つとして実践したいものですね。

 さて,今回は,家族信託(Ⓡ一般社団法人家族信託普及協会の登録商標。)の解説はお休みして,「実務の今~定款認証方法と手続の改正」をテーマとして,実務で実際に起こっていることをお伝えしようと思います。このテーマが直ちに司法書士試験に関係することはないと思いますが,皆様が合格して,実務に就いたときには必ず学習しなければならないことですので,頭の片隅にでも留めて置いていただけるとありがたく存じます。

1 株式会社の定款認証の実務

 株式会社を設立するには,発起人が定款を作成し,その全員がこれに署名し,又は記名押印しなければなりません(会社法26条1項)。そして,この定款は,設立しようとする株式会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人の認証を受けなければその効力を有しません(会社法30条1項,公証人法62条ノ2)。
 司法書士が,発起人から,株式会社の設立登記の申請書の作成とその申請代理の依頼を受ける場合,定款の作成とその認証手続の代理をも依頼されることが少なくありません。書面による定款の場合は,司法書士が,書面による定款のほか発起人の全員から定款認証手続の代理委任状を預かり,公証役場へこれらを持参し,公証人から定款の認証を受けることになります。また,電子定款の場合は,発起人の全員から定款作成代理の委任状(委任状に定款案を合綴したもの)を預かり,司法書士は作成した定款をPDFファイルにしてこれに電子署名を付し,インターネットを介して法務省の登記・供託オンライン申請システムにオンライン申請をした後,公証役場に赴き,公証人の認証を受けた定款のデータを受け取ることになります。 定款の作成とその認証手続の代理依頼する発起人は,電子定款の作成とその認証を希望する場合がほとんどです。これは,電子定款の認証では,書面である定款であれば原本に貼付する収入印紙(4万円)が不要であり,その分の設立登記等の費用が節約できるからです。
 また,書面である定款を持参して公証役場に行き,いきなり定款の認証を受けようとしても,定款に訂正箇所等があると訂正等が求められます(重大な訂正があると大変面倒です)。そのため,あらかじめFAX等で公証役場に定款案を送り,その点検を公証人に依頼し,公証人から訂正箇所等の指摘を受けた場合には,これらを訂正した上で,発起人の記名押印をもらった訂正後の定款を持参して,認証を受けるのが無難です(筆者はそうしています)。電子定款の場合には,作成代理をすることとなりますので,訂正後の定款をPDF化して,これに電子署名を付してもオンライン申請をします。そして,訂正した定款作成委任状等を持参して定款認証を受けることとなります。

2 定款認証手続と方法の改正~公証人に対する株式会社の実質的支配者に関する申告等

⑴ 株式会社の実質的支配者に関する申告等の意義

 平成30年11月30日から,改正公証人法施行規則(公証人法施行規則13条の4)が施行されたことにより,定款認証手続と方法が変更されました。公証人に対し,定款認証を嘱託する者(以下,「嘱託人」といいます。)(注1)は,定款認証の嘱託の時まで公証人に対し,設立を予定する株式会社,一般社団法人または一般財団法人の実質的支配者(注2)となるべき者について,その氏名,住居および生年月日等と,その者が暴力団員及び国際テロリスト(以下,「暴力団員等」といいます。)に該当するか否かをについて一定の事項を申告することとされました。これら法人の原始定款については,電子認証による場合だけでなく,書面による認証についても,同様の申告が必要であるとされました。
 この実質的支配者の申告制度の導入は,法人の実質的支配者を把握することなどにより,法人の透明性を高め,暴力団員および国際テロリスト(以下「暴力団員等」という。)による法人の不正使用(マネーロンダリング,テロ資金供与等)を抑止することが国内外から求められていることを踏まえての措置であると説明されています(注3)
 余談ですが,最近では不動産の売買契約書にも,反社会的勢力(暴力団員等)でないことについての条項が必ず盛り込まれています。そして,この規定に反した契約を締結した場合(例えば,反社会的勢力(暴力団員等)であるのに,これを隠して契約を締結した場合など)には,契約の解除・手付金等の没収などの厳しいペナルティが課せられています。定款認証手続とその方法の厳格化も,時代の潮流によるものかと思われます。

⑵ 実質的支配者に関する申告の内容

 嘱託人は,公証人に対し,法人成立の時に実質的支配者となる者ついて,次のような申告をしなければならないこととされました(公証人法施行規則13条の4第1項1号・2号,以下,これを「実質的支配者に関する申告等」といいます。)。
① 法人成立の時に実質的支配者となるべき者(以下,「実質的支配者」といいます。)について,その氏名,住居,生年月日
② 実質的支配者となるべき者が,暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号),または,国際テロリスト(国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法3条1項の規定により公告されている者(現に同規定による名簿に記載されている者に限ります。)もしくは同法4条1項の規定による指定を受けている者)に該当するか否か

