【司法書士】
民事信託(家族信託)について⑰


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 東京でも降雪を記録するなど,全国的に厳しい寒さが続いています。年明けの答練も回を重ねています。答練での手応えはいかかでしょうか。答練は,問題を解く練習であることが強調されがちですが,実は,制限時間内に問題を解き終えるための練習であることも重要な要素といえます。司法書士試験は,実質的には,実務家登用試験であり,一定の制限時間内に合格レベルの答案を仕上げる能力が求められています。厳しいことを言うようですが,「時間があればもっと点数が取れた」という言い訳は通用しません。時間不足で答案が書き切れないという方は,是非,ご自分なりのペース配分を工夫してみてください。問題番号順に解こうとせず,解ける問題から解く(難しい問題は後回しにすること)ということも時間短縮の鉄則です。 さて,今回も,引き続き信託について,述べて参ります。


Ⅰ 総論
1.「信託」とは?
⑴ 「信託」の意味
⑵ 信託制度の仕組み等
⑶ 信託財産の公示と対抗要件等
(以上,①参照)
2.信託の当事者
⑴ 委託者
⑵ 受託者
⑶ 受益者
(以上,②参照)
⑷ 信託管理人
⑸ 信託監督人
⑹ 受益者代理人
(以上,③参照)
3.信託の成立
⑴ 信託行為とは?
⑵ 信託の方法
⑶ 契約信託
(以上,④参照)
⑷ 遺言信託(以上,⑤参照)
⑸ 自己信託(以上,⑥参照)
4.信託の開始
⑴ 受託者が信託財産を処分して建物を新築した場合
(以上,⑦参照)
⑵ 受託者が信託財産を処分して土地を購入した場合(以上,⑧参照)
⑶ 受託者が信託財産を処分して別信託の目的である不動産を取得した場合
5.信託の変更
⑴ 関係当事者の合意等による信託の変更
⑵ 裁判所の命令による信託の変更
6.信託の併合
⑴ 意義
⑵ 信託の併合の当事者
⑶ 信託行為に別段の定めがあるとき
⑷ 債権者の異議手続
⑸ 信託の併合の効果
⑹ 信託の併合の登記申請と申請人
(以上,⑨参照)
7.信託の分割
⑴ 意義
⑵ 信託の分割の当事者
⑶ 債権者の異議手続
⑷ 信託の分割の効果
8.信託の終了
⑴ 意義
⑵ 合意による信託の終了
⑶ 信託の終了事由
⑷ 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
⑸ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
⑹ 信託終了の効果
(以上,⑩参照)
9.信託の清算
⑴ 信託の終了と清算
⑵ 清算受託者の職務と権限
⑶ 残余財産の帰属等
⑷ 信託受託者の職務の終了
⑸ 信託の終了による所有権移転登記と信託登記の抹消
(以上,⑪参照)
Ⅱ 各論
1.商事信託と民事信託
2.家族信託の概略
⑴ 家族信託における当事者
⑵ 家族信託の目的
⑶ 家族信託を成立・開始させるための方法
⑷ 家族信託における信託財産
⑸ 家族信託にかかる費用
(以上,⑫参照)
⑹ 家族信託のメリット
① 成年後見制度(法定・任意)との比較
(以上,⑬参照)
② 委任契約との比較
③ 遺言制度との比較
(以上,⑭参照)
④ 家族信託と相続
⑺ 家族信託のデメリット
① 受託者による信託財産の横領のおそれがあること
② 遺言の撤回等が難しくなること
③ 委託者の身上看護は契約内容にならないこと
(以上,⑮参照)
④ 遺留分減殺請求を受けた場合に信託が機能しなくなるおそれがあること
⑤ 損益通算ができなくなること(税法関係)
※ 信託と税法
(以上,前回⑯参照)
3.家族信託の事例紹介
⑴ 収益不動産の相続争い回避のための家族信託
⑵ 精神的な障碍・病気を持つ子供のための家族信託(以上,今回)


3.家族信託の事例紹介

⑴ 収益不動産の相続争い回避のための家族信託
 A(81歳)は,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟を所有し,不動産賃貸業を営んでいます。現在,賃借人の募集・家賃の集金や建物の保守管理は,すべて管理会社に委託しています。これまでは,管理会社からの賃貸状況の報告を受け,また,管理会社との建物の保守のための打合せや管理契約の更新,固定資産税の納税,税理士への確定申告手続代理の依頼などについては,すべて自身で行ってきました。
 しかし,80歳を超えてから,体力の衰えを感じ始めたこと,また,心臓に持病があることを考えると,これから先,自分がこれらの事務を行っていくことに不安を覚えるようになりました。Aには,妻B(76歳),長男C(52歳)と長女D(45歳)がいます。そして,Aの資産は,現預金のほか,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟があります。自宅はすでに妻に生前贈与を行っており,この贈与については,C・Dも納得しています。自分の死後は,遺産をめぐって相続人間で争いが起きないように,B,CおよびDに対し,法定相続分どおりに相続させたいと考えています。もっとも,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟は,A自らが長年にわたり,汗水流し苦労して手に入れたものであり,自分の死後もできれば子供達に引き継いでもらいたいという思いが強く,相続発生後直ちに売却することには抵抗があります。そこで,現預金は妻に,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟をそれぞれC・Dに相続させようと思っていました。しかし,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟とでは,その立地,資産価値や収益に大きな差があり,C・Dの間で相続をめぐって争いが起きかねません。かといって,それぞれを2分の1ずつの共有で相続させることも,将来的には共有物の分割をめぐるトラブルに発展しかねません。また,Cは不動産関係の会社に勤めており,不動産に関する保守管理や諸手続に明るいのですが,Dは全く違う職種に就いており,不動産を持たせ,その保守管理等をさせることは一抹の不安があります。
 そこで,Aは,専門家の助言やシミュレーションなど十分な検討を行った結果,不動産に関する保守管理や諸手続に明るい長男Cとの間で,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟のほか,現預金の中からこれらの不動産の管理等に必要な現金と相続税の納付のための現金を信託財産として,Cを受託者として信託財産の管理・運用・処分を任せ,自分の生前は自分を受益者(第1受益者),自分の死後は,受益権の2分の1ずつをCとD(第2受益者)が取得する旨の信託契約を締結することにしました(なお,将来,信託財産である賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟の売却が完了したときに信託が終了するように定め,信託の残余財産の帰属先も信託終了時の受益者Cおよび同Dに指定し,かつ,その帰属割合も2分の1ずつとする旨も信託契約の内容としました)。もちろん,後日の紛争を防止するため,B,CおよびDを同席させ,専門家から信託契約の内容の説明を受け,公証役場において公正証書で信託契約書を作成しました。信託契約締結後は,不動産については,AからCへの信託を原因とする所有権移転と信託の登記を申請すると共に,預貯金については,受託者の信託口口座をあらためて開設し,こちらに移管することになります。
 この信託により,Aの死後,CおよびDに対して,信託受益権を2分の1ずつ準共有させることにより,賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟の所有権を2分の1ずつ共有するのとほぼ同様の効果(平等相続)を実現することが可能になります(長男Cと長女Dは信託受益権の持分相当の賃料収入を手にすることができます)。また,長男Cは,Aの死後,これまでAが行ってきた管理会社との建物の保守のための打合せや管理契約の更新,固定資産税の納税,税理士への確定申告手続代理の依頼等に加え,自らの判断で(長女Dの同意なくして),賃貸マンション1棟と賃貸アパート1棟の大規模な修繕,建て替えや売却ができるようになります。仮に,これらの不動産の所有権を2分の1ずつ共有で相続したとすると,共有物を利用したり,改良したりすることは,共有物の管理にあたりますので,CとDの合意が必要となりますし,これらの不動産の売却は共有物の変更・処分にあたりますので,同じようにCとDの合意が必要となります。そのため,CとDが合意に至らない場合には,これらの不動産について何もすることができなくなってしまうという不都合が生じます。さらに,長男Cは,自らの信託財産とされた現金を運用することによって,不動産の保守・管理に必要な資金を確保するとともに,相続税の納税に備えることができるようになります。