⑶ 実質的支配者に関する申告の方法

 嘱託人は,法人成立の時に実質的支配者となるべき者が誰かを判断し,ときには調査をする必要があります。
 実質的支配者となるべき者に関する氏名等の申告は,日本公証人連合会のホームページ等で提供されている「申告書」の書式を利用して,前記⑵記載の申告事項等の所要事項を記載または入力をしなければなりません。
 そして,その申告書をPDFファイル化し,これに電子署名を付したものを公証人にメールで送信する方法,この申告書を印刷し,署名押印または記名押印の上,そのPDFファイルを公証人にメール送信する方法,申告書を印刷し,または同書式を印刷し,あるいは公証役場に備え置く同書式の印刷物を利用して上記申告事項等を記入の上,署名もしくは記名押印し,公証人にファックス,郵送,あるいは持参する等の方法により行わなければならないこととされました(注4)
 この申告は,定款認証の嘱託までに行えば足りますが,迅速かつ的確な定款認証・法人設立を実現するためにも,定款案の点検を公証人に依頼する際,併せて実質的支配者に関する申告等をしてほしいとの公証人からの要請がきています。

⑷ 実質的支配者に関する説明の要否と定款認証の可否

 公証人は,定款の認証を行う場合において,実質的支配者となるべき者が,暴力団員または国際テロリストに該当し,または該当するおそれがあると認めるときは(注5),嘱託人または当該実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければなりません(公証人法施行規則13条の4第2項)(注6)
 そして,説明があっても,暴力団員等に該当する者が実質的支配者となる法人の設立行為に違法性があると認められる場合,または申告(公証人法施行規則13条の4第1項1号・2号)や説明(同条2項)自体がない場合においては,公証人は,定款を認証することができないこととされています(公証人法60条,62条の6第4項,26条)。
 これは,実質的支配者が暴力団員等に該当する者であることのみをもって定款の認証を拒否する趣旨ではなく,実質的支配者が暴力団員等に該当する者である場合には,法人の設立行為に違法性がある蓋然性が高いことから,定款の認証をすることができないという趣旨のようです(注7)
 実質的支配者となるべき者が暴力団員等に該当しないと認められる場合には,公証人は,定款の認証を行うこととなり,その認証文言は,従来のものに,「嘱託人は,『実質的支配者となるべき者である○○○○は暴力団員等に該当しない。』旨申告した。」等の文言が付加されることとされました。

⑸ 申告受理証明書の作成と交付

 公証人は,嘱託人の希望により,記載の申告書により実質的支配者および暴力団員等非該当の申告を受けた旨記載の申告受理証明書を作成し,これに当該申告書の写しを添付して,交付しています。成立した法人が金融機関等との間で預貯金契約等の取引をしようとするとき,金融機関等から,設立した法人の実質的支配者およびその暴力団員等非該当の申告を求められます。その際,記載の申告書を活用して実質的支配者および暴力団員等非該当の申告を金融機関等に対して行うことができるようにするための措置のようです。なお,この証明書の交付手数料は無料です。

3 実務の実際

 昨年11月30日以降,筆者も株式会社の設立登記の申請の依頼を受け,書面による定款の認証と電子定款の認証をそれぞれ1件ずつ行いました。いずれの手続でも,公証役場に定款認証手続の依頼の電話をすると,とにかく,実質的支配者に関する申告書の提出を急いでくださいというハナシになりました。発起人が暴力団員等でないことを早急に調査したいという公証役場(公証人)の意気込みが感じられました。
 書面による定款の場合は,定款認証の「嘱託人」は,発起人であって,実質的支配者に関する申告をするのは,発起人となります。そこで,発起人に実質的支配者に関する申告書を電子メールで送り,発起人に内容を記入・押印をしてもらった申告書を送ってもらい,受領後公証役場にFAXをしました。設立する会社がたまたま,上場企業の100%子会社であり,発起人は上場企業だけだったので,公証役場における定款認証手続もスムーズに進みました。
 また,電子定款の場合,司法書士が作成代理人として電子定款を作成し,電子署名をするので,定款認証の「嘱託人」は,司法書士であって,実質的支配者に関する申告をするのは,司法書士となります。この場合,嘱託人である司法書士は,法人成立の時に実質的支配者となるべき者が誰かを判断し,ときには調査をする必要があるとされています。筆者が依頼を受けた株式会社の設立登記は,発起人1名でしたので,実質的支配者はその発起人のみであり,実質的支配者の判断は簡単でした。しかし,実質的支配者に関する申告書を作成するにあたり,その発起人が暴力団員等でないことをどうやって確認するかについてはかなり悩みました。現在のところ,司法書士会には,公証人会や警察のような暴力団員等についてのデータベースもなく,個人である一司法書士が客観的な資料に基づいて,発起人が暴力団員等でないことを調査・確認することには自ずと限界があります。幸い,依頼を受けた株式会社の設立の発起人(依頼者)は,地元で古くから開業されている税理士の先生からの紹介案件でしたので,その依頼者が暴力団員等である可能性は極めて低い(ほぼ零)と思われました。そこで,電子定款の作成委任状に,実質的支配者に関する申告書と同内容の書面を合綴し,これに発起人(依頼者)の署名捺印をしていただくことで,発起人(依頼者)自身から暴力団員等でないことを自己申告してもらうという形式をとることにしました。そして,私が作成し,署名押印した実質的支配者に関する申告書を公証役場にFAXをしました。公証人による調査でも,発起人が暴力団員等でないことが明らかになったようで,公証役場における電子定款の認証手続もスムーズに進みました。
 司法書士が電子定款作成の代理人となり,実質的支配者に関する申告書を作成するにあたり,その発起人が暴力団員等でないことをどうやって調査・確認するかについては,これからの実務の積み重ねが待たれるところです。