⑵ 精神的な障碍・病気を持つ子供のための家族信託
 A(83歳)には,妻B(76歳),長男C(52歳)と長女D(46歳)がいます。長男Cは,統合失調症を患い,日常生活例えば身の回りのことさえも自分だけではすることができません。ましてや,金銭等財産の管理などできるような状態ではありません。今のところ,Cは,父A・母Bと同居しており,身の回りのこと,食事の世話や通院の付添いなどはA・Bが協力して行っています。しかし,A・Bは自分の年齢や健康状態を考えると,この先長きにわたり,Cの面倒を看ることに不安を感じています。特に,自分たちの死後のCの生活が心配です(Cは,仮にAの遺産を相続してもその管理はできません)。幸い,A・BがCの面倒をみることができない,あるいは,できなくなった場合には,長女DがA・Bに代わりに責任をもってCの面倒をみると言ってくれました。
 Aには,Cと共に住んでいる自宅の土地・建物のほか,賃貸アパートと預貯金8,000万円の資産があります。
そこで,Aは,専門家に相談し,その助言を得た上で,次のような財産承継をすることとしました。
① Aの資産のうち,長女Dの法定相続分に相当する預貯金をDに相続させる旨の遺言書を作成する。
② Aの残りの資産を信託財産とすると共に,受託者を長女Dとし,第1受益者をA,第2受益者をB,さらに妻B亡き後は第3受益者を長男Cとする旨,長男Cの死亡により信託が終了する旨,長男Cが死亡した時点で残った財産は長女Dが取得する旨の信託契約をDと締結する。
 後日の憂いをなくすため,専門家から信託契約の内容の説明を受けるにあたっては,BおよびDを同席させた上で,公証役場において公正証書で信託契約書を作成しました。(遺言書も,公証役場において公正証書で作成しました)。この席で,Aは,自分およびBの死後は,賃貸アパートの家賃収入をCの生活費にあて,また,Cが長期入院あるいは施設入所等により,自宅の土地・建物を使う見込みがなくなったときは,これを売却してほしいという希望をDに伝えました。また,Dにその法定相続分に相当する預貯金を相続させる旨の遺言書を作成したのは,Dの法定相続分については,きちんとDに相続させ,Dに不公平感が出ないようにするためであり(どうしても両親の関心はCに偏るため),Cが死亡した時点で残った財産はDが取得する旨を信託契約の内容にしたのは,長年にわたり,Cの面倒をみたDの功労に報いたいためであることもDに伝えました。信託契約締結後は,不動産については,AからDへの信託を原因とする所有権移転と信託の登記を申請すると共に,預貯金については,受託者の信託口口座をあらためて開設し,こちらに移管することになります。
 この信託により,A・Bの死後,長期にわたってCの生活費が確保されることにより,死後も定期的な支援が可能になると共に,Cが長期入院あるいは施設入所等となった場合でも,受託者Dの判断で,自宅の土地・建物を売却し,換金することができるようになります。また,万一,A・Bが認知症等により判断能力が低下した場合でも,受託者Dの判断により,Aの財産の管理・処分が可能になるという利点もあります。さらに,この信託は,いわゆる「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」(注)であり,民法上の遺言制度では実現できないようなAの希望を反映させた財産承継が可能になります。
(注)「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」とは?
 「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」とは,受益者の死亡により,当該受益者の有する受益権が消滅し,他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託をいいます(信託法91条)。ただし,当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで,または,当該受益権が消滅するまでの間,その効力を有します。
例えば,Aが,委託者として,甲不動産の管理処分を受託者に委託し,その信託における受益者を長男Bと定め,その死亡により,当該受益者の有する受益権が消滅し,他の者である孫Cが新たな受益権を取得し,その死亡により,当該受益者の有する受益権が消滅し,他の者である孫Cの子D(委託者からみるとひ孫)が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託です。
 ただし,この信託は,当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって,当該受益者が死亡するまで,または,当該受益権が消滅するまでの間,その効力を有します。つまり,信託を開始して30年が経過した後は,受益権の承継は,1回しか認められません。したがって,遺言者の長男BがAの死後34年で死亡した場合には,孫Cは受益権を承継することができますが,孫Cの子Dは,Cが死亡しても受益権を承継することはできないことになります。

 

 

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