(注1)書面による定款の場合は,発起人が定款の作成者として記名押印をし,司法書士は,公証人に対する認証嘱託の代理をすることとなるので,定款認証の「嘱託人」は,発起人であって,実質的支配者に関する申告をするのは,発起人となります。これに対し,電子定款の場合は,司法書士が作成代理人として電子定款を作成し,電子署名をする。この場合,定款認証の「嘱託人」は,司法書士であって,実質的支配者に関する申告をするのは,司法書士となります。
(注2)「実質的支配者」とは,法人の事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にある自然人(上場企業等およびその子会社を含む。)をいい,具体的には,株式会社では,①株式の50%を超える株式を保有する個人,そのような者がいない場合には,②25%を超える株式を保有する個人,そのような者もいない場合には,③事業活動に支配的な影響力を有する個人,そのような者もいない場合には,④代表取締役が該当することとなります(犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則11条2項)。一般社団法人,一般財団法人では,事業活動に支配的な影響力を有する個人,そのような者がいない場合には,代表理事が該当することとなります。なお,公証人による定款認証が法定されていない持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)においては,実質的支配者に関する申告は必要ありません。
(注3)わが国は,マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策に関する政府間会合であるFATF(ファトフ,Financial Action Task Force)による2008年のFATF第3次対日相互審査で,法人の実質的支配者情報の把握およびその情報への権限ある当局によるアクセスの確保に関し,49項目中25項目の要改善(不備10項目,一部履行15項目)を求められるという厳しい評価を受けました。そこで,この評価を受けて,2013年に犯罪による収益の移転防止に関する法律を改正しました。しかし,同法の改正にもかかわらず,その後,2014年6月には,改善を求められた事項についての対応の遅れから,FATFより迅速な立法措置等を促す異例の声明を受けるに至りました。そこで,この声明を受けて5か月後の同年11月に犯罪による収益の移転防止に関する法律を改正しました。このような経緯があり,法人の実質的支配者情報の把握およびその情報への権限ある当局によるアクセスの確保に関して積極的な取組みを示すことが,わが国として喫緊の課題となり,金融庁を含む関係当局は強い危機意識の下,2019年のFATF第4次対日審査に向けて連携し,万全を期しています。この審査項目の1つが,法人の透明性および実質的支配者になっており(勧告24),定款認証制度の変更もこのような危機意識からなされたものと説明されています。この定款認証制度の変更のように,審査での評価向上に向けた立法上の取組みを行うことにより,我が国の経済活動に対する国際的な信用を回復・向上させることにつながることが期待されています。
(注4)必ずしも原本の提出が求められているわけではありません。
(注5)公証人会の保有するデータベースで調査を行うこととされています。そして,このデータベースにヒットした場合には,実質的支配者となるべき者が,暴力団員等に該当し,または該当するおそれがあるものとされます(なお,データベースにヒットした場合であっても,同姓同名の他人の場合のように明らかに暴力団員等に該当しない場合には,公証人は通常どおり定款認証手続を進めます。)。
(注6)説明を受けても,実質的支配者となるべき者が暴力団員等に該当する疑いが払拭できない場合には,公証人は必要に応じて,警察等の関係機関に照会することがあります。
(注7)例えば,「近いうちに暴力団から足を洗って(脱退して),まっとうな仕事をするために株式会社を設立したい」という説明があっても,その説明から株式会社の設立に違法性がないと判断することは困難であると考えられており,その株式会社の定款の認証を受けることはできないとされます